オイルミストの管理 | ミストコレクターの活用法 | ジュンツウネット21

労働安全衛生法による「快適職場環境評価」の項目には
(1)空間,換気,採光,(2)温熱条件,(3)粉塵,(4)有害物質(ガス,煙気),(5)騒音,振動,(6)その他 等があり,職場の多くは日常生活の場と違った環境条件に置かれています。特にそれらが生態の機能を阻害する程度に異常性を帯びる場合,労働者の疲労は増大し,作業効率および品質の低下,疾病,労働災害を起こしやすく,また安全衛生,防災,地球環境に至るまで多方面に影響を及ぼします。

生産現場で抱える数多くの問題点の中で,長年手付かず状態のオイルミストによる弊害と対策について説明します。

Q1.工場内で発生するオイルミストの作業環境への影響と対策の概要

Question1.工場内で発生するオイルミストの作業環境への影響と対策の概要を教えて下さい?

Answer1.解説します。

1.工場内空気汚れの原因と作業環境への影響および対策

(1)工場内空気の汚れの原因と作業環境への影響
 まず,オイルミストによる悪影響を整理すると図1*1の通りになります。

オイルミストによる迷惑状況
図1

また,工場内空気の汚れの問題点と原因を表1に示します

表1 汚れの問題点と原因
項目
問題点の内容
空気環境 M/Cカバーが不十分で,工場内にオイルミストが拡散している
ミストコレクターが故障していたり台数が不足している
経年劣化による性能低下や能力不足の物がある
フィルターのメンテナンスが不十分である
メンテナンス費用が削減される
視環境 管理方法,管理責任者が明確になってない
工場内の換気バランスが悪い
多量の汚れた空気を屋外に排出している
工場内の視界が悪い,臭い・不快
建屋,蛍光灯,制御盤内等の汚れがひどい
簡単に測定する機器がないため,日常的に数値管理するのが難しい
温熱条件 排気量が多いため熱ロスが大きい
切削液の温度が高いため蒸発しやすい
安全衛生 床面のスリップ等安全面で危険である
防災 ミストの付着により防災上危険である

これらを見ると,作業空間内における空気環境,温熱環境,視環境に悪影響が生じその被害が安全衛生,防災面から作業能率や地球環境に至るまで多岐に及ぶこととなります。ちなみにオイルミストの濃度別の視界状況は表2の通りであり,空気調和・衛生工学会の規格による室内空気の条件は表3の通りとなっています。

表2 オイルミスト濃度別視界状況
濃度(mg/m3
視界状況
0.15
目標数値
0.20
顕著な現象は確認できない
0.50
うっすらと澱む
1.00
曇っていることがわかる
2.00
視界が悪い
表3 室内空気条件(空気調和・衛生工学会規格HASS1001-1997)
浮遊粉塵 0.15mg/m3以下
気流 0.5m/sec以下
温度 17~28℃
相対湿度 40~70%
炭酸ガス 1,000ppm以下
一酸化炭素 10ppm以下

(2)対策
 1. 低ミストオイルの採用およびオイルの冷却化(NO塩素化,オイルの活性化)
 2. M/Cカバーの取り付けは可能な限り密閉性を良くする(作業性について打ち合わせが必要)
 3. ミストコレクター設置後の定期的な維持管理の徹底(フィルターは交換不要な品物の選定,脱臭も考慮のこと)
 4. 取りきれない浮遊ミストについては,誘引ファン等で全体換気の検討(空調とのバランス,検討要する)
 5. 定期的な環境測定の実施による数値的把握

等が考えられますが,「いかに効率よく小風量で処理できるか」を考慮して計画する必要があると思われます。

2.オイルミストコレクターの種類

オイルミストコレクターの種類については,表4に示す物が主ですが,他にも微細粒子凝集コア方式,強制バッフル凝集捕捉方式,水溶性にも可能な電気式集塵機等多くの種類のミストコレクターがあります。いずれのミストコレクターもそれぞれの特徴を生かし適切な処理風量を選定し,定期的なメンテナンスを実施することが高効率化および長寿命化につながるポイントとなります。

表4 オイルミストコレクターの種類
 
A
B
C
D
E
集塵方式
セラミック式
遠心衝突分離方式
電気集塵方式
遠心衝突分離,フィルター捕捉式
固定バグフィルター式
対象ミスト
油性,水溶性
油性,水溶性
油性
油性,水溶性
油性,水溶性
集塵構造および特性 1次フィルターで粉塵を,セラミックでミストを吸着,分解,脱臭効果も大なので部屋内に放出でき,負圧対策になり空調の省エネ効果あり フィルターをミスト吸込口に設け荒取り後回転ドラムにて連続的に衝突および遠心分離にて回収,5種類のフィルターを使用 1次フィルターで荒取り後イオナイザー電極線より10KV直流高電圧にてコロナ放電利用しイオンをミスト粒子に付着させ+-が交互の並んでいる6KV直流電圧使用集塵極板にて吸着 平面バッフルフィルターに大粗(切粉,粉塵)を捕集,2,3次ルーバーユニットでミストを捕捉し4次デミスターにて飛散防止,5次フィルターで微細ミストを捕集 円筒形内部バグフィルターにファンモーターにてミストを衝突させ分離後外周部セカンドバグフィルターにてサイド捕集
2~3種類のフィルターを使用
集塵効率および性能 ミスト粒子に関係なく捕集可能,ただし1次フィルターの定期的な洗浄を要する,3~1ミクロン 固定用フィルターと回転フィルターを併用しているが基本的にはフィルター性能3~1ミクロンまで ミスト粒子(3~0.1ミクロン)関係なく捕集可能ただし水溶性には考慮 5層フィルターにより初期性能は良いがフィルターの飽和状態になれば微細ミストの捕捉は難しい フィルター性能により大きく変化する。5~1ミクロンまでの粗いミスト向き
メンテナンス 1次フィルターは洗浄で繰り返し使用可能。セラミックは1~2回/年の清掃のみで交換不要。3次フィルター1~2回/年程度の交換 回転部フィルターが必要なので機械本体の分解およびバランス調整が必要,時間技術が要する 1次フィルターの交換,イオナイザー,集塵極の洗浄が年3~5回ほど必要。イオナイザー,集塵極の剛性がなく洗浄がしにくく調整も技術が必要 使用状況にもよるが最終5層フィルターの交換サイクルは1年近くあるが捕捉性能を維持しようとすると1,2次フィルターは定期的にメンテを要する。工具レスで交換可能 フィルターの飽和状態により交換を要する。頻度は使用状況による

設計計画時には,コストを重要視しがちですが適切な台数および定期的なメンテナンスの実施により性能,効率が維持できより良い作業環境の中で,疾病,作業効率および品質の低下を防ぐことができると思われます。

Q2.ミストコレクターの種類と効果的な使用法について教えて下さい。

Question2.ミストコレクターの種類と効果的な使用法について教えて下さい?

Answer2.解説します。

ミストコレクターの活用法

 3.ミストコレクターを効果的に活用するための方法

ミストコレクターを効果的に活用するためには,数多い種類の中から目的に合った機種の選定をすることが大切です。またオイルの種類および成分,粉塵の種類および粒子径,除去効率等を考慮しフィルターの選定を行わなければなりません(図2)。

ミスト粒径別システム構成図
図2 ミスト粒径別システム構成図

図3のように,局所排気で取りきれない浮遊ミストは,誘引ファンを利用するとダクトレスですっきりし,効果的な全体換気が容易に行えます。

機械加工工場の換気:浄化システムの提案例/必要換気量の算定
図3

また,空調負荷および工場内負圧による粉塵の進入を考えると集塵機でミスト処理+脱臭まで考慮したものです。
 オイルは冷却することにより,ミストの発生を小さくしまた活性化および長寿命化しコストダウンにつながります。

いずれにしても,オイルミストの問題を効果的に解決するには

(1)低ミストオイルの導入および活性化,(2)オイルの冷却,(3)M/Cの取り付け,(4)ミストコレクターの設置,(5)換気ファンの設置

これらの観点からシステム構成を考えるのが最も適切であるといえましょう。

Q3.一次フィルターの特長をご紹介下さい。

Question3.一次フィルターの特長をご紹介下さい?

Answer3.解説します。

4.その他

(1)一次フィルター
 表5に示すフィルターはほんの一例ですが,いずれも一次フィルターとして使用し洗浄再生可能な製品です。

表5 一次フィルターの種類
フィルター
パイロスクリーン
ニッケルフィルター
ワイヤーメッシュデミスター
クレハロンロック
材質
SUS製,アルミ製
ニッケル製
SUS,銅,PP,等 自由選定
ポリ塩化ビニリデン繊維
特長 含塵ガスを強制的に45・方向に転換させる構造のスクリーンを10枚複合活用させたもの。粉塵量関係なく使用可能 連続多孔体構造で空孔率95%と高くブロア停止時にミスト分は重力により自然落下する ミスト粒子径に応じて材質および線径,密度自由設計可能。PPは撥水性がありミスト分の吸着が少ない クレハロンを立体的に構成,水用のフィルターとして多く利用されている。安全使用温度65℃
圧力損失
少ない
少ない
少ない
少ない
メンテ
金属製,洗浄再生可能
金属製,洗浄再生可能
洗浄再生可能
洗浄再生可能

それぞれの特長を持っており,様々な特質および性能を持ち廃棄物「0」という観点からも推薦できると思われます。
 社内試験の結果では,ブロアの一次側と二次側では,25%近い差で二次側に設置した方の除去率が効果的でした。

(2)セラミックスフィルターの特長
 :Mg,O2,Si,OH,AL等の「立体構造」を形成し,Ca,CaO(カルシア)などの固有現象により成形し,平均200~2Åの針状超微細孔を有し「吸着,吸収,分解」の作業を,飽和することなく機能を持続維持します。この働きを利用し☆脱臭対策 ☆オイルミスト対策 ☆ガス浄化対策として様々な効果が得られており多用途(写真1)に利用できます。

各種セラミックフィルター
《セラブロック・ユーホー・ビーナス》
有害ガス・悪臭・オイルミストの除去
《セラブレード》
オイルミスト除去
厨房排気の脱臭
《セラ Q》
冷却水のスケール除去
赤水対策
《ファイブセラ》
水性潤滑油等の腐敗防止,
活性化

吸着材としての多孔質セラミックスの性能は広く認知されています。多孔質セラミックスはオングストローム(Å)単位の微細孔でありかつ針状で先に行くほど狭くなっています。

(1)セラミックスの表面に吸着した成分は,物理的な吸引力(バンデルワールス力)で強引に内部に引き込まれます。

(2)引き込まれる際,針状構造のため,分子量の大きい成分は手前で止まり,小さな成分と分離されます。
 この作業により分子構造が破壊されます。→「クラッキング現象」

(3)破壊され単独になった分子は酸化により,H2OとCO2に再結合します。→「酸化分解」  酸化できなかった分子はアルコール系に分解します→加水分解「リフォーム現象」

(1)~(3)の工程を経て分解されます《分子分級機能》
 悪臭・有毒ガス・オイルミストetc→H2O・CO2に変化し排気されます。
 定期的な清掃のみで済み,交換の必要がありません。
 オイルミストコレクターの効果的な活用により,浮遊ミスト0.15mg/m3以下の快適機械加工職場環境造りを推進し,これにより作業効率および品質の向上を図り明るく事務所並みの作業空間作りを目指したいものです。

 

<参考文献>
*1 月刊「MT」No.14(1998.11)

アーステック



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ミストコレクター選定ガイド

最終更新日:2021年11月4日