エンジンオイルを取り巻く最近の動向 | ジュンツウネット21

ILSAC GF-4規格,PC-10規格など,エンジンオイルの次世代規格の検討状況を中心に解説する。

デグサ ジャパン株式会社 浜口 仁  2004/1

はじめに

環境問題への対応が叫ばれて久しいが,自動車に関する環境対策としては,地域に密着する大気汚染問題と,地球規模での温室効果ガスすなわちCO2排出削減の両面から対策が推進されて来た結果,近年にいたって昔とは比べものにならないほどクリーンな排出ガスが実現されつつある。このような技術進歩は,新たな目標の設定を可能とし,更なる環境対策に向けて規制の強化と,それに適合するための技術開発が繰り返されている。

当然ながら,エンジン技術の変革に伴って,エンジンオイルにも環境対策への適合性が強く求められるわけで,排出ガス浄化装置に対して長期にわたり悪影響を及ぼさないことや,エンジンオイル自身が省燃費性能を持つことなどが要求されており,この傾向は今後ますます顕著となることが予想される。

これらの動きをエンジンオイル規格の面からとらえ,次世代規格の検討状況を中心に解説する。

1. ILSAC GF-4規格の動向

ILSAC GF-4規格の開発状況については,「潤滑経済」2003年1月号で紹介したが*1,その後1年を経過して,若干の紆余曲折はあったものの,2004年7月からの市場導入に向けて最後の詰めの段階に入っている。

ILSAC GF-4は,2004年秋に予定されている米国の排出ガス規制強化(Tier 2)に対応して,排気触媒およびO2センサーなどの排出ガス浄化システムに悪影響を与えない性質ならびにその持続性を強化したエンジンオイルの規格である。併せて,CO2排出抑制のために省燃費性能とその持続性をいっそう強化した。

2003年11月に公表されたILSAC GF-4規格の最終案を表1に示す。最近の主な変更点は,従来のSequence IIIG試験に使用油のMRV粘度評価を加えてSequence IIIG-Aとしたことと,関連業界の協議に基づき省燃費の要求値が若干下方修正された点などである。

ILSAC GF-4規格は約半年の開発期間を経て,上述したように,2004年7月より市場に登場する予定である。

GF-4の次世代の規格としては,ILSAC GF-5が2009年ごろに制定されるものと思われるが,具体的な議論はまだ始まっていない。ただし,GF-4の検討当初に自動車メーカーから要望のあったリン濃度0.05%の実現可否が議論の主題となることが予想される。

表1 ILSAC GF-4 規格最終案の概要
性能項目
試験法と合格基準
GF-3対比
粘度特性最新のSAEJ300による。低温グレードは0W,5Wおよび10Wのみ。同等
ASTM D5133
 ゲル化指数:12.0以下
同等
防錆性ASTM Ball Rust Test
 平均グレード:100以上
同等
摩耗とオイルシックニングASTM Sequence IIIG-A Test
 100時間後の粘度増加:150%以下
 平均カム+リフタ摩耗:60μm以下
 加重ピストンデポジット評点:3.5以上
 高温ピストンリングこう着:なし
過酷に
ASTM D4684(MRV TP-1)
 試験後油の低温粘度:新油より1グレード上昇以内
追加
スラッジとワニスASTM Sequence VG Test
 平均エンジンスラッジ評点:7.8以上
 ロッカカバースラッジ評点:8.0以上
 平均エンジンワニス評点:8.9以上
 平均ピストンスカートワニス評点:7.5以上
 オイルスクリーン閉塞:20.0%以下
 オイルスクリーン付着物:報告
 高温圧縮リング膠着:なし
 低温リング膠着:報告
 オイルリング閉塞:報告
清浄性はほぼ同等
 平均カムフォロワピン摩耗:報告
 平均ピストンリング摩耗:報告
摩耗項目追加
動弁系摩耗ASTM SequenceIV A Test
 平均カム摩耗(7点平均):90μm以下
過酷に
軸受腐食ASTM Sequence VIII Test
 軸受重量減:26mg以下
同等
燃料経済性ASTM Sequence VI-B Test
 SAE 0W-20および5W-20
  16h後の燃費向上率:2.3%以上
  96h後の燃費向上率:2.0%以上
 SAE 0W-30および5W-30
  16h後の燃費向上率:1.8%以上
  96h後の燃費向上率:1.5%以上
 SAE 10W-30およびその他
  16h後の燃費向上率:1.1%以上
  96h後の燃費向上率:0.8%以上
過酷に
触媒との適合性ASTM D4951またはD5185 Test
 リン濃度:0.08mass%以下
過酷に
ASTM D1552 Test
 SAE 0W-XXおよび5W-XX
  いおう濃度:0.5mass%以下
 SAE 10W-XX
  いおう濃度:0.7mass%以下
追加
摩耗防止性ASTM D4951またはD5185 Test
 リン濃度:0.06mass%以上
追加
蒸発性ASTM D5880 Test
 蒸発ロス(250℃,1h):15%以下
同等
ASTM D6417 Test
 蒸留減量(371℃):10%以下
 
高温デポジットTEOST MHT-4 Test
 デポジット重量:35mg以下
過酷に
フィルタビリティGM EOFTおよびEOWTT法
 流量減少率:50%以内
同等
泡立ちASTM D892(Option A)Test
 泡立ち性/泡安定性(1回目):10/0以下
 泡立ち性/泡安定性(2回目):50/0以下
 泡立ち性/泡安定性(3回目):10/0以下
同等
ASTM D6082(Optional Biending)Test
 高温泡立ち性/泡安定性:100/0以下
同等
せん断安定性Sequence VIII Test
 10h運転後の100℃動粘度:Stay in grade
同等
均質性と混合性ASTM D6922
 外観:均質かつASTM標準油に均一に溶解
同等

2. PC-10規格の動向

ディーゼルエンジンオイルについても排出ガス対策の影響を受け,次々と新規格が登場している。米国のAPI規格は,2002年排出ガス規制に対応するCI-4が最新の規格で,2002年9月に市場導入されているが,現在は2007年排出ガス規制に対応する次世代規格CJ-4(開発コード:PC-10)の検討が進められている。

しかしながら,CI-4が市場に導入されてから,現状の排気ガス対策エンジンにおいて,いくつかの市場不具合,例えばピストン清浄性の悪化,せん断による急激な粘度低下,すすの混入による急激な粘度増加などが発生しており,EMA(米国エンジン製造者協会)から石油業界に対して,PC-10の開発以前に,現行のCI-4を一部改良したCI-4+(またはPC-9.5とも呼ばれる)の開発要請が出されている。ただし,CI-4+が制定されても,CJ-4が登場するまでの期間はわずか1~2年であり,石油業界からは開発に反対の意見が強い。

PC-10の要求性能項目と評価法の案を表2に示す。新規の排気対策エンジンを用いたエンジン試験法が5種類ほど開発される予定で,いずれも2003年の終盤以降にハードウェアが入手可能となるため,実際の試験法開発は2004年以降となる。これらの新試験法開発に要するコストは,およそ10億円規模になる見込みで,すでに業界間で負担に関する議論が始まっている。

表2 API CJ-4(PC-10)の原案
要求性能項目
評価法案
備考
鉄製ピストンの清浄性,オイル消費Caterpillar C13  500時間試験
アルミ製ピストンの清浄性,オイル消費Caterpillar 1NCI-4と同じ
リング,ライナ摩耗,軸受腐食Mack T-12300時間試験
ススによる動弁系摩耗(転がり)RFWTCI-4と同じ
ススによる動弁系摩耗(すべり)Cummins ISB350時間試験
EGRススによる動弁系摩耗Cummins ISM200時間試験
熱・酸化安定性Sequence IIIGCI-4と同じ
ターボチャージャーデポジット新規開発または欧州の試験法
クランクケース清浄性MTU 5044または机上評価法開発
ススによる粘度上昇Mack T-11CI-4と同じ
ゴムシール適合性CI-4と同じ新材料を追加
使用油の低温粘度Mack T-10ACI-4と同じ
排気触媒への適合性Cummins ISBまたは机上評価法開発
高温腐食防止性ASTM D6594CI-4と同じ
使用油の高温高せん断粘度ASTM D4683または机上評価法開発
せん断安定性ASTM D627890サイクル?
蒸発性ASTM D580013%以下
あわ立ちASTM D892CI-4と同じ
化学的組成元素分析硫酸灰分,P,Sを規定

3. 欧州の状況

欧州では,ACEA規格が主に用いられており,2年ごとの定期改定が2004年に計画されている。現行の排出ガス規制であるユーロIIIに変わって,2005年よりさらに厳しいユーロIV規制が導入される予定であり, ACEA規格の2004年版は,ユーロIV規制対応のエンジンオイル規格となる見込みであるが,改定作業は2003年末の時点で未着手である。これは,従来のACEA規格に用いられてきた試験エンジンのほとんどがユーロII規制の時代に開発されたエンジンであり,陳腐化していたり,すでに製造中止となっているため,ユーロIV対策エンジンを用いた試験法を新たに開発する必要があるのに対して,欧州のエンジンメーカーは,エンジンの提供に消極的であり,また,試験法を開発する組織であるCECも予算上の制約から作業に着手できないでいるのが実情である。

日米の市場と異なり,欧州ではディーゼル乗用車の比率が高いことから*2,ACEA規格ではガソリン乗用車用のA分類とディーゼル乗用車用のB分類を設けているが,ユーザーへの利便性から両分類を併記したエンジンオイルが主流であり,2004年版では分類の統廃合を図ることにより改定コストを低減することも議論されている。

これらの状況から,ACEA規格の2004年版は,早くても 2004年末まで制定が遅れる見込みであり,2002年版からの変更も限定的なものになる可能性が高い。その場合,自動車メーカーによっては,ACEA規格を利用せずに,自社の社内規格を採用することも予想される。

4. 日本の状況

日本のエンジンオイル規格としては,JASOが制定する2サイクル油規格(M 345),4サイクル油規格(T 903)およびディーゼルエンジン油規格(M 355:DH-1)の3種類がある。2サイクル油規格は1993年に制定されてから10年が経過し,見直しの時期にある。また,4サイクル油規格もエンジン性能の規定がSEグレード以上となっており,市場の実態と合わなくなりつつあるので,見直しが必要と思われる。

JASO DH-1規格については,既販車用および東南アジアなど排出ガス規制が緩く,軽油の硫黄分が高い地域では引き続き利用可能ではあるものの,日本の新長期規制への対応には不十分であることから,自動車工業会と石油連盟の協力により,2003年5月に次世代ディーゼルエンジンオイルの指針としてDH-2(ヘビーデューティー用)およびDL-1(ライトデューティー用)のガイドラインが発表された*3。これらは,より詳細な検討を経て,2005年にはJASO規格化される予定である。

5. 国際規格の状況

ディーゼルエンジンオイルの国際規格として,日米欧の自動車工業会が共同で,2001年にGlobal DHD-1(ヘビーデューティー用),2003年にGlobal DLD-1~3(ライトデューティー用)がいずれもガイドラインとして発表されている。今後の予定としては,日米欧のディーゼル排出ガス規制がほぼ同程度の厳しさに収斂する2008年前後に,Global DHD-3規格が発表されるものと思われる。内容としては,米国のPC-10と日本のDH-2を盛り込んだものとなる可能性が高く,欧州は前述した事情から,むしろ利用者側にまわるものと思われる。なお,2005年ごろにGlobal DHD-2規格を発表する動きもあったが,見送られるようである。

6. おわりに

環境問題への対応を中心として,エンジンオイル規格はめまぐるしく変化しており,この傾向は今後とも続くものと思われる。

自動車は利器である反面,普及すればするほど環境への影響も大きくなるという側面もあり,これを克服するための技術開発が急ピッチで進められている。エンジンオイルについても,これを支えるための性能向上がいっそう求められており,ベースオイルならびに添加剤技術の発展と,処方技術の高度化がますます必要となっている。

関連業界が協力して,環境にやさしい自動車社会の実現を願うものである。

 

<参考文献>
*1 浜口:ガソリンエンジンオイルの規格動向,潤滑経済,1月号(2003)
*2 浜口:欧米におけるディーゼルエンジン油の事情と規格内容,潤滑経済,1月号(2002)
*3 浜口:ディーゼルエンジン油の規格動向,月刊トライボロジー,5月号(2003)

 

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