切削工具用高度なハードコーティングの高温トライボロジー | 摩擦摩耗試験分析BOX | ジュンツウネット21

アントンパール・ジャパンが製造・販売する,高温ピンオンディスク式トライボメータTHT800によるハードコーティングのトライボロジー特性についての研究を紹介する。

株式会社アントンパール・ジャパン(旧 CSM Instruments SA) 2013/4

はじめに

近年の最新加工プロセスの過酷な環境に耐えられるように切削工具用保護膜は,より耐摩耗性が高くなっている*1。効率的なトライボロジー試験や先進のハードコーティングの耐摩耗性の評価のためには,室温および高温の適切な摩耗試験条件の確立が重要である。最新の高温ピンオンディスク式トライボメータTHT800を利用して,これらの評価に最適な測定条件が見つかった。

実験概要

本研究で4種類の膜が使用された。すべての膜は,LARC(R) Lateral-and CERC(R) Central 回転アークカソード技術(Platit AG, Switzerland)を利用し,酸化窒化膜および酸化膜の場合にはN2 / O2雰囲気で4Paの圧力でバイアス電圧を-30Vから-100Vまでの範囲で,中間周波を利用して成膜された。直径50mm,厚さ10mmの超硬合金材試料を550℃の温度で成膜した。多層膜構造で合計の膜厚は約4μmだった。

表1 酸素濃度と使用温度範囲
膜質
酸素率
適切な使用温度範囲
AlTiN
0at.%
up to 600℃
AlCrN
0at.%
600℃
AlCrON
70at.%
600℃-800℃
酸化膜(Al やCrベース)
99.8at.%
800℃-1000℃

CSM Instruments製THT800高温式トライボメータ(図1)を利用して温度24℃,600℃および800℃で摩耗試験を行った。試験温度は24℃の時に垂直荷重を10Nに設定し,それ以外の試験温度の時は7Nを設定した。摩耗試験の相手材は直径6mmのアルミナ材ボールで,直線速度は20cm/sにした。摩耗試験距離は,通常32,000ラップであるが,酸化膜の時には40,000ラップにした。切削加工時間をできる限り再現するために,長い試験時間が必要になる(120~240分)。摩耗量は,Taylor Hobson製プロフィロメータを用いて膜の摩耗痕プロファイルを測定した。

さらに,摩耗のメカニズムを理解するために,走査型電子顕微鏡(SEM)画像,エネルギー分散型X線分光(EDX),集束イオンビーム(FIB)カットを行った。

加熱中試料とTHT800ピンオンディスクトライボメータ
図1 加熱中試料とTHT800ピンオンディスクトライボメータ

結果

摩擦係数

基準試料となるAlTiNは室温条件でよく実行するが,600℃や800℃では摩擦係数は大きく変わるためシビアな摩耗を示している。AlCrN膜やAlCrON膜は600℃までに,これより良い摩擦係数の安定さや耐摩耗性を示しているが,800℃での摩耗試験を不合格にした。α 酸化膜は800℃でも摩耗がほぼ発生しておらず,摩擦係数が600℃より約0.6から半減している。この膜は高温状態でも優れた耐摩耗性を持ち,ごくわずかな劣化を示している(図2(1))。

800℃の試験温度時の各試料の摩擦係数カーブ。α酸化膜の低い値を注目
図2 800℃の試験温度時の各試料の摩擦係数カーブ。
α 酸化膜の低い値を注目

摩耗率

室温条件で摩耗痕プロファイルによって摩耗率の比較を行った結果として,AlTiN膜は低い摩耗を示し,その他のすべての膜は評価できないくらいわずかな摩耗を示している。AlCrN膜およびAlCrON膜の摩耗率は,室温条件より600℃や800℃条件では確実に高くなり,逆にAlTiN膜の摩耗率は,温度を上げる時に低下することになる(図3)。

各摩耗試験温度で各試料の摩耗量比較
図3 各摩耗試験温度で各試料の摩耗量比較

さらに,α 酸化膜はわずかな摩耗を示す上に,600℃や800℃の条件の時にアルミナ相手材との相互作用が非常に少ないことを示す。図2の示す通りこの膜の摩擦係数は800℃でも非常に安定している。図3では,800℃条件でのAlTiN膜の比較的低い摩耗率を示すが,図4は同時にとても高い材料増加を示す。それにもかかわらず,摩耗率および材料増加率は,酸化膜より大幅に高くなった。

各試験温度で各試料の材料増加率の比較
図4 各試験温度で各試料の材料増加率の比較

ボール摩耗

アルミナ相手材の摩耗の分析によって膜の摩耗パフォーマンスを定量化した。ボールの摩耗率は材料除去の量から計算されている。図5は,各試験温度の結果を示している。試験温度を上げる時にAlTiN膜およびAlCrN膜のボール摩耗率は増加するが,α 酸化膜だけは変化しなかった。

材料除去の量,垂直荷重および測定総距離から計算されたボール摩耗率
図5 材料除去の量,垂直荷重および測定総距離から計算されたボール摩耗率

理論

摩擦係数

AlTiN,AlCrNおよびAlCrNは室温や600℃で良い耐摩耗性を示すが,3つの試料とも800℃での摩耗試験において不合格な結果になった。AlTiN,AlCrNおよびAlCrONの表面にはシビアな摩耗を示し,複数個所にクリティカルなダメージを示している。摩耗表面のEDX解析データおよびFIBカットの分析によってシビアな摩耗が発生した箇所に母材の酸化が起きていることが分かった。800℃摩耗試験のAlTiN試料のFIBカット分析によって,膜が完全に摩耗していない箇所でも母材の酸化が起きていることが分かった。この現象は,AlTiN膜の高温条件での不十分な耐摩耗性を示している。

摩耗と摩耗のメカニズム

SEM画像の解析によって室温で酸素率が比較的に低い試験では,少ないマイクロスケールの凝集破壊を含む研磨メカニズムによって摩耗していることを示している(図2)。

これより高い試験温度では,EDXマッピングの解析によりAlTiN膜およびAlCrN膜の場合,コーティング上の広い範囲で酸化が起きている。AlCrN膜より高い酸素率を持つAlCrON膜は,600℃の試験時より,良い耐酸化性を示す。この摩耗メカニズム以外にもコーティングの分裂や酸化も起きている。ただし,高い酸素率およびAlCrON膜の構造があっても,800℃の温度の場合には,酸化現象に対して防御にならず摩耗率が実質上増加することになる。

α 酸化膜は,その一方で,800℃までのすべての温度条件でも高い耐摩耗性を維持している。800℃でもわずかな摩耗しか起きていない。室温での摩耗痕は,SEM画像分析でも見つからなかった。この優れた特性は,α 酸化膜の構造に起因している。窒素は完全に酸素に置換され,高温で安定性のあるアルミナ材が発生するためである。この特定な構造は,AlCrON膜の場合でも部分的に生成されたが,酸素率が足りずAl 材およびCr材が酸化しないため,高い摩耗率につながった。そして,FIBカットのEDXマッピング画像を比較するとα 酸化膜の場合は,母材のダメージや酸化の観察ができなかった。α 酸化膜の母材は,元の状態のまま摩耗痕は非常に浅く,全く材料増加が観察できなかった。

結論

今回の研究は,高温で使用するために設計された新しいタイプのハードコーティングのトライボロジー特性について徹底した研究を紹介した。最新のα 酸化膜は,800℃までの温度で,優れた耐摩耗特性と耐酸化性を確認できた。AlTiN膜,AlCrN膜およびAlCrON膜は,室温で良好な耐摩耗性を持ち,600℃で許容可能な耐摩耗性を持つが,800℃ではすべての膜がシビアな摩耗を示す。酸化膜の優れた耐摩耗性は高い酸素濃度によるものであることが分かった。

THT800高温ピンオンディスク式トライボメータは,ハードコーティングの高温トライボロジー特性の評価のために必要不可欠なツールであることが示された。

 

<参考文献>
*1 K.Holmberg, A. Matthews, H. Ronkainen, Coatings tribology-contact mechanisms and surface design. Tribology International 31(1-3)(1998) 107-120.
*2 H. Najafi, A. Karimi, P. Dessarzin, M. Morstein, Correlation between anionic substitution and structural properties in AlCr(OxN1-x) coatings deposited by lateral rotating cathode arc PVD. Thin Solid Films 520(2011) 1597-1602.


○アントンパール・ジャパン
材料の機械的特性を測る試験機の開発・製造・販売

http://www.csm-instruments.com/ja


○パーカー熱処理工業
金属のあらゆるニーズに応える金属熱処理総合企業

http://www.pnk.co.jp/


○新東科学
摩擦摩耗に関する事ならどんなことでもお気軽にご相談下さい

http://www.heidon.co.jp/


○トリニティーラボ
素肌から路面までのトライボロジー(摩擦摩耗)評価に取組んで30年

http://www.trinity-lab.com/


○神鋼造機
各種摩擦摩耗試験機の製造販売

http://www.shinko-zoki.co.jp/


○三洋貿易
摩擦・摩耗試験機,歯車試験機,絶縁破壊電圧試験器

http://www.sanyo-si.com/


○ブルカージャパン ナノ表面計測事業部
摩擦摩耗試験機,高性能ナノインデンテーションシステムなど

http://www.bruker-nano.jp/


○島貿易
トライボロジー試験機の販売

http://www.shima-tra.co.jp/


○協和界面科学
接触角計・表面張力計・摩擦計の専門メーカー

http://www.face-kyowa.co.jp


○樋口商会
ギヤ油,ATF,デフ油など
駆動系潤滑油評価をします

http://www.higuchi-inc.co.jp/


○アドバンス理工
共振ずり測定装置の製造販売

http://advance-riko.com/


○トライボテックス
摩耗診断装置の製造販売

http://www.tribo.co.jp/

お問合せ(要望事項と送付先を入力してください。)

icon-file-textお問合せ内容 チェックしてください

お問合せ内容 チェックしてください
営業に会いたい見積もりが欲しいカタログが欲しい
その他のお問合せ入力
連絡先を入力してください
お名前※必須
メールアドレス ※必須
電話番号
貴社名※必須
所属部署
郵便番号郵便番号を入力すると途中まで住所が自動入力されます
都道府県
住所1 市区町村番地
住所2 建物名など
その他ご要望

こちらもどうぞ