粘弾性測定装置による飲料の食感評価 | ジュンツウネット21

株式会社アントンパール・ジャパン ビジネスユニットキャラクタリゼーション 梶田 康仁,宮本 圭介  2019/6

はじめに

 食品のおいしさには,味や香りだけでなく,食感も大きく寄与しているといわれている*1.そのため,おいしさについて理解し,食品を設計していく上で,食感の評価,定量化は不可欠である.

 食感の構成要素は,口腔内での食品の流動特性や変形特性といったレオロジー的要素,舌–口蓋間等で生じる摩擦,潤滑特性(くっつき感,つるつる感)等のトライボロジー的要素に大別される.

 すでに長年にわたり,おいしさと関連するレオロジーについては,多く研究されてきている*2.しかしながら,レオロジーのみで食感をすべて記述することは困難である.近年では,トライボロジーによる口腔内における摩擦や潤滑等の評価が注目を集め始めており,官能評価結果との相関性について報告されている*3,*4.

 本記事では,レオロジー,トライボロジーの両面からの飲料食感の評価事例紹介を目的に,牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳のレオロジー特性(粘度),およびトライボロジー特性評価および両測定結果の比較を行う.

1.食品の粘度評価

 牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳のレオロジー特性評価として,粘度測定を行う.口腔内での食品流動時,および嚥下時に受ける食感は,粘度と相関があるといわれている*5,*6.また,誤嚥防止に有効な粘度調整法についても,研究が行われている*7.粘度測定の方法としては,細管式粘度計,B型粘度計,レオメーター等を用いた測定が挙げられる.ただし多くの食品において,粘度は後述のせん断速度に依存するため,今回の測定には,せん断速度の範囲を広く変化させながら粘度測定できるレオメーターを用いる.

1.1 レオメーターによる粘度評価

 レオメーターでの粘度測定では,図1のように上下プレート間,あるいはカップ内にサンプルをセットする.そして,上側の治具を回転させた際の抵抗から粘度を求める.今回は低粘度サンプルに有利なダブルギャップを用いる.

レオメーターの概要

図1 レオメーターの概要

 粘度の求め方を,プレート系を例にとり,説明する.上側プレートを回転させた際の抵抗値から,図2中の力Fが求められ,プレート面積A,プレート間距離d,プレートの移動速度vから,式(1),(2)に従って計算するとせん断応力σ,せん断速度dγ / dtが求められ,式(3)から粘度ηが求められる.

粘度計算のパラメーター

図2 粘度計算のパラメーター

σ=F/A 式(1) (1)

dγ / dt = v / d 式(2) (2)

η = σ/(dγ / dt) 式(3) (3)

1.2 牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳の粘度測定結果

 牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳の粘度測定結果を図3に示す.

 粘度測定により,牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳間のわずかな粘度差の差別化に成功した.

 口腔内,嚥下時のいずれのせん断速度範囲における粘度においても,牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳間の粘度の順位は概ね同じであった.

 粘度(=口腔内および嚥下時の流動抵抗)は,調整豆乳,牛乳,無脂肪牛乳の順に高く,特に調整豆乳の粘度は,全体的に他の2サンプルに比べて高いことが分かった.また,高せん断速度域においては,牛乳と無脂肪牛乳の粘度がほぼ一致した.以上から,低せん断速度域において牛乳と無脂肪牛乳の差異が感じられやすく,高せん断速度域において調整豆乳とその他の間での差異が感じられやすいと考えられる.

牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳の粘度

図3 牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳の粘度

2.食品のトライボロジー特性の評価

 食品のトライボロジー測定により,粘度測定では得ることのできない,口唇間,舌–歯間,舌–口蓋間等における圧搾,摩擦時に感じる食感を評価する.

 近年,食品のトライボロジー測定の研究報告が増えてきている.トライボロジー測定の重要な要素の一つとして,測定面の性質が挙げられる.過去の研究では,食品の測定に金属とポリマー(ポリテトラフルオロエチレン)の系,金属とジルコニアの系等が使用されてきたが*8,これらの測定面は平滑かつ硬質で,口腔内を模倣できていない.事実,最近の研究では,舌を模倣する材料として,物性,入手性の観点から,PDMS(ポリジメチルシロキサン,Poly(dimethylpolysiloxane))のエラストマーが適切であるという報告や*9,金属と「舌を模した表面形状を有するシリコンゴム」とを用いて摩擦係数を求めた研究で,表面状態により結果が異なるという報告もある*10.

 今回の測定では,表面が平滑でないガラス球で口蓋を,PDMSエラストマーで舌を模倣した系を用い,トライボロジー測定を行った.なお,トライボロジー測定装置は2種類に大別される.(1)摩擦摩耗の検出に特化した装置と,(2)従来のレオメーターに摩擦測定オプションを取り付けた装置である.(2)を用いることで,上述の粘度測定,トライボロジー測定を1台の装置で行うことができ,トライボロジー測定においても,幅広いすべり速度範囲および温度範囲で制御が可能となるという利点もある.

2.1 レオメーター(+トライボロジーオプション)によるトライボロジー評価

 今回の測定では,図4に示す,ボールオンスリーピンズという系を用いた.

 ボールオンスリーピンズでは,ガラス球に下方向の一定荷重を加えた状態で,ガラス球を回転させる.その際にガラス球とピンの間の,計3箇所の接点において摩擦が生じ,ガラス球を回転させる際の抵抗となる.回転に要したトルクを測定し,得られたトルクM,荷重FN,ガラス球の中心からピンとの接点までの距離Lから,サンプル液体中におけるガラス球–PDMSピン間の摩擦係数μを求める.具体的な計算は,式(4),(5),(6)に従う.

ボールオンスリーピンズの測定部

図4 ボールオンスリーピンズの測定部

F = μN 式(4) (4)

N = √2 / 3・FN 式(5) (5)

F = M / L 式(6) (6)

 今回は,上述の牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳に対し測定を行い,横軸にすべり速度,縦軸に摩擦係数を取ったストライベックカーブを得る.測定温度は25℃,すべり速度の範囲は1E-7から1E+0[m/s],ガラス球からPDMSピンへの垂直荷重は1Nとする.なお,三つのピンに,ピンに対して垂直な方向へ1Nの荷重をかけるため,ガラス球には鉛直方向に約2.2Nの荷重をかける.

2.2 牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳のトライボロジー測定結果

 牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳について,図5のストライベックカーブを得た.

 すべり速度約1E-06[m/s]以上において,2種類の牛乳と,豆乳の摩擦係数に明確な差が見られた.牛乳と無脂肪牛乳間の差は,すべり速度1E-3[m/s]以下の範囲において小さく,この領域では2種類の牛乳間の差よりも,豆乳との差が大きいことを示している.

 すべり速度1E-3から1E-1[m/s]弱の範囲においては3サンプルの間に差が見られるが,すべり速度1E-1[m/s]において3サンプルの摩擦係数が近づき,すべり速度1E-1から1E+0[m/s]においては摩擦係数の順位が入れ替わっている.これは,牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳の摩擦係数はすべり速度によって異なり,サンプル間の摩擦係数の差異も大きく変動することを意味している.これらの結果から,トライボロジー測定による食感の定量化,差別化が示唆される.

 口腔内での咀嚼に対応するすべり速度は30–100mm/sといわれており,舌–口蓋間等で感じる感触,嚥下時についても,これに近い範囲になると考えられる.

 これまでにも,脂肪含有量の異なるヨーグルトに対しトライボロジー測定を行った結果,脂肪含有量とトライボロジー測定結果との間に相関が見られたという報告例もある*15.裏を返せば,脂肪含有量を抑えた低カロリー食品の開発において,通常の食品と同等の食感を持たせるための開発指針として,トライボロジー測定が有効であるといえる.

牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳のストライベックカーブ

図5 牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳のストライベックカーブ

3.レオロジー特性とトライボロジー特性

 図3図5から,粘度測定結果,トライボロジー測定結果間に相関は見られなかった.

 粘度測定では,口腔内や嚥下時におけるせん断速度範囲において,サンプル間の粘度の順位は変動せず,粘度間の差異にも大きな変動なはい.一方で,トライボロジー測定においては,すべり速度によってサンプル間の摩擦係数の差異が大きく変動する.

 図6に示すように,ストライベックカーブは,(1)2接触面が動き出す境界潤滑領域,(2)2面の接触面積が少なくなっている混合潤滑領域,(3)2面の接触がなくなる流体潤滑領域に分けられる.上記の(3)流体潤滑領域における摩擦抵抗は2面間の流体に依存するため,摩擦係数は流体の粘度に依存するといわれている.図5図6から,本稿で紹介した事例では,すべり速度1[m/s]以下の範囲においては,各サンプルとも流体潤滑になっていないと考えられる.

ストライベックカーブの概要

図6 ストライベックカーブの概要

 レオロジー測定とトライボロジー測定では対象としている力学物性が異なっており,両測定間で相関が得られなかったことから,異なる力学物性を定量化することができたといえる.

 実際の食品の食感設計,開発においては,測定結果のうち,どの部分が,どのような食感,おいしさと相関するのかを調査する必要があるが,トライボロジー測定を有効活用することで,これまでのレオロジー測定だけでは記述できなかった食感を定量化できるといえる.

 おいしさにおいて食感は非常に重要なファクターである.機能栄養食品等の開発において,食感を適切に測定,制御することができれば,より消費者に受け入れられやすい食品を,効率的に開発することができる.

おわりに

 食品の食感の定量化の例として,レオロジー測定およびトライボロジー測定による,牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳の測定例を紹介した.二つの測定では,定量化の対象とする食感の内容が異なるといわれており,本稿の測定結果も実際に異なった,また,結果は異なれど,牛乳,無脂肪牛乳,調整豆乳間のわずかな差の差別化については,どちらの測定手法でも達成できていた.以上の結果から,食感の定量化におけるレオロジー,トライボロジーの有効性を示すことができた.

 食品のトライボロジーは比較的新しく,まだまだ研究が進められている分野ではあるが,レオロジーと併せて,トライボロジーを有効活用していくことで,これまでにない食品設計,開発ができると考えられる.本稿が,今後の研究開発および品質管理基準の向上の一助となれば幸いである.

 
<参考文献>
*1 松本・松元:食べ物の味―その評価に関わる要因―,調理科学,10巻,2号(1977)p.46
*2 西成・中沢・勝田・戸田:新食感事典,サイエンスフォーラム
*3 S. Giasson et al.:Thin Film Morphology and Tribology Study of Mayonnaise, J. of Food Sci.,vol.62,No.4(1997)p.640-652
*4 G. Luengo et al.:Thin Film Rheology and Tribology of Chocolate, J. of Food Sci.,vol.62,No.4(1997)p.767-812
*5 F. Shama, C. Parkinson and P. Sherman:Identification of stimuli controlling the sensory evaluation of viscosity. I. Non-oral methods, J. Texture Stud., vol.4(1973)p.102-110
*6 F. Shama and P. Sherman,:Identification of stimuli controlling the sensory evaluation of viscosity II. Oral methods, J. Texture Stud., 4(1973)p.111-118
*7 外山,竹端,高見,村尾,金,清水,藤岡,音無:トロミ調整食品「トロメイク」で粘性を調整したバリウム製剤の物性評価,第10回日本摂食嚥下リハビリテーション学会事後抄録,I-P1-16(2004)
*8 M. E. Malone et al.:Oral behaviour of food hydrocolloids and emulsions. Part 1. Lubrication and deposition considerations, Food Hydrocolloids, vol.17(2003)p.763-773
*9 S. Prakash et al.:Applications of tribology in studying food oral processing and texture perception, Food Research International,vol.54(2013)p.1627-1635
*10 H. Ranc, C. Servais et al.:Effect of Surface on frictional behaviour of a tongue/palate tribological system, Tribology International, vol.39(2006)p.1518-1526
*11 N. Selway et al.:Insights into the dynamics of oral lubrication and mouthfeel using soft tribology:Differentiating semi-fluid foods with similar rheology, Food Research International,vol.54(2013)p.423-431


最終更新日:2020年10月15日