油潤滑式空気圧縮機における発火事故のメカニズムを述べるとともに,その対策方法について解説します。
空気圧縮機の発火事故と潤滑油からの対策
空気圧縮機の爆発,火災事故で死傷者も出たと報告されています。油潤滑式空気圧縮機の発火事故のメカニズムと事故対策についてご教示下さい。
解説します。
1. はじめに
空気圧縮機における爆発,火災事故は昭和23年から昭和53年までの30年間の統計で14件発生し,これによる死亡者は実に43名にものぼっていると記録されています。このなかで,潤滑油の発火に起因すると考えられる事故は4件報告されています。幸いにもこの4件では死傷者は記録されていませんが,この統計年以降も同様の事故が数件発生しています。生き物にとって絶対必要であり,普段何気なく感じている空気でも,場合によっては凶器にもなってしまいます。ここでは,油潤滑式空気圧縮機における発火事故のメカニズムを述べるとともに,我々の職場からは絶対に事故を起こさないとの気構えからその対策方法について記します。
2. 発火事故のメカニズム
(1)高温・高圧下で潤滑油がミスト状となって圧縮空気中に浮遊しています。
(2)吐出空気の滞留部位(後述の3項参照)に潤滑油が溜ります。
(3)高圧・高温空気により潤滑油が酸化反応を起こし,炭化します。
(4)劣化油の炭化物分が運転時間に比例して堆積します。(運転時間が長くなるほど,堆積層は増加します)
(5)さらに,堆積した炭化物部に劣化油がしみ込みます。
(6)堆積層内で酸化反応熱が蓄積・灼熱され,酸化がさらに促進されます。この時の内部温度は周囲の雰囲気温度が150℃の場合,炭化物堆積層厚さが10mm程度で約270℃程度になります。ただし油種や圧力によりこの温度は多少異なります。
図1 炭化物生成量と吐出温度の関係 |
図2 炭化物生成量と潤滑油消費量の関係 |
(7)2.7油分の分解ガスが発生し,270℃以上の酸化反応熱で自然発火に至ります。図3~5に示す通り炭化物の堆積層厚さが20mm程度で雰囲気温度130℃で長時間放置すると自然発火します。また,この時の炭化物自身の着火温度は200℃程度であります。なお,着火雰囲気温度および炭化物の着火温度は炭化物の活性度などにより変化します。
図3 層状炭化物の着火温度 |
図4 #180タービン油の自然発火温度 |
図5 層状炭化物着火雰囲気温度 |
(8)吐出空気中に含まれる潤滑油のミストや配管内壁に付着した油分が燃焼し,火災が吐出管を伝わりクーラ内へ伝播します。
(9)クーラ内の多量の油分が瞬時に燃焼し,爆燃となります。なお,クーラではチューブネストなど付着面積が大きく,また高圧空気中の酸素量も多いため燃焼エネルギが大きいため,爆発的な燃焼となります。
3. 炭化物の堆積位置と付着度合
炭化物はおもに高温空気が滞留し,下方向にデッドスペースがあるところに堆積します。(図6~8参照)
(1)下方向の吐出バルブ
(2)吐出スナッバの下部
(3)横形クーラ入口部下部
(4)高温吐出配管のデッドスペース
(5)空気槽
図6 炭化物の堆積しやすい場所 |
図7 炭化物の堆積しやすい場所 |
図8 炭化物の堆積しやすい場所 |
また付着度合については,下記の条件により大きく違いが生じます。
(a)吐出空気の温度・圧力
(b)潤滑油の油種・油量
(c)アンローダの作動頻度
(d)運転時間
(e)吐出空気の滞留部構造
4. 対策
これまでに述べた発火事故を防止するためには,炭化物の生成や堆積を可能な限り少なくすることが必要です。この方法としては,
(1)適正な油種の選定
油種は圧縮機メーカの指定するグレードにもとづいて潤滑油メーカの助言を求めることが大切です。
(2)適正給油量の管理
給油量が多いとそれに比例して炭化物の生成量が増加し,また少ないとシリンダ内の潤滑が不十分となり,油膜切れによる異常摩耗や焼損の原因となります。従って給油量は,圧縮機メーカの指定する給油量を過不足なく保つことが重要です。
(3)吸入・吐出温度の管理
次に記すような場合は,正常時よりも吐出空気温度が上昇し炭化物が生成し易くなりますので,状況に応じた対策が必要となります。
1.吸入空気取入口が圧縮機室内にある場合,特に夏期には室温や吸入空気温度が高くなり,このために吐出空気温度が上昇する要因となります。
このような場合は,吸入空気取入口を室外に移すか,あるいは,室内の換気を十分に行い室温の上昇を抑える必要があります。
2.クーラの冷却効率が低下(冷却水ポンプ故障などによる給水量減少やクーラチューブの汚れなどによる効率低下)した場合,クーラの次段の吸入・吐出空気温度が上昇します。圧縮機本体に限らず補機器についても定期的に清掃・点検することが必要です。
3.シリンダ冷却が不十分になると,吐出空気温度が上昇する要因となります。定期的にシリンダジャケット内の清掃を行うことが大切です。
4.長時間アンロード運転すると吸入・吐出空気温度が上昇し,高温空気の滞留の原因となります。アンロード運転が長時間継続されるような場合は,圧縮機を停止するなど運転方法の改善が必要です。
(4)炭化物の生成・堆積が認められた場合
定期点検などで万一炭化物の生成・堆積が認められた場合は,圧縮機メーカ・潤滑油メーカまたは洗浄専門会社などに相談し,炭化物の除去清掃をして下さい。また,点検困難な部位のフランジ化やマンホール取り付け化の改善および炭化物が堆積し易い部位の構造改善など,前向きに対処することが大切です。
もちろん,これまで述べた対策で万全とは言えません。使用される機械の状況に応じて対処することを忘れてはいけません。