自動車用トランスミッションのシフトフィーリングとは | ジュンツウネット21

シフトフィーリングとは変速時の操作性を意味し,シフト操作力,シフト時間シフトのなめらかさなどから決定され,機械面ばかりでなく使用潤滑油の影響も大きくなっています。手動変速機(MT)と自動変速機(AT)の潤滑油について解説します。

自動車用トランスミッションのシフトフィーリングとは

自動車トランスミッションのシフトフィーリングは手動変速機とでは異なりまた,使用潤滑油の影響も大きいそうですが,具体的にご教示下さい。
解説します。

シフトフィーリングとは変速時の操作性を意味し,その改善は近年,自動車用トランスミッションの重要な課題となっています。具体的にはシフト操作力,シフト時間シフトのなめらかさなどから決定され,機械面ばかりでなく使用潤滑油の影響も大きくなっています。

1. 手動変速機(MT)

MT(Manual Transmission)におけるシフトフィーリングには変速時に作動するシンクロメッシュ(同期かみあい)の性能がもっとも大きな影響をおよぼしますが,シフトコントロール機構のレバー比,ガタなども関与するため,フィーリング改善にはMT油を含めた総合的対処が必要です。最近,シフト力およびシフト時間の低減,ならびにエンジンの高速・高出力を目的にダブルコーンシンクロやトリプルコーンシンクロなどのマルチコーンシンクロの採用が相ついでいます。

シフトフィーリングの問題は,低油温時の過大なシフト力や変速不能と比較的高油温時の長いシフト時間,ギヤ鳴り,ひっかかり(2段入り感)などに分けられます。

低油温時のシフト力は,MT油の粘度で整理すると図1のようになり,シフト力は粘度に依存していることがわかります。したがって,シフト力の低減には低温粘度を下げればよいわけです。良好なシフトフィーリングが確保できる粘度は5000~6000CP以下といわれ,MT油の低温粘度グレードとしてSAE75Wを採用するカーメーカーが多いのです。

シフト操作力と粘度
図1 シフト操作力と粘度

比較的高油温時のひっかかりなどは,シンクロメッシュが作動するときのシフト力の経時変化つまりシフト波形(図2)で表され,MT油の性能も深く関与します。このシフト波形に大きな影響をおよぼすのはシンクロナイザーリングとギヤコーン間の摩擦係数(μ)で,μが低いと,同期時間が長くなり,ギヤが入りにくいと感じたり,あるいはギヤ鳴りが発生します。また,リングとコーン間の静摩擦係数が高いとリングがコーンにはりつき,ひっかかりが起こります。摩擦特性に対しては当然耐久性が要求され,MT油の品質改良ばかりでなく,シンクロナイザーリング材質(現状,黄銅系が主流)面からの検討なども行われています。

シフト波形例
図2 シフト波形例

2. 自動変速機(AT)

近年,AT(Automatic Transmission,トルクコンバータ付)におけるシフトフィーリングは電子制御の採用により向上しました。つまり,この電子制御は変速点の制御だけでなく,変速時の係合要素(クラッチ,バンド)への給油圧も制御します。

シフトフィーリングの問題は変速ショック,シャダー(車体異常振動)および応答性に大別されますが,いずれも使用ATFの性状・性能が深く関与しています。

ATの変速はクラッチやバンドのOFF→ONで行われますが,クラッチの接続に要する時間は0.5~0.7秒程度と短く,このときディスク/プレート間の摩擦特性において接続終了間際のμが急激に立上がると,「ガクン」とくる(変速)ショックが発生します。この摩擦特性は一般にSAE No.3試験機で評価されます。摩擦トルク波形を図3に示します。μ°/μdが大きいと変速ショックを感じるため,μ°/μd≦1の検討が摩擦材,ATFの両方から行われています。またμdはシフト時間に影響を与え,低いとシフト時間が長くなります。

SAE No.2 摩擦試験機におけるトルク波形
図3 SAE No.2 摩擦試験機におけるトルク波形

ロックアップクラッチはエンジン動力を変速機に直結する効率向上手段として,近年多くのATに装着されていますが,低速域での作動は駆動系のねじり振動を発生させます。この振動の低減などのため,スリップ制御方式を採用した場合,作動時スティックスリップによるシャダーを発生することがあります。評価には低速すべり試験機が使用され,スティックスリップは低速側でμが立ち上がるときに発生しやすく,ATFの影響も大きくなります。

ATにおける応答性とはアクセルの踏み込みに対する油圧応答性を意味しますが,ATFの粘度の影響が大きくなります。低油温時,粘度が高すぎるとシフトタイムラグが大きくなり,また,走行時(高油温時)粘度が低すぎると,ポンプや油圧バルブでのオイルもれにより油圧低下を招き変速遅れなどを生じます。そのようなことから,ATFには高粘度指数でかつ良好なせん断安定性が要求されます。

<参考文献>
○白浜真一:日石レビュー, Vol.29,No.5(1987.12) 181.
○渡辺 昇:出光石油技術, Vol.31,No.5(1988) 554.

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最終更新日:2021年11月5日