自動車部品の洗浄と評価技術 | ジュンツウネット21

株式会社デンソー 柳川 敬太  2009/9

はじめに

従来,洗浄は各処理加工の一部(前処理)という位置付けであったが,製品の小型・精密化・エレクトニクス化に伴い,洗浄不良が製品の機能障害につながるケースが多くなってきた。

一方,洗浄は製品に付加価値を与えない特異な加工技術ともいわれる。したがって,製品競争力の向上には洗浄工程の合理化を追究し,コストミニマムな手法を選択することが必要である。

さらに洗浄と地球環境との関わりも深く,洗浄工程を設計するには品質・コストに加え環境に優しい洗浄方法を選択しなければならない。

今回,本稿では自動車部品の洗浄と評価技術について解説する*1。

1. 洗浄の目的

自動車部品の製造における洗浄とは,製品の信頼性や後工程の品質を確保するために,機械加工などの前工程で付着した汚れを除去する処理である。たとえば,金属加工部品では前工程の切削やプレスで使用する加工油を洗浄する脱脂や加工時に発生する切粉を取り除く異物除去が主な洗浄の目的である。これらの洗浄が不十分であると,めっきや塗装などの表面処理部品では皮膜剥がれにつながり,精密な部品では部品同士の組み付け不良や製品の作動不良を引き起こす。

なお,これらの不具合でよく混同されるのが,加工工程で生じる「バリ」による弊害である。この「バリ」は基本的には洗浄で除去できないものであり,洗浄に関する問題とは区別して考える必要がある。洗浄で対象となる汚れは,あくまでも製品または部品の表面に付着しているものであり,「バリ」のように素材と一体化したようなものは研磨や電解加工などの加工で対策を実施すべきで,洗浄の対象汚れとは層別される。

2. 洗浄工程設計手順

洗浄工程を設計するには,洗浄の目的とその必要性を検証することが重要である。具体的には単純に洗浄を廃止した場合,どのような不具合が予想されるか確認し,前後工程の変更も含め可能な限り洗浄が廃止できないかを検討する。そして何らかの洗浄が必要と判断された場合,初めて洗浄方法を検討する。特に水質・大気・オゾン層に有害な塩素系や臭素系溶剤は使用しないことを原則とし,品質・コスト・環境より最適な手法を選択する。

ここで最も重要なことは,要求品質を明確にすることである。洗浄に要求される品質(清浄度)はその製品や部品にとって適正な品質でなければならない。言うまでもないが,過剰な品質を設定すると洗浄コストのアップにつながる。また,「異物なきこと」あるいは「油分なきこと」といった曖昧な要求も不適切である。要求品質を見極めることが,合理的な洗浄方法を選択できることになる。

3. 部品清浄度の検査方法

部品の清浄度検査方法として,粒子個数,粒子重量,付着油分,付着イオンなどの項目を規定している。いずれの検査方法も清浄度を検査したい試料(部品)より,汚染物(粒子,油分,フラックス,イオン)を抽出し,その抽出液を測定する。清浄度は部品表面の単位面積当たりの測定値として定量化する。

図1に部品に付着した油分やフラックスの検査要領を示す。炭化水素系の油分抽出溶剤「HC-UV45」へ部品に付着した油分を抽出し,抽出液を紫外分光光度計にて,ベンジルアルコールを標準物質として265nmの紫外光の吸収で定量する。この紫外線吸収法によれば,250nm以上の紫外光領域に吸収のある油脂類について,その付着量を定量することが可能である*2。

付着油分測定方法(紫外線吸収法)

<ベンジルアルコール濃度と吸光度の関係>
ベンジルアルコール濃度と吸光度の関係/付着油分測定方法(紫外線吸収法)

W=(n×A分のk×C×V/1000)×D
W;単位面積当たりの付着油分量(mg/dm2
k;換算係数(=x/y)
C;265nmにおける吸光度
V;抽出液量(mL)
n;抽出した部品の個数
A;部品1個当たりの表面積(dm2) ※1dm2=100cm2
D;希釈倍数(Vを希釈して測定した場合)

図1 付着油分測定方法(紫外線吸収法)

4. 洗浄方法概論

洗浄方法は付着している汚れの性状から必要な汚れの除去機構が選択され,適正な洗浄方法が決定される。洗浄方法は「湿式」「乾式」に分類される他に,「化学的」「物理的」に分類することもできる。

自動車部品の洗浄では洗浄効率の点から化学作用と物理作用を組み合わせて使用するケースが多く,「アルカリ超音波洗浄」などと表現することがある。

また,洗浄剤は,水系と非水系に大別される。水系は不燃性で他に比べ毒性が低いものの,適正な排水処理を施す必要がある。一方,非水系は炭化水素系やアルコールなどの可燃性液体やフッ素系などの不燃性液体がある。

洗浄剤は,再生することができるものが多く,クローズド型(循環型)の洗浄システムを構築できるが,安全性(引火性,毒性など)や地球環境への影響を十分に考慮しなければならない。

近年,水系と非水系の混合系としてグリコールエーテル系などの準水系洗浄剤がある。特性としては水系に近く水系洗浄剤の一つとして分類しているが,はんだ付けフラックスなど複合的な汚れの洗浄に有効である。

表1に乾式洗浄と湿式洗浄の特徴を示す。湿式洗浄は洗浄液の作用も加わるため,乾式洗浄に比べて洗浄性が優れることから広く用いられている。しかしその反面,工程数が多くなり環境への負荷も大きくなる。したがって,湿式洗浄は合理性・環境負荷の点で課題が多い方法といえる。

表1 洗浄方法の位置付け
 
洗浄性
工程数(合理性)
環境負荷
適用分野(後工程)
組付/加工
めっき塗装
熱処理
接合
乾式洗浄 エアー洗浄




























接点部品
加熱気化洗浄(含真空気化洗浄)

熱交換器
湿式洗浄 非水系 炭化水素系洗浄
(含アルコール洗浄)
水系 アルカリ洗浄(含湯洗浄)
グリコールエーテル系
洗浄

IC基板

5. 湿式洗浄の環境負荷低減の取り組み

5.1 CO2排出量削減(省エネ化)

湿式洗浄の工程は,汚れを洗浄液により除去する「洗浄工程」,洗浄液を除去する「すすぎ工程」,さらにすすぎ液を除去する「液切り・乾燥工程」からなる。

環境負荷という観点からみると,湿式洗浄は洗浄液の加熱やすすぎ液の乾燥除去に要するエネルギーの消費が多く,省エネ化が課題である。湿式水系洗浄における省エネ化の考え方は,常温使用可能な洗浄剤の適用や高速乾燥がキー技術となる。

これまでの湿式洗浄における乾燥技術は熱風などによる蒸発乾燥が多い。しかし,蒸発乾燥の場合,その生産性を確保するため液切りなどの前処理が必要である上,乾燥温度が高いと後処理として乾燥後の冷却も考慮しなければならず,蒸発乾燥は合理性に欠けるといえる。湿式洗浄における合理的な乾燥方法としては,蒸発乾燥よりも飛散・吸収乾燥が有効であり,なかでも置換乾燥や吸引乾燥といった省エネ乾燥方法の導入を推進している。

5.2 VOC排出量削減

2004年に大気汚染防止法が改正され,浮遊粒子状物質および光化学オキシダントによる大気汚染を防止するため,原因物質の一つであるVOC(volatile organic compounds)の排出または飛散の抑制を図ることが2006年より義務付けられた。炭化水素系洗浄剤はこのVOCに該当する。法的には洗浄剤が空気に接する面の面積が5m2以上の工業用洗浄施設および洗浄後の乾燥施設が対象となるが,非対象設備であっても排出抑制に努める必要がある。

VOC排出抑制の具体的な手段としては,洗浄液の蒸発ロス防止や持ち出し量低減といった工程改善や真空乾燥などの密閉式洗浄装置への切り替え,あるいは冷却凝縮式の排ガス回収装置などの設置が有効である。

しかし,VOCの排出を抑制してもCO2の排出量を増やしては意味がなく,省エネ対策も不可欠である。特に炭化水素系洗浄の場合,HFE(hydrofluoroether)などのフッ素系溶剤による置換乾燥も有効な手段といえる。

炭化水素系やグリコールエーテル系洗浄剤で洗浄し,フッ素系溶剤ですすぎ置換乾燥するシステムは,Co-Solvent洗浄といわれる。

Co-Solvent洗浄システム例

図2 Co-Solvent洗浄システム例

図2に炭化水素系洗浄1槽,フッ素系すすぎ1槽の2槽式Co-Solvent洗浄システムを例示する*3。洗浄剤(HC)と置換乾燥剤(HFE)は,それぞれ蒸留により分離再生を行うため,単一組成または共沸組成であることが基本となる。持ち込まれた汚れ(油)は洗浄槽の真空蒸留機から廃油として排出する。すすぎ槽に持ち込まれた洗浄剤(HC)はすすぎ槽の蒸留機で置換乾燥剤(HFE)と置換乾燥剤を含んだ液(HC+HFE)が排出される。ここで重要なのはこの液をさらに薄膜式蒸留などの分離装置により,洗浄剤(HC)と置換乾燥剤(HFE)を可能な限り分離させ,それぞれを再利用することである。その結果,循環型洗浄システムが可能となる。トータルで見ればエネルギーの消費も少なく,洗浄剤の大気への排出も少ないことから,省エネ化とVOC排出量抑制を両立する技術といえる。

おわりに

自動車部品の洗浄はバッチ処理による生産性向上の他,小型設備によるインライン洗浄のニーズがますます高くなる。設備の合理化を追究していくことになるが,言い換えれば「ムダ」を省くことである。

これまでの洗浄工程をみるとムダが多いといえる。たとえば溶接前の部品洗浄では,洗浄の目的からすると部品全体ではなく溶接する部分に付着している汚れが除去されればよい。しかし,洗浄液に浸漬するような洗浄を適用すると部品全体を洗浄することになる。また,部品を多数個まとめて洗浄するようなバッチ処理では,部品を搭載するカゴや治具も洗浄することになり,結果的に洗浄が必要のない部分を洗浄している。したがって,合理的な洗浄の追究は,洗浄しなければならない汚れを特定し,洗浄が必要な部分だけを必要とされる品質まで,汚れを除去することを考えていく必要がある。

 

<参考文献>
*1 柳川敬太:産業洗浄,No.1(2008),p.8-13
*2 岩部一宏,柳川敬太:第12回JICC洗浄技術フォーラム2008講演集,日本産業洗浄協議会(2008),p.37-45
*3 部品用脱脂洗浄装置,カタログ,大川興産(株)

 

最終更新日:2017年11月10日