フェムト秒レーザ表面改質装置 Surfbeat-R | ジュンツウネット21

「フェムト秒レーザ表面改質装置 Surfbeat-R」  2011/12

キヤノンマシナリー株式会社

はじめに

東日本大震災後,エネルギー問題や環境問題をめぐる議論がこれまで以上に高まり,あらゆる分野で環境対応技術の開発が進められている。自動車や産業機器におけるしゅう動部のエネルギーロスを低減することも重要な課題となっている。

そこで,しゅう動部品に表面テクスチャを形成することで,潤滑剤の保持機能や流体潤滑膜の負荷能力等を向上させ,摩擦・摩耗の低減を図る研究が活発に行われている。表面テクスチャの加工方法としては,機械加工,エッチング,サンドブラスト,レーザ加工など種々の加工法が用いられている。

特にレーザ加工技術は昨今のめざましい進展により,従来の加工法では困難であった複雑・微細なパターニングが可能となったことから,重要なトライボマテリアル創製技術として期待されている。最近では,フェムト秒レーザを用いた微細な表面周期構造がトライボロジー特性改善に大きな効果を発揮することが報告され,注目を集めている。

本稿では,フェムト秒レーザ表面改質装置「Surfbeat-R」(図1)の加工技術,加工の特長および加工事例について紹介する。

フェムト秒レーザ表面改質装置「Surfbeat-R」
図1 フェムト秒レーザ表面改質装置「Surfbeat-R」

1. 装置の概要

「Surfbeat-R」は10兆分の1秒という超短パルスのフェムト秒レーザを利用して,微細な溝状の周期構造(図2)を形成することで,多彩な機能表面を創製する表面改質装置である。「摩擦・摩耗低減」「凝着力低減」「濡れ性制御」「生体親和性向上」等が代表的な機能表面の効果である。「Surfbeat-R」は,この機能表面の産業応用を加速させる有効なツールであり,サンプル評価や小ロット生産に最適化した世界初のレーザ加工機である。

Surfbeat-Rで形成した周期構造
図2 Surfbeat-Rで形成した周期構造

「Surfbeat-R」はフェムト秒のレーザパルスを1ショット単位で正確にコントロールし,寸法精度や材料物性を劣化させることなく,任意の領域を機能表面化することができる。また,微細周期構造とディンプルなどを自由に混在させたテクスチャ加工も可能である。容易に加工レシピ作成ができるようにウイザード機能も搭載し,フェムト秒レーザや微細加工の経験がない方でも自由な発想が的確に反映される正確性と操作性を実現している。

「Surfbeat-R」では切削加工のように溝を1本ずつ刻むのではなく,干渉現象を利用することで5,000~10,000本/秒という非常に速い加工速度でサブミクロンのピッチと深さをもつ周期構造を形成している。加工対象材料は金属,半導体,硬質コーティング膜などである。主な仕様を表1に示す。弊社では適用ワークサイズの変更や前後工程との連結などのカスタマイズにも対応している。

表1 「Surfbeat-R」の主な仕様
適用ワーク 最大径 φ250mm,最大高さ 100mm
金属,半導体,DLC等コーティング膜
光源 波長800nm,パルス幅250fs,出力1W
ステージ 4軸サーボ駆動
装置寸法 1380(W)×1380(D)×1900(H)

2. 加工の原理

図3に示すように,直線偏光のレーザを基板に照射すると,入射光と基板の欠陥等を起点とする表面散乱光またはプラズマ波の干渉により,レーザ波長と同程度の周期間隔でエネルギー分布にわずかな粗密が生じる。一般的な加工方法ではレーザ照射面全体が穴として加工されるが,加工しきい値近傍のエネルギー密度でレーザ照射することで,高エネルギー部分を選択的に加工することができる。その結果,1光軸のレーザ照射でありながら,レーザ照射面内にレーザ波長と同程度のピッチをもつ周期構造が形成される。レーザをシーム溶接のようにオーバーラップさせながら走査すると,既設の周期構造が新たな起点となり,連続的かつ広範囲に周期構造を拡張することができる。「Surfbeat-R」ではレーザを線状に集光することで,1回の走査で広い領域に周期構造を形成している。

周期構造の形成原理
図3 周期構造の形成原理

超短パルスのフェムト秒レーザは熱伝導の影響を受けず,ほとんど溶融領域のない高精度な加工が可能である。そのため,「Surfbeat-R」では乱れの少ない微細周期構造が安定的に形成される。

3. 加工の特長と加工事例

「Surfbeat-R」での加工には以下のような特長がある。

  • 周期構造の方向制御が可能
  • 広い材料選択性
  • 薄膜や微小部品への加工が可能
  • 自由な描画領域設定
  • 曲面への加工が可能

周期構造の方向はレーザの加工特性上,レーザの偏光方向に直交して形成されるため,偏光方向を変化させるだけで周期構造の方向を自由に制御することができる。したがって,ディスク状の試験片に対して,図4に示すような周期構造パターンを容易に形成することができる。

放射状/代表的な周期構造パターン
放射状
同心円状/代表的な周期構造パターン
同心円状
スパイラル状/代表的な周期構造パターン
スパイラル状
図4 代表的な周期構造パターン

「Surfbeat-R」では金属,半導体など導電性を有する幅広い材料に対して周期構造を加工することができる。レーザ加工であるため,超硬合金やSiCセラミックスなどの難加工材への周期構造形成も容易である。SiCに形成した周期構造と断面プロファイルを図5に示す。

SiCに形成した周期構造と断面プロファイル
図5 SiCに形成した周期構造と断面プロファイル

超短パルスのフェムト秒レーザは非熱的加工が可能なため,「Surfbeat-R」ではDLCやTiN等の薄膜コーティングや熱容量の小さな微小部品に対しても周期構造を安定的に形成することができる。図6は30μm程度の刻印に周期構造を形成したものである。また,図7はカッターの刃先に周期構造を形成し,微細な鋸刃状にしたものである。細部まで乱れのない周期構造が形成されていることがわかる。

微小刻印に形成した周期構造
図6 微小刻印に形成した周期構造
カッターの刃先に形成した周期構造
図7 カッターの刃先に形成した周期構造

レーザ加工は制御性に優れており,図8に示すような単純な間欠パターンから多重螺旋のように複雑なパターンまで自由に描画することができる。もちろん各パターン内の周期構造の方向も自由に設定可能である。

間欠/溝深さの違いによる負荷容量の比較
(a)間欠
多重螺旋/溝深さの違いによる負荷容量の比較
(b)多重螺旋
図8 周期構造の加工パターン例

「Surfbeat-R」では1光軸のレーザ照射で周期構造を形成しているため,通常行われる複数の光軸を使用した干渉加工と比較して大きな加工焦点深度が得られる。そのため焦点ずれの影響が少なく,ベアリング転送面や切削工具など複雑な曲面にも周期構造形成が可能である。φ60μm穴用ドリルに形成した周期構造を図9に示す。

φ60μm穴用ドリルに形成した周期構造
図9 φ60μm穴用ドリルに形成した周期構造

4. 今後の展望

「摩擦・摩耗低減」は最も活発に研究されている周期構造の表面機能であり,多くの研究成果が報告されている。「Surfbeat-R」は研究開発部門でのサンプル評価や小ロット生産に最適化したレーザ加工機であるため,量産化移行において加工速度向上が強く望まれている。そこで,高出力レーザと新方式の加工光学系を搭載した高速加工機の開発を計画している。

より広範な産業応用展開を図るため,「凝着力低減」「濡れ性制御」「生体親和性」などの機能を活用した研究にも注力していく予定である。図10は周期構造(左半分)による粉体回収,図11は周期構造による超親水,超撥水化,図12は周期構造による骨芽細胞の配向化の事例である。それぞれの結果は粉体機械,流体機械,インプラントへの応用展開が期待されている。

周期構造(左半分)による粉体回収
図10 周期構造(左半分)による粉体回収
超親水化(Ti)/周期構造による濡れ性制御
(a)超親水化(Ti)
超撥水化(PTFE)/周期構造による濡れ性制御
(b)超撥水化(PTFE)
図11 周期構造による濡れ性制御
周期構造による骨芽細胞の配向
図12 周期構造による骨芽細胞の配向

おわりに

フェムト秒レーザは平均出力が低く,フォトンコストが高いため,一般的な穴あけや切断加工では量産性やコスト競争力の面から産業応用は難しい。微細周期構造による機能表面形成は,これらの加工と比較して遙かに小さなエネルギー密度で高い付加価値が得られることから,フェムト秒レーザの大規模な産業応用に最も期待されている技術である。表面テクスチャリングの観点から本稿が少しでも皆様の研究開発推進や問題解決のお役にたてれば幸いである。

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