CVTのメカニズム | ジュンツウネット21

CVTのメカニズムについて解説します。CVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)は,従来の自動変速機より部品の数が少なく軽量で燃費向上にも貢献するので,世界的に急速な普及が期待されています。ここでは金属ベルト式CVTとトラクション方式CVTを取り上げます。

CVTのメカニズム

解説します。

1974年の第一次オイルショックに端を発し,世界的に省資源エネルギが求められ,自動車の燃費向上が大きな課題になりました。近年は地球規模の環境問題の一つとして,温暖化抑制が叫ばれ,自動車の燃費向上への努力が引き続きなされております。

このような背景の下にCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)は,従来の自動変速機(最近欧米ではStepped Automatic Transmission:多段自動変速機と呼ばれることがあります)より部品の数が少なく軽量で燃費向上にも貢献するので,世界的に急速な普及が期待されています。わが国の2000年における自動変速機の搭載率(輸入車,軽乗用車を除く)は91.2%に達していますが,2015年におけるCVTの搭載率は従来タイプ(多段自動変速機)を超えるとの予測が発表されています(図1)。なお,この図に示されている“Automated Gear Shifts”とは,従来の手動変速機の機構を自動化した方式です。

日本における自動車用駆動系の実績と予測
図1 日本における自動車用駆動系の実績と予測
出典:Lubrizol 社資料(1999)

CVTについては多数の考案により種々の設計が発表されていますが,それらは動力伝達方式により表1のように分類されます。

表1 無断変速機の分類 (CVT)
無断変速機の分類 (CVT)
出典:自動車技術会,「自動車のトライボロジー」 (1994)

上記の中で自動車に実用化されているのは,ベルトドライブ方式とトラクション方式です。前者のうちのゴムベルト式は無潤滑であり,チェーンベルト式はまだ搭載率が低いのでここでは金属ベルト式CVTと,世界に先駆けてわが国で初めて1999年に実用化されたトラクション方式CVTを取り上げます。

1. 金属ベルト式CVT(V-CVT)

金属ベルト式CVTは,変速機構,V字型の溝をもつプーリ(変速機構の一部)を油圧で制御するオイルポンプ,発進クラッチ,前後進切替機構で構成されます。変速機構は金属Vベルトと2つのプーリの組み合わせです。金属ベルトは,数百個のV角をもつ薄い鋼製エレメントと,それを両側から挟み付ける2組の10枚程度の薄い鋼製積層リング(バンドとも呼ばれる)で組み立てられます(図2)。この金属ベルトは,油圧によって溝幅を変えられるドライブ(入力側)と,ドリブン(出力側)の2つのプーリに掛け渡されます(図3)。プーリのV字型の溝は,金属ベルト・エレメントの側面の角度に合う傾斜面をもっています。

金属ベルトの構造
図2 金属ベルトの構造
出典:SAE Paper 980822
金属ベルト式CVTの変速機構
図3 金属ベルト式CVTの変速機構
出典:SAE Paper 932848

金属ベルトのリングはプーリに直接接触せず,エレメントをプーリに押し付け,エレメントはプーリとの摩擦力で動力を伝えます(図4)。金属ベルトの動きは,一つ一つのエレメントが,その前の位置のエレメントを押しているのです。

エレメントとプーリの間の摩擦部位
図4 エレメントとプーリの間の摩擦部位
出典:SAE Paper 932848

エンジンの回転力はドライブプーリに入力され,図5で伝達され,出力されます。

エンジンの回転

前後進切替機構

ドライブプーリ(ドライブ軸)

金属ベルト

ドリブンプーリ(ドリブン軸)

発進クラッチ

出力

図5 エンジン回転力の伝達

2つのプーリは,アクセル開度や車速などの条件に応じて変化する油圧で溝幅が増減して,金属ベルトの位置がプーリの溝の中で移動します。アクセルを踏み込むと,ドライブプーリの溝が広がり金属ベルトがプーリの中心方向に沈み,一方,ドリブンプーリの溝は狭まりプーリの溝に圧迫されて金属ベルトはプーリの外周方向へせり上がります。つまり,金属ベルトの掛けられた2つのプーリの伝達ピッチ径をスムースに変えることにより,変速を行うわけです。これは,原理的には変速ギヤ付自転車の変速操作が,直径の異なる複数の出力ギヤ間の切り替えで行われるのと同じことです。ただし,金属ベルト式CVTでは,入力/出力プーリは一つずつで,それらの動力伝達ピッチ径が無段式に変化するのです。

2. トラクション方式CVT(T-CVT)

トラクション方式CVTは,フルトロイダル型とハーフトロイダル型に分類されます。前記のように,世界で初めて1999年にわが国において自動車用に実用化されたのは,ハーフトロイダル型です。この方式の変速機構を図6に示します。

ハーフトロイダル型トラクション式CVTの変速機構
図6 ハーフトロイダル型トラクション式CVTの変速機構
出典:日産自動車(株)資料 (1999)

ハーフトロイダル型トラクション式CVTの変速機構は,入力ディスク,出力ディスクと2組のパワーローラで構成されています。パワーローラの傾きを連続的に変えることにより,スムースな無段変速を行います。パワーローラと入力/出力ディスクの接点はそれぞれのディスクの上で円を描きます。入力ディスク上の円が小さいと,出力ディスク上の円は大きくなります。すなわち,出力ディスクの回転速度は入力ディスクより小さくなり,その逆で出力ディスク上の円が小さくなると,出力ディスクの回転速度は入力ディスクより大きくなります。

わが国で実用化されたトラクション式CVTでは,図7に示すように2組の入力/出力ディスクとパワーローラが採用されており,中央部の出力ディスクに入った力を歯車機構でプロペラシャフトを通じてタイヤへ伝達する方式になっております。

ハーフトロイダル型トラクション式CVT
図7 ハーフトロイダル型トラクション式CVT
出典:日産自動車(株)資料 (1999)

高速度で回転する入出力ディスクとパワーローラは,トラクションフルードを介して接触しています。確実な動力伝達のために,その接触点の面圧は超高圧になるように設計されています。そこに存在するトラクションフルードは,従来の潤滑,冷却などの作用以外にディスクとパワーローラの間で動力を伝達する極めて重要な役割を担っております。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日