シールを取り巻く最近の動向 | ジュンツウネット21

最近の機械システムに求められる機能,機械システムの機能を満たすシールの動向,シール材料の動向,シールと環境問題などについて解説する。

玉川大学 似内 昭夫  2004/7

はじめに

最近の機械システムに対するニーズは使用条件として面圧,速度,温度環境などの色々な面で厳しさが求められている。新たに開発される,そのようなニーズに対応する機械システムが,その機能を十分に発揮するためには,機能自体を満足するシステムの構築が必要であることはいうまでもない。と同時に,機械システムをトライボシステムと見たときに,十分なトライボ特性を有することも求められる。機能的なニーズを満たすためにはトライボロジー上のトラブルを起こさないことが肝心で,新しいシステムの開発に伴う新しいトライボロジー上の課題をクリアすることが求められることになる。

シールは機械システムにおいては目立たない存在であるが,このような機械システムがその機能を十分に発揮するためには,シールがその機能を十分に発揮することが必要である。シールの不具合は,機械システムそのものの性能を左右し信頼性,長寿命化などの点で大きな影響を発揮する。このように見ると,機械システムにおいてシールは非常に重要な要素であることがわかる。

1. 最近の機械システムに求められる機能

上述のように最近の機械システムの使用条件が,高圧化,高速化,高温(あるいは低温)化といった,一口でいうと過酷条件化にあるといえる。しかし,この“過酷化”ということは今に始まったことではなく,いつの世においても機械システムへのニーズは常に過酷化条件への対応といってよい。したがって,この“過酷化”ということは,機械システムの開発の根源的・宿命的な傾向であるといってよい。

そうはいっても,時代時代において要求されるニーズは変遷してゆくものであり,現時点では,高圧化,高速化,高温化などの傾向は変わらないとして,そのうえで,省エネルギーや環境対策ならびに機械のメンテナンスフリー化,さらには低コスト化という観点からもニーズが高度化してきているのが,時代の要求といえる。

また,当然のことではあるが,個々の機械システムにおいては,それぞれに求められるニーズは異なっている。例えば自動車に対するニーズは対環境性と安全が最重要課題である。図1*1に黒木が示した自動車技術の動向とシールの対応について示す。自動車における技術的なニーズを環境(低排ガス,有害物質,低燃費,快適性,石油の枯渇)と安全面をアクティブな面とパッシブな面から挙げている。

自動車の技術動向とシールの対応

図1 自動車の技術動向とシールの対応

2. 機械システムの機能を満たすシールの動向

先に挙げた図1の自動車の技術動向に対応するシール技術として,作動流体の高圧化対策,駆動系のロス低減あるいは油の改良に伴う低トルクシールの開発などの対応が取り上げられている。また環境問題から,対環境用作動流体の使用が進んで(進むことを前提として),耐環境作動流体との相性=耐油性の問題などが明確に示されている。

自動車用シールとしてはオイルシールをはじめとするリップシールが多用されている。オイルシールの一般的な技術的変遷を長澤が示した図2*2に見ることができる。

オイルシールの形状・材料の変遷

図2 オイルシールの形状・材料の変遷*2

オイルシールの原形は1920年代に遡ることができるが,現在の形が確立されたのは1950年ころで,それ以来形状は大きな変化は見せていない。ただ後に示すように,使用条件,ニーズによって図2に示した基本形状に,色々な付加的な性能を与えるようにモディファイされたものが用いられている。図3は秋田ら*3が示したもので,建設機械用トラックリンク用シールの形状の変遷を示すものである。最近の例では,自動車エンジン用のシールとして燃費の向上に寄与するように低トルクシールの開発が行われており,その1例を図4*1に示す。従来のシールに比べ容積が大幅に低減され,小型・軽量・低摩擦で,燃費の向上に寄与している。

トラックリンク用シールの変移

図3 トラックリンク用シールの変移*3

低トルクシールの例

図4 低トルクシールの例*2

密封流体の漏れを防止するのがシール技術の第一義的な課題である。そのうえで,二次的に問題となるのは,外部からの異物の機器内への進入の防止であろう。この問題は自動車用シールでも大きな課題であるが,さらに例えば,建機関係のシール等においては,いつも大きな重要な問題となっている。

また,最近のシール技術で大きな領域を占めてきているのが情報機器である。情報機器のシールの問題はあまり明らかにされていないが,トナー粉末の密封部のシール等問題の個所が多い。図5*4にトナーカートリッジのシール部,およびシール形状の例を示す。

リップタイプのシールは普通リップ接触部でポンピング作用を生じ,密封流体による薄い流体膜を形成することで境界潤滑膜を形成することによって,シールリップと回転軸等シール部を構成する相手面とのインターフェースを潤滑することによって,その耐久性を確保している。しかし,このトナーカーシール面ではポンピング作用は期待できず,ドライ接触になっているものと考えられている。その意味で従来のリップタイプシール接触部の潤滑性あるいは耐久性に対する考え方が適用できないシールであり,新しいシール潤滑理論を考える必要があるかもしれない点で,特徴的・代表的なシールといえる。

トナーシール代表断面

図5 トナーシール代表断面*4

3. シール材料の動向

リップタイプシールの代表的なシールであるオイルシールの材料は,先に示した図12でもわかるように,リップタイプのシールが出現した1920年代では革であった。1930年代半ごろには現在も多様されているNBR(ニトリルゴム)が使われるようになり,現在では下記に示す各種合成ゴムが使用されている。

NBR(ニトリルゴム),
HNBR(水素添加NBR)
CR(クロロプレンゴム),
SBR(スチレンブタジエンゴム),
FKM(フッ素ゴム),
VMQ(シリコーンゴム),
EPDM(エチレンプロピレンゴム),
ACM(ポリアクリルゴム),
AU,EU(ウレタンゴム),
IIR(ブチルゴム)

自動車用シールでは,高温化することによる効率の上昇もあるが,使用環境によっては低温時の使用もあり,温度範囲の広域化が進んでいると考えることもできる。このため,シール材料の温度特性も広域化することが必要になってきている。例えばACMは駆動系で多用されるシール材料であるが,従来使用されていたACM材を標準ACMとしたとき,図6*1に示すように,非常に広い温度範囲のACM材が開発されている。

エンジン関係のシールでは最近はフッ素ゴムFKMが主体的に用いられている。さらに図1に示した低トルクシールとしてPTFEリップを持つオイルシールが開発実用されてきている。これらのシール用材料のうちエンジン用シールとしてはFKMが中心で,VMQ,PTFEなどが新たに投入されてきているのが現状であろう。

駆動系用アクリルゴム(ACM)のバリエーション

図6 駆動系用アクリルゴム(ACM)のバリエーション*2

4. シールと環境問題

最近の技術課題で避けて通れないのが環境問題である。図1に示した項目の大きなものとして環境が取り上げられており,高圧化,低トルク化がシール面の対策として示されている。そのうち低トルク化については先に対策事例を示した。

シール面からの環境対策は,このようにシール技術からのエネルギー節減およびCO2対策など排ガス対策,さらにシール本来の機能である漏れをいかに防止するかなど環境へアクティブな形の対策が考えられている。この方向の対策はシールの信頼性向上と高性能化が環境対策の方向に向いているということである。

一方もし漏れを発生した場合,環境汚染を起こさないあるいは最小限に抑えることも求められている。この面では生分解性作動油の使用が進められている。生分解性作動油の使用は主に戸外で使用される建設機械の作動油として使用されることが多い。生分解性作動油の使用はドイツをはじめとするヨーロッパが中心となって進められ,拡大されている。

生駒*5によると,ドイツにおける環境ラベル“ブルーエンジェル”適合銘柄は28メーカー,68銘柄に及んでおり, HETG(菜種油など天然植物油エステル),HEES(合成エステル油),HEPG(ポリグリコール),HEPR(ポリアルファオレフィン)が ISO6743-4に規定されている。ドイツ市場における生分解性作動油の使用量の推移を見ると,1992年ころより非常に急激に伸びていることがわかる。

一方日本においては,エコマーク適合の生分解性作動油として登録されているのは56種類の銘柄である。(このうち建設機械用は作動油18種,グリース19種の計37種である。)しかし,実際の使用量についてみると必ずしも多くなく,法規制のない日本における生分解性作動油使用環境は整っていないと思われる。日本建設機械化協会では,生分解性潤滑油採用の品質基準として,作動油規格HX-2(仮称),グリース用規格GX-2(仮称)の策定と運用基準のとりまとめを進めているといわれる。*7

おわりに

シール技術について最近の話題を中心に述べてきた。ここにきての新しい話題は少ないが,旧来からの動向にも新しい展開が見られたと思う。

機械システムの機能,信頼性を支える基幹技術としてシール技術は重要な位置づけにあるが,今後のシール技術における更なる技術革新の課題の一つはシール自身の寿命予知であろう。シール自身の信頼性向上にはシール自身の寿命予知が求められている。漏れ予知技術は基本的なセンシング技術,システムの組み合わせ技術として考えられ,少しずつこの面の報告も見られるが,実用技術として完成するにはまだ時間がかかるようである。

 

<引用文献・参照文献>
*1 黒木雄一:月刊トライボロジー,No.193,(2003)P50~55
*2 長澤晋治:トライボロジスト,48,2(2002)P91~96
*3 秋田秀樹,他:同上P101~104
*4 小林伸之:同上 P122~127
*5 生駒亮久:同上P105~109
*6 妹尾常次良,杉山玄六:月刊トライボロジー,No.197(2004)P12~14
*7 水田裕賢:同上P15~17

 

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