窒化ホウ素の使い方 | ジュンツウネット21

窒化ホウ素はどのようにして使うのが適当でしょうか。ほかの固体潤滑剤と比較した特色なども含めて説明して下さい。

解説します。

1.窒化ホウ素が潤滑性を発揮する理由

窒化ホウ素はBNの化学式を持つ白色のセラミックスで,グラファイトに似た六角網面の積み重なりとして表される結晶構造を持っています。この結晶構造の特徴から,c軸方向(積み重なりの方向)への結合力が弱く,a軸方向(六角網面の方向)へ格段に滑りやすく,固体でありながら,優れた潤滑性を発揮します。また,層間へのガス吸着によって層間の結合が減少するため,潤滑性が大きいともいわれています。

2.窒化ホウ素の特徴

(1)優れた熱的特性
 窒化ホウ素は酸化雰囲気中では900℃,真空中では1,200~1,300℃,不活性雰囲気では約2,000℃,窒素加圧下では約3,000℃まで使用可能です。熱伝導率は大きく,熱の発散の妨げにはなりません。また熱膨張係数が小さく熱衝撃に強いという特徴も持っています。

(2)化学的安定性が優れている
 鉄,珪素,アルミニウム,銅,銀,亜鉛,錫,ニッケル,マンガン,ガリウム砒素,真鍮,ガラス,氷晶石等の溶融物に濡れたり反応したりしません。また,有機溶媒,濃硫酸に対しても安定です。

(3)純白色で無毒
 白色で毒性がない固体で,作業環境の改善に役立ちます。

(4)優れた電気絶縁性
 電気抵抗が極めて大きく(焼結体は固有抵抗が1014Ω・cm以上),高温でも優れた電気絶縁性を示します。誘電損失が小さく,高温域まで変化が少ないことから高周波域の絶縁材料として優れた特性を発揮します。

(5)機械加工が容易
 金属,黒鉛と同じように旋盤,鋸,フライス加工等が可能です。仕上がり精度は1/100mm程度までは可能で,安価に,必要とされる形状の部品を作成することができます。

3.窒化ホウ素と他の潤滑剤との相違

窒化ホウ素は,黒鉛,二硫化モリブデン等と同じ固体潤滑剤です。固体潤滑剤は,しゅう動面の保護や摩擦,摩耗の低減のために粉体や被膜として用いられるもので,一般に油の使用が不可能な境界潤滑,高温または低温での潤滑,高真空や乾燥下での潤滑に使用します。

固体潤滑剤として広く使用される黒鉛,二硫化モリブデン,タルクおよび窒化ホウ素について,大気中における摩擦係数(μ)を比較すると,常温付近におけるμの値はいずれも0.2以下ですが,高温領域ではタルクが100℃付近から揮発分が発生し,二硫化モリブデンは400℃付近から,黒鉛は450℃付近から酸化が起こり,結晶の表面状態や構造が変化してμが大幅に増加します。

一方,窒化ホウ素は900℃前後までは大気中でも安定なため,μの値は高温まで変わらず,黒鉛や二硫化モリブデンの使用できない500℃以上の高温でも良好な潤滑性が発揮されます。

4.窒化ホウ素の使用形態は

窒化ホウ素を潤滑剤として使用するには次のような方法があります。

(1)流動体(油,グリース,ペースト他)に分散させて使用する。
(2)流動体(水,有機溶媒他)に分散させていたものを固体表面に塗布し,乾燥させ,窒化ホウ素を含む被膜を作り,乾燥被膜の状態で使用する。
(3)樹脂,セラミックス,金属等に充填した成形物とするか,窒化ホウ素成形物をそのまま使用する。

窒化ホウ素を粉のままの状態でしゅう動面に導入することは,窒化ホウ素の濡れが悪いことから一般には困難で,ロスも多くなることからあまり用いられません。

5.流動体に分散させる方法の利点,問題点

窒化ホウ素は,一般に,耐熱性の高いシリコーン油,フッ素油等に添加した高耐熱性潤滑油として使用します。たとえば

(1)シリコーン油に窒化ホウ素を添加すると,290℃でも使用可能で,白色のため汚染の少ないことから,合成繊維製造の溶融紡糸工程に使うことができます。
(2)シリコーン油複合グリースに添加すると,航空機,ロケット,ミサイル等の超高温用グリースとなります。
(3)黒鉛入りシリコーングリースに添加すれば,使用可能な温度域を800℃から900℃に広げることができます。
(4)エンジンオイルに添加すれば,メタル接触を含む境界潤滑を改善し,潤滑油温上昇を抑えることが可能です。

これらの用途については,窒化ホウ素結晶粒子の小さなものの方が良好な特性が得られます。

窒化ホウ素は黒鉛,二硫化モリブデンより高価ですから,経済的に見合う用途は限られ,添加量も必要な効果が得られる最小範囲に止まります。

6.乾燥被膜として使用する方法の利点,問題点

窒化ホウ素を固体潤滑剤として使用する最も一般的な形態が乾燥被膜です。このため,水や溶剤に適当な分散剤,増粘剤,バインダを添加し,均一な窒化ホウ素被膜を形成しやすくしたものが市販されています。

これらは高荷重や高速下での潤滑を必要とする用途,ガラス製品の成形工程の潤滑と離型,アルミや銅系ダイキャストの高温潤滑と離型,鋳鍛造潤滑離型などに利用されています。このような被膜状態で使用する場合,潤滑剤と離型剤を兼ねた使い方となります。また,耐腐食性,電気絶縁性の優れた窒化ホウ素の特長を,うまく活かした用途も数多くあります。窒化ホウ素そのものには基材への付着性がないことから,一般にバインダを共存させることによって乾燥被膜を形成させますが,バインダの種類によって基材への付着性や潤滑性が左右されるので,適切な選択が必要です。乾燥被膜には耐摩耗性があるとはいうものの,使用条件によっては,短期間で寿命がなくなることもありますので注意しなければなりません。

7.成形物として使用する方法の利点,問題点

窒化ホウ素をPTFEやシリコーン樹脂に添加した成形物がしゅう動材料として検討されています。また,窒化ホウ素をホットプレス焼結した成形物が,ガラス製品成形工程の潤滑と離型が望まれるような部分の部品として使用されています。さらに,窒化ケイ素と複合化した焼結体は,潤滑性と耐摩耗性を兼ね備え,バルブ弁座,メカニカルシール等,しゅう動部材に使用されています。

窒化ホウ素は,他の材料との濡れ性が悪く,焼結性も劣るため,いかにして高強度で耐摩耗性を有する成形体を得るかが重要なポイントとなります。なお,これまで,窒化ホウ素を含有する焼結体が数社から市販されています。

窒化ホウ素を含む焼結体は,高価なため,これまで特殊な用途に限定されてきましたが,最近は比較的安価な複合焼結体が開発され,市場拡大が期待されています。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日