ナノインデンテーション,スクラッチおよびトライボロジー試験 | 表面試験測定分析BOX | ジュンツウネット21

 機械的物性の評価による硬質膜の最適化
ナノインデンテーション,スクラッチおよびトライボロジー試験
 薄膜の設計および品質管理の改善に向けて,その表面の機械的物性の評価結果をどのように解釈するか。
 <切削工具の例>

アントンパール・ジャパンで製造販売する試験装置による,ナノインデンテーション,スクラッチおよびトライボロジー試験を紹介する。

著者:Anton Paar社(旧 CSM Instruments社) Gregory Favaro,Nicholas X. Randall
翻訳者:株式会社アントンパール・ジャパン グウェン ボロレ 2014/4

1. はじめに

硬度,弾性率,弾性限界,膜の密着性,真性応力,摩擦および摩耗など機械的特性が既知でなければ切削工具に使用されている耐摩耗性コーティングの最適化が不可能である。

このようなナノインデンテーション,スクラッチ試験およびピンオンディスク式トライボロジー試験などの新しい表面評価技術を用いて,現代のコーティングメーカーは,切削工具のパフォーマンスに関する有利な情報をもたらす重要な機械的特性データを取得できる。

理想的な切削工具用コーティングは,膜・基板システムの安定性が維持されるために,工具の使用中に発生する弾塑性変形を膜の表面に閉じ込めるように最適な材料および構造や組み合わせが必要である。

このようなシステムを最適化するための最初の手順は,ナノインデンテーション試験によるコーティングおよび基板の硬度,弾性率の評価になる。これらの基本的特性を用いて,実際に使用される工具がその寿命の間に遭遇する応力をシミュレートするスクラッチ試験の条件設定に使用する。また,トライボロジー試験による切削工具の寿命,摩擦係数および摩耗量を得られる。

切削工具用コーティングの機械的特性を測る試験の基本:計装化インデンテーション,スクラッチ試験およびトライボロジー試験

 図1 切削工具用コーティングの機械的特性を測る試験の基本:計装化インデンテーション,スクラッチ試験およびトライボロジー試験

2. 最適化手順(図2

ナノインデンテーション試験を行い,コーティングおよび基板の正確な硬度,弾性率を測る。数値シミュレーションによる残留(フォン・ミーゼス)応力を解析して現実の条件に相関させるためスクラッチ試験の条件を決定する。その後,スクラッチ試験を行い,印加された荷重および圧子形状の関数として膜の密着性を測る。

スクラッチ速度,表面粗さおよび圧子の押し込み深さを数値シミュレーションに加えるためにスクラッチ試験の結果を用いてもう一度より完全な数値シミュレーションを行う。より良い理解のために応力シミュレーションの分布図をアニメーションとして作成することができる(図6参照)。

このような分析ではシステムの機械的特性の変化による影響を予測することができ,したがってコーティングと基板の組み合わせを最適化することが可能になる。

表面の機械的特性評価の最適化フローチャート図

図2 表面の機械的特性評価の最適化フローチャート図(クリックで拡大図)

3. ナノインデンテーション

ナノインデンテーション試験は局所的に材料の機械的特性の測定ができる計装化インデンテーション技術で,バルク材料でも薄膜でも適用可能な測定方法である。

主に測定できる特徴は硬さ(HIT)と弾性率(EIT)。試験自体は試料の弾塑性特徴を測るために既知の形状を持つ圧子が材料に押し込む深さを測定する原理になる。インデンテーション硬さ(HIT)は変形や残留損傷に対する材料の耐久性を表している。

ナノインデンテーション測定を行う時にデータ取得システムは圧子の押し込み深さに対する印加荷重を記録する。荷重のロード中にもアンロード中にもこの2つのパラメータが継続的に記録されインデンテーションカーブを作成する。この曲線からモデルを用いて硬度と弾性率が得られる。1992年にOliver氏とPharr氏によって開発されたモデルが一般的に使用されている。

インデンテーション試験の原理

図3 インデンテーション試験の原理

> Indentation hardness, HIT

H IT=Fmax/Ap

Fmaxは最大負荷荷重である。

Apはサンプル材料と圧子の接触に対する投影面積である。インデンテーションカーブとインデンター圧子のエリアファンクションから決定できる。

硬さは最大負荷荷重をサンプル材料と圧子の間の投影接触面積で割った比とする。

荷重・押し込み深さインデンテーションカーブの一例

図4 荷重・押し込み深さインデンテーションカーブの一例

>弾性率,EIT

弾性率EITはアンロードカーブの最初の部分から計算される。サンプルのポアソン比が知られている場合にはヤング率に相当する。

(左)E IT=1-(Vs)^2/(1/Er)-{1-(Vi)^2}/Ei,(右)Er=√π/2C√Ap

Vs はサンプル材料のポアソン比
Vi はインデンター圧子のポアソン比(ダイヤモンド材の場合は0.07)
Er はインデンテーションコンタクトの換算率;
Ei はインデンター圧子のヤング率(ダイヤモンド材の場合は1.14×106N/mm2);
C はコンタクトのコンプライアンス,最大負荷荷重で計算されたアンロード曲線のdh/dFになる(コンタクトスティフネスの逆数)。
Ap は投影接触面積,ISO規格14577-2:2002の4.6章にしたがって定義されたコンタクト深さ時のインデンター圧子のエリアファンクションの値。

4. スクラッチ試験

スクラッチ試験は薄膜の密着性および薄膜の破壊特性の評価として一般的な方法である。既知の形状のあるダイヤモンド材インデンター圧子をコーティングされた試料に一定の移動スピードで印加する。負荷荷重はすでに決められたスクラッチ距離の中に一定荷重や連続的に増加される荷重もしくはステップ的に制御しながら増加される。

測定中に摩擦力,押し込み深さおよびアコースティックエミッションをリアルタイムで記録して,その後,コーティングのひび,クラック,破損,剥離が発生したかどうかの確認のためにスクラッチ痕を光学顕微鏡で観察する。

特定の破損が発生した時の垂直荷重を臨界荷重Lc1,Lc2,Lc3,などとして記録する。それはコーティングの密着性およびスクラッチ試験に対する膜の強度の定量的な比較になる。臨界荷重は測定条件によって(インデンター圧子のサイズと形状,荷重の増加方法,スクラッチ速度など),そして膜・基板システムによって(膜厚,表面粗さ,マイクロ構造,硬さ,残留応力,弾力,タフネスなど)変わる。

硬質膜の成膜プロセス中に,色々なパラメータが最後の結果に影響する。例えば成膜レート,基板の洗浄,成膜温度など,基板ロットの品質でもその1つになる。コーティングの質にこのパラメータのいずれかの影響をスクラッチ試験によって評価できる。スクラッチ試験はごくわずかのプロセス変化によってバッチ間の品質を区別できる十分な感度を持つ測定方法である。

>スクラッチ試験の例

試料として膜厚2μmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜にコーティングされたハイスピード鋼を利用した。

ISO規格20502に基づいてロックウェルCタイプ半径200μmのダイヤモンド材インデンター圧子を用いて荷重範囲を0.03Nから30Nまでの連続荷重スクラッチを行った。

最初の臨界荷重(LC1)は荷重9.7N時に起きてコーティングが初めてクラックする現象に相当する。この現象はコーティングの機械的特性を表している。この負荷荷重でインデンター圧子は深さ方向に6.5μmまで材料を変形させて,DLC膜は基板より弾力は比較的に小さくて弾力限界を超えた。2つ目の臨界荷重(Lc2)は荷重13.3N時に起き,膜が初めて接着破壊する現象を表して,これ以上の荷重には基板が表面に出ている。この時点で,コーティングの表面特性はもはや損傷から基板を保護することができない。3つ目と最後の臨界荷重(Lc3)は基板からコーティングが継続的に完全に剥離する初めの荷重になる。

この時点から,測定された信号(摩擦力,アコースティックエミッションおよび押し込み深さ)に基板の大幅な塑性変形によりノイズが多くなる。

DLC膜付きハイスピード鋼材切削工具のスクラッチ試験結果の例

図5 DLC膜付きハイスピード鋼材切削工具のスクラッチ試験結果の例(クリックで拡大図)

>スクラッチ試験用測定条件の最適化

コーティング・基板システムを完全に理解するためにはスクラッチ試験の条件を正確に決定することが必要である。

負荷荷重とインデンター圧子の形状は表面の下に応力分布を複数の深さでシミュレートするために重要なパラメータである。コーティングの密着性を評価するために最大応力は最初的にコーティング内に発生してから徐々にコーティング・基板の界面に発生する変化が必要である。

図6にはロックウェル形インデンター圧子の半径を変えたスクラッチ試験時の応力分布シミュレーションを表す((a)20μm,(b)50μm,(c)200μm)。

球形圧子によるフォンミーゼス応力分布図。(a)圧子の半径は20μmの場合,垂直荷重は1Nの時,(b)圧子の半径は50μmの場合,垂直荷重は20Nの時,(c)圧子の半径は200μmの場合,垂直荷重は80Nの時。膜と基板の界面は白色の点線で表している。黒い線は最大フォンミーゼス応力点を表している。

 図6 球形圧子によるフォンミーゼス応力分布図。
(a)圧子の半径は20μmの場合,垂直荷重は1Nの時,(b)圧子の半径は50μmの場合,垂直荷重は20Nの時,(c)圧子の半径は200μmの場合,垂直荷重は80Nの時。膜と基板の界面は白色の点線で表している。黒い線は最大フォンミーゼス応力点を表している。

5. トライボロジー試験

トライボロジー学は,相対的な動きで相互作用する面の研究であって様々な環境で摩擦する2つの表面の影響として発生する現象を調査する研究になる。主に次の3つのパラメータを測るためにトライボロジー試験が使用される。

  • 課せられた動きによる摩擦抵抗
  • 表面破壊や材料の損失の結果による摩耗
  • 2つの接触面の間に潤滑剤を塗布することによる潤滑の影響

トライボロジーは,力学と化学物質の関与,ならびにそれらが相互作用する環境の複雑な相互作用である。表面の摩擦特性は,材料の固有特性ではないため,予測は特に困難になる。摩擦と摩耗は互いに独立している。摩耗量が非常に低いが摩擦係数が非常に高いシステムがある(ブレーキパッド)。逆に摩耗量が高くて摩擦係数が低いシステムもある(加工用システム)。

>トライボロジー試験用条件の最適化

このような切削工具の特定アプリケーションの時には通常の使用で発生すると想定される高温環境での摩擦係数および摩耗状況が測られなければ工具特徴の最適化が混乱する。

ニーズに合わせてあらゆるトライボロジーシステムを再生できる試験機の開発が必要になっている。In-situ条件に近づけて通常のピンオンディスクトライボメータに加えて真空環境,液体中のトライボロジーテスタおよび雰囲気制御できるシステム等の開発が進んでいる。

トライボロジー試験に対する複数のISO規格およびASTM規格が対象になる。

ピンオンディスクトライボメータの原理

 図7 ピンオンディスクトライボメータの原理。
おもりを用いてスチール材ボールを回転するTiN膜付き試料の表面に載せる。弾性測定アームの後方に設置されたペアのLVDTセンサから摩擦力を測る。計測された摩擦力から測定条件である負荷荷重を使って摩擦係数を計算する
雰囲気および真空度を正確に制御できるチャンバーに設置されたトライボメータ試験機の例

図8 雰囲気および真空度を正確に制御できるチャンバーに設置されたトライボメータ試験機の例
膜付き材料のトライボロジー試験の結果

 図9 膜付き材料のトライボロジー試験の結果。
最初の摩擦係数は0.2近くの値に安定しているが,ボールがコーティングを貫通して基板に接する点から摩擦係数が急に増加する

6. まとめ

産業界の機械的性質の試験方法が進化し続けている。そのため,コーティングや材料表面の評価に関する国際規格を適用して使いやすくて信頼性のある試験機や試験技術の開発が継続的に必要になっている。

このような技術が以前は研究目的であったが,近年には破損メカニズムの理解を深めるために企業の品質管理として欠かせない技術になった。これらの表面試験方法は,薄膜の品質向上およびその成膜プロセスの理解に大変役立っている。

 

国際規格

>インデンテーション試験
ISO 14577Metallic materials―Instrumented indentation test for hardness and material parameters
ASTM E2546New standard practice for instrumented indentation testing
>スクラッチ試験
ISO 20502Fine ceramics―determination of adhesion of ceramic coatings by scratch testing
ASTM C1624Standard Test Method for Adhesion Strength and Mechanical Failure Modes of Ceramic Coatings by Quantitative Single Point Scratch Testing
> トライボロジー試験
ISO 20808Determination of friction and wear characteristics of monolithic ceramics by ball-on-disc method
DIN 50324Tribology; testing of friction and wear model test for sliding friction of solids(ball-on-disc system)
ASTM G 99Standard test method for wear testing with a pin-on-disk apparatus
ASTM G 133Standard test method for linear reciprocating Ball-on-flat sliding wear

アントンパール・ジャパン
○アントンパール・ジャパン
ナノインデンテーションテスター,スクラッチテスター,カロテスト

http://www.csm-instruments.com/ja

新東科学
○新東科学
連続加重式引掻強度試験機

http://www.heidon.co.jp/

スペクトリス PANalytical事業部
○スペクトリス PANalytical事業部
X線小角散乱測定装置,エネルギー分散型蛍光X線分析システム

http://www.panalytical.jp

ナノテック
○ナノテック

http://www.nanotec-jp.com/

協和界面科学
○協和界面科学
摩擦摩耗解析装置,接触角計,表面張力計

http://www.face-kyowa.co.jp

エリオニクス
○エリオニクス
押し込み硬さ試験機,表面力測定装置,走査電子顕微鏡

http://www.elionix.co.jp/


○ブルカージャパン ナノ表面計測事業部
3次元光干渉粗さ計,原子間力顕微鏡システム,走査型プローブ顕微鏡

http://www.bruker-nano.jp/

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