アルキルベンゼンの潤滑性は | ジュンツウネット21

アルキルベンゼンは,合成洗剤の原料として多く使用されていますが,物理・化学特性は石油系潤滑油とよく似ているので,合成潤滑油として使用されることが多くなりました。主な用途電気絶縁油,冷凍機油,極寒地用潤滑油などです。

アルキルベンゼンの潤滑性は※

電気絶縁油や冷凍機油などにアルキルベンゼンがよく使用されていると聞きます。アルキルベンゼンは合成洗剤として,石油化学メーカーが作っているものと考えていましたが,この洗剤との関連性と潤滑油としての特性,また製品として市場にどのようなものがあるのかについて教えて下さい。
解説します。

一般に,アルキルベンゼンはベンゼン核にアルキル基のついたものの総称であり,無色,無臭の透明な粘性のある液体で,全ての有機溶剤によく溶け,また沸点もかなり高く280℃以上あります。

アルキルベンゼンのベンゼン核は反応性に富むので,スルホン化,ニトロ化,塩素化などの反応が容易に行われます。アルキルベンゼンをスルホン化し,中和,漂白したアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは,現在最も多く使用されている合成洗剤です。

合成洗剤の原料であるアルキルベンゼンには,分岐鎖型と直鎖型のアルキルベンゼンの2種類があります。当初,分岐鎖型のアルキルベンゼンが合成洗剤の原料として多く使用されましたが,これには分岐鎖があるため微生物による分解性(生分解性)が劣り,下水処理場で十分に分解されずに河川に放流されるため,泡立ちの原因となります。現在は,直鎖のアルキル基成分をもつものが多く使用され,分岐鎖型の欠点が改善されています。表1はこれらのアルキルベンゼンの構造を示します。

表1 アルキルベンゼンの構造
アルキルベンゼンの構造

アルキルベンゼンの物理・化学特性は石油系潤滑油とよく似ているので,合成潤滑油として使用されることが多くなりました。このものは炭素と水素の分子から構成されており,炭化水素系合成油と呼ばれるものの一つに属します。

合成潤滑油としてのアルキルベンゼンには,先に述べました,合成洗剤の原料である,アルキル基が一つついたもの以外に,アルキルベンゼンの合成の際副成する残渣油留分であるジアルキルベンゼンがあります。これはベンゼン核にアルキル基が2個ついたもので,分子量は大きく,沸点も高く,粘性も増大し,しかも低温流動性が良好なので,いろいろな用途の潤滑油として単独にまたは鉱油系潤滑油や他のタイプの合成潤滑と混合して使用されています。

アルキルベンゼンの主な用途を次にあげます。

1. 電気絶縁油

昭和52年電気絶縁油の日本工業規格(JIS)が改訂された際,アルキルベンゼンも正式に電気絶縁油として規格化されました。電気絶縁油は,油のタイプにより7種類のものが規定されており,アルキルベンゼン単独のものは2種絶縁油に,アルキルベンゼンと鉱油の混合油は7種絶縁油に分類されています。

2種絶縁油の中で1号,3号は低粘度のもので,アルキル基が一つだけのアルキルベンゼンが主成分であり,2号,4号は高粘度のもので,重質のジアルキルベンゼンが配合されたものです。

アルキルベンゼンは,電気絶縁油として,ガス吸収性,安定性,電気特性などがすぐれているので,超高圧油充てんケーブル油として以前から実績がありました。また,石油系絶縁油の原料となるナフテン系原油が不足する傾向があるので,これに代わるものとして,また石油系絶縁油の品質を向上させるために,ジアルキルベンゼンを鉱油に混合する方法が取られ,これが今度,JISの7種絶縁油として規格化されました。

2. 冷凍機油

冷凍機の運転条件は最近,非常に過酷化しており,その要求を満たすために,冷凍機油にも仕様に応じて各種の合成潤滑油が使用されてきました。

ふっ素系冷媒R-22で動く往復動圧縮機には,ジアルキルベンゼンが使用されて良い結果がでています。これはフロック点(R-22と油の混合物を冷却するとき沈殿物が生ずる温度)が鉱油の場合の15~20℃に対して-60℃付近にとどまっているためです。ジアルキルベンゼンタイプの冷凍機油BC(表2)は,非常に低い温度になったときのR-22の熱力学的性能を改善し,他方装置の効率は改善され,安全な運転が保証されます。

表2 冷凍機油BC
比重(15℃)
0.867
引火点 ℃
179
粘度 cSt (20℃)
295
(40℃)
65
(100℃)
6.3
流動点 ℃
-33
R-22とのフロック点 ℃
-60

3. 極寒地用潤滑油

アラスカ,カナダ,シベリヤ,南極等の極寒地では,低温流動性のとくにすぐれた潤滑油が要求されます。ジアルキルベンゼンを基油にした,エンジン油,作動油はこの要求に合う,しかもあまり高価でない合成潤滑油ですので,極寒地用潤滑油の主流を占めています(表3)。

表3 耐摩耗性耐寒作動油
基油
ジアルキルベンゼン
引火点 ℃
163
動粘度 cSt -40℃
1730
流動点 ℃
-62.5
ベーン・ポンプの摩耗,mg
17

このほか,アルキルベンゼンの特長を生かした用途には,高温で使用する潤滑油,熱媒体油等があり,ジアルキルベンゼンをスルホン化したものは,油溶性の石油添加剤として防錆,乳化,清浄分散性等の用途に使用されています。

※Q&A第1集発刊時点

<参考文献>
*1 JIS 電気絶縁油
*2 Revue General Dufroid No.2 ’80
*3 Mobil Hydraulic Design Symposium Aug 1,2 and 3 ’78
*4 南部昌生,日石レビュー,第22巻,第1号 ’80

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日