潤滑剤を試験・分析する方法を教えて下さい。
解説します。
潤滑剤の試験および分析の目的は,製造上の管理,商品の品質管理,市場調査および商品の品質改良と開発を行うためであり,きわめて重要な課題といえます。
1. 潤滑油の一般試験
主な一般試験は次のとおりです。
比重 |
JIS K 2249
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粘度および粘度指数 |
JIS K 2283
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流動点 |
JIS K 2269
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水分 |
JIS K 2275
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残留炭素 |
JIS K 2270
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灰分 |
JIS K 2272
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硫黄分 |
JIS K 2541
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中和価 |
JIS K 2501
|
たとえば潤滑油基油の製造の場合,その指標となるのは,粘度および粘度指数,流動点です。
また潤滑剤の使用限界については,粘度,中和価,水分,不溶分などを測定して判定されます。
2. 潤滑油基油の組成分析
(1)構造基分析法
屈折率(n20D),密度(d204),分子量,硫黄分(wt%)を測定してn-d-M環分析を行い,%CA,%CN,%CR,%CP,RA,RN,RTを計算で求めます。
さらに最近では質量スペクトル分析法の進歩により,潤滑油中のパラフィン,単環ナフテン,二環ナフテン,三環ナフテン,単環芳香族,二環芳香族,多環芳香族,硫黄化合物の含有量が定量されるようになりました。
(2)液体クロマトグラフィ
吸着剤としてシリカゲルを用い,潤滑油をその構成成分である飽和成分,芳香族成分,樹脂分に分離定量します。
3. 添加剤の試験
潤滑油添加剤には,酸化防止剤,粘度指数向上剤,流動点降下剤,清浄分散剤,耐荷重添加剤,さび止め剤,腐食防止剤,あわ消し剤などがあります。石油会社は自社の基油に最もよくマッチした添加剤を添加剤メーカーから購入して使用しています。購入に際しては品質規格を設定して受入れ試験を行います。たとえば高塩基価舶用シリンダ油用添加剤では全塩基価,金属含有量が最も大切なほか,製品としたときの性状のバラツキがないように比重,粘度など実用性能とはあまり関係がないような項目までおさえる場合があります。
また,赤外線吸収スペクトル分析による官能基の検索や分子量分布の測定,最新の機器分析装置を駆使して金属元素の定量なども行われています。
4. 潤滑剤の系統的分析法
図1,2に示します。
5. 潤滑剤の分離分析法
(1)シリカゲル吸着クロマトグラフィ
(2)ゴム膜透析法
(3)溶剤抽出法
(4)酸分解法
(5)薄層クロマトグラフィ
(7)高速液体クロマトグラフィ
(8)ガスクロマトグラフィ
などの各分離方法を,目的に応じて使いわけていきます。
6. 潤滑剤無機成分の化学分析法
潤滑剤中の添加剤の量や使用中における濃度変化,また,異種潤滑油やグリースの混入のチェック,使用油中の摩耗金属の分析など,各種元素の定量分析は非常に大切です。定量法には化学分析法と機器分析法があります。
添加剤に由来する金属および無機成分としては,Ca,Ba,Mg,Zn,P,S,N,Cl,Na,Mo,Ti,Li等です。摩耗金属としてはFe,Cu,Pb,Cr等です。
7. 潤滑剤無機成分の機器分析法
(1)けい光X線分析法
(2)X線回折分析法
(3)発光分光分析法
(4)原子吸光分光分析法
(5)誘導結合プラズマ発光分析法
などの機器分析方法を,目的に応じて使いわけていきます。
8. 潤滑剤有機成分の機器分析法
(1)赤外線吸収スペクトル分析
(2)紫外線吸収スペクトル分析
(3)核磁気共鳴スペクトル分析
(4)質量スペクトル分析
などの機器分析方法を,目的に応じて使いわけていきます。
潤滑剤を正確に分離・分析することにより,潤滑油基油の量と品質,組成および添加剤の種類,構造,添加量がわかり,市販競争商品の正体を明らかにすることができます。
また,使用潤滑剤の分析から使用限界を知ることができ,潤滑管理を正しく適切に行うことができます。
<参考文献>
藤田稔,「石油分析化学」,石油分析化学研究所発刊(1992)