潤滑油に使用されている添加剤は劣化するのでしょうか。またオイル管理の面から注意すべきことがあればご教示下さい。
解説します。
1. 潤滑油添加剤の働き
潤滑油添加剤は,潤滑油基油に添加して,基油の性状を改善したり,基油にない性能を付与して潤滑油全体としての性能を高める働きをします。油の劣化という観点に立つと,添加剤は劣化を抑え,油の寿命を延ばす役割を背負っています。つまり添加剤は,潤滑油の性能をより高く,より永く維持するために使用されるといえましょう。
表1におもな添加剤(コンポーネント)の種類と,その働きを簡単に示しました。実際の潤滑油にはこれらコンポーネントが幾種類か組み合わされて配合されています。
表1 潤滑油添加剤の種類と機能
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2. 添加剤の劣化と原因
添加剤の劣化とは,その効果がなくなることといえましょう。劣化には二通りの内容が考えられます。一つは油の劣化を防いだり,油としての効果をだすために添加剤が機能した結果,添加剤が消費され当初の性能が失われる場合。もう一つは,添加剤そのものが劣化して機能しない場合です。各々について例をあげてみていきましょう。
2.1 添加剤機能の発現による失効
油の劣化はいくつもの要因が複雑に絡み合っていますが,その内で酸化による劣化が大きな比重を占めています。潤滑油がさらされるのは一般に高温で酸化が進みやすい条件にあります。酸化を防ぐために酸化防止剤や金属不活性化剤(金属が酸化の触媒となるのを防ぐ)が用いられます。また生成した初期酸化物や外部から混入する酸化物・酸化前駆体を中和・捕捉して不活性にし,それ以上酸化が進行しないよう,清浄分散剤が使用されます。
これらの添加剤は酸化反応の初期で機能し,酸化劣化の進行を防ぎます。しかし酸化反応は常時起こっているのに対し,添加剤は一度機能するとそれ以降は効果がなくなるか弱まるかするために,徐々に有効な添加剤が減ってゆき,やがて添加剤が消費されると油全体の劣化が急速に進みます。
潤滑油には機械・機関内外から種々の異物の混入があり,油の劣化を促進する要因になります。
例としてエンジン油劣化の概略を図1に示しました。エンジン油の場合,燃焼室からの燃料生成物(硫黄酸化物や窒素酸化物)が油の酸化前駆体となりますし,ススはスラッジ(油不溶分)の構成成分となります。清浄分散剤は,これら異物を油中に可溶化・分散して無害化するのに有効ですが前述のように添加剤が消費されるにしたがい油の劣化が大きくなります。
極圧剤や耐摩耗剤は,油の劣化を防止する役割の酸化防止剤や清浄分散剤と異なり,油に性能をプラスする添加剤ですが,これらも機能することで徐々に失効していきます。
図1 エンジン油の劣化 |
2.2 添加剤自身の劣化
添加剤が失効するのは,ほとんどの場合が消費されて有効分が減少することが原因ですが,添加剤そのものが劣化する場合もあります。
たとえば,酸化防止・耐摩耗等多機能型添加剤として有用なジチオリン酸亜鉛は,条件によっては加水分解を受け,それ自身がスラッジとなることもあります。またエンジン油を中心に広く使用されている酸中和能の高い過塩基性清浄剤は,その塩基性成分が水が存在する過酷な条件下では効果を失う例も報告されています。
マルチグレード油に必須の粘度指数向上剤は,高分子化合物ですが,機械的剪断力によって切断され粘度指数向上能が低下します。一度高分子が切断されると設計された性能は得られず,これも添加剤自身の劣化と考えられます。
これらの例は,添加剤が機能したために表面上劣化した様に見える前者の例とは異なり,添加剤が潤滑油の能力強化には役立たないため,このような添加剤自身の劣化を防ぐことが必要で,種々の工夫がオイルメーカーや添加剤メーカーで実施されています。実用にも供される潤滑油には,表に示した添加剤が何種類もバランスよく組み合わされ,添加剤本来の機能が十分に発揮されるような形の処方が適用されています。