歯車に発生する損傷をAGMAの分類で示しますと,正常摩耗,中程度摩耗,破壊的摩耗,歯面の疲れ,塑性流れ,歯の折損となります。破壊的摩耗以下について解説します。
歯車に発生する損傷について
歯車に発生する損傷にはいろいろなものがあるそうです。その内容をできれば細かくご教示下さい。
解説します。
1. 損傷の分類
歯車に適切な潤滑と荷重が与えられ,設計,製作,取付けが正しければ,初期摩耗でなじみがついた後は,ゆっくりと摩耗が進行するだけで,長い寿命があるはずですが,実際は条件が悪く,種々の損傷が発生することがあります。損傷をAGMAの分類で示しますと―
A. 正常摩耗
B. 中程度摩耗
C. 破壊的摩耗
D. 歯面の疲れ
E. 塑性流れ
F. 歯の折損
となります。このうち損傷はB~Fですが,Bは正常摩耗よりかなり早く摩耗が進みますが,必ずしも致命的な摩耗ではありません。
C以下について説明します。
2. 破壊的摩耗
1)アブレーシブ摩耗(図1(a))
ごみや摩耗粉などが歯面間にはさまり,すべり方向に平行な筋がつく損傷。
2)スコーリング(図1(b))
高圧面,すべり温度上昇などにより油膜が切れ,金属面が溶着して引きさかれ,引っかき傷が生じる損傷。歯先と歯元によく発生します。特徴は引っかき傷と溶着による引きちぎられたあとが見られることです。
3)干渉(図1(c))
相手の歯先が歯元に強く当たり,ひどくえぐりとられる損傷。歯形,修整などの狂いが原因です。
4)腐食摩耗(図1(d))
潤滑油中の酸,水分,不純物の化学作用による損傷です。
5)剥離
歯の表面がフレーク状になってはがれる損傷。歯面の疲れによる降伏が原因。軟質材,脱炭した歯面などに発生します。
6)摩擦焼け
過大な荷重,速度,潤滑不足による異常摩擦がさらに進んで,高温のために変色,硬度低下を起こします。他の損傷を併発することがあります。
7)変色
硬度低下しない程度の変色をします。
3. 歯車の疲労
8)初期ピッチング(図1(e))
使用後まもなく歯面にピッチングが発生する損傷で,歯元面などに現れます。
9)破壊性ピッチング(図1(f))
初期運転期間を過ぎても進行するピッチング。一般に歯面に発生します。
10)スポーリング(図1(g))
重荷重で表面下が疲労し,かなりの大きさの金属片がかけ落ちます。硬材質に発生しやすい。
4. 塑性流れ
11)圧延降伏(図1(h))
過度の荷重によるすべり,正しくないかみ合いのための衝撃によって発生。歯先,端部にかえりが生じます。
12)りん降伏(図1(i))
潤滑不足によるスティックスリップ,振動,重荷重が原因で,すべり方向に直角な波形損傷が生じます。おもに滲炭焼入れしたハイポイドピニオンに発生することが多い。
13)条痕摩耗(図1(j))
滲炭焼入れしたハイポイドやブロンズウォームホイールによく生じる特殊の塑性流れで,歯面をすべり方向に斜めに横切る線やうねりができる損傷。過大荷重や潤滑不足が原因です。
5. 歯の折損
14)疲労破損(図1(k))
初めに小さい亀裂が生じ,くり返し荷重のために進行して破壊したもので,破断面には亀裂が進行し,すれて変色した状況が見られる部分と,最後に折れた部分があります。
15)過負荷破損(図1(l))
破断面は鋳鉄に似た一様の結晶を示します。予期しない過大衝撃荷重による破損です。
16)焼割れ(図1(m))
不適当な熱処理または鋭角によって起こされ,普通歯元または端から始まっており,図はその部分を割って見ると黒くなったところに割れが入っていることを示します。
17)ひどい摩耗に起因する折れ
ひどいピッチング,スポーリング,アブレシーブ摩耗のために,歯が弱くなって起こる折れです。
18)不適当な加工研削による割れ
加工条件が不適当な研削のために,また焼入応力不適応であった場合に発生します。疲れ折損の原因となることもあります。
図1 歯車における損傷の種類