フリクションモディファイアとは | ジュンツウネット21

フリクションモディファイアとはどのような役割をはたす添加剤ですか,また,その種類はいろいろあるそうですが,各々の特徴について解説して下さい。

解説します。

潤滑油による省エネルギーは,潤滑油が関与する摩擦面での摩擦によるエネルギー損失を少なくすることによってもたらされます。フリクションモディファイア(Friction Modifier,以下FMと略す)はこの摩擦面における摩擦係数をより小さくする添加剤です。

1. 摩擦の低減

すべり合う金属間の摩擦係数は潤滑油の粘度(η)すべり速度(N),荷重(P)からなる潤滑状態の過酷度を示す変数(ゾンマーフェルト数)により,図1のストライベック曲線で表されます。

潤滑状態はゾンマーフェルト数が小さくなるほど過酷となり,一般に,流体,混合および境界潤滑の三領域に区分されます。流体潤滑は摩擦面間に比較的厚い油膜が存在し,荷重を支える理想的な潤滑状態で摩擦係数も小さい。境界潤滑では厚い油膜はなく,局部的に金属同士が接触しています。混合潤滑とは両者が混在する潤滑状態です。

潤滑摩擦面の摩擦
図1 潤滑摩擦面の摩擦
資料:「潤滑」 Vol 26 / No.7, 474(1981)

2. フリクションモディファイア

自動車用エンジン油や工業用ギヤー油が遭遇するピストンリングとライナー間,軸と軸受間,カムとタペット間,ギヤーのかみ合い面間などの潤滑状態は非常に過酷で混合潤滑域に入っています。その際,とつ部同士の衝突を和らげる緩衝膜などが潤滑面上にあれば,図1の点線部分のように,摩擦係数の増大をおさえます。このような役割をはたす添加剤を総称してFMといいます。

3. フリクションモディファイアの種類

(1)油性向上剤タイプ

 CH3CH2CH2CH2~~~CH2CH2CH2―X

  X =極性基

(2)固体潤滑剤
 MoS2,グラファイトなど

(3)油溶性有機モリブデン化合物

モリブデンジチオフォスフェート

(1)油性向上剤タイプ

油性向上剤タイプとは,炭素数12以上の長鎖アルキル基の末端にカルボン酸類,アミン類,りん酸類あるいはそれらの誘導体を官能基としてもつ極性化合物をさします。これら極性化合物が金属表面に密に化学吸着し,摩擦面の金属間接触を減らします。混合潤滑領域の摩擦面は摩擦熱によりかなり高温にさらされるので,吸着力の強い極性基が求められます。しかし,吸着力の強い極性化合物の添加はエンジン油,ギヤー油の総合性能のバランスを崩す懸念があり,それらのバランスを崩すことなしにFMとしての機能を発揮させるための工夫と努力がなされています。この点が油性向上剤イコールFMとはならない点であり,新技術として注目を集めるに値する価値を生み出している点です。

油性向上剤タイプの吸着概念図
図2 油性向上剤タイプの吸着概念図

強固に吸着させることがかならずしも密に吸着させることにはなりません。たとえば,官能基を多数個有する極性化合物は非常に強固に吸着はできますが,吸着面積を広く占有してしまうため,密には吸着できません。また,長鎖アルキル基が分枝したりしてかさ張っていると,密に吸着することが無理になります。直鎖の長鎖アルキル基が好ましいのです。

密に吸着できる極性化合物の場合には,炭化水素鎖同士の間にファンデルバールス力が分子間力として働きます。この分子間力も強固な油膜形式にかなり寄与します。

(2)固体潤滑剤

MoS2やグラファイトなど層状格子構造をもつ物質は古くから固体潤滑剤として使われてきましたが,これらもFMとして使用するには,0.5μm程度の極微粒子にすることと,油中に安定に分散させる必要から固体潤滑剤分散用の分散剤の併用を要します。通常,固体分として油に1%程度添加されます。これらを添加すると新油時から黒色状となります。

固体潤滑剤の結晶構造は多数の薄片が積み重なったような原子層からなっており,潤滑部位にかみ込まれた際,その原子層にそって容易にくだけることが摩擦低減作用となります。

(3)油溶性有機モリブデン化合物

油溶性有機モリブデン化合物は,しゅう動面で摩擦により発生した高温の熱で分解し,MoS2あるいはポリマー状物質を生成することにより摩擦面をおおい,金属同士の接触を防ぐといわれています。生成したMoS2が固体潤滑剤として機能して摩擦係数を下げると思われます。

摩擦面上にFriction Polymer状の膜が形成するのみではFMとして機能しません。摩擦防止剤兼酸化防止剤としてよく知られているジンクジチオフォスフェート(Zn DTP)なども同様の経路をへて摩擦面上にFriction Polymerを形成することが知られていますが,摩擦低減効果は大きくありません。

油溶性有機モリブデン化合物は,それ自身油溶性のため固体のMoS2を添加する場合と異なり,分散剤の併用を必要としません。分散剤の使用は他の添加剤との相互作用の見極めを要しますがその点楽になります。

また,油溶性有機モリブデン化合物は必要とする潤滑部位の摩擦面上にのみ沈着するので無駄なく効率がよい。しかし,高価格なことや,腐蝕性が高いなどの理由で,米国では使用されていないようです。

4. まとめ

FMは混合潤滑,境界潤滑下の摩擦表面で摩擦低減に寄与します。FMには三系統あります。それぞれChemicalsが異なり,作用機能も異なります。それぞれの特長を生かして,省資源,省エネルギーの社会的要請にこたえる有力な手段として,さらに広範囲に適用されるすう勢です。

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日