ITCの概要,これまでの経緯
社団法人日本トライボロジー学会では,2011年10月30日(日)~11月3日(木)の5日間,「国際トライボロジー会議 広島 2011,International Tribology Conference(ITC) Hiroshima 2011」を広島国際会議場(広島市中区)において開催する(ホームページ http://www.itc2011.org/)。
科学技術の進歩は人間生活の向上に多くの貢献を行ってきたが,それと同時に,エネルギー危機,地球環境の悪化や温暖化といった重大な問題をももたらしている。これらの問題を解決するキーテクノロジーとしてのトライボロジーは,人間と自然の共存に必要不可欠な技術であり,その進展はますます重要となってきている。
本国際会議は,すべての工学に共通する基盤技術であるトライボロジーの全分野における現状の問題,将来の問題と技術の方向を課題として研究成果を発表し,この分野に関係する研究者ならびに技術者・企業の情報交換の場として開催するもので,ほぼ5年おきに日本で催されるWorld Congressとして世界的に認識されている。
国際トライボロジー会議ITCの歴史を振り返ってみると,東京で開催された1985年の会議(国際潤滑会議1985,JSLE International Tribology Conference)が最初のようである。この会議では459名の参加(うち海外は14ヵ国から85名)があり,講演数は162件だった。続いて1990年に名古屋でJapan ITC Nagoya,’90が開催され,参加者996名(海外から207名),講演は266件だった。1995年の横浜での会議ITC,Yokohama ’95では参加者1,001名(海外から176名)で,436件の講演が行われている。2000年の長崎のITC Nagasaki 2000は参加者数708名(海外から186名)で講演数497件,2005年には神戸でITC Kobe 2005が開催され,参加者656名(海外から135名),講演数は410件だった。
ITCを開催した時の経済情勢や開催地の地理的な事情もあって参加者数に増減が見られるが,研究発表数は着実に伸びてきている。また,総参加者数に占める海外からの参加者の割合も20%強となっており,ITCがより学術的に充実し国際色豊かな会議になってきているといえる。
詳細は次項以下に示すが,本国際会議では,環境問題のトライボロジー,摩擦・摩耗およびトライボロジー的損傷,先端トライボ材料,機械要素のトライボロジー,ナノ・マイクロトライボロジー,磁気記録システムのトライボロジー,バイオトライボロジー,メンテナンストライボロジー,トライボロジーの歴史と教育など広い範囲にわたり,世界各国から30余りの国と地域の発表者により約450件(口頭発表約320件,ポスター発表約130件)の発表が行われる予定である。
10月30日(日)はRegistration とWelcome reception,講演初日の10月31日(月)午前にはオープニングセレモニーに続いて2件のPlenary lecture,11月2日(水)に2件のPlenary lectureと夕方からBanquetも開催される。また,国際会議の期間中,トライボロジー技術をキーとする製品,商品の展示,トライボロジー技術の向上に役立つ諸ツール(計測機器,センサー,解析ソフト)やカタログの展示も行う。
本国際会議での参加者は国内500名,海外200名の700名が見込まれている。本国際会議においてトライボロジーの諸課題を議論し,また世界各国のトライボロジストとの有益な情報交換や友情を深めるために是非,国際トライボロジー会議 ITC Hiroshima 2011にご参加いただきたい。
テクニカルセッションについて
ITC Hiroshima 2011の論文委員会では,香川大学 若林教授を委員長として,8名の日本国内のトライボロジーを専門とする研究者によって,テクニカルセッション(一般講演セッション)の発表申込Abstractの審査とExtended Abstractの査読を主に担当している。また,会議のプログラム作成についても各委員に協力をお願いしている。2009年に京都で開催された第4回世界トライボロジー会議(World Tribology Congress 2009)では,41の国と地域から約850件の発表があり,それと比べると少ないが,本年3月の東日本大震災にもかかわらず,今回の会議では30余りの国と地域から約450(オーラル発表約320件,ポスター約130件)の発表が予定されている。この数は,従来のITCと遜色ない規模となっている。
一般講演セッションは,表1の19のカテゴリーで公募し,プログラムを構成した。
トライボロジーは,ある環境中において少なくとも2つの物体が潤滑剤(もちろん,潤滑剤がない場合もあり)を介して互いに運動し,荷重を支え合う現象を取り扱う学問であるから,基礎的な要素技術の分野から,それらを応用した製品に近い分野とその製造にかかわる分野までを取り扱うために,上記のように多岐にわたるカテゴリーとなった。また,新聞やニュースでよく耳にする先端的な環境,バイオ,ナノテクノロジー関連分野のカテゴリーもあり,それら先端的な分野をはじめ,様々な基礎的あるいは応用的分野においてトライボロジーがどのような役割を担っているかについての発表が多数ある。そのため,10月31日から11月3日の4日間で,異なる分野の多くの最新研究動向をお聞きいただけるようプログラム編成に配慮しているので,活発な討論と有意義な時間を過ごしていただけると思う。また,国際会議であるので,国内に限らず,国外の研究者との人的ネットワークづくりにも活用いただけるものと確信している。
なお,詳細なプログラムは,本会議のホームページ(http://www.itc2011.org/technical_sessions/index.html)にアップロードされる予定である。多くの皆様の参加をお待ちしている。
表1 一般講演セッション
|
シンポジウム
近年,エネルギー危機,地球環境の悪化や温暖化といった深刻な問題が盛んに議論されている。その解決のためのキーテクノロジーとしての役割を果たすトライボロジーについての有益な情報交換を行うために,15ヵ国近くのトライボロジストが集まり,表2の9つのシンポジウムが開催されることになった。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で被災された地域の皆様からも,発表のお申し込みをいただいている。これらの先端的な情報は,学術的にも,また技術的にも,非常に興味深い内容であるので,活発な討論によって,未来の地球のために解決すべき諸問題に対し,トライボロジーの視点からの方向性が見いだされるものと期待される。
表2 シンポジウム
|
各シンポジウムの詳細については会議プログラムに示されるが,発表件数が20件を超えるシンポジウムもあり,関心の高さが伺える。また,テーマの受付開始から終了まで,1ヵ月程度しかなかったにもかかわらず,上記のように9件のお申し込みをいただいた。日頃からの活発な学会・研究活動と,情報交流への高い欲求の現れに改めて気付かされる。
会議プログラムの作成では,120件近いシンポジウムでの発表を3日間に凝縮したため,シンポジウムによっては調整が難しく,オーガナイザにかなりのご心労をおかけした。基調講演も合計で22件あるので,その分,先端的で有用な情報が短い時間で得られることと思う。また,すべてのシンポジウムは,その終了後にセッションを配置しない,または,そのままBanquetに移行できる時間としたため,次のセッションのことを気にすることなく自由な討論や親睦が可能な環境となっている。
オーラルセッションでは,各セッションの開始時刻をできるだけテクニカルセッションと同じにし,参加者が聴講しやすくなるよう,オーガナイザにご調整いただいた。また,なるべく同じ分野が同一時間帯に重ならないようにした。10月31日(月)には2のシンポジウム,11月1日(火)には1のシンポジウムにおいて,テクニカルセッション終了後の18:00以降にも発表があるので,是非,ご参加いただきたい。
なお,4つのシンポジウムでは,ポスターセッションも開催される。時間帯はテクニカルセッションでのそれと同じ,11月2日(水)の聴衆が集まりやすいPlenary lecture後に設定されている。場所もテクニカルセッションのポスター発表と同じで,この時間帯にはオーラルセッションはない。
ご参加の皆様には,活発な討論によってシンポジウムを盛り上げていただき,有意義な時間をお過ごし願えればと期待している。(http://www.itc2011.org/symposia/index.html)
プレナリーレクチャー
ITC Hiroshima 2011では,限られたエネルギー・資源の有効活用に貢献するトライボロジー,自然と人間が調和して共存する持続性社会に不可欠なキーテクノロジーとしてのトライボロジーをテーマに,開催地広島市の自動車メーカーのマツダ(株),アメリカ,ドイツ,そして中国からの最新のトライボロジーに深く関係する講師を招待して4件のプレナリーレクチャー(Plenary Lecture)を予定している。それらの講師講演者,日時および概要は以下のようになっている。
プレナリーレクチャー(Plenary Lecture)の概要
I.2011年10月31日(月)10:30~12:00
(1)題目:マツダスカイアクティブエンジンの紹介と内燃機関の将来
(An Introduction to Mazda SKYACTIV Engine and the Future Prospect of Internal Combustion Engine)
講演者:Mitsuo Hitomi
Power Development Division, Mazda Motor Corporation
3-1, Shinchi, Fuchu-cho, Aki-gun, Hiroshima, Japan
講演概要:
マツダは優れた環境性能を提供するため「Sustainable Zoom Zoom」,そしてすべての顧客向けに「fun to drive」のスローガンのもとに戦略的にエンジン開発を進めている。本講演では,マツダの開発した新型エンジン「SKYACTIV」の紹介と内燃機関の摩擦損失の低減,内燃機関のゴール,未来のパワートレインなどについて講演していただく。
(2)題目:トライボマテリアル―摩擦と摩耗を理解し制御するための鍵
(Tribomaterial―a Key to Understanding and Controlling Friction and Wear)
講演者:David Rigney
Material Science and Engineering, The Ohio State University
2041 College Rd., Columbus, OH 43210, U.S.A.
講演概要:
すべりが生じる界面近傍では材料の劇的な構造や化学変化が生じていることはよく知られている。これらは適切な実験や利用できるテクニックを用いて調べることができる。コンピュータシミュレーションとくに分子動力学を用いたシミュレーションは,すべり運動において何が起こっているかを調べるのによい方法である。本講演では,トライボマテリアルの進化発展に焦点をあて,すべり摩擦と摩耗の理解と制御へのガイドについて講演していただく。
II.2011年11月2日(水)8:45~10:25
(3)題目:グリーンオートモービル―定義と実現―
(The Green Automobile―Definition and Realization―)
講演者:Wilfried J. Bartz
Technische Akademie Esslingen
An der Akademie 5, 73760 Ostfildern, Germany
講演概要:
グリーンオートモービルはゆりかごから墓場までグリーンでなければならない。このことはライフサイクルアセスメントは生の材料の生成,生産,使用および廃棄・リサイクルが環境に与える衝撃を評価する手法でなければならない。
本講演では,グリーンオートモービルの定義と実現を中心に講演していただく。
(4)題目:薄膜潤滑
(Thin Film Lubrication)
講演者:Jianbin Luo
State Key Laboratory of Tribology, Tsinghua University
Beijing 100084, China
講演概要:
ナノ潤滑における研究は,主にナノ隙間における潤滑すなわちEHL(弾性流体潤滑)から境界潤滑への遷移にしぼられる。潤滑における新しい領域として薄膜潤滑(TFL)または拡張境界潤滑が1990年代から研究されている。
本講演では,薄膜潤滑に関する測定技術が紹介される。膜厚とその影響因子の関係,潤滑膜の損傷,電圧下における薄い潤滑膜の特性および薄い液体膜の超潤滑性(superlubricity)について論じられる。薄い潤滑膜の物理モデルと種々の潤滑領域を識別する方法が新たに導入される。
これらのプレナリーレクチャーでは,最新のトライボロジーの話題を取り上げ,各国におけるそれらの第一人者に講演をお願いした。ITC2011の参加者に十分に満足していただけるものと信じている。
≫国際トライボロジー会議 広島 2011(ITC Hiroshima 2011) 企業展示(Technical Exhibition)
- 国際トライボロジー会議 広島 2011(ITC Hiroshima 2011)ホームページ http://www.itc2011.org/
- ITC Hiroshima 2011プログラム http://www.itc2011.org/conference_program/index.html