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潤滑油の粘性,摩擦と潤滑性評価 | 潤滑油の試験・測定・分析選定BOX | ジュンツウネット21

「潤滑油の粘性,摩擦と潤滑性評価」  2014/6

株式会社アントンパール・ジャパン

1. はじめに

潤滑油の流動特性の指標である粘性は,潤滑のすべての過程で中枢的役割を演じ,摩擦,摩耗あるいは機械的エネルギーの損失などに密接に関係していることがよく知られている。これらの流動特性は熱や不純物の移動においても重要な役割を演じ,可動部品間の間隙の密閉性にも大きく影響する。したがって,いかにしてサンプルの複雑な流動特性を測定し,摩擦と潤滑特性(トライボロジー特性)を評価するかということは極めて重要な意味を持っている。また,近年食品機械用として安全性に優れた食品由来の潤滑油が開発されているが,その流動特性は従来品と同等以上の性能が必要とされる。

このような潤滑油の流動特性評価手法として,少量のサンプル,測定精度かつ再現性に優れ,5分から10分の短時間で評価できる新しい分析装置が注目を集めている。

本稿では食品機械用の潤滑油の新しい動粘度評価装置としてSVM動粘度計(SVM3000)を,さらに低温から高温までの粘性特性および摩擦と潤滑特性を1台で評価が可能な粘弾性測定装置(MCRシリーズ)を紹介し,潤滑油の評価事例および応用例を紹介する。

2. 潤滑油の動粘度測定について

2.1 従来の動粘度測定手法:細管式粘度計

潤滑油の動粘度は,一般的にASTM(American Society for Testing and Materials,米国材料試験協会)D445*1またはISO(International Organization for Standardization,国際標準化機構)3104*2の規格に基づき,図1に示すキャノンフェンスケ型,ウベローデ型に代表されるガラス製細管式粘度計で測定される。毛細管を恒温槽に浸し,一定量の流体がその管を通過する速度(時間)を測定する。細管の直径や圧力を変えることによってせん断速度をほぼゼロから106s-1まで変化させることができる。標準的なものはガラス製でASTM D445に準拠する。この場合には流体は重力環境下で一定の直径の毛細管を通過する。せん断速度は10s-1以下である。ほとんどの潤滑油の動粘度をこの粘度計で測定することができる。

【主な特徴】
○単純な構造であり,低価格である
○サンプルの密度を測定することなく,直接動粘度を算出可能である

【問題点】
○細管内部の洗浄に手間がかかる
○恒温槽内での細管の温度調整に長時間を要する
○サンプルの定量採取に熟練を要する
○溶媒消費量,測定時間に要するコストが高い
○手動でのデータ処理による計算ミスなどの人為的誤差が生じやすい

細管粘度計の外観[出典:文献*4]
図1 細管粘度計の外観[出典:文献*4]

2.2 新しい動粘度評価手法:SVM動粘度計(SVM3000)

新しい動粘度評価手法であるSVM動粘度計は従来法と比較し,下記のような特徴を持つ。

○サンプルの交換,流路の洗浄が容易である
○ペルチェ素子による温度調整方式のため,測定部の温度安定性に優れる
○少量の潤滑油で測定が可能である
○温度変更の応答性に優れ,かつ温度平衡状態に要する時間が短い
○低温と高温の動粘度の比(Viscosity Index:ASTM D 2270*5)の算出が短時間かつ容易である
○装置設置面積が小さい
○動粘度,せん断粘度,密度を1回の測定で同時計測する

本装置は粘度測定セルと密度測定セルの両方を搭載し,サンプルの動粘度,密度および温度を一度に計測することができる。本測定手法はASTM認証機関にも測定精度がASTM D445に準拠することが認定され,2005年にASTM D7042*3を取得している。

2.3 SVM動粘度計の測定原理

サンプルの動粘度を求めるにあたり,図2下側の概略図のような粘度測定セルを用いてサンプルのせん断粘度を求める。サンプルはチューブ内部に充填されそのチューブが一定速度で回転する。このチューブ内部にはサンプルとともに中空の測定ローター(チタンローター)が挿入される。チタンローター自身の密度がサンプルと比較して低い値を持つので,チタンローターは浮力によって常に液体の中心に位置し,チタンローターとチューブの間にはある一定のギャップ(すき間)が生まれる。チタンローターはサンプルによるせん断応力によって回転させられるが,チタンローターに装着されて永久磁石と軟鉄リングとの相互作用により軸方向の位置が固定される。回転する磁石の磁場が速度信号を発し,外側のケースに渦電流を発生させる。この渦電流はチタンローターの速度に比例し,チタンローターに抑制トルクを与える。

SVM動粘度計(SVM 3000)の外観
SVM動粘度計(SVM 3000)の測定部概略
図2 SVM動粘度計(SVM 3000)の外観(上)と測定部概略(下)[出典:文献*6]

次にサンプルの密度はDIN(Deutsche Industries Norman,,ドイツ連邦規格)51757に準拠する石英ガラス製U字管を用いた共鳴機械振動による測定方式(振動式密度測定方式)によって測定する。SVM動粘度計による密度測定では,小数点以下三桁以上の精度での測定が可能であり,装置本体に内蔵される換算テーブルを使用することで,密度,比重などの数値を20℃,40℃,100℃といった温度でそれぞれ算出することができる。動粘度はせん断粘度を密度で割ったものであり,自動計算により動粘度値をリアルタイムで表示,印字,データ保存することができる。

表1に各種粘度計の特徴と対応する測定規格についてまとめた。

表1 各種規格と粘度計の種類
粘度計の種類名称代表的な対応規格適用測定粘度の種類粘度測定範囲必要試料量(mL)アダプタの種類
毛細管粘度計キャノン-フェンスケ ISO 3104
ASTM D445
最も一般的な動粘度測定手法動粘度0.4~20,000
[mm2/s]
約712種類
ウベローデ0.3~100,000
[mm2/s]
10~2016種類
SVM動粘度計SVMASTM D70421台の装置でせん断粘度と動粘度の評価が可能動粘度0.2~20,000
[mm2/s]
約2.51種類
準拠
ISO 3104
ASTM D445
せん断粘度0.2~20,000
[mPas]

3. 潤滑油の粘性と摩擦・潤滑特性の評価手法:粘弾性測定装置(MCRシリーズ)

潤滑油の粘性の品質管理基準として一般的に動粘度を用いるが,食品機械用の転がり軸受や回転シャフトで流動しているサンプルの粘性特性は温度変化が激しくかつ複雑な流動挙動を示すことが知られている。例えば,真冬の低い温度であれば粘度が高く,夏の高い温度では粘度が低い。さらに,軸受に使用される潤滑油の初動時の粘性は高く,回転中の粘性は低いことが知られている。このような複雑な粘度特性は従来の簡易的な回転粘度計,フローメーターなどでは評価が困難であることから,粘弾性測定装置を用いて粘性だけでなく,弾性特性を同時に手法が注目を集めている。

さらに,粘弾性測定装置の測定オプションであるトライボロジーセルを用いることで,潤滑油の摩擦と潤滑特性を評価することができる。

3.1 粘弾性測定装置MCRシリーズの概要

本装置は駆動部にシンクロナスモーター(ECモーター)を搭載し,その応答速度の早さと優れた駆動力から従来では不可能であった回転方向へのせん断速度制御とせん断応力制御の両方の制御が可能である。また,サンプルの温度を正確にかつ精度良く制御する機構を測定温度域や用途により選択可能であり,手軽に交換が可能である。温調器の種類として,-40℃~200℃まで制御可能なペルチェ式温調システム,対流式チャンバー(最大温度制御範囲:-150~1000℃)などがある。さらにサンプルステージがガラスになっているペルチェ式温調器を利用すれば,サンプルの流動状態を観察することができる。これらの特徴により,本装置はエンジンオイルやガソリンなどの極低粘度サンプルから-40℃での潤滑油の高粘度特性まで1台で評価が可能となった。

図3に粘弾性測定装置MCRシリーズの外観を示す。温度制御された下側のステージに直接サンプルを約1mL投入する。上側の測定システムが下降し,サンプルは上下のプレートに挟まれた状態で測定を開始する。

粘弾性測定装置MCRシリーズ外観
図3 粘弾性測定装置MCRシリーズ外観

3.2 食品機械用潤滑油の粘性評価

食品機械の転がり軸受用の潤滑油の開発にあたり,目標とする粘性特性は初動トルクをできるだけ小さくし,かつ回転中はできるだけ抵抗が少なくすることである。さらに使用する温度における粘性特性を正確に把握することが必要となる。ここでは回転中の回転抵抗はほぼ等しい2つの潤滑油サンプルの初動トルクの違いを10[℃]一定の環境条件の下,粘性評価を行った。

【測定条件】
測定試料:初動トルクの異なるサンプル1,2
測定装置:粘弾性測定装置 MCR302
温調方式:上下ペルチェ型温調システムH-PTD200 & P-PTD200
測定温度:10[℃],一定条件
測定治具:コーンプレート型(円錐-円板型)
測定治具,φ25[mm],コーン角度1[°] 測定試料量:0.6[mL] 設定条件:せん断速度 0.01~10,000[1/s]までステップ可変

【測定結果】(図4

粘度カーブ測定結果(横軸:せん断速度[1/s],縦軸:せん断粘度 [Pa*s] )
図4 粘度カーブ測定結果(横軸:せん断速度[1/s],縦軸:せん断粘度 [Pas] )

図4のせん断速度はサンプルの変形速度を表し,測定治具の回転数に比例する。よって,高せん断速度は高回転数,低せん断速度は低回転数となる。

結果として,100~10,000[1/s]の高せん断速度領域において,サンプル1と2の粘度は大きな差が見られない。つまり,軸受が回転している際の潤滑油の回転抵抗はほぼ等しいと言える。一方,0.01~1[1/s]の低せん断速度領域において,サンプル1は2よりも大幅に高い粘度値を示していることが分かる。つまり,軸受を最初に回転するための初動負荷,初動トルクはサンプル1の方がより大きな力を必要とすることが分かる。

このように,粘弾性測定ではサンプルの複雑な流動現象を様々な環境条件,速度条件で少量のサンプルかつ短時間で評価が可能である。

3.3 食品機械用潤滑油の摩擦と潤滑性評価

食品機械用の回転軸や軸受の金属同士の摩擦を低減し,摩耗を防ぐ潤滑油の開発にあたり,目標とする摩擦と潤滑性はトライボロジー測定により評価を行う。粘弾性測定装置MCRシリーズではトライボロジー測定オプションを用いることでサンプルの摩擦と潤滑特性を正確にかつ再現性良く評価可能である。

ここではトライボロジーセルの概要とその測定例について紹介する。

■トライボロジーセルについて
 摩擦と潤滑性を評価するトライボロジー測定は,様々な方法で計測が可能である。本機はその中でも食品機械用潤滑油の評価に適したボール・オン・プレートタイプの測定手法を採用している。図5にトライボロジーセルの外観を示す。図のように上側にボール型の回転子を備え,下側は同素材の3つのプレートを配置する。ボールとプレートの間隙にサンプルを投入する。測定部は全体をペルチェ温調システムにより,-40℃の極低温から200℃までの高温領域まで幅広い温度制御を可能としている。

トライボロジーセル外観

トライボロジーセル概要
図5 トライボロジーセル外観(上)と概要(下)

【測定条件】
測定試料:初動トルクの異なるサンプル1,2(3.2項と同一サンプル)
測定装置:粘弾性測定装置 MCR302
温調方式:トライボロジー測定セル
測定温度:10[℃] 測定治具:上側:ボール型測定治具,φ10[mm],下側:ステンレス製プレート
測定試料量:5[mL] 設定条件:すべり速度 10-7~0.1[m/s]まで連続変化

【測定結果】(図6

トライボロジー測定結果(横軸:すべり速度[m/s],縦軸:摩擦係数[-])

トライボロジー測定考察図
軸の回転に要する初動負荷 サンプル1 > サンプル2

図6 トライボロジー測定結果(横軸:すべり速度[m/s],縦軸:摩擦係数[-])(上)と考察図(下)

グラフより結果として,すべり速度~510-5[m/s]まではサンプル1,2ともに大きな差はないが,回転軸が動作を開始する10-4~10-3[m/s]付近でのサンプル1の摩擦係数がサンプル2よりも急激に上昇していることが分かる。これは図6下側に示すイメージ図のとおり,サンプル1はサンプル2と比較して,初動時の上側のボールと下側のプレートの間隙が狭く,より多くの初動負荷を要すると考えることができる。

以上のように,食品機械用潤滑油の粘性特性評価(項目:3.2)と摩擦と潤滑性評価(項目:3.3)の測定手法の異なる2つの物性評価から,同一の見解を得ることができた。

4. 最後に

食品機械用の潤滑油の粘性,摩擦と潤滑特性について,最新機種とその評価事例について紹介した。本機を用いることで,開発品の物性評価の迅速化が進められるだけでなく,品質管理の向上,分析コストの低減につなげることができる。本稿が今後の研究開発および品質管理の向上に役立つことができれば幸いである。

〈参考文献〉
*1 American Standard, ASTM D 445, Standard Test Method for Kinematic Viscosity of Transparent and Opaque Liquids(and Calculation of Dynamic Viscosity)
*2 International Organization for Standardization, ISO3104(1994),Petroleum products -- Transparent and opaque liquids -- Determination of kinematic viscosity and calculation of dynamic viscosity
*3 American Standard, ASTM D 7042, Standard Test Method for Dynamic Viscosity and Density of Liquids by Stabinger Viscometer(and the Calculation of Kinematic Viscosity)
*4 Thomas G. Mezger : The Rheology-Handbook, Vincentz Verlag, 1(2002)10
*5 American Standard, ASTM D 2270(1998),Standard Practice for Calculating Viscosity Index From Kinematic Viscosity at 40 and 100℃
*6 Application note Anton Paar, Bernhard Leopold (2006),SVM 3000 - Stabinger Viscometer

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