生分解性グリースの現状と展望 | ジュンツウネット21

地球環境負荷の軽減を目的とした,『生分解性グリース』の動向,内容成分,及び生分解性試験方法について紹介する。

協同油脂株式会社 佐々木 節夫  2007/6

はじめに

グリースは,半固体状の潤滑剤として,その特徴から,建設機械,農業機械,工作機械,自動車,鉄道車両などの分野に使用されている。また,一般家庭における,家電製品などにも幅広く使用されている。グリースが使用される環境は,多くの場合閉鎖系であり,自然界に及ぼす影響は小さいと考えられるが,事故などで非意図的に環境中に漏れた場合には,環境汚染が懸念される。森林で使うチェーンソーオイル,建設機械の油圧作動油など潤滑油が漏れた場合の環境への影響は大きく,ヨーロッパでは生分解性の潤滑油を使用することが義務付けられている*1。自然環境で使用されるグリースにも生分解性が望まれるようになってきている。

近年,地球環境にかかわる問題が注目を浴び,それを改善するために,多くの法令が制定,施行されてきている*2,*3。

潤滑油,グリースを製造するメーカーには,環境基本法をはじめ,労働安全衛生法,消防法,毒物及び劇物取締法,化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律,特定化学物質排出量管理促進法などがかかわっている。

一方,ユーザーには,労働安全衛生法,悪臭防止法,消防法などがかかわっている。このような法令を遵守し,地球環境を保護することが,現在最大の課題である。

環境法規,公害防止協定などを遵守した製品で,一定の基準を満たした場合には財団法人日本環境協会が発行しているエコマーク認定を取得することが出来る*4。潤滑剤の製品においては,生分解性を有する潤滑油,グリースなどにエコマーク認定がされている。

本稿では,地球環境負荷の軽減を目的とした,『生分解性グリース』の動向,内容成分,及び生分解性試験方法について紹介する。動向については,潤滑油と重複する部分が多いため,合わせて触れることとした。

1. 生分解性潤滑油・グリースの用途・動向

1.1 生分解性とは

生分解とは,有機物が微生物によって無機化(二酸化炭素と水に分解)されることであり,その特性を有するものを生分解性があると表現する。

微生物は,代謝するとき,生体内で好気的に酸化還元反応を行って,有機物を二酸化炭素と水に完全酸化して遊離エネルギーを放出する*5,*6。こうした“微生物による処理のしやすさ”を生分解性の指標としている。

1.2 生分解性潤滑油・グリースの市場動向

1980年代後半より土壌や湖沼に漏洩した潤滑剤が自然界の食物連鎖の中で二酸化炭素と水に分解され,無害化される「生分解性を有する潤滑剤」の要求が高まってきた。ヨーロッパにおいては,“湖沼地域での,船外機用2サイクルエンジン油,森林で使うチェーンソーオイル,河川で使用する建設機械の油圧作動油には生分解性の潤滑油を使用すること”と行政指導で義務付けている*1。

1990年以降はグリース,油圧作動油などの比較的閉鎖系で用いられる潤滑剤にまで生分解性を有するものを使用する動きが広がってきた。グリースや潤滑油に生分解性を付与することにより系外に漏洩した場合にも,環境への負荷を最小限にとどめることが出来る*7。

しかしながら,国内では生分解性潤滑油,グリースが市販されているものの,使用者に対しての法規制,行政指導がほとんどないこともあって,一般ユーザーに十分普及するには至っていないというのが実情である*8,*9。

1.3 生分解性潤滑油・グリースの技術動向

環境対応型の潤滑油としては,微生物により二酸化炭素と水に分解される生分解性潤滑油が市販されている。潤滑油の生分解性は基油の種類に大きく依存し,これまでの生分解性潤滑油は,菜種油やひまわり油などを精製したものであった。しかし,それらは生分解性の点では優れていたが,潤滑油としての性能は今一歩であった。そこで“生分解性”と“潤滑油としての性能”を両立するものとして,天然油脂を原料に化学合成した脂肪酸エステル系や,ポリエーテル系が使用されている。

しかし,ポリエーテル系の潤滑油は,シール材との相性や鉱油との混合安定性などの問題からその使用量は減少傾向にあり*1,現在では“生分解性”と“潤滑油としての性能”のバランスがとれた脂肪酸エステル系が多く使用されている。脂肪酸エステルの原料となる脂肪酸は,主として植物油から得る。その植物油は,ほぼ100%の生分解率と低価格を併せ持つことから,理想的な基油としてヨーロッパでは広く使用されている。なお,植物油の酸化安定性が劣るなどの短所を補うため,最近,種子の遺伝子組み換え技術により改良された植物油も開発されている*1,*8。

生分解性グリースは建設機械,農業機械のほか,海洋・河川・湖沼周辺で稼働する機械のしゅう動部や,鉄道のポイント部など幅広い個所で適用されている。生分解性の度合は基油の種類に依存すると前述したが,増ちょう剤の種類も考慮する必要がある。図1に各種基油/グリースの生分解度を示す。最近では長寿命,極圧性などに優れた生分解性グリースや,広温度範囲で使用出来る生分解性グリースが市販されている*10。

基油及びグリースの生分解度

図1 基油及びグリースの生分解度

1.4 エコマークの認定基準

グリースが使用される環境は,多くの場合閉鎖系であり,自然界に及ぼす影響は小さいと考えられる。しかし,事故などで非意図的に環境中に漏れる可能性がある。その場合は,自然界に及ぼす影響は非常に大きいものとなりうる。環境に及ぼす影響が大きい潤滑剤として建設機械などで使用する油圧作動油,グリースなどが挙げられる。

グリースを含めた潤滑油で,生分解性が高く,有害物質の排出が少なく,環境負荷の少ない潤滑油にエコマーク認定がされており,それらの商品が広く普及することは意義が大きい。本商品類型では,製造,流通及び使用消費などの面で環境に配慮している生分解性潤滑油を採り上げた。エコマーク認定の基準に関しては,「環境に関する基準」と「品質に関する基準」がある。

「環境に関する基準」には,製造に当たって,“環境法規を遵守していること”,“化学物質の使用が適正に管理されていること”,“PRTR法第一種指定化学物質を処方構成成分として使用している場合は,その旨を報告すること”,“塩素系添加剤を処方構成成分として添加していないこと”,“鉱油を基油として使用している製品は,その鉱油について,OSHA HCS及びEU指令94/69/ECにより,発ガン性と分類されないこと。「原油の常圧蒸留残渣を減圧蒸留して得られたもの,及びそれを精製して得られたもの(ブライトストックを含む)で40℃における動粘度が7mm2/s以上のもの。灯軽油を再蒸留して得られるアルミ圧延油などは除く。また,合成油もこの定義に含めない。」”との記載がある。

また,生分解性の測定方法及び基準もここに記載されている。また,容器・包装に使用されるプラスチック材料は,“ハロゲン系元素で構成される樹脂及び有機ハロゲン化合物を処方構成成分として添加していないこと”との記載がある。生分解性の測定方法については後述する。

グリースの「品質に関する基準」は,“JIS K 2220(グリース)の基準に適合していること”,“上記の規格に該当しない場合には類似の規格と同等の品質を有すること”との記載がある。詳細は日本環境協会の“エコマーク商品類型 No.110「生分解性潤滑油Version 2.3」(2006)”を参照いただきたい*4。

エコマーク

図2 エコマーク

エコマークの認定は財団法人日本環境協会が「環境的により良い商品」に対し実施しているが,国際的な基準との整合性のあるものにすべく1998年7月に大幅に改定された。分類についても,「2サイクルエンジン油」,「油圧作動油」,「潤滑油(含グリース)」の3分類あったものが「生分解性潤滑油」として潤滑油・グリースが一本にまとめられた*11。エコマークは,「ちきゅうにやさしい」の文字の下に地球を抱え込んでいる二本の腕のロゴマークであり,読者の皆様がご存知のとおりである(図2)。ロゴマークの下には簡単な説明をつけることが求められている。例えば,生分解性に優れたグリースは,この部分に「生分解性グリース」と表示することとなった。また,実施した試験により,「OECD 301B試験による」といった標記が必要である*12。

参考までに,エンジンオイル,油圧作動油,潤滑油でエコマーク認定商品は,1998年3月には40品種であったが,2007年5月現在には75品種と増加している(表1)*10,*13。

表1 エコマーク認定商品
類型番号
類型番号類型名
1998年3月商品数
2004年3月商品数
2006年6月商品数
2007年5月商品数
025生分解性2サイクル機関用エンジンオイル
8
(※1)-
(※1)-
(※1)-
046生分解性の油圧作動油
12
(※1)-
(※1)-
(※1)-
047生分解性の潤滑油
20
(※1)-
(※1)-
(※1)-
110生分解性潤滑油
-
62
(※2)-
(※2)-
110生分解性潤滑油 Version2
-
5
74
75
上記中グリース数
14
18
20
21

(※1)1998年6月30日に廃止され,類型番号110に統合された。
(※2)2004年1月9日に廃止され,version2に統合された。

2. 生分解性グリースの成分と生分解性試験方法

2.1 生分解性グリースの成分

生分解性グリースは,一般にはOECD法による生分解度試験で60%以上の生分解度を示すものを言い,基油の種類によりナタネ油,ヒマシ油などを用いた植物油脂系とトリメチロールプロパンエステル,ペンタエリスリトールエステルなどを用いた合成脂肪酸エステル系に大別される。

増ちょう剤には,カルシウム石けん,リチウム石けん,リチウムコンプレックス石けんやウレア,ベントナイトなどが用いられている。グリースの組成は,約80%の基油,5~20%の増ちょう剤,数%以下の添加剤の3成分に大別される。そのため,多くの場合,基油と増ちょう剤の生分解性を確認しておくことで,グリースの生分解性を予測することが出来る*7。

国内においてグリース全需要量約7万トンのうち生分解性グリースは数十トン(0.1%程度)であり,21の銘柄が現在販売されている。なお,植物油脂を基油とする生分解性グリースを従来の鉱油を基油としたグリースと同じような使い方をすると,酸化劣化が著しいということが懸念される。よって,従来のグリースよりも使用温度範囲を低めに設定するなど,熱安定性や酸化安定性に十分配慮した使い方が必要である。

生分解性グリースの使用温度範囲を表2に示す。エステル基油グリースは広温度範囲での使用が可能であるが,植物油系グリースは従来の鉱油系グリースよりも耐熱限界が低いという結果もあり,使用条件に応じたグリースを選定することが必要である*14。

表2 生分解性グリースの使用温度範囲
 
増ちょう剤
基油
低温域(℃)
高温域
常用(℃)
最高(℃)
生分解性グリースリチウム石けん植物油
-20
80
100
特殊カルシウム石けん植物油
-20
80
100
リチウム石けんエステル油
-30
100
130
リチウムコンプレックス石けんエステル油
-30
130
150
汎用グリースリチウム石けん鉱油
-20
100
130

一方,生分解性グリースは,各種ゴム材料への影響も考慮する必要がある。特にエステル系のグリースはNBRに対する影響が大きくニトリル量の違いが硬さ変化,体積変化を大きくし,ゴムを劣化させる場合もあるので注意が必要である。このように基油,増ちょう剤などによる品質,性能に顕著な差がある。こういった面からも,適切な生分解性グリースを選定する必要がある*15。

2.2 生分解性試験方法

i) 生分解性試験方法
 現在,生分解性試験方法としては,OECD301B または301C,あるいはASTM D5864が採用されている。認定基準値はいずれも生分解度が60%以上である。具体的には,生分解性油脂(グリース,潤滑油など)100mgを1リットルの精製水に分散し,そこに微生物源となる活性汚泥を加える。酸素を供給しながら攪拌し,微生物処理を行う。28日後の生物化学的酸素要求量(BOD)を測定し,初期との比較で,生分解度を評価する(OECD 301C)。

ii) 魚毒性試験
 生態系への影響の評価方法として魚類(ヒメダカまたはコイ)による急性毒性試験(OECD 203 あるいはJIS KO1O2)が採用されている*11。

 具体的には,生分解性油脂(グリース,潤滑油など)100mgを1リットルの精製水に分散し,そこにヒメダカ10匹を放ち,常温にて96時間後の生存率で評価する(JIS KO1O2)。

各用途における生分解性グリースの実用化への検討過程の中で,実験室内ではなく実際の芝生への影響を確認する試験を行った結果もあり,実際の生態系の中にでも,生分解性の違いが環境に及ぼす影響度を定量的に検証することが出来たとしている。試験グリースAは,ナタネ油基油/特殊カルシウム石けんグリース(生分解性グリース)であり,試験グリースBは,鉱油基油/リチウム石けんグリース(一般グリース)である。生分解性グリースでは,枯れた芝生は2ヵ月で全体が再生するのに対し,一般グリースでは,4ヵ月を要する。芝生上のグリース及び,芝生の状態を図3に示す*11。実際にはゴルフ場においては,芝生外観を損なわないために,芝生を枯らさない努力がなされている。

 
試験開始時
1ヵ月後
 
試験グリースA
ナタネ油基油
特殊カルシウム石けんグリース
試験開始時/試験グリースA/30cm四方の芝生にグリースを筋状に5g散布
30cm四方の芝生にグリースを筋状に5g散布
1ヵ月後/試験グリースA2ヵ月後に全体が再生。
試験グリースB
鉱油基油
リチウム石けんグリース
試験開始時/試験グリースB/30cm四方の芝生にグリースを筋状に5g散布
30cm四方の芝生にグリースを筋状に5g散布
1ヵ月後/試験グリースB2ヵ月では枯れた部分が残存。4ヵ月後に全体が再生。

図3 芝生に対する影響

3. 生分解性グリース今後の展望

生分解性潤滑油のエコマーク認定商品のブランド数については前述したが,ここ数年大きな伸びはなく,その中の生分解性グリースについてもまた同様である。

昨今,地球温暖化防止対策の一つとして,生分解性プラスチックの話題が取り上げられている。これは,リサイクル,あるいはリユース,リデュース出来ないものを処理する際,燃焼処理をすることになる。その結果,二酸化炭素が発生し,地球温暖化につながるため,生分解性プラスチックという考えが出てきたと思われる。実際には,生分解性プラスチックも,生分解されるときに二酸化炭素が発生するが,これは,大気中の絶対量を増やすものではないため対象とならない*16。その理由は,植物が大気中から光合成によって,二酸化炭素を取り込み,澱粉を作り出す。生分解性プラスチックの多くは植物の澱粉が原料となっているため,たとえ分解し二酸化炭素となって放出されても,もとは大気中に存在していたものであるためということである。すなわち,化石燃料などを燃焼して発生する二酸化炭素とは違うという位置付けのようである。この流れの概略を図4に示す。一方,大気中に放出される二酸化炭素と地球温暖化との関連は少ないという報告もある*17が,今後の更なる検証が待たれる。

有機物の生分解とその循環

図4 有機物の生分解とその循環

生分解性プラスチックは,園芸用の育苗ポットなどとして,一般家庭にまで入り込むため,一般消費者に対するエコマークの認知度も向上すると思われる。このような,一見関連がないと思われる業界の動きから発展して,生分解性潤滑油,生分解性グリースの使用率増加を期待したいところである。

おわりに

日本国内で生分解性グリースが取り上げられるようになって20年近い歳月が経過しているが,エコマーク認証を受けているグリースは,ここ数年間ほとんど増加していない。これは,グリースを取り巻く環境にかかわる法規制が充実してきたためと思われる。しかし,いかなる使用環境であっても,使用後のグリースが系外に排出,あるいは漏洩など全くしないわけではない。地球環境の保護を意識すると,グリースが系外に排出,あるいは漏洩した場合を想定し,生分解性を有したグリースを使用することが地球環境保護へ貢献することの一つと考えられる。

 

<参考文献>
*1 小西徹:月刊トライボロジ,145(1999)25
*2 環境庁企画調整局企画調整課:環境基本法の解説(1994) 55
*3 化学物質等法規制便覧編集委員会:実務者のための化学物質等法規制便覧《改定第5版》(2005)73
*4 日本環境協会:エコマーク商品類型 No.110「生分解性潤滑油Version 2.3」(2006)
*5 都留信也,須藤隆一,中山大樹:環境と微生物(1979)3
*6 山口辰良:一般微生物学(1968)299
*7 木村浩:トライボロジスト,45,11(2000)795
*8 船井総合研究所:http://www.eco-webnet.com/info01_seibunkai.html
*9 小宮広志:潤滑経済,449,7(2003)30
*10 月刊トライボロジ編集部:月刊トライボロジ,174(2000)24
*11 持田康:潤滑経済,411,6,(2000)17
*12 渡辺誠一:潤滑経済,393,12,(1998)19
*13 財団法人 日本環境協会 エコマーク事務局:https://www.ecomark.jp/nintei/
*14 木村浩:月刊トライボロジ,9(1993)30
*15 社団法人 日本建設機械化協会 機械部会:http://www.jcmanet.or.jp/kikaibukai/yushi/e20.html
*16 社団法人 日本有機資源協会:http://www.jora.jp/index.html
*17 河宮未知生:天気,6(2005)71

 

こちらもどうぞ