化学物質管理のためのシステムとソフトウェアの紹介 | ジュンツウネット21

化学物質の自主管理と化管法,化学物質のリスク,GHSなどについて解説し,MSDS作成ソフトウェアを紹介する。

株式会社シスミックインテグレーション 有尾 雅之  2011/10

はじめに

近年,企業にとって環境問題への取り組みは重要テーマになっている。土壌汚染対策洩れにより,膨大な浄化費用や損害賠償の負担を強いられるケースが発生している。

環境関係の法令も年々厳しくなっており,違反すると罰金や操業停止などを受けることもある。

このような環境汚染による経営リスクに対応するためには,法規制の遵守だけでは不十分であり,化学物質に対して各企業が自主的に管理する機能が必要となる。

1. 化学物質の自主管理と化管法

化学物質規制関連には化学物質排出把握管理促進法(化管法)がある。

化管法はPRTR制度とMSDS制度を柱とし,事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し,環境保全上の支障を未然に防止することを目的とした法律である。

PRTR制度とは

PRTR制度とは,人の環境や生態系に有害なおそれのある化学物質について,事業所からの環境(大気,水,土壌)への排出量および廃棄物に含まれての事業所外への移動量を,事業者が自ら把握し国に対して届け出るとともに,国は届出データや推計に基づき,排出量・移動量を集計し公表する制度で,2001年4月から実施されている。

PRTR制度の仕組み

図1 PRTR制度の仕組み

MSDS制度とは

MSDS制度とは,事業者による化学物質の適切な管理の改善を促進するため,対象化学物質またはそれを含有する製品を他の事業者に譲渡または提供する際には,その化学物質の特性および取り扱いに関する情報(MSDS:化学物質等安全データシート)を事前に提供することを義務づける制度である。

取引先の事業者からMSDSの提供を受けることにより,事業者は自らが使用する化学物質について必要な情報を入手し,化学物質の適切な管理に役立てることをねらいとしている。

事業者が自ら取り扱う化学物質を適切に管理するためには,原材料や資材などの有害性や取り扱い上の注意等について把握しなければならない。

このため,化管法では,対象化学物質(またはそれを含有する製品)を事業者間で取引する際,化学物質等の譲渡・提供事業者に対し,その性状および取り扱いに関する情報(MSDS)の提供を義務づけている(法第14条~16条)。

また,労働安全衛生法および毒物および劇物取締法(ともに厚生労働省の所管)においてもMSDSの提供に係る規定があり,同様の制度が実施されている。

各事業者は管理システムの構築により,効果的な化学物質管理を行うことが可能となる。

製品の輸入・製造・加工・流通の各段階において,それぞれの事業者がMSDSの提供を行う。

MSDSの情報提供の例

図2 MSDSの情報提供の例

2. 化学物質のリスクについて

化学物質のリスクは,化学物質の「有害性」および「暴露量」によって決まる。化学物質の「有害性」については,使用量あるいは使用期間により影響度は高まる。

リスク=「有害性」×「暴露量」
例:有害性が低くても,大量にあるいは長期にわたり化学物質を吸収,摂取する場合,影響度は高くなる。

化学物質は一般的に,工場や化学製品を通じて環境中へと排出される。排出された化学物質は,大気,土壌,水域中を移動し拡散する。移動・拡散の工程で分解したり,別の化学物質へと変化したりと,その挙動は様々である。分解性の高いものと分解されにくいものでも大きく異なる。また,私達にとっては,大気,飲料水,食品などを通じて化学物質に暴露される際の蓄積性も問題となる。体内における化学物質の挙動も様々である。

以下のように,化学物質等が環境や生物に及ぼす影響のメカニズムは様々である。このため,適切な化学物質のリスク管理が必要となる。

(1)POPsについて:残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants)

POPsとは,難分解性,高蓄積性,長距離移動性,有害性(人の健康・生態系)を持つ物質のことを指す。ダイオキシン類,ポリ塩化ビフェニル(PCB),DDTといった化学物質が挙げられる。

POPsによる地球規模の汚染が懸念され,「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が2004年5月に発効された。毒性,難分解性,生物蓄積性などを有する12種類のPOPsによる地球環境汚染の防止のため,製造・使用の禁止または制限,非意図的生成物質の排出削減,在庫・廃棄物の適正管理および処理,およびこれらの対策に関する国内実施計画の策定などを定めている。

(2)蓄積性について

環境中の化学物質は,大気,飲料水,食物などから人に暴露される。特に,ポリ塩化ビフェニル,DDT,ダイオキシン類といった有機塩素化合物は,生物濃縮しやすいといわれている。食物連鎖を通じて生物濃縮が進んだ結果,摂取する食品中の化学物質が非常に高濃度となり,健康に影響を及ぼすこともある。

(3)体内における化学物質の影響

化学物質は呼吸器,消化管,皮膚などを通じて体内に取り込まれる。毒性がただちに発現するわけではなく,体内で毒性軽減反応が起こる。

例:代謝(化学物質の無毒化等)
  蓄積(脂溶性化学物質を蓄積し,臓器への化学物質濃度を軽減する)
  排泄(尿,糞などによる化学物質の体外への排泄)

化学物質は,ある一定値(閾値)を超えた場合,発現するとされている。

3. GHSについて

GHSとは

様々な化学物質が世界中に流通している中,国際的に調和された化学品の分類・表示方法が必要であるとの認識のもと,2003年7月に「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)」が,国連において採択された。この「世界調和システム(The globally Harmonized System)」の頭文字を取って,一般的には「GHS」と呼ばれている。

GHSは,すべての化学品を対象とし,危険有害性(ハザード)に基づいて分類することを基本的な考え方としている。

GHSでは,「化学物質および混合物の有害性を判定するための基準」と,「絵表示等を含む安全データシート(SDS=MSDS)などによる危険有害性の情報伝達に関する事項」が示されている(図3)。

絵表示の例

図3 絵表示の例

MSDSの具体的な作成方法

MSDSは,国内規格としてJIS Z 7250(2010)*1でその記述内容が標準化されている。このJISに基づくMSDSを提供することで,原則として化管法上の義務を果たすことができることから,経済産業省としては,JIS Z 7250に基づき,MSDSを作成・提供することを推奨している(一部,JISに含まれていない記載事項もあるのでご注意いただきたい)。

4. MSDS作成ソフトウェア

当社では,化管法の柱の1つである「MSDS制度」に着目し,企業で取り扱う化学物質の管理をサポートするツールとして「GHSクリエータ」の提供を2010年10月より開始した。*2

GHSクリエータは,GHS対応MSDS作成でお困りの方,これから作成される方のために有効なツールとしてご利用いただける。以下に製品の特長および導入効果を記述する。

GHSクリエータのコンセプト

(1)実務者向けソフト
 調剤メーカー様との長年のお取引で培われた業務ノウハウを基に開発したシステムである。

(2)データ精度の向上
 お客様が保有される製品,原料,成分データを一元管理し,関連データの更新内容をGHS分類判定結果へ正確に反映し,データ改訂時のミスを防止できる。

(3)業務の効率化
 お客様が保有される混合物(製品)のGHS判定がボタン1つでできる。また,GHS対応MSDS(日本語版・外国語版)を作成・改訂できる。

(4)充実した業務支援
 NITE(製品評価技術基盤機構)のGHS判定データを搭載しており,お客様が成分データを登録する必要がない。夜間にGHS分類判定(一括処理)を行い,翌日に最新情報が利用できる。

機能概要(図4

(1)混合物GHS判定機能

  • お客様が保有される混合物(製品)のGHS判定ができる。

(2)管理機能

  • GHS対応MSDS(日本語版・外国語版)を作成・改訂できる。
  • 取引先別のMSDS配布履歴を管理できる。

(3)データベース

  • 混合物(製品)・組成物(原料・成分)のGHS判定に必要なデータおよび分類判定結果を登録する。
  • 混合物(製品)MSDSデータを登録する。
  • NITEのGHS判定データを搭載している。

(4)その他機能

  • 夜間にGHS分類判定(一括処理)を行い,翌日に最新情報が利用できる。
  • お使いのPC(WindowsXP/Vista/7)でご利用できる。

(5)サポートサービス

  • 初期導入時にデータ移行の代行サービスを行う(オプションサービス)。
  • 成分データ(GHS判定データ)の追加登録およびGHSの改訂に対応する(年間保守サービス契約時)。

GHSクリエータの機能概要

図4 GHSクリエータの機能概要

GHSクリエータ導入効果(図5

◆導入前
導入前/GHSクリエータ導入効果

  • データ登録・MSDS出力管理に手間や時間がかかる。
  • 入力間違い,処理洩れによりデータ精度が低い。
    • 製品,原料,成分情報の登録・管理が面倒(データベース化されていないため)
    • GHS判定処理を手動にて行う。(原料,成分のGHS区分が変更時,個別入力・判定処理が必要)
↓

◆導入後
導入後/GHSクリエータ導入効果

  • データ登録・MSDS出力管理の手間や時間が大幅削減。
  • データベース化,処理の自動化により高品質のデータが得られる。
  • 外国語対応が可能(英語版は基本価格に含まれます)。
図5 GHSクリエータ導入効果

 

*1 JIS Z 7250は,「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)と整合させるため2005年12月に改正された。また,2010年の改正でGHS改訂第3版に対応した。改正された新しいJIS Z 7250(2010)では,暫定措置として,2015年12月31日までの期間は,JIS Z 7250(2005)に基づいてMSDSを作成してもよいことになっている。
*2 当製品は,JIS規格(JIS Z 7250(2005))に準拠している。

 

最終更新日:2017年11月10日