はじめに
グリースは,最近のメンテナンスフリーで設計される機器類の増加に伴い,グリースの寿命なども重要な問題となっている。また,工業分野だけでなく日常生活などにおいても幅広く使用されるようになってきている。今回は,本誌月刊「潤滑経済」2000年6月号に引き続きグリースの市場動向をまとめてみた。
1. グリースの生産市場
日本における増ちょう剤別のグリース生産量の推移を表1に示す。グリースの生産量は専業メーカーが主体となって生産しており,その中には石油元売各社の委託生産分も含まれている。国内グリースの生産量は,景気低迷や長寿命グリースの普及のため6万トン台に落ち込んでからは,ずっと6万5,000トンと前後している。しかし,自動車生産台数や粗鋼生産量が若干ながらも増加していることから(表2,3),グリースの生産量の減少には,グリースの高性能化や,環境対応などの影響による長寿命化が大きく影響していると考えられる。
表1 グリースの生産実績推移 (単位:t)
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表2 自動車生産台数 (単位:台)
出所:日本自動車工業会 |
表3 粗鋼生産量(単位:千万t)
出所:鉄鋼・非鉄金・金属製品統計年報 |
本誌月刊「潤滑経済」2005年9月より引用の増ちょう剤別生産比率(図1)を見ると,リチウム石けん基グリースが全体の58%を占めており,万能グリースとして過去と変わらず最も多く使用されていることが分かる。また耐水性に優れるカルシウム石けん基グリースは全体の10%を占めている。その他の増ちょう剤には,ナトリウム石けん基,アルミニウム石けん基,ウレア系グリースなどが含まれているが,その中でもウレア系グリースは,高い耐熱性だけでなく,耐水性,機械的安定性に優れ,また長寿命が期待できるということから割合が高くなっており,全体の21%を占めるほどになってきている。
2. グリースの販売市場
グリースの用途別構成を図2に示す。今回の調査では,前回調査項目の自動車,鉄鋼,機械,その他に建機,家電の2項目を新たに追加した。鉄鋼とは鉄鋼生産設備機械への使用量,自動車とは自動車製造工場での使用量,また場合によりアフターマーケットも含む。機械とは機械生産設備機械に使用される使用量。その他には鉄道,機械,自動車などのアフターマーケットなどを含む。
今回と前回の調査結果を比較すると,わが国の基幹産業である自動車と鉄鋼の占める割合が変わらず大部分を占めているという状況に変化はなく,この傾向は強くなっている。しかし,自動車の割合の増加に対して,鉄鋼ではオールウレア化によるグリースの長寿命やオイルエア潤滑の普及などから前回よりも割合は低くなっている。先ほども述べたように,自動車や鉄鋼の生産量が増加しても,グリースの性能や寿命が延びていることから,割合は変わらず,生産量にも大きくは影響していないと思われる。
また,建機,家電の割合はさほど高くはないが,今後は自動車部品やOA機器に代表される精密機器などや,一般産業,液晶,宇宙,ロボットなどのグリースの高性能が要求される分野でのグリース需要の広がりが現れてくるのではないだろうか。さらに今回は生分解性グリースの全体に占める割合を別途調査したが,使用に関する規制などが整っていないことや,価格が高いなどの理由からか,数字に表れるような結果は得られなかった。今後環境対応時代にとって様々な分野で使用されることになるであろうが,規制などの環境が整わない限りは現状が続くものと思われる。
3. 今後の展望
今後は,性能面,価格面から見ても,万能グリースとしてリチウム石けん基グリースが最も多く使用される傾向は変わらないだろう。しかしメンテナンスフリーが求められる分野の広がりや,環境対応時代でのグリースの長寿命化や生分解性も含めて,環境問題に配慮した高性能グリースのニーズはますます高くなっていくだろう。