表面テクスチャ付与のための加工法 | ジュンツウネット21

「表面テクスチャ付与のための加工法」  2011/12

東京理科大学 佐々木 信也

エネルギー問題や地球環境問題を背景に,機械システムの摩擦損失低減を目的とした技術的アプローチの1つとして,表面テクスチャリングに大きな期待が寄せられている。

表面テクスチャリングは,表面改質技術の1つに位置付けられるが,表面仕上げという観点から見れば,いかなる製品製造の場合にも必須となる加工プロセスとして捉えることもできる。特に表面性状や表面粗さは,機械部品の表面仕上げを規定する機械設計で,基本中の基本とも言えるパラメータであるが,それらは単に部品の幾何学形状を規定するだけではなく,摺動表面においてはトライボロジー特性という機能を発現する要因となることは周知の通りである。工作機械等の案内面に施すきさげ加工やシリンダライナー内面のホーニング加工などは,古くからある表面テクスチャの代表的な例である。この他,シール面の表面仕上げなど,実用上必要不可欠となっている表面テクスチャは事例を挙げればきりがない。最近では,より積極的に任意のテクスチャを表面に付与することで,トライボロジー特性の改善を図ろうとする試みが盛んに行われている。昨今の表面テクスチャに対する高い関心の背景には,ナノテクノロジーに牽引されて発展した微細加工技術をはじめ
とする表面加工技術の進歩とその普及がある。

一方で,目的とするトライボ要素の特性向上に対し,どのような表面テクスチャの付与が効果を発揮するのかという明確なガイドラインは未だ確立されていない。これは,つまるところはトライボロジーそのものが内包する現象の複雑さに起因するものではあるが,それ以前の問題として考えねばならないことは,ナノレベルからマクロレベルの幅広いレンジにおいて,意図する表面形状を創製する技術,そしてこれを汎用的に評価する技術が未熟なレベルに留まっているということである。それ故,表面テクスチャによる摺動特性向上のメカニズムとしては,マクロな視点からの効果,具体的には(1)動圧の発生,(2)摺動面への潤滑油の供給,(3)異物の排出とトラップという3つの働きが認められているに過ぎない。しかし,境界潤滑領域のように,表面のわずかな物性や組成の特性の違いがマクロな摩擦・摩耗特性に反映される摺動状態下では,潤滑油の濡れ性や化学反応性そして反応層の形成プロセスなどを介し,表面のテクスチャは大きな影響を及ぼすものと考えられる。さらに,トライボロジー現象の特徴である動的な変化にも着目する必要がある。

摩擦・摩耗現象は,初期なじみ期間を経て定常状態へと移行するのが常であるが,このような経時変化をもたらすのは摺動表面の変化に他ならない。すなわち,表面テクスチャを考える場合には,その経時変化をあらかじめ織り込んだ上での表面設計が必要になる。これらを踏まえ筆者らは,表面テクスチャの新しい概念として,「マルチスケール・テクスチャリング技術」を提案した。これは,表面の3次元形状と組成の空間分布をナノ・マイクロオーダーからマクロオーダーまでの連続したスケールで捉えるとともに,支配的となる摩擦・摩耗メカニズムとの関係から表面の経時変化を考慮することで,実用的な性能向上を可能にする摺動表面の創製を図るというものである。

テクスチャリングの単位スケールとその創製方法を図1にまとめた。近年の加工プロセスや材料創製技術の進歩によって,SAMやナノコンポジットといったナノスケールの表面制御から,ナノインプリントやLIGAプロセスのようなサブミクロンスケールの表面構造創製プロセス,そしてレーザーや電子・イオンビームなどによるミクロンレベルの高エネルギー加工プロセス,そしてサンドブラストや化学エッチング,精密機械加工といった低コスト・高効率プロセスを比較的容易に組み合わせて用いることも可能となっている。レーザー加工は,高密度エネルギーの制御性が良く,また電子ビーム多イオンビームのように高真空環境を必要としないことから,今後の利用が拡大するものと考えられる。その理由として,近年のレーザ技術の進歩には目覚ましいものがあり,高出力化,短波長化,短パルス化,高パルス周波数化,長寿命化,高効率化といった新しい機能と性能を有した様々な製品が,市場に次々と提供されていることが挙げられる。それぞれの特徴を生かした複数のレーザーの組み合わせにより,マルチスケールをカバーする複合加工も可能になりつつある。

本コンテンツでは,フェムト秒レーザーを使った最新の表面テクスチャリング技術が紹介されている。恐らく10年前であれば,フェムト秒レーザーを摺動表面の加工に利用するというようなことは,生産性とコスト面で非現実的との見方が大半であったかと想像する。しかし,フェムト秒レーザー加工による摺動特性の改善例を踏まえ,今日ではその実用性と有用性が十分に高い水準にあることをご理解いただけるものと思う。また,トライボ要素への汎用性の高い表面加工技術として,従来のショットピーニングやサンドブラスト技術を進化させたマイクロショットピーニング法やWPC法が紹介されている。どちらもすでに製品への応用実績のある信頼性の高い技術であるが,今後のさらなる普及が見込まれる表面テクスチャ加工技術としての期待も大きい。他にも多くの表面テクスチャ加工技術が実用化あるいは研究開発されているが,重要なことは対象とするトライボ要素に適したマルチスケール・テクスチャを設計し,これを具現化するための加工方法を選択・組み合わせることにより,最適な加工プロセスをカスタマイズすることである。本特集の加工方法の事例紹介が,表面テクスチャリングについてのインスピレーションを大いに刺激するものと期待している。

表面テクスチャリングのスケールと加工プロセス
図1 表面テクスチャリングのスケールと加工プロセス
表面テクスチャリング加工システム 供給・受託加工会社一覧
システム名
ショットブラスト
レーザー加工
エッチング
機械加工
特殊加工
その他
特長や用途など
COP SYSTEM
 IKKショット(株)
 TEL 052-604-1215 FAX 052-604-1285
          低流量微細粒子投射装置
Surfbeat-R
 キヤノンマシナリー(株)
 TEL 077-566-1821 FAX 077-566-1838
 
        摩擦低減,凝着防止,濡れ性制御など多彩な機能表面形成
WPC処理・鏡面仕上げ用 ブラストマシーン
 (株)不二WPC
 TEL 042-707-0776 FAX 042-707-0779
     
  凹凸(精密マイクロディンプル)を制御して油溜りの創成

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