オンライン潤滑油測定の最前線 エアコン開発用「オイル循環率」と「動粘度」の連続測定 | ジュンツウネット21

株式会社アントンパール・ジャパン  2015/5

1.エアコン開発用オイル循環率(OCR)測定

 エアコンなどの冷凍機において,性能を評価する指標の1つとしてオイル循環率(Oil Circulation Ratio:OCR)は重要な指標の1つとして挙げられます.エアコンのシステムは,コンプレッサーで冷媒を加圧し,コンデンサーで放熱し,エキスパンションバルブでエバポレーターへ一気に噴射させて冷媒を気化させる機構を有しています.このような機構において,コンプレッサー内で冷媒を加圧する際にコンプレッサーの機械的潤滑性を確保するため,別に潤滑剤としてのオイル(冷凍機油)の添加が必要不可欠です.一般的にオイル量が十分であればコンプレッサーに対しては機械的な負荷が避けられますが,オイルは基本的に熱伝導率が低いため,システム内を循環する際には冷媒の効果を下げてしまいます.また,システム内に設置された各部品や条件によって一定なはずのオイル濃度は変動することがあります.そのため,各部品の評価,システムの評価とその健全性やエネルギー効率の評価など,様々な評価の指標として油循環率は重要な指標として位置づけられています.(図1

エアコンサイクルの模式図
図1 エアコンサイクルの模式図

 特に,カーエアコン開発においては動力源であるエンジンの回転数と冷凍機に求められる能力が比例しないということもあり,非常に重要なパラメーターとして認識されており,これまでも様々な測定方法が実用化されています.

 本稿では,このオイル濃度について,従来の手法と比較しながら,音速センサーを用いた手法についてご紹介します.

従来の測定方式(キャッチタンク方式)

 従来の冷媒内のオイル濃度の計測方法としては,JIS B8606のキャッチタンクによるサンプリング方式がもっとも一般的です.この方式は真空の耐圧容器に冷媒とオイルをサンプリングした後,冷媒を気化させて残ったオイルの量を重量で測定するというものです.シンプルな方法のため広く使われていますが,以下のような問題点もありました.

  • 循環している動的なサンプルに対して,静的な1点しか測定できない=トレンドの把握ができない
  • 手作業が多いため,操作ミス,個人誤差が大きい
  • 冷媒の気化による環境負荷,作業者への影響が大きい
  • 実際に冷媒を抜くため連続して再測定することが難しい

従来の測定方式(光学センサー)

 手分析方式に対して,連続したデータの取得を求める声も多く,様々なセンサーによる測定がされてきました.代表的な方式の1つに光学式センサーを中心に種々方式がありますが,広く業界で使用されるには至っていません.その理由は以下のような理由があります.

  • 安定して高精度で測定することができない
  • 機器の洗浄が必要でメンテナンス箇所が多い
  • 蛍光剤を添加すると測定できない,もしくは蛍光剤を添加しないと測定できない
  • 冷媒種が変わると,装置ごと新設する必要がある
  • 汎用性がないため,高額である

従来の測定方式(分離方式)

 また,冷媒中のオイル濃度の測定が難しいということもあり,測定前にセパレーターで冷媒とオイルを分離させてそれぞれの質量流量を測定するという方式もあります.この場合,分離技術が測定精度の肝となっています.ところが,オイルが冷媒に溶けてしまう場合,完全な分離は困難であるばかりか,冷媒の種類・状態ごとに飽和値が異なるため,安定した連続測定には課題が残る場合もあります.また,非常に微小な流量のオイル濃度を正確にとらえることの困難さもありました.

 そこで,弊社は国内外ですでに多くの実績がある音速式濃度センサーを用いた測定をご提案します.

新方式:音速式濃度センサーとは

 音速式濃度センサーは国内外で各種産業において非常に多くの実績があります.ビール製造における麦汁濃度の調整や出荷前の製品濃度管理,そして化学プラントにおける各種酸や塩基,有機溶媒などの濃度管理,加えて原油採掘現場など,幅広いアプリケーションを有しています.

 このセンサーのメリットをあげると以下のようになります.

  • 非常にシンプルな測定原理
  • サンプルの組成に影響を与えない
  • 消耗品がなく,メンテナンス不要
  • 一般的に被膜や着色に強い構造
  • 設置が容易で低コスト

音速式濃度センサーの測定原理

 音速式濃度センサーは音の進む速度を計測するセンサーです.水の中と,空気の中では音の進む速さが違うということはよく聞かれますが,同じ液体でも濃度が変わると音の進む速度は異なります.音速式濃度センサーはこの原理を利用して液体の濃度を測定します.(図2

音速センサーの模式図
図2 音速センサーの模式図

 OCR用のセンサーは流通型で,チーズ配管状をしており,配管内をサンプルが通過する際に測定が行われます.センサー内には,音波発生部と受信部,そして温度計が内蔵されており,毎秒ごとに音の伝播時間を測定し,音速値の算出を行います.単位はm/sです.

 音速センサーはこのアプリケーションにおいて,蛍光剤の影響を受けません.また,連続使用による配管内の「すす汚れ」の影響もほとんどありません.多くのお客様が洗浄なしで何年も使用しています.

オイル濃度の算出

 音速値はオイル濃度だけでなく,配管内の圧力,温度にも影響されます.音速センサーは温度計も有しているため,実際に設置が必要なのは,音速センサーと圧力計です.この3つの値を元に多項式による濃度計算式により濃度が算出されます.

 濃度計算式の作成に必要なのは,実際の冷媒,オイルによる3つの計測値の実測値です.アントンパールでは,第三者機関と協力して専用の実測装置を開発しました.この装置は冷媒に対してオイル濃度,圧力,温度を任意に変化させることができます.この装置で実測した膨大なデータを元に検量線を作成します.コンプレッサーを使用していないシステムのため,オイル濃度が0%の実測値を計測できるのもメリットです.これにより実際の冷凍サイクルでは計測ができなかった低レンジでの再現性を実現しました.

 現在のところ実績が十分にある冷媒はR-134aと地球温暖化係数の低い新冷媒のR-1234yfです.さらに,ルームエアコン向けのR410やR32などへの対応も可能です.通常は,冷媒のご指定後,ご使用になるオイルを提供いただいて実測します.

 濃度計算式を変更すれば,1つのシステムで複数の冷媒,複数のオイルに対応することも可能です.

 例として,R-134a+PAG系オイルでの濃度検量線の適応範囲は以下の通りです.

  • OIL:0-10%
  • 圧力:0-30bar
  • 温度:20-65℃

設置

 センサーは気液混合部では測定ができないため,エキスパンションバルブの前段に取り付けます.音速センサーは音速値と温度を測定し,専用の表示変換器に出力します.また,別付の圧力計からも出力を受け,表示変換器内でオイル濃度値に計算されます.(図34

音速センサーの取り付け例
図3 音速センサーの取り付け例
音速センサー SRPn4214LS型(分離タイプ)
図4 音速センサー SRPn4214LS型(分離タイプ)

センサー仕様

  • 音速測定範囲:200~1600m/s
  • 音速精度:0.1m/s
  • 温度測定範囲:-25~125℃
  • 設置環境温度:-25~70℃
  • 耐圧力範囲:0~50bar
  • センサー内径:14mm
  • 圧力損失:0.1bar以下(1mPa,100L/h)
  • 重量:約3kg
  • 接液材質:ハステロイC276
  • 配管接続:G3/4"(ISO228平行ねじ)

 センサー仕様の精度0.1m/sをオイル濃度に換算すると,例えば温度40℃,圧力15bar,音速470.0m/sの場合に,これが音速470.1m/sになったとすると,R134aの代表的な検量線による違いは0.02%となります.

変換器の仕様(図5

  • DC24V
  • 音速センサー:最大2本まで接続可能
  • カラータッチパネル
  • 外部センサーのアナログ入力
mPDS5
図5 mPDS5

変換器の出力方式

  • 各種フィールドバス(プロフィバス,プロフィネット,デバイスネット,イーサネット/IP,モドバス等)
  • アナログ4-20mA出力
  • 本体内にデータを保存(USBメモリにCSV形式出力可能)

システムでのご提供

 また,アントンパールとしてはお客様のご希望に合わせたセットでの提供も行っています.セット内容としては下記のものが含まれます.(図6

  • 電源装置
  • コンセントケーブル
  • センサーケーブル
  • 収納盤(大,小)
  • センサーアダプター
  • 圧力計アダプター

 システムのセット内容については国内で受注生産としているため,打ち合わせが必要です.半面,お客様のご要望に応じたきめ細やかな対応が可能です.

測定システムのバリエーション

○圧力計アダプター

図6 測定システムのバリエーション

今後のアプリケーション

 ブタンやプロパンなどの可燃性ガスを冷媒に用いた場合の測定システム,またCO2を冷媒に用いた場合のアプリケーションなどを開発中です.二酸化炭素については高圧になるため,音速式センサーではなく,弊社のもう1つの濃度センサーである密度センサーを検出部に採用する方法で検討が進んでいます.

オンライン密度計 L-Dens437HP(エルデンス437HP)

 CO2冷媒の測定を主目的に開発されたL-Dens437HP型は高圧にも耐えられるように製造された新型のオンライン密度計です.オンライン密度計としては最高クラスの精度と,安定性を誇る密度センサーでありながら最高180barの高圧にも耐える設計となっています.この密度計の再現性0.00001g/cm3とは,300杯分のコーヒーに角砂糖を1つ入れた程度の非常に高いレベルの精度です.

 また,従来のmPDS5型との接続も可能なため,幅広い運用が可能です.例えば,現在音速センサーのSPRn型が1台接続されているとしても,mPDS5は2センサーまでの接続が可能なため,追加で接続することも可能です.また,L-Dens437HP型は密度計ですので,非相溶性のサンプルに対しても高い応答性を実現しています.(図7

L-Dens437HP型
図7 L-Dens437HP型

L-Dnes437HP型の測定原理

 L-Dens437HP型はアントンパール社が世界で初めて販売したデジタル密度計の原理を使用しています.これはセンサーに内蔵されたU字型のチューブにサンプルを取り込み,それに振動を与えることで測定します.

 U字管に液体を封入して,外部から振動を与えたとき,その振動数は密度に比例します.この周波数を測定することで密度値を算出しており,これはコリオリ式の質量流量計の密度算出とは異なります.コリオリ力は使用していませんし,液体が停止していても測定できますし,校正も容易です.流量の計測はできませんが,密度値のデータの精度は1~2桁以上高いものを持っています.その分,U字管の製造には高い技術が求められており,現在でも使用に耐えうるU字管を製造できるメーカーは世界的にも限られています.(図8

L-Dens437HP型の測定原理
図8 L-Dens437HP型の測定原理

設置例

 オンライン密度計は内径が6.3mmのため,サイクルの配管と異なる場合,特に大幅な差がある場合は,バイパス設置が必要になる場合があります.

 バイパス設置の場合,ポンプやバルブで流体のコントロールが必要になります.(図9

代表的なバイパス設置例
図9 代表的なバイパス設置例

L-Dnes437HP型の仕様

  • 密度測定範囲:0.6~1.2g/cm3(0-3g/cm3の中で選択可能)
  • 密度再現性:0.00001g/cm3
  • 温度測定範囲:-40~125℃
  • 環境温度:140~70℃
  • 耐圧力:最大180℃ 125℃
  • 接液材質:Hastelloy C276
  • センサー内径:6.3mm
  • 重量:約2.4kg

2.動粘度値の連続測定について

動粘度(動粘度性係数)のオンライン連続測定の実現

 アントンパールはオンライン密度計と粘度計のデータからオンラインで動粘度値を算出することを実現しました.動粘度とは,絶対粘度値を密度値で割った数値のため,絶対粘度値と密度値の双方のパラメーターの計測が必要です.

絶対粘度計L-Vis510(エルビス510)の特長

 L-Vis型インライン粘度計は高精度な回転式粘度計の機構をそのままインラインに持ち込んだ,画期的な粘度計です.従来のインライン粘度計は粘度計測必要なパラメーターをすべてコントロールすることが難しかったため,調整後であれば,同一サンプルの測定を再現することは可能であっても,サンプルが変わると測定値が異なってしまったり,相関性さえ取れなかったりするケースもありました.これは,一般的に考えられている「粘り気」と定義された「粘度」には若干の隔たりがあると考えられます.

粘度とは? 正しい粘度を計測するに必要な条件とは?

 粘度とは,「物体を,面積S,間隔をhにした2枚の平板にはさんだ時,平板を相対速度Uで平行に動かすと動いている方向と反対方向に剪断応力τが発生し,物体と板の間に発生する力をFとすると,Fは相対速度Uと間隔hの逆数に比例し,この比例係数μが粘度である」と定義されています.つまり,インラインで粘度を測定するには,「物体をはさみ,動かすこと」「面積,距離,速度などの制御がされていること」が必要になってきます.振動子や音波では粘度測定に必要なデータを採れておらず,あくまでも「粘り気」に相関が取れそうなデータを元に計測しており,最終的に「粘度」とは異なるデータになってしまいます.とはいえ,このデータを取るための機能をすべて揃えることは容易ではなく,L-Vis510はこの条件を備えた数少ないセンサーです.(図10

L-Vis510, 520
図10 L-Vis510, 520

L-Visの測定原理

 インライン粘度計L-Vis510は先端の測定部を液に浸漬させて測定を行います.

 測定部は回転する円柱部と,周りを覆う断面C字型のカバーから構成されます.

 サンプルは円柱の回転により,円柱とカバーの間にサンプルが引き込まれますが,カバーと円柱の隙間は最後が少し狭くなっているため,カバーの端が粘度によって外側にたわむようになっています.このたわみ量を計測して粘度に換算しています.

 このように,カバーと円柱でサンプルを「はさみ,動かして」測定しており,またサンプルが接触する「面積,距離,速度」は一定の範囲で固定されていることから十分に「制御がされている」と考えられます.

 この機構こそが,ラボ型動粘度計の「SVM動粘度計シリーズ」を製造・販売しているアントンパールが自信を持って「粘度計」としてリリースしている所以です.(図11

L-Visインライン粘度計の測定原理図
図11 L-Visインライン粘度計の測定原理図

L-Vis510の仕様

  • 測定範囲:1~50,000mPa・s
  • 精度:1%程度
  • サンプル温度:-5~200℃
  • 周囲温度:-20~40℃
  • 耐圧力:0~25bar
  • 重量:約12kg
     また,防爆(ATEX)仕様のL-Vis520タイプも取り揃えています.

L-Dens4x7Eオンライン密度計

 オンライン密度計は先にご紹介したオンライン密度計と同じ測定原理で防爆の仕様もあります.高精度で密度を計測するため,動粘度に必要なデータを高い水準で計測することも可能です.もし,サンプルの密度に変動がない場合は,密度センサーを設置せずに,計算するmPDS5表示変換器に密度値を入力することで動粘度値を算出することも可能です.(図12

mPDS5での動粘度表示例
図12 mPDS5での動粘度表示例

mPDS5での動粘度の計算

 mPDS5に集約された絶対粘度値(せん断粘度値)と密度値は,Kinematic Viscosity(動粘度)=Shear Viscosity(絶対粘度=せん断粘度)/Density(密度)に基づき,自動計算されます.単位変更や制御も自在に可能です.

その他のアプリケーション

 アントンパールのプロセス計器はご紹介した他に,以下のようなアプリケーションを有しています.

  • オンライン濃度測定(酸,塩基,スラリー,溶剤など)
  • 各種塗工プロセスの濃度管理
  • 相分離プロセスにおける制御用センサー
  • 圧延油の濃度管理
  • 飲料などのBrix測定

 

最終更新日:2019年4月18日