食品工場用潤滑油の規格化とメーカーおよびユーザーの動向について | ジュンツウネット21

食品工場用潤滑油の規格化とメーカーおよびユーザーの動向について解説する。

サン・マリンディーゼル株式会社 齋藤 美也子  2004/8

1.2002年NSFセミナー イン東京

このセミナー開催は,我国の「食品工場用潤滑油啓蒙運動」の第一歩であった,と当時世話人として本業そっちのけで走り回った当人は現在でもそのように自負しております。

当時,諸先輩の中には,励ましやら「失敗するからやめたほうが良い」等それぞれの立場でのご忠告を頂きました。

しかし,実際は予定人員をオーバーする出席者に会場は熱気を帯び(7月なので暑いのは当然ですが),大盛会でした。セミナー後の懇親会でも,日ごろのライバル会社も,和気藹々の雰囲気で歓談したものでした。

それから2年,それぞれの業界はどのように動いているかについて述べてみたいと思います。

2.国内メーカーのNSF登録とその波紋

NSF以前の1967年から1998年までの31年間(USDA.)米国農務省が担当してきた食品製造にかかわる工場で使用する,食材と人間以外のすべての化学物質の安全性を規定した,通称Chemical Compound Listへの登録申請は,米国法人に限定されていると長年我国では理解されていました。

現に,日本企業でも過去に,米国現地法人を創り,OEM製品を自社ブランドとして登録申請を行った事例もあります。

1999年第三者機関のNSFがその業務をUSDAから引き継いだ後は,海外メーカーに門戸は開放され,2002年のセミナーで,日本メーカーの申請登録可能が知らされました。

現在(2004年)日本の専業メーカーでは数社がすでに自社製品またはリブランド製品(OEM製品を製造者とともに登録する)の登録を済ませ市場に流通しています。

現在国内で流通している食品工場用潤滑油には次の3種類があります。

(1)1998年以前にUSDAに登録されたがNSFになり再登録されていないもの。(現在は無効,製造者に再登録を要求しないと,自称USDAのH1となる)
(2)1998年以前に登録されNSFになって再登録されているもの。(有効)
(3)1999年以後NSFに登録されたもの。(有効)ただしホワイトブックは2000年より記載

この結果,一部輸入品取り扱いディーラーの中には,(1)に該当する製品を現在も販売している場合があります。この場合は速やかに製造メーカーに再登録をさせるように働きかけをするべきです。

それは,ユーザーに,より安全な情報を提供するのが,食品工場用潤滑油ディーラーの責務のひとつだからです。

3.パイの拡大→ユーザーの育成

前項で述べたように,現在の国内市場では輸入品と国産品が共存流通しています。

最近,輸入品ディーラーの担当者からしばしば聞く話ですが,「我々が苦労して開拓した市場を安価な国産品に侵害されるのでは?」という不安の言葉です。「最後は商品の品質と情報サービスの勝負ですよ」と言っていますが,これではパイの奪い合いに過ぎません。次元の低い争いに費やすエネルギーを,パイの拡大,イコール使用するユーザーの育成に向けることが大切です。

機会あるごとにPRに努めていますが,まだまだ食品工場用潤滑油の存在を知らない食品製造加工企業はたくさんあります。それらの企業をユーザーとして育成し,購入し充分に使いこなす企業に育てることが「食の安全」の一翼を担う食品工場用潤滑油ディーラーのこれまた大切な責務と考えているからです。

業界は違いますが,かつての水産業界は,世界の海に船を出し,大英帝国ではありませんが「日の沈まない時はない」とまで豪語して世界中の魚を取りまくりました。その結果資源の枯渇と沿岸国の規制にあい,世界の海から締め出されかねない状態になりました。

これほどの凄まじさはありませんが,既存の会社のみをターゲットとして売り込み合戦を繰り返す愚挙を改め,水産業界が,採る漁業から育てる漁業(養殖)に転換したように,育てて売り込む「育成営業」「育成販売」とでも言う方式に改めるべきでしょう。

国内の企業数からみて,食品関連企業は,数だけで見れば断トツの企業数です。それらをすべて顧客ユーザーに育てることも夢ではありません。企業によっては,それほど高品位のものを必要としない業態もあり,また,極限状態で機械を運転する場合は,より高品位のものを要求されます。「育成営業」「育成販売」から見えてくることは業態別の需要と供給が自然とでき,潤滑油ディーラーも無理のない棲み分けができるようになるということです。

そこで,その夢を実現するためのツールとして,HACCPやISOについて充分な知識と理解が必要になってきます。

4.HACCP+ISO9001=ISO22000

HACCPについては,すでにご承知でしょうが,NASAの宇宙食の開発から発した食品衛生管理手法で,ビールや飲料業のような装置産業的な企業から,お弁当や惣菜,地方の農協婦人部の手造り品まで導入されています。

HACCPが,製品の安全と品質を確保する「製造現場」での手法なら,ISO9001は,現場での作業をチェックし,管理や監視,監査を行う「マネジメント」なのです。

本来,製造現場で実施していることと,チェックする機能,すなわち,マネジメントが一体化して初めて完成されるのであって,今回その両者が一体化してISO22000となることは,現実に即した必然的な成り行きといえます。

ただし,現在ISOで討議されていますが,まだまだ時間がかかり,多分2005年以後の正式発行と言われています。

ところで,HACCPで最も恐れられている事故は食品への異物混入です。

最近でも,加工食品から人間の指が出たり菓子パンから金属片が出た等の,新聞TV報道があります。これらは食品メーカーにとっては致命傷にもなる大事故ですが,その異物混入事故の第4位に,なんと潤滑油の混入があります。

潤滑油ではなく熱媒体油でしたが,日本では過去に,「カネミ油症」という大事故を経験しています。

現在,当時の被害者の孫の代になっていますが未だにその被害の後遺症は続いているという恐ろしい,痛ましい事故でした。

海外でも,類似の事故は数多くあり,何億,何十億という訴訟による賠償金または示談金を企業は払い,被害者は後遺症に悩まされるという悲劇が起こっています。

ところが前述のHACCPでも,その基本となる食品衛生の一般的原則でも,潤滑油の文字は見当たりません。

現実に世界各地で事故が発生しているのになぜ?

その理由は次のCodex委員会の項でお話いたします。

5.Codex委員会とは?

Codex委員会とは,1962年にFAO(国連食料農業機構)とWHO(世界保健機構)によって設立され,語源はラテン語で「食品基準」を意味する世界的な組織です。

1999年のデータによると加盟国は164ヵ国にのぼり,会の目的は『「消費者の健康を守る」ことですが,発展途上国では,各国が独自の基準を定めるのは困難であるから世界共通の基準を作り,食品の流通と貿易の公正化を図ろう』というものである。(Codex委員会HPより)

さて,この委員会の作成した「食品衛生の一般的原則に関する規則」というものがあります。

これは,前述のHACCPの土台となる重要な規則で,第1項から第10項まで細部にわたって衛生管理について記述されていますが,そこに「潤滑油」の文字は全く発見されません,あえて関係付けるとすると次の項目になります。

5-2 衛生管理システムのキーポイント
5-2-5 物理的及び化学的汚染

この項目を訳したものは,たった数行です。「システムは機械からのガラスや金属片,埃,有害なガス及び望ましくない化学物質のような異物による食品汚染を防止するように設定されなければならない。製造加工において,安定な検出装置またはスクリーニング装置を必要な箇所で使用しなければならない」で終わっています。

現在,食品製造加工で機械設備を使用しない例はまずないといってよいでしょうし,機械には潤滑油が不可欠です。

Codex委員会の説によると,機械の運転時には,ガラスや金属片は排出されても,潤滑油やグリスは漏れたり垂れたりは絶対にしないようです。

このことは,機械はどんな小さな機構でも潤滑油なしには運転できない事実を,全く知らない人たちによって作られた規則としかいえません。

皮肉をこめて解釈すれば「潤滑油を使わずに運転した機械から,摩耗した金属片が落下して食品に混入しないように金属の検出装置を使用しなければならない」という意味かもしれませんが。

次に,委員会では施設の保守管理についても述べています。

6 施設:保守管理及び衛生
 食品を汚染する原因になるような食品危害 鼠族,昆虫及びその他の要因の連続的且つ効果的管理を促進すること。
6-1-1 一般的
 金属片,各種破片,化学薬品などの食品汚染を防止する。

つまり,この委員会での食品汚染の定義は「洗ったり,加熱したり,PHの調整を行ったり,ネズミ捕りや防虫網,金属探知機を取り付ければ防止できる」範囲で留まっているのです。

機械の運転中や,保守点検の際にでも混入した,目視では判別できない潤滑油やグリスについて全く言及していません。

一般潤滑油の中には,一部発がん性物質の添加も許容されている事実と,そのような製品が現在流通しているのを,知らないのか,または,面倒なことは避けているのか不明ですが,「消費者の健康を守る」のが目的なら先進国での潤滑油被害が,何時途上国への被害の輸出に変貌するか解らない危険のある,潤滑油の問題を避けているCodex委員会には一言申し上げたい気持ちです。

もし「カネミの油が輸出されていたら?」

6.今後のビジョン(研究部会の立ち上げ)

今年の10月を目標に,現在トライボロジー学会に第3部会(一番小さな部会)の立ち上げに努力しています。

メンバーは,食品工場用潤滑油にかかわりのある方または,興味のある方なら個人,団体,企業を問わず,何方でも大歓迎です。

「集まって何をするの?」とのご質問を受けますが,前述のCodex委員会に物申すでもよろしいですし,「育成営業」「育成販売」に対するご意見,賛成反対,何でも話題は集まった人の数だけ出てくるはずです。

詳細は下記のHPに9月に発表いたします。また「潤滑経済」編集部にもご協力戴いておりますので,9月以後は両方でお受けいたします。

多数のご参集を期待いたします。

  http://www.sunmari.com/

 

<参考文献>
* Codex委員会編,食品衛生の一般的原則に関する規則(Code of Practice:General Principles of Food Hygiene) CAC/RCP Rev.3 (1997),雑誌アイソムズ2004年2月号
* (株)フーズデザイン 代表 加藤光夫氏
* Codex委員会のホームページより転載

 

最終更新日:2017年11月10日