中国市場参入に向けた新しい試み―国際先進メンテナンス技術センターの挑戦― | ジュンツウネット21

「国際先進メンテナンス技術センター」は,2011年6月に「一般社団法人」の法人格を取得し,活動を開始した。この設立趣旨の狙いは,新しいメンテナンス技術の創造による課題解決と日本の中小企業の海外進出の支援である。

一般社団法人 国際先進メンテナンス技術センター(ICAM)代表 宮 健三  2011/12

1. 国際センター設立の趣旨と組織

我が国は環境問題や様々な設備の高経年化に関連して優れたメンテナンス技術を有しており,これらの問題解決に大きく貢献している。一方,世界に目を向けると,メンテナンス技術の導入が遅れている地域も多く存在しており,我が国のメンテナンス技術をグローバルに展開し,地球環境の保全や設備の生産性向上に寄与するという視点は見逃せない状況にある。特に中国は,日本にとって近隣の国であるとともに,急速な勢いで経済大国に成長しており,今では日中間の貿易額が日米間のそれを超える重要な国である。しかし,それとは裏腹に,中国では環境問題や設備管理について様々な問題が成長のひずみという形で噴出しており,優れたメンテナンス技術の導入が強く望まれている国でもある。このような状況を鑑みて,我が国のメンテナンス技術が中国の現状改善に貢献できるであろうことは十分に推測される。とはいえ,現実には我が国の企業―特に中小企業―が中国市場に進出するのはやさしい状況にはない。

また,現在開発されているメンテナンス技術の多くは,設備の“部分”を検査補修するものであり,総合的な技術管理を行い生産性を向上させるような直接的な手法ではない場合が多い。このような“部分”を対象とした技術は,伝統的に成熟しているため過当競争を余儀なくされており,競争に勝つのは容易ではない。本来,メンテナンス技術は,設備やシステムの信頼性向上に資することが要請されている。したがって,環境保全や生産性向上のためには,設備の“部分”もさることながら,技術の有機的な結合を活用した“システム”の高効率化という視点が重要である。

このような認識のもと,「国際先進メンテナンス技術センター(以下,ICAM)」は,2011年6月に「一般社団法人」の法人格を取得し,活動を開始した。ICAMの設立趣旨は次の3点である。

(1)既存技術の統合による「既存技術統合型」新技術の開発により,設備一般の高効率化を体系的に実現し実用化を図る
(2)当該分野における日中産業界の交流・協力の推進
(3)日本の中小企業が中国市場に進出しやすい土俵を設け手段を提供する

この設立趣旨の狙いは,前述した新しいメンテナンス技術の創造による課題解決と日本の中小企業の海外進出の支援である。ICAMは設立趣旨に沿った活動の他に,会誌の発行や関連技術情報の提供などを行う予定であり,活動を通じてメンテナンス技術のさらなる向上を図っていきたいと考えている。

なお,ICAMは日本と中国との合作であり,本部組織(日中それぞれ4~5名の理事で構成)の下に日本支部と中国支部を有する。中国支部は中国の法律に則り委員会形式をとろうとしている。

2. 事業展開について

ICAMが考えている事業活動を具体的に言うと次のとおりである。

(1)「日中先進設備メンテナンス技術展」の継続的開催
(2)研究調査委員会及び部会の発足と活動
(3)ICAM基金の創設と基金による技術開発支援
(4)ICAMを運営する「理事会」,「企画運営委員会」に基づく活動
(5)「編集委員会」の設置とセンター誌の発刊

理事会や企画運営委員会,編集委員会は学会などで取られている形態と同様である。本稿では,ICAMの活動として特に重視している研究調査委員会・部会の活動および「日中先進設備メンテナンス技術展」,ICAM基金による技術開発支援構想について紹介したい。

3. 研究調査委員会・部会の活動内容

ICAMは設立趣旨に則り,調査研究活動として2つの分科会を発足させる準備を行っている。

(1)風力発電設備「定量的診断技術」分科会

風力発電はクリーンな国産エネルギーであり,フクシマ以降特に大きな脚光を浴びている。しかし風をエネルギー源とするため,発電量は風況に大きく左右される。また,地上に設置されている風力発電設備は,山頂などアクセスが容易でない地域に設置されることが多いため,部品の損傷が発生した場合にはメンテナンスが非常に大変であり,風力発電設備を構成する部品の劣化・損傷も稼働率を大きく低下させる要因の1つとなっている。

このような様々な理由による風力発電設備の稼働率低下を改善するため,ICAMでは風力発電設備「定量的診断技術」分科会を2012年3月中にスタートさせたいと考えている。この分科会では,特に風力発電設備に発生する劣化・故障に着目している。設備の劣化・故障の定量的な診断は,メンテナンス時期の設定や大きなトラブルを未然に防ぐなど保全活動に有効であり,他の産業分野で活用されている優れたメンテナンス技術の調査・適用研究や,風力発電設備の故障予兆を早期に発見するための診断技術の研究開発,問題点の多い修理方法の技術課題などについて検討を行っていく予定である。

(2)「既存技術統合型」新技術分科会

前述のとおり,我が国には優れたメンテナンス技術が多く存在し,様々な問題の解決に寄与しているが,メンテナンス技術の多くが機器の“部分”を検査補修するものであり,これらの技術単独で他国に対し優位性を示すことは困難な状況である。このような現状を克服する方法の1つとして,我が国―特に中小企業―の優れた要素技術を統合的に組み合わせることにより各要素技術の付加価値を高め,現在求められているニーズに対応した新技術を創造することは,新しい目玉となり得る。したがって,「既存技術統合型」新技術分科会の設置は,生産的な成果を出せるのではないかと考えている。またこの分科会では,既存の要素技術を組み合わせるだけではなく,「既存技術統合型」新技術では解決できないニーズに対応する新たな技術の開発,および「既存技術統合型」新技術とのさらなる統合も想定している。これらの目的を掲げ,分科会では当面の主要課題として,企業が持つ既存技術の調査,そしてそれらの技術を組み合わせることによる新技術の検討を行う予定である。

メンテナンス分野において,我が国独特の技術統合が新たな技術創成につながれば幸いである。

4. 「第1回日中先進設備メンテナンス技術展」の開催

日本企業が海外進出への意欲を持っていても海外への足掛かりを作るのは容易ではない。これは中国市場に対しても同様である。このような背景から,ICAMは日中企業の交流と先進メンテナンス技術の紹介を目的として,「第1回日中先進設備メンテナンス技術展」を2012年6月28~30日に北京にて開催する(図1)。主催はICAMと中国設備管理協会である。中国設備管理協会は政府系機関であるとともに全国規模の社会団体であり,産業全般にわたる幅広い活動を行っていることから,メンテナンス技術分野における信頼できるビジネス交流が期待できる。また,ICAMと中国設備管理協会は,企業の商品・技術を広く発表する場や,具体的なビジネスアプローチにまで踏み込むことのできる展示パッケージを用意している。

メンテナンス技術展&フォーラム
[技術展 対象領域]
 産業分野:機械,電力,化学工業,エネルギー,風力,太陽光,鉄道,航空,船舶……
 技術領域(先進メンテナンス技術):管理,診断(システム・機器),検査,状態診断,電子機器……
[同時開催]
 2012 第8回国際石炭設備・鉱山設備技術展示会
 2012 第8回国際石炭化学展示会
 2012 第3回中国国際動力伝動・自動化制御展示会

  図1 メンテナンス技術展

4.1 展示会の開催

(1)工業展示
 日中企業の製品・技術を紹介する場を提供する。工業展示自体は一般の展示会と同等のものである。この展示会には日中合わせて200社近い企業の参加が見込まれており,双方が持つメンテナンス技術に触れることができる。なお,展示タイプとして3つの参加形態を考えている。

  • Aタイプ
    系列型参加(大きな会社と系列的に連携しながら市場参入する方式)
  • Bタイプ
    連合型参加(同規模,同業種の企業が横に協力しながら市場参入する方式)
  • Cタイプ
    独立型参加(展示に参加して企業内容をアピールする通常の参加方式)

 これはビジネス段階におけるリスクを低減するための形態であり,ICAMのビジネス展示に参加する場合においては,上の3つの参加形式から1つを選んでもらうことで,リスク低減に役立てることができる。

(2)商談マッチング
 製品・技術の展示は広く来場者に自社技術を紹介するには有効であるが,海外でその中からニーズを拾い上げビジネスにつなげるのは容易ではない。日中企業が深く交流し,お互いのニーズ・シーズからビジネスまでつなげる支援を目的に,この展示会では商談マッチングサービスを用意している。

 商談マッチングサービスでは,展示会参加企業のニーズを調査するとともに,展示会参加企業リストを提示することにより,シーズ側からのアプローチも可能となる。ICAMおよび中国設備管理協会は,事前にこれらの調査を実施し,商談の段取りを整え商談の機会を提供する。このようなきめ細かい対応が中国側企業との商談の垣根を低くし足掛かりを作る土俵となると考えている。

(3)コンサルティングサービス
 日本国内と海外では商取引の慣習が異なることも多い。特に中国は様々な配慮が必要となる。しかし,初めて中国に進出する企業にとって,単独で問題を乗り越えていくことは難しい。そのため,ICAMは中国設備管理協会と協力して中国におけるビジネス展開に対するコンサルティングサービスを用意し,中国での活動が円滑に進むための支援を行う。

4.2 展示会開催後のフォロー

(1)展示会の情報提供
 展示会の結果に関して参加企業に情報提供を行う。特に,商談の成立件数や交渉継続件数などの成果を公表するとともに,改善事項に関しても示したいと考えている。

(2)商談マッチングサービス・コンサルティングサービスの継続
 商談を実施したい時期はひとときではない。また,初回の会合で商談が成立しないこともあるため,ICAMではグループ連絡会の設置を予定している。ICAMおよび中国設備管理協会は,連絡会に入会した展示会参加者に対して,展示会以外の時期も商談マッチングサービスを提供し,商談機会の実現を支援する。また,コンサルティングサービスに関しても随時実施し,日中企業の相互理解に努め交流を促進する。

ICAMは,ここまで紹介した「日中先進設備メンテナンス技術展」のような具体的かつ継続的な枠組みの構築により,日本企業の中国市場参入の可能性を高めていきたいと考えている。
※詳細はICAMのホームページを参照(http://www.icam.or.jp/icam/

5. ICAM基金の創設と技術開発援助

ICAMは「日中先進設備メンテナンス技術展」による日中交流の場の提供の他,技術開発支援によるメンテナンス技術の向上と日中交流のさらなる促進を目指している。この技術開発支援を目的に「ICAM基金」の創設を計画している(図2)。

ICAM基金の活用

◎基金
ICAMが催すビジネス展示の収益の一部を基金とし,ビジネス展示に参加した会社の技術開発への資金援助を行います。

◎目的
既存技術を統合することにより付加価値を向上させる新製品・技術(既存技術統合型新技術)の開発,ビジネス出展における商談やコンサルティングの結果を反映した製品・技術の向上に使用します。

◎応募
上記目的に適応する製品・技術の開発において,日中の企業は単独もしくは共同でICAM基金に応募することができます。

  図2 ICAM基金の活用

ICAM基金は「日中先進設備メンテナンス技術展」のようなICAM主催の展示会による収益の一部を基金とし,展示会に参加した企業の発展に寄与する技術開発の支援に用いられる。特に,既存技術を統合することにより付加価値を向上させる製品・技術の開発(「既存技術統合型」新技術)や,展示会への出展や中国企業との商談により,より高度なものが必要であると判断された製品・技術の向上を目的としている。この基金は,日中企業双方が単独で応募することができる他,日中企業の共同応募も受ける予定であり,基金を日中企業に活用してもらうことで,信義の伴った真の交流が実現できると考えている。

6. 今後の課題と展望

ここまで示してきたとおり,ICAMは先進メンテナンス技術の開発支援と日中交流を目的として,従来とは異なる仕組みをもった様々な活動の展開を目指している。研究調査委員会・部会の設立,「日中先進設備メンテナンス技術展」の開催,ICAM基金の設立はICAMが展開する直近の活動であるが,これらの活動推進とともに,特に次のような課題を見据えている。

(1)研究調査委員会・部会の充実と開発支援

中小企業が単独で研究開発を進めていくのは限度があり,また既存技術の付加価値を高めるのは簡単ではない。ICAMの研究調査委員会・部会は企業グループとして,各社の独自技術を出し合い,さらに高い技術の開発を創生するフィールドでもある。そのため,「既存技術統合型」新技術分科会において,企業間の垣根を越えた新技術開発を強く推進していく。またICAM基金により,同じような志を持つ企業もしくは企業体に対する開発支援を実施していく。

(2)「日中ビジネス共同体」の構築

「日中先進設備メンテナンス技術展」は日中企業間のビジネス交流が第1の目的であるが,さらにお互いの問題点を把握し乗り越えていくための共同体構築の場である。展示や製品・技術発表,商談を通して日中企業の深い交流を促進し,さらに「日中ビジネス共同体」として発展的に構築していく。(図3

ICAMのビジネスプラットフォーム構想

図3 ICAMのビジネスプラットフォーム構想


 

ここまでに示したICAMによる取り組みを発展・成熟させることにより,日中だけではなくアジア全域,ヨーロッパやアメリカなどグローバルな展開が期待できる。ここまでくれば気宇壮大な計画となるが,将来の目標として掲げておき,目前のハードルを着実に乗り越えていくことが肝要と考えている。

 

■お問い合わせ先
一般社団法人 国際先進メンテナンス技術センター(ICAM)事務局
 〒110-0008 東京都台東区池之端2-7-17 井門池之端ビル10F
 TEL 03-5814-5350  FAX 03-3827-0682
 E-Mail:secretariat@icam.or.jp
 URL:http://www.icam.or.jp/icam/

 

最終更新日:2017年11月10日