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潤滑油の動粘度評価におけるASTM規格準拠の新たな手法 | 潤滑油の試験・測定・分析選定BOX | ジュンツウネット21

「潤滑油の動粘度評価におけるASTM規格準拠の新たな手法」  2010/5

株式会社アントンパール・ジャパン

1. はじめに

潤滑剤の流動特性の指標である粘度は潤滑のすべての過程で中枢的役割を演じ,摩擦,摩耗あるいは機械的エネルギーの損失などに密接に関係していることがよく知られている。これらの流動特性は熱や不純物の移動においても重要な役割を演じ,可動部品間の間隙の密閉にも影響する。したがって,いかにこのような粘度特性を測定し,評価するかということは極めて重要な意味をもっている。

現在,様々な粘度測定技術を利用した粘度計が市販されているが,これらの粘度計のほとんどは研究用途向けである。一般的な品質管理部署や潤滑油試験所のように,簡便でかつ低コストで評価したいユーザーにとって,それらの粘度計が適しているとは言えない。

これまで潤滑油の動粘度は,ASTM(American Society for Testing and Materials,米国材料試験協会)D445*1またはISO(International Organization for Standardization,国際標準化機構)3104*2の規格に基づくキャノンフェンスケ型,ウベローデ型に代表されるガラス製細管粘度計で測定されていた。しかしながら,これらの測定手法は特に再現性良く測定するには温度管理や細管の洗浄などに十分に注意して測定を行う必要があった。

そのような従来法に対して,回転する細い測定チューブ中に潤滑油を満たし,その内側に円筒形の磁性体を浮かせるという原理に基づく新しい粘度計『SVM動粘度計』が開発された。本粘度計は,動粘度(Kinematic Viscosity),せん断粘度(Shear Viscosity),密度および温度を同時に測定することができる。この測定手法はASTM認証機関による検査を経て,動粘度測定精度がASTM D445に準拠することが確認され,2005年にASTM D7042*3を取得した。

本稿では,従来の潤滑油の粘度測定手法を紹介し,新しく開発された『SVM動粘度計』について説明する。

2. 潤滑油の粘度測定について

2.1 せん断粘度と動粘度

粘度とは,液体などの粘りの度合いを意味している。つまり,外部からの力が加わると液体は流れまいと抵抗する。この抵抗力の指標が粘度である。潤滑油の粘度測定において代表的な粘度の指標はせん断粘度と動粘度である。

せん断粘度は,ある速度勾配に対してどれだけの抵抗力(応力)が発生するかの指標である。例として,高さh の2枚の板に挟まれた液体において,上面の板が速度vで移動した場合,液体にはせん断変形が加わる。そのときのせん断変形速度(せん断速度)は式(1)で,またそのときのせん断応力は,式(2)で示される。

γ=v/h=移動速度/高さ(ギャップ)[1/s] (1)

τ=F/A=せん断方向の力/面積[Pa] (2)

この式で示される面積Aは,液体に接触する板の面積である。せん断速度とせん断応力が得られると,ニュートンの式より式(3)よりせん断粘度が求まる。

η=τ/γ=せん断応力/せん断速度[Pa・s] (3)

動粘度は流れにくさを表す指標である。せん断粘度と動粘度との関係式は,式(4)で示される。

動粘度=せん断粘度÷密度  (4)

せん断粘度のSI単位はミリパスカル‐秒(mPa・s)である。動粘度は重力環境下における流体の抵抗流れの指標である。一般的な動粘度測定手法である毛細管粘度計による測定手法は,一定容量の液体が規定の条件で粘度計の毛細管を流れる時間を測定する。その流出時間と粘度計定数から動粘度を算出する(式5)。

動粘度=流出時間×粘度計定数  (5)

なお,粘度計定数については,使用する細管によって異なるため,使用する細管のメーカーおよび文献*4を参照していただきたい。

動粘度のSI単位はmm2/sであるが,cgs単位であるセンチストークス(cSt)も依然として広く使われている。1cStは1mm2/sに等しい。その他にも例えばSUS(Saybolt Universal Seconds)やRedwood,Engler Unitなど,現在も使用されている粘度の古い単位がある。

ニュートンの粘性法則は,せん断応力やせん断速度によらず粘度が一定である状態を示す。多くの石油製品,単一グレードで配合された自動車用潤滑油および工業用潤滑油は,ニュートンの粘性法則に従うことが良く知られている。これらをニュートン流体と呼ぶこともある。

非ニュートン流体とは,せん断速度やせん断応力の大きさにより,そのせん断粘度が一定ではない流体を指す。近年の高機能性自動車用潤滑油や混合潤滑油などは,非ニュートン流体である場合が多い。

2.2 従来の粘度測定手法について

粘度測定の代表的な測定手法は,細管粘度計,回転粘度計,他の粘度測定システムを利用する測定である。

i )細管粘度計(図1
 毛細管を恒温槽に浸し,一定量の流体がその管を通過する速度(時間)を測定する。細管の直径や圧力を変えることによってせん断速度をほぼゼロから106s-1まで変化させることができる。標準的なものはガラス製でASTM D445に準拠する。この場合には流体は重力環境下で一定の直径の毛細管を通過する。せん断速度は10s-1以下である。ほとんどの潤滑油の動粘度をこの粘度計で測定することができる。細管粘度計の主な特徴を以下に示す。

○単純な構造であり,低価格である
○サンプルの密度を測定することなく,直接動粘度を算出可能である

細管粘度計の一例(1)
細管粘度計の一例(2)
図1 細管粘度計の一例[出典:文献*5]

ii)回転粘度計
 流体に対して回転方向の変形を与え,流れに対する抵抗を回転トルクとして検出し,回転粘度を算出する。主な回転粘度計のタイプとして,Brookfield Viscometer(B型粘度計,図2)などが挙げられる。回転子の寸法,回転子と固定板の間の間隙,あるいは回転子の速度を変えることにより,せん断速度を変化させることができる。

B型粘度計の一例
図2 B型粘度計の一例[出典:文献*5]

iii)その他の粘度計システム(図3
 サンプルの種類,用途に応じて様々なタイプの粘度計が使用されている。例えば流体中に配置した鋼球や棒(ロッド)の落下時間,泡(バブル)の上昇時間,流動する液体の示す圧力差などから粘度を求める方法がある。

フォーリングロッド粘度計
フォーリングロッド粘度計
バブル粘度計
バブル粘度計
図3 その他の粘度計[出典:文献*5]

iv)各種規格と粘度計の種類
 表1に各種粘度計の特徴と対応する測定規格についてまとめた。

表1 各種規格と粘度計の種類
粘度計の種類 名称 代表的な対応規格 適用 測定粘度の種類 粘度測定範囲 必要試料量(mL) アダプタの種類
毛細管粘度計 キャノン-フェンスケ  ISO 3104
ASTM D445
最も一般的な動粘度測定手法 動粘度 0.4~20,000
[mm2/s]
約7 12種類
ウベローデ 0.3~100,000
[mm2/s]
10~20 16種類
回転粘度計 ブルックフィールド JPI-5S-26-99*6 低温での粘度測定 せん断粘度 1~12,000,000
[mPas]
8~20 4種類
SVM動粘度計 SVM ASTM D7042 1台の装置でせん断粘度と動粘度の評価が可能 動粘度 0.2~20,000
[mm2/s]
約2.5 1種類
準拠 ISO 3104
ASTM D445
せん断粘度 0.2~20,000
[mPas]

3. 新しい粘度評価手法について

3.1 従来の動粘度評価手法の問題点

これまで潤滑油の動粘度の測定はASTM D445またはISO 3104の規格に基づくガラス製細管粘度計(図1右側)で測定されていた。本粘度計では,一定容量の潤滑油が規定条件で毛細管を流れる時間を測定し,この流出時間と粘度計の定数から動粘度を算出する。本測定手法において,動粘度の測定を再現性良く測定するには,下記の項目に注意して測定を行う必要がある。

○細管内部の洗浄
○恒温槽内での細管の温度調整
○サンプルの定量採取
○溶媒消費量,測定に要するコスト
○手動でのデータ処理(計算ミスなど人為的誤差)

3.2 新しい動粘度評価手法

従来法と比較し,以下の利点を持つ新しい動粘度評価手法である『SVM動粘度計』が開発された。

○潤滑油の交換,流路の洗浄が容易
○ペルチェ素子による温度調整方式のため,測定部の温度安定性に優れる
○少量の潤滑油で測定が可能
○温度変更の応答性に優れ,かつ温度平衡状態に要する時間が短い
○低温と高温の動粘度の比(Viscosity Index:ASTM D 2270*7)の算出が短時間かつ容易
○装置設置面積が小さい

本測定手法は,回転する細い測定チューブ中に潤滑油を満たし,その内側に円筒形の磁性体を浮かせるという原理である。本装置は動粘度,せん断粘度,密度および温度を同時に測定することができる。

3.3 SVM動粘度計の測定原理

i )粘度測定セル(図4
 サンプルがチューブ内部に充填されており,そのチューブが一定速度n2で回転する。このチューブ内部にはサンプルとともに中空の測定ローター(チタンローター)が挿入されている。チタンローター自身の密度がサンプルと比較して低い値を持つので,チタンローターは浮力によって常に液体の中心に位置し,チタンローターとチューブの間にはある一定のギャップ(隙間)が生まれる。

チタンローターはサンプルによるせん断応力によって回転させられるが,チタンローターに装着されて永久磁石と軟鉄リングとの相互作用により軸方向の位置が固定される。回転する磁石の磁場が速度信号を発し,外側のケースに渦電流を発生させる。この渦電流はチタンローターの速度に比例し,チタンローターに抑制トルクを与える。

2つの異なるトルクがチタンローターの速度に影響する。

Td=ηAγr1=Kdη(n2-n1) 駆動トルク  (6)

Tr=Krn1 抑制トルク  (7)

Td:駆動トルク,Tr:抑制トルク,γ:せん断速度,η:動粘度,A:チタンローターの表面積,r1:チタンローターの半径,n1:チタンローターの回転速度,n2:チューブの回転速度,K,Kr,Kd:装置定数

平衡状態では2種のトルクは等しく(Td=Tr),粘度は式(8)で計算できる。

η=K/(n2/n1-1)  (8)

したがって,チタンローターおよびチューブの回転速度を測定すれば動粘度を求めることができる。

SVM動粘度計の測定セル
図4 SVM動粘度計の測定セル[出典:文献*8]

ii)密度測定セル
 潤滑油の密度はDIN(Deutsche Industrie Normen,ドイツ連邦規格)51757に準拠する石英ガラス製U字管を用いた共鳴機械振動による測定方式(振動式密度測定方式)によって測定される。『SVM動粘度計』による密度測定では,小数点以下3桁以上の精度での測定が可能である。装置本体に内蔵される換算テーブルを使用することで,密度,比重などの数値を20℃,40℃,100℃といった温度でそれぞれ算出することができる。

iii)ASTMの認証について
 『SVM動粘度計』による動粘度測定手法のASTM規格における承認において,従来法であるASTM D445に準拠する動粘度測定精度試験が行われた。なお,本試験は認証機関において,同一サンプルを用いて測定を行うリングテスト方式で行われた。測定に用いたサンプルはベースオイル,合成油,リファレンスオイル,完全に配合された製品,使用済み潤滑油などである。各認証機関においてサンプル測定を行い,従来法である細管粘度計による測定値と比較した。

結果として,同一のオペレーターが同一の粘度計を用い,一定の測定条件のもとに同一のサンプルを連続して測定した場合の値の差は,ASTM D445で定められた標準の測定再現性の許容値の0.26%以下であった。また,異なるオペレーターが同一のサンプルを測定した場合の2回の測定値の差は,標準の測定再現性限界値の0.76%以下であった。

ウベローデ型細管粘度計を用いて得られた動粘度値とSVM動粘度計を用いて得られた動粘度値の比較を行ったリングテスト測定の結果は,次の通りである。

○20℃における平均偏差:0.42%
○40℃における平均偏差:0.51%
○100℃における平均偏差:0.67%

4. おわりに

新しい動粘度測定手法である『SVM動粘度計』(図5)は,小型で操作が容易な卓上型動粘度計である。本装置は従来法であるキャノンフェンスケ型,ウベローデ型に代表されるガラス製細管粘度計の測定精度ならびに高い効率性と生産性を兼ね備えている。

SVM動粘度計の外観図
図5 SVM動粘度計の外観図[出典:文献*8]

ASTM認証機関である潤滑油試験所における性能比較および試験から得られた測定精度のデータは,ASTM D445に準拠する動粘度測定値に必要とされる測定再現性,繰り返し再現性,測定データの比較可能性を十分に満足していることを示した結果,新しい標準測定法として,ASTM D7042に2005年に登録された。

本装置の詳細な測定原理とシステム構成はヨーロッパ特許EP(European Patent,ヨーロッパ特許)0 926 481 A2(1)*9に記述している。

〈参考文献〉
*1 American Standard, ASTM D 445, Standard Test Method for Kinematic Viscosity of Transparent and Opaque Liquids (and Calculation of Dynamic Viscosity)
*2 International Organization for Standardization, ISO3104(1994), Petroleumproducts--Transparent and opaque liquids--Determination of kinematic viscosity and calculation of dynamic viscosity
*3 American Standard, ASTM D 7042, Standard Test Method for Dynamic Viscosity and Density of Liquids by Stabinger Viscometer (and the Calculation of Kinematic Viscosity)
*4 倉瀬公男,倉野恭充「毛細管粘度計定数の決め方」ペテロテック第1巻第8号P81(1978)
*5 Thomas G. Mezger:The Rheology-Handbook, Vincentz Verlag, 1(2002)10,
*6 Japan Petroleum Institute, JPI-5S-26-99, Testing Methods for Low -Temperature Viscosity of Gear Oils
*7 American Standard, ASTM D 2270(1998), Standard Practice for Calculating Viscosity Index From Kinematic Viscosity at 40 and 100℃
*8 Application note Anton Paar, Bernhard Leopold(2006), SVM 3000-Stabinger Viscometer
*9 European Patent EP 0 926 481 A2

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