ドイツ・ハノーファー大学生産技術研究所に見るドイツの産学連携研究最前線

ドイツ・ハノーファー大学生産技術研究所に見るドイツの産学連携研究最前線 | ジュンツウネット21

 ドイツは日本同様に自動車や産業機械など製造業を国の基幹産業としており,中堅・中小企業からなる裾野の広いサプライチェーンを有している.

 そして欧州という巨大な統一市場の中心にあり,日本の中堅企業に匹敵するような“ミッテルシュタント”という中小企業を中心とした製造業が牽引し,脱下請,グローバル化を歩んでいる.ドイツの教育システムは早い段階から将来の進路を決めるデュアルシステムに代表される職業教育が社会システムとして根付いており,そのための技術者の養成や基礎研究,応用研究を支えるための産学連携によるシステムがうまく機能している.

 ドイツには「オンリーワン」「価格競争はしない」「自らの得意領域に特化する」という点に強みを持つ中小企業が多く,研究開発にも積極的に取り組んでおり,政府も中小企業の存在こそがドイツ経済の強みとの認識をもって積極的な支援を行っている.

 またドイツでは,各地の研究機関や大学が企業への技術移転に大きく貢献しており,欧州最大規模の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構に代表されるような企業からの委託研究や独自の研究プロジェクトを実施し,公的研究機関による企業への技術移転や工科大学,専門大学による基礎研究や応用研究と技術移転による中小企業の競争力向上に貢献している.

 2019年7月4日(木)にはEMOハノーバープレスプレビューイベントの一つとしてプレスツアーを実施.ドイツ工作機械工業会(VWD)とも関係の深い,ドイツの製造技術を支える国立ハノーファー大学(Leibniz Universitat Hannover)の生産技術研究所(Produktionstechnisches ZentrumHannover:PZH)で製造技術や工作機械に関する研究所(Institut fur Fertigungstechnik und Werkzeugmaschinen:IFW)を見学した.そこで,ここではその研究内容を紹介する.

プレスツアー参加者

プレスツアー参加者

 ドイツのニーダーザクセン州にある国立ハノーファー大学には次の7つの研究所と大学が100%出資する会社(TEWISS)が生産技術研究所(PZH)内にある.

Production Engineering and Logistics

  • IFA:生産システムや物流に関する研究所
  • IFUM:金属成形(メタルフォーミング)に関する研究所
  • IFW:製造技術や工作機械に関する研究所
  • IMPT:マイクロ生産技術に関する研究所
  • ITA:交通やオートメーション技術に関する研究所
  • Match:組立の技術研究所
  • IW:材料科学に関する研究所
  • TEWISS:ハノーファー大学が出資する子会社(特殊機械製造、技術移転等)

 IFWでは,摩擦を削減することなどを研究する「Manufacturing processes」,マシンをコントロールする「Machines and controls」,加工技術に関わるプロセス計画を考える「Production systems」,炭素繊維や強化プラスチックのオートメーションなどを研究する「Automation and plant concepts」,飛行機の形状変化などを研究する「Design and evaluation of process chains」といった5つのワーキンググループで中小企業のデジタル化をどのようにサポートするかということを研究し,啓発セミナーを開催したり,11の学習ラボを設けておりEMO Hannover でも研修センターを設けるなどの活動をしている.

 当日は工作機械の未来としてデジタル化された自立型工作機械を実用化する研究プロジェクトを紹介,システムの信頼性やプロセスセキュリティの課題などをプレゼンテーションした.また自立型生産に関わる要素として次の5つの研究施設の見学を行った.

1.Artificial Intelligence for Process Monitoring

 AIを使い機械内部をセンサでプロセスモニタリングして効率化する.自動走行車のようにオートメーション化し自立した工作機械を研究している.様々な表面形状を持つ複雑なワークピースを単品生産するには機械学習するためのデータがないためシミュレーションのための計算が難しい.デジタルツイン技術を活用している.

Artificial Intelligence for Process Monitoring

2.Digitalization and Automation of the Repair Process of Turbine Blades

 航空機のタービンブレードの修理を自動化するためのプロセスチェーンを研究している.タービンブレードの修理プロセスは非常に複雑で時間が掛かる.手作業で行っている修理作業をデジタル化し触覚を持った工作機械がオペレータの作業をサポートすることで効率化を図る.

Digitalization and Automation of the Repair Process of Turbine Blades

3.Feeling Machine Tool and Digital Twin for Autonomous Production

 触覚を持つ工具とデジタルツイン技術を研究している.単品生産で股関節のインプラントを製造する.CADでデザイン,フライス加工し,すべてのパラメータを調整していかなくてはならない.最初の設定がパーフェクトでなくては経済性などうまくいかない.そこでこれまでのデータをすべて集めて学習することができないか,それをベースに将来的にパーフェクトなインプラントを作ることができるのではないかということで研究を始めた.オペレータがやすりをかけるときの自分の力の感覚と同様に,プロセスからデータを測定して学習することで自動化を目指す.機械が工具にかかる触覚をセンサで測るもの.医療分野でのデジタルツインでは患者のデジタルカルテを元にシミュレーションをすることができる.デジタルツインと触覚を持つ機械で人それぞれ違うインプラントを製造することを研究している.

Feeling Machine Tool and Digital Twin for Autonomous Production

4.Intelligent Grinding Process

 グラインディングのオートメーション化を研究している.人出不足の中でグラインディングディスクの研磨の必要性など作業員が触感で見ていたものをオートメーション化した計測システムを用いる.トポグラフィーをみることで摩耗状態を検出するなどの研究をしている.

Intelligent Grinding Process

5.Augmented Reality for Quality Control

 品質コントロールに関してARを使い自動化を研究している.複雑な形状の修復・修繕作業を現実とバーチャルの世界を融合することで,あるべき値と3Dスキャンした値を3Dモデルで比較する.溶接後の結果を比較し目では見えない品質結果を短時間で把握できる

Augmented Reality for Quality Control

 ドイツの産学連携の強さは人的なネットワークにある.ドイツの産学連携の構造についてPZHのProf.Dr-Lng.Berend Denkena氏は,「ドイツにはフラウンホーファー研究機構を始め,大学や研究機関といった素晴らしい研究インフラがあります.そして学会を通じて様々な研究をしている人材同士の移動やコミュニケーションがあり人的なネットワークを通じて産業界へのフィードバックがあります.研究機関は社会への貢献を目的としています.例えば大学のエンジニア工学系の教授には経済界や産業界で経験を積み上げた方が招へいされています.私自身も工作機械業界で10年間の経験をして大学に戻ってきました.このような双方化や交流がドイツ産学連携の素晴らしさだと思います.

 大学や研究機関が工作機械メーカーと研究テーマに対して契約や合意書などを締結する場合にはまず権限などを決めます.多くの場合研究成果をその研究チーム全体で共有するというケースが多いです.私達もここで研究したことが研究で終わるのではなく応用されることに喜びを感じています」とドイツの産学連携の力強さについて語った.

Prof.Dr-Lng.Berend Denkena氏

Prof.Dr-Lng.Berend Denkena氏

<参考文献>
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 2014年度「地域中小企業の人材確保・定着支援事業」(ものづくり中小企業におけるシニア人材等活用促進事業・素形材分野)
 素形材産業を担う若手人材の輩出・育成に関する調査報告書


最終更新日:2019年8月7日