レシプロ型圧縮機油とナフテン基油 | ジュンツウネット21

レシプロ型圧縮機油とナフテン基油について解説します。空気圧縮機の内部油としては,第一にカーボンの生成しにくい潤滑油を選択する必要があります。ナフテン系基油は生成したカーボンが軟かく,弁などに堆積したカーボンがとれやすい性質をもっているため,レシプロ型空気圧縮機の内部油に適しています。

レシプロ型圧縮機油とナフテン基油

レシプロ型圧縮機の内部油には吐出弁付着カーボンが問題になり,従来から生成カーボンが軟質しやすいナフテン基油が良いとされています。そのためこれまでもナフテン基油に清浄剤,酸化防止剤を添加したような潤滑油が使用されてきたように考えています。現在でも,この考え方は変わっていないのでしょうか。
解説します。

結論から申し上げますと,世界的傾向としても,ナフテン系基油がレシプロ型圧縮機油の基油として適しているという考え方は変わっていません。

レシプロ型圧縮機の内部油(シリンダ油)を選定する場合は,圧縮するガスの種類によって油を検討する必要があります。空気圧縮の場合は,給油された油が吐出弁から高温,高圧の空気とともにミストとなって排出するため,油は極度に酸化されて吐出弁,吐出配管内に付着し,さらに酸化が進行して,堆積カーボンが原因で,ときに空気圧縮機の爆発や火災の原因となることがあります。

このため,空気圧縮機の内部油としては,第一にカーボンの生成しにくい潤滑油を選択する必要があります。ナフテン系基油は生成したカーボンが軟かく,弁などに堆積したカーボンがとれやすい性質をもっているため,レシプロ型空気圧縮機の内部油に適しているわけです。

1. パラフィン系基油とナフテン系基油のちがい

潤滑油の基油は大別してパラフィン系とナフテン系があります。潤滑油は天然の原油から蒸留,溶剤抽出,水素処理等によって精製されますので,成分は炭化水素が主ですか,その構造,分子量などは,様々なものが混合した状態になっております。潤滑油に含まれる炭化水素の構造は基本的に次の三つの系に分けることができます。

(1)芳香族系炭化水素(CA
 環状の構造をもっている炭化水素で,ベンゼンがその母体をなしています。
 一般式は CnH2n-5

(2)ナフテン系炭化水素(CN
 ナフテン系炭化水素はパラフィン系炭化水素と同様に飽和炭化水素に属していますが,化学構造上は全く異なり,パラフィン系は鎖状の構造をしていますが,このナフテン系は環状の構造を有しています。このナフテン系炭化水素はパラフィン系と同じようにほとんど全ての原油に存在する重要な成分です。
 一般式は CnH2n

(3)パラフィン系炭化水素(CP
 パラフィン系炭化水素は飽和炭化水素に属し,すべての原油に広く存在していまして,一般式は CnH2n+2,鎖状の結合をしています。

一般に,パラフィン系基油とか,ナフテン系基油といった場合,いずれもこれら3成分からなり,その割合の多少によって便宜的に区別されているわけです。したがって,パラフィン系基油,ナフテン系基油といっても明確な定義は困難なわけで,特性からみるとそれぞれに特徴を有しています。

表1にその特徴,用途を示します。

表1 基油の特長と用途
 
パラフィン系基油
ナフテン系基油
粘度
(同一粘度で比較した場合)
比重
小さい
大きい
引火点
高い
低い
流動点
高い
低い
粘度指数
高い(80~110)
低い(0に近い)
溶解性(添加剤,スラッジ)
普通
良い
炭化カーボン
硬い
軟らかい
カーボンタイプ分析
 アロマチック成分 CA
0~10%
10~20%
 ナフテン成分 CN
20~35%
30~50%
 パラフィン成分 CP
60~75%
35~50%
主な用途 エンジン油,ギヤー油
油圧作動油,軸受油
回転型圧縮機油
金属加工油
その他広範囲に使われている
トランス油,冷凍機油
ラバープロセス油
レシプロ型圧縮機油
漏れ防止油圧作動油
工作機すべり面油
特殊焼入油,切削油など

2. 市販圧縮機油について

ナフテン系基油がレシプロ型圧縮機に適していることは明らかなのですが,入手難などの理由から市販圧縮機油は,ほとんどパラフィン系基油を使用したものが多くなっています。その主な理由としては次のようなことがいわれています。

(1)良質のナフテン系基油が入手しにくい。
(2)回転型圧縮機油(パラフィン系)と同一仕様で製造した方がコスト的に有利。
(3)ナフテン系は引火点が低いので危険といった誤った考えがある。
(4)添加剤の進歩。

現在,良質のナフテン系基油はほとんどが,米国や南米産の輸入原油から得られるものです。

一方,従来から一部に圧縮機の火災,爆発と潤滑油の引火点の関係を強く主張する意見がありますが,これは言葉の上での解釈としかいいようのない誤解によるものです。JIS K 2265,4.4で規定されている引火点測定法(クリーブランド開放式)は,常圧で試料を徐々に加熱し,炎を近づけて,一時的に油の蒸気に引火する最低の温度を示していますが,圧縮機の内部のように高圧で空気の流れのある条件下では,その値は余り参考になりません。引火点にこだわった潤滑油の選定をしますと,高粘度でパラフィン系基油が最も良いことになり,カーボン発生の多い潤滑油を選定するといった誤りを生ずることになります。なお,参考までに自然発火点はナフテン系基油もパラフィン系基油もほぼ同一であり,高圧下では常圧より低くなる傾向にあります。

3. 添加剤について

レシプロ型圧縮機油の場合,ナフテン系基油では,酸化防止剤,防錆剤,消泡剤などが配合されていますが,パラフィン系基油ではさらに清浄分散剤を配合することがあります。また,炭化傾向を見るために行われますパネルコーキング試験は,その結果が非常に良いものでも,吐出弁に生成するカーボンの抑制にはほとんど相関関係はみられません。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日