食品工場用潤滑剤NSFガイドラインの和訳掲載について | ジュンツウネット21

NSFガイドラインの和訳について解説する。また,NSFガイドライン(抜粋)「潤滑剤」の項の原文と和訳を記す。

サン・マリンディーゼル株式会社 齋藤 美也子  2007/5

1. NSFガイドラインの和訳に当たって

2005年に「食品工場用潤滑剤(F.G.L)研究会」が日本トライボロジー学会の第3種研究会として立ち上がって2年が経過した。

30数人のメンバーは,学校,メーカー,輸入会社,原料メーカーなど多士済々の集まりだが,食品工場用潤滑油(F.G.L)の普及に「情熱を持っている」という一点での結束は強く,1期目2ヵ年を経過し,2期目に入っている。

F.G.L研究会には2つのワーキンググループ(WG)が設置され,WG 1,WG 2の2つのグループに分かれている。

WG 1は,主にF.G.Lの基準である米国のUSDAから引き継いだ,第三者機関のNSFと連帯し,海外の動向やNSFの発行する文書を正確に日本国内に浸透させるのが目的で,F.G.Lを日本に定着させるための理論的役目を果たし,WG 2は,現在国内に流通されているF.G.Lに対する国内食品関連企業の意識調査と,使用状況の把握を第1期で着手した。

WG 1による,NSF文書の和文訳が完成し,中立的な立場を堅持した訳文との自負をもち,F.G.L研究会の成果の一部として公表することとなった。この成果は各位の努力によるもので,微力な主査として心からの感謝と第2期もF.G.Lの啓蒙と,社会的認知のため御協力をお願いする。

NSF文書和文訳の原文を,引用文として併記掲載する。なお,この度の和訳は,直訳文と言うよりも英語の分からない人にも正しく意味が理解出来るように内容を吟味し,日本語で表現し直した文書である。NSFの意味を正しく認識していただき,「食品工場用潤滑剤」が食品業界で今後一層ご活用いただける一助になれば幸いである。

2. 正しい認識のすすめ

食品工場用潤滑剤(食品機械用潤滑剤)に関する規制や法律が日本にはないため,NSFへの登録が,現在では一種の「安全」へのお墨付きのような状態になっている。その結果「安全」らしいという部分だけが一人歩きをしてしまい,潤滑剤メーカーもユーザー側も本来のNSFの意味を明確に理解していないところがある。

今日,BSEを引き合いに出すまでもなく,食材・食品は言うに及ばず,家庭電化製品や自動車の部材・原材料についても厳しい規制が,国境を越えて行われるようになった。このような環境下で,潤滑油業界ではこの1年で様々なメーカーが食品機械用の潤滑剤に参入し,また様々な製品が市場に出て来た。NSFの浸透という面では多くのメーカーが切磋琢磨しながら,食品・飲料の市場,各種機械装置メーカーへ普及を図っていくことは,私どもの望むところである。しかしながら,一部の潤滑剤メーカーの誇大ともいえる宣伝や解説,実際に使用するユーザー(食品機器メーカーも含む)側にも,認識の違いによる過度の期待と過信が見られる場合があるようだ。

PL法の表示面からも,誤解を生じるような表現は慎むべきだと考えている。万が一触れても「安全」という表現は正しくない。

「食べても『安全』です」という誇大広告が以前あったが,このような表現は論外である。また,NSFに「認可」,「承認」されているという表現も正しくない。「Registration」プログラムであるから,「登録」されているという意味であって,ガイドラインに沿った製品であるので,リストに登録されているということである。

3. NSFガイドライン原文・和訳

NSFガイドライン(抜粋)「潤滑剤」の項の原文と和訳を記す。(下方)

4. 補足説明

カテゴリーごとの補足説明を付け加える。

4.1 NSF H1

H1などのカテゴリーは「Nonfood Compounds(非食品化合物)の登録プログラム」に含まれるものである。従って,登録されている製品は「食品」ではなく,食品に混入しても問題ない,安全だということは記されていない。使用量は必要最低限にし,錆を防ぐために塗布した場合は,機械運転前に洗うなどして除去するように指示されている。

4.2 NSF H2

食品に接触する可能性のない箇所で使用する,といっても何でも良いというわけではない。ガイドラインの別の項,5.1項にある重金属や発がん性物質,細胞に突然変異を起こす物質など,人体に危害を与える原料や,異臭のある原料は使用することは出来ない。

4.3 NSF H3

食肉などを吊るすフックやレールに引っ掛けるトロリーに塗布するオイルに限定されている。

5. おわりに

HACCPの導入により,食品製造現場では,「H1」潤滑剤であれ,サラダオイルであれ,カビであれ,原料として表示されていないものが混入した場合は全て「異物混入」に間違いはない。

会社によって危機管理の評価は異なるが,一般的に全品回収が通例であると判断される。

完全隔離の製造ラインであれば,管理ポイントにする必要もなく,潤滑剤も何でも良いということもいえる。

しかし,接触の可能性が否定出来ないと評価されるポイントであれば,管理方法や基準が定められ,危険度の数値化などで安全性を評価する観点から「食品工場用潤滑剤」が必要になる。

ただし,これらは企業が自社製品の安全に対して,どのような設計思想を保持しているかと言うことにすべてはかかわってくると思われる。

NSFガイドライン 原文

5.9.Lubricants

These products are used on food processing equipment as a protective anti-rust film, as release agents on gaskets or seals of tank closures, and as lubricants for machine parts and equipment.

5.9.1 Lubricants with incidental contact (Category Code H1)

Preparations permitted for use as lubricants and anti-rust agents, or as release agents on gaskets or seals of tank closures, where there is possibility of incidental food contact must be formulated in compliance with CFR, Title 21, Section 178.3570 and other sections referenced therein. The amount used should be the minimum required to accomplish the required technical effect on the equipment so treated. When a product is used as an anti-rust film, it shall be removed by washing or wiping before putting the equipment back into service.

5.9.2 Lubricants with no food contact (Category Code H2)

These products are used on equipment and machine parts in locations where there is no possibility of the lubricant or lubricated part contacting edible products. There is not a specific list of substances that may be used as lubricants where there is no possibility of food contact. Most substances generally used for the purpose in industry would be acceptable. Substances that are categorically unacceptable for such use are listed among the substances in Part 5.1 of these guidelines. There may be other substances that are not acceptable because of unfavorable toxicology or other considerations. Therefore, each preparation will be evaluated on its own merit.

5.9.3 Soluble oils (Category Code H3)

These products are used to prevent rust on hooks, trolleys and similar equipment. Treated equipment which contacts edible products shall be cleaned by washing or wiping before putting the equipment back into service. Products may be composed of any of the following:

  • Edible oils (corn oil, cottonseed oil, soybean oil) complying with 21 CFR, Section 172.860;
  • Mineral oil complying with 21 CFR Section 172.878;
  • GRAS substances complying with 21 CFR Parts 182 (multi-purpose only) or 184.

5.9.4 Ingredients for use in lubricants (Category Code HX-1, HX-2, HX-3)

Chemicals or mixtures may be reviewed for use as ingredients in lubricants. Due to the nature of the some ingredients, they may not be acceptable for use in some types of products. The limitations associated with the NSF Registered ingredient can be found within the NSF Registration letter.Formulations containing NSF Registered ingredients are not considered NSF Registered products. A separate application is required for each final product. Formulators using NSF Registered ingredients need only identify the trade name, NSF Registration number, and concentration within the finished product on the application form.

HX-1:Ingredients for use in H1 lubricants (incidental contact)
HX-2:Ingredients for use in H2 lubricants (nonfood contact)
HX-3:Ingredients for use in H3 lubricants (soluble oils)

NSFガイドライン 和訳

5.9 潤滑剤

ここで言う製品とは食品加工機器に対して,防錆用,またはタンクを密閉するために使用するガスケットやシールの脱着用,あるいは機械部品や機器の潤滑用として使用されるものを指す。

5.9.1 食品と偶発的に接触する可能性のある箇所で使用が認められている潤滑剤(カテゴリーコードH1)

 防錆用,タンクの密閉に使用するガスケットやシールの脱着用,潤滑用などとして,食品と偶発的に接触する可能性のある箇所での使用が認められるためには,CFR21項178.3570節と,その中で参照されている節の内容に従って,配合された製品でなければならない。
 使用量は機器の要求性能を満たす必要最小限でなければならない。
 その製品を防錆用として使用した場合には,機器が運転に入る前に,洗い流すか拭き取らなければならない。

5.9.2 食品に接触する可能性のない箇所で使用する潤滑剤(カテゴリーコードH2)

 ここで示す製品とは,食品に接触する可能性のない箇所で使用する潤滑剤である。
 この潤滑剤に使用する原材料物質のリストは特にない。
 工業用に一般的に使用されている成分は,ガイドラインの5.1項に示されている成分を除き,そのほとんどが使用可能である。
 その他にも,毒性またはその他の理由で使用が認められない物質もある。

5.9.3 ソルブルオイル(カテゴリーコードH3)

 ここで言う「ソルブルオイル」とは,フック,トロリー,それらの類似器具の防錆用に使用される。
 食品に接触する器具に使用した場合は,運転に入る前に洗うか拭き取らなければならない。
 「ソルブルオイル」は下記のもので作られていなければならない。

  • CFR21項172.860節で規定されている食用油(とうもろこし油,綿実油,大豆油)
  • CFR21項172.878節で規定されている鉱油
  • CFR21項182(マルチパーパスのみ)または184節で規定されたGRAS物質

5.9.4 潤滑剤に使用される原料

内容略

 

<関連節一覧>
*1 CFR21項178.3570節
*2 ガイドライン 5.1項
 5.1 項「一般的要求項目」,非食品コンパウンドは次に示す重金属を故意に含んでいてはならない。
 〇アンチモン・砒素・カドミウム・鉛・水銀・セレン
 NSFによって分類されているその他の原料
 〇発ガン性物質・変異原性物質・催奇性物質・無機酸・臭いの強い物質
 これらはNSFの裁量によって排除される物質である。考慮されるべき要因としては,当該原料の重量パーセントや,使おうとされる製品,暴露に関わる危険性の可能性などである。
*3 CFR21項172.860節
 5章は食品でないコンパウンド(非食品コンパウンド)の製品仕様についての要求条件
*4 CFR21項172.878節
*5 CFR21項182節または184節
*6 GRAS物質 一般的に安全とみなされる物質

 

最終更新日:2017年11月10日