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Q アルコール自動車(どのような潤滑油が必要か)※

アルコール自動車には,従来のガソリンエンジン油と異なった性能を持つ潤滑油が必要かと思われます。どのような潤滑油が必要か教えてください。

A

アルコール自動車の潤滑油についてのご質問ですが,アルコールといってもエタノールとメタノールがあり潤滑油に与える影響も異なります。ここでは,もっとも難しいといわれているメタノール自動車用のエンジン油を中心にお答えいたします。

1. アルコール燃料の特徴

アルコール自動車用エンジン油について考える前に,燃料として使用されるアルコールの特性について理解することが必要です。表1にアルコール燃料の性状を示します。

表1 アルコール燃料の性状
項目 ガソリン 軽油  メタノール   エタノール 
分子式  炭化水素混合物 
(C4〜C12
 炭化水素混合物 
(C5〜C14
CH3OH C2H5OH
比重(20℃,kg/L) 〜0.75 〜0.84 0.795 0.790
理論空燃比(kg空気/kg燃料)   14.9 14.6 6.4 9.0
低位発熱量(kcal/kg) 10,500 10,200 4,800 6,400
オクタン価(リサーチ法) 91〜100 112 111
セタン価 8〜14 45〜55 3 8
発火点(℃) 257 338 464 423
引火点(℃) −43 65 11 13
沸点(℃) 30〜200 170〜360 65 78
気化潜熱(kcal/kg) 70〜90 60 264 201
蒸気圧(37.8℃ kg/cm2 0.5〜0.8 0.38 0.20

アルコールを自動車用燃料として使用する場合のメリットとデメリットは以下に示すとおりです。

メリット

1.オクタン価が高い。
 エンジンの圧縮比を高くすることができ熱効率の向上(省燃費化)が期待できます。リサーチ法オクタン価はメタノールが112,エタノールが111と現在のプレミアムガソリンよりも高い値です。

2.排気ガス組成が比較的クリーンである。
 単一成分の燃料のため排気ガス組成が単純です。特にディーゼルエンジンで問題視されているNOXやススが少ないという特徴があります。ただし,メタノールの場合はホルムアルデヒドがガソリン車に比べ多量に排気ガス中に含まれるためあらたな問題を起こすことにもなるので慎重な検討が進められています。


デメリット

1.発熱量が小さい。
 アルコールの発熱量は石油系燃料油より小さいので,同一距離を走るためには現在より1.5〜2倍の大きさの燃料タンクが必要になります。

2.蒸気圧が低く,気化潜熱が高い。
 アルコールの蒸気圧は0.2〜0.4kgf/cm2とガソリンの0.5〜0.8kgf/cm2より低い値です。また,アルコールを手につけて冷たいと感じた経験のある方が多いと思われますが,これはアルコールが気化するときに熱を奪うからでアルコールの気化潜熱はガソリンよりも2〜2.5倍も高いのです。したがってガソリンの代わりに使用すると低温時の始動性能が悪化します。

3.金属などへの腐食性が強い。
 特に,メタノールは腐食性が強いので燃料配管やゴム材をステンレスや腐食に強い材質に変更しなければなりません。

2. アルコール燃料がエンジンの潤滑に与える影響

(1)清浄性

エンジンの清浄性に与えるアルコール燃料の影響は,ガソリンに比べて少ないとの報告が多いようです。一例として Krumm*1らがSF/CC,CCMC級のエンジン油で燃料油を変えて行ったエンジン試験結果を表2に示します。特にスラッジは,有意差がなく,ワニスがアルコール燃料の場合より少なくなるようです。これは,ワニスの原因となる不飽和炭化水素が含まれていないためと考えられます。

表2 3種類の燃料による各種エンジン試験結果
エンジン試験  ガソリン   エタノール100   メタノール15%   メタノール100   規格値 
ATSM Seq IID 8.8 8.9 9.0 8.1 8.5以上
ATSM Seq IIID
 粘度増加 @64h,% 54 24 54 32 375以下
 ピストンワニス評点,平均 9.3 9.3 9.4 9.2 9.2以上
 スラッジ評点,平均 9.6 9.8 9.8 9.7 9.2以上
 ワニス評点,平均 7.5 7.7 7.5 7.7 4.8以上
 カム&リフタ摩耗,平均,mils   1.2 1.3 1.9 3.1 4以下
 カム&リフタ摩耗,最大,mils 3.7 2.1 3.3 6.2 8以下
ASTM Seq VD
 スラッジ評点,平均 9.6 9.7 9.5 9.3 9.4以上
 ワニス評点,平均 7.7 9.7 6.9 8.7 6.6以上
 ピストンワニス評点,平均 7.2 9.6 7.1 8.4 6.7以上
 カム摩耗,平均,mils 0.7 0.5 0.3 1.2 1以下
 カム摩耗,最大,mils 0.8 0.8 0.4 5.6 2.5以下

(2)さび,腐食

特にメタノールを燃料とした場合,低油温条件下でさびや腐食が多くなります。エンジンの低油温時のさび腐食を評価する試験としてASTMのSeq.IID試験がよく知られています。表2に示すようにメタノールを燃料とした場合さびの評点が規格値を下回ってしまいますので対策が必要です。


(3)摩耗

エンジン各部の摩耗の増加はアルコール燃料を使用した場合のもっとも重要な問題です。エタノールやメタノールを10%添加したガソリンでは,ガソリン100%の場合とほぼ同程度の摩耗量で特に異常とはいえませんが,メタノール100%の場合はシリンダ上部のボア摩耗とトップリング摩耗が増大するとの報告が多くあります。このような摩耗は,エンジン始動後アイドリング時間が長かったり,車の発進,停止回数の多いものほど発生しやすいようです。このようなシリンダの摩耗が増大するメカニズムとしていくつかの原因説が考えられています。低温度条件下で気化しなかったメタノールがシリンダライナ上の潤滑油膜を洗い流してしまうという説。メタノールの燃焼生成物であるギ酸鉄がシリンダライナと反応してギ酸鉄を形成し,このギ酸鉄がピストンリングでかき落とされ摩耗が進行するとの説。さらには燃焼生成物として生じる凝縮水の影響であるとする説。いずれにしてもこれらの要因が複雑に関係して摩耗が増大するものと思われます。

3. メタノールエンジン用潤滑油

(1)摩耗防止剤

エンジン油の摩耗防止剤として ZnDTP(zinc dialkyldithiophosphate)がよく知られています。図1に示すようにZnDTPの種類を変えても同一添加量ならば有意差はなく添加量を増量すると耐摩耗性が向上するとの報告があります*2。

しかし,もう一方では,ZnDTP とシリンダ摩耗の関係ははっきりしないとの報告もあります。ZnDTPは,メタノールによく溶解するので試験条件によっては気化しなかったメタノールに抽出されてしまいこのようなあい反する結果が出るものと思われます。いずれにしてもZnDTP以外で摩耗に有効な添加剤が望まれます。

エンジン油の ZDTP 添加量と摩耗の関係
図1 エンジン油の ZDTP 添加量と摩耗の関係

(2)清浄剤

清浄剤はシリンダボアの摩耗の抑制に効果が大きいといわれています。これは摩耗を促進する酸性の燃焼生成物を中和する働きがあるからです。したがって清浄剤の添加量が多いほどよいことになります。図2にメタノールエンジンでのエンジン油の全塩基価と鉄含有量の関係を示します。全塩基価の低下とともに油中の鉄分が増加し,摩耗の増加がうかがえます。

エンジン油の全塩基価と油中鉄分の関係
図2 エンジン油の全塩基価と油中鉄分の関係

(3)無灰分散剤

無灰分散剤がシリンダボア摩耗に効果を発揮するかについてははっきりしていません。むしろ,燃料噴射式のメタノールエンジンでの噴射ノズルの目詰まりに影響を及ぼすようなので添加剤の選定と添加量を慎重に行う事が重要です。


(4)粘度指数向上剤

粘度指数向上剤は,メタノールとの相溶性が悪いので吸気系のデポジットを増加させやすいため,油中のポリマー濃度をできるだけ抑えるようにすべきです。


以上のようにメタノールエンジン用潤滑油はいろいろな面で従来のガソリンエンジン油とは異なった性能が必要です。わが国でも石油活性化センターが中心になって,メタノール車のフリーテストが行われており,これらの結果をもとにもっとも適したエンジン油が開発されるものと思われます。

※Q&A第1集発刊時点

<参考文献>
*1 H.Krumm:The 5th International Symposium on Alcohol Fuels (1982)
*2 S.Chaibongsa:SAE Power 830240


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