自動車用ガソリンエンジン油の技術動向と規格について | ジュンツウネット21

新日本石油株式会社 佐光 佳仁  2010/1

はじめに

地球温暖化防止は世界的な課題であり,温室効果ガスの削減のため自動車の燃費規制を強化する動きが日本や欧州,北米などでとられており,各地区ともに達成できない場合は自動車メーカーに罰則を与える厳しい措置となっている。現在,自動車メーカーでは燃費の向上が最優先課題となっており,潤滑油にも省燃費性能の強化が求められている。ここではガソリンエンジン油における省燃費技術の動向について述べるとともに2010年秋に新しく制定されるガソリンエンジン油の規格について紹介する。

1. 自動車を取り巻く環境について

温室効果ガスの一つである二酸化炭素の排出量については,京都議定書(COP3)で2008年~2012年の間に段階的に1990年対比6%の削減が宣言され,その後の洞爺湖サミットでは2050年までに世界全体の排出の少なくとも50%削減する目標が掲げられた。この目標達成のための政策として,改正省エネ法,グリーン税制などが挙げられる。一方,自動車メーカーにはトップランナー方式で燃費の目標値が決められ,罰則規定を伴う内容となっている(図1参照)。

世界的な自動車の燃費規制の動き *燃費:運転モード,規定方法が異なるため概算
  図1 世界的な自動車の燃費規制の動き

また,我が国では,新車購入時のグリーン税制とともにエコカー購入補助も導入されたことから,燃費性能に優れた自動車が販売車種の上位を占めるようになってきている。

2. エンジン油に対する要求性能とその対策

自動車メーカーは,課せられた燃費目標の達成のためにあらゆる対策を講じ,かつ各部品メーカーと様々な共同開発を進めている。主には排出ガスの浄化,エンジン内部のフリクション低減等であるが,これらの対策についてはエンジン油の基本性能に加えて以下の3点が重要である。

1)低エミッション対策

自動車には排出ガスに含まれる環境負荷物質(NOx,HC,CO)を低減させるために,三元触媒に代表される後処理装置が装着されている。

後処理装置の性能を維持するためには触媒の機能が持続することが重要である。触媒の寿命が低下するのはエンジン油添加剤に含まれるリン(P)および硫黄(S)による被毒のためである。このため,API規格ではPやSの含有率の上限を定めており,一層の低減が望まれている。

PやSは,酸化防止性や耐摩耗性を付与する添加剤に含まれており,これを低減する場合は,他の添加剤による機能の補強が必要となる。

2)長寿命対策

長寿命は省資源と廃油量削減の観点から重要な性能である。現在,国内に流通するガソリンはハイオク,レギュラーともにサルファーフリー(10ppm以下)であり,燃料中の硫黄分に起因するエンジン油の劣化は大幅に低減された。しかし,エンジン油に使用する基油と添加剤に含まれる硫黄分が,寿命に影響する結果となっている。

今後,さらなる寿命延長を達成するためには,新規添加剤の開発や高度精製基油の開発などの検討が必要である。

3)省燃費対策

前述したとおり,自動車メーカーの最優先課題は二酸化炭素排出量の削減,すなわち省燃費性能の向上である。エンジンの構成部品の一つであるエンジン油にも,これまで以上に省燃費性能が求められている。

燃費を向上させるためのエンジン油の技術的ポイントについて下記のとおり整理した。

(1)撹拌抵抗の低減
 潤滑油の粘度の高低は温度に依存する。温度の低い環境において潤滑油は粘度が高くなり,温度の高い環境において粘度は低くなることから,エンジン内に充填されたエンジン油は油温が低い場合には流体抵抗が増大してエンジンの効率が低下する。つまり,流体潤滑領域においては粘度の低い方が機械効率的に有利であり,燃費が向上することとなる。

ただし,低温時の粘度を低く抑えるために単純に粘度を下げただけでは,高温時に摺動部の油膜が確保できないことになる。このため,最高到達油温における粘度を機械が損傷しない粘度以上となるように調整した高粘度指数エンジン油が必要である。

(2)摩擦の低減
 高温時にはエンジン油の粘度が低くなることから,潤滑条件の厳しい動弁系では油膜強度不足による金属同士の直接接触が発生する場合がある。金属接触が発生する潤滑領域では摩擦が増加し燃費を悪化させるため,摩擦を低減する対策が必要となる。主な対策としては,添加剤(摩擦調整剤;FM)皮膜により金属接触を回避させ,摩擦を低減させる手法がある。

FMとしては,エステル系やアミン系のFMが広く使われてきたが,一層の摩擦低減が求められる昨今,特に日本では有機モリブデン(Mo)系FMが採用されている。

3. エンジン油の規格動向

現在,API(米国石油協会)とILSAC(日米の自動車工業会で組織する「潤滑油国際基準化及び認定委員会」)において現行規格(API SMおよびILSAC GF-4)に次ぐ新しい規格の制定について協議がなされており,その概要を以下にまとめた。なお,記載した規格の内容は執筆時におけるドラフトであることをご了承いただきたい。

1)規格の変遷

API SG以降は,酸化安定性,耐摩耗性,低リン,省燃費性能とその持続性について見直しが行われてきた。規格の改訂が進むにつれて要求は厳しくなり,エンジン油性能の向上が図られてきた(図2参照)。特筆すべきは,排出ガス後処理装置への対策として,リンの含有量とオイルの蒸発性が厳しく規定されている点である。

ガソリンエンジンオイルの規格動向

図2 ガソリンエンジンオイルの規格動向

2)ILSAC GF-5規格の特徴について

性能比較(GF-2,GF-3,GF-4,GF-5)

図3 性能比較(GF-2,GF-3,GF-4,GF-5)

現在,GF-5は各要求性能の目標値について議論されている状況である。GF-5以前の規格と比較し,どの性能が強化されようとしているかを図3に示した。燃費以外に強化される性能は,スラッジコントロール,ピストン清浄性,酸化安定性,触媒被毒対策であり,GF-5規格の主な狙いとしては次の3点が挙げられる。

(1)ロバスト性の強化
 市場におけるロバスト性向上を目的に,主に清浄性を中心とした性能の強化が行われる。高温デポジットの生成についてTEOST33C試験法を新たに導入(0W20粘度グレード以外)し厳しい試験法とした。規格値は最大30mgとすることが検討されている。

また,ピストンデポジット評価法であるSeq. III G試験の規格値(WPD)が3.5以上から4.0以上へ強化される見込みである。

(2)排ガス適合性の強化
 リンの含有量はGF-4同等(最大0.08mass%)とするが,リンの蒸発性を新たに規定した。リンの蒸発量(減少量)の目標値を11%未満,つまり残存量を89%以上と規定している。

また,硫黄含有量は,0W,5Wマルチグレード油で0.5%以下とGF-4と変更はないが,10W-30などの高粘度グレードでは0.7mass%以下から0.6mass%以下と厳しくしている。

なお,オイルの蒸発性についてはNOACKで規定し,GF-4と同等の性能(最大15mass%)を要求している。

(3)省燃費性能の強化
 燃費を評価するエンジン試験法が大幅に改訂される。GF-4の燃費評価試験法であるSeq. VI Bではフォード製エンジンが採用されていたが,データのバラツキが大きいことが問題であったため,GF-5ではGM製2008年型3.6L V6 LY7エンジンに変更となった。新試験法(Seq. VI D)ではより実際の運行状態を反映させるため,試験条件(回転数,負荷,出力,油温,水温)を変更して境界および混合潤滑領域となる高温・低回転条件の割合が増えたことが特徴である。この変更によりエンジン油の違いによる燃費のバラツキが排除され,正しい省燃費性能の把握が可能となる。

4. 今後の課題及び展望

地球温暖化防止に向けてあらゆる企業が取り組む中,自動車から排出される二酸化炭素の排出量削減,すなわち燃費性能の向上のためにエンジンには様々な対策が施されている。

エンジン油もこれまでに高粘度指数基油の採用や,有機モリブデン系の摩擦調整剤を配合することで摩擦を低減して燃費の向上を図ってきたが,今後さらに燃費を向上させるためには既存添加剤の使用だけでは限界があり,新しい添加剤の探索も必要となっている。

新しい技術を探索し組み合わせる研究が今後もますます必要であり,エンジン油は燃費を向上させる重要な部品としての役割がますます高まっていくものと考える。

 

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