ISO機械状態監視診断技術者(振動)資格認証制度の現状,第1回資格認証試験の概要について解説する。
はじめに
近年,人材の流動化と能力認定,技術者のグローバル化への対応などをキーワードとして,様々な技術分野で資格認証が実施,または,計画されている。
1994年頃より,ISOの委員会(TC108/SC5)で,ISO18436“Condition monitoring and diagnostics of machines-Requirements for training and certification of personnel”として,機械の状態監視に関する診断技術者の資格認証の規格化が検討され,そのうち,Part 2:Vibration condition monitoring and diagnostics(振動状態監視と診断)がすでに正式発行され,来年2005年の春には,Part 1:Requirements for certifying bodies and the certification process(認証機関および認証過程に関する要求事項)も正式発行される見通しとなっている。
ISO18436 Part 2の発行により機械設備の状態監視,点検・保全だけでなく,回転機械の受け入れ試験・工場試験における振動計測,トラブルシュートのための振動計測など広範囲な分野に対して,診断技術者・振動技術者の質・レベルがグローバル化されていくことになる。
このような認証制度が,すでに米国,カナダ,東南アジアなどでは構築され,資格認証が開始されているが,我が国ではまだ資格認証制度が構築されていない。したがって,早急に資格認証制度を立ち上げ,資格認証を実施していかねば,上述したような分野において国際市場から立ち遅れることが懸念される。
このような背景から,我が国の機械技術者の代表団体である(社)日本機械学会が,当該資格認証制度の構築に着手していることを,本誌昨年10月号(2003,No.452,pp.17-21)で報告した。現在まで,当該資格認証制度の構築は順調に進行しており,本年2004 年6月19日(土),全国一斉で,第1回目の資格認証試験を実施することが決定している。本報では,当該資格認証制度の現状,第1回資格認証試験の概要について解説する。
1. 我が国の資格認証制度と資格認証試験
1.1 当該資格に要求される能力要件
ISO18436 Part 2に準拠する当該資格の呼称は,“ISO機械状態監視診断技術者(振動,カテゴリー I,II,III,IV)”である。カテゴリーは技術難易度,技術レベルを示しており,カテゴリー I が一番下のレベルであり,カテゴリー IVは最高位のレベルである。各カテゴリーに求められる能力要件は以下のように定義されている。
(1)カテゴリー I の技術者に要求される技能
カテゴリーの要求事項を満足する技術者は,ISO17359(Condition monitoring and diagnostics of machines - General guidelines)およびISO13373-1(Condition monitoring and diagnostics of machines - Vibration condition monitoring - Part 1:General Procedures)に従った単純な1チャンネル機械振動の状態監視と診断の範囲を行う資格を有すると認められる。彼らには,確立された警告(alert)設定に対して警告状態を判断することを除いて,たとえばセンサの選択,行われるべき解析,および試験結果の評価に対しての責任はない。彼らは,以下の資格を有するものとする。
- 事前に選定あるいは計画された測定順路で,携帯用計測器を操作する。
- 常設の計測器からの指示値を読み取る。
- データベースに測定結果を入力し,コンピュータから順路をダウンロードする。
- 事前に定められた手順に従って,定常状態の運転条件下での試験を行う。
- 信号が存在していないことを認識することができる。
- 事前に制定された警告設定に対して,オーバーオールあるいは単一の振動測定値を比較することができる。
(2)カテゴリー II の技術者に要求される技能
カテゴリー II に認証された技術者は,確立され承認された手順に従って,位相トリガー信号の有無に関わりなく,1チャンネル測定を用いた産業機械の振動測定および基本的な振動解析を行う資格を有する。カテゴリー II に認証された技術者は,カテゴリー I で期待されるすべての知識と技能を必要とし,さらに以下の資格を有するものとする。
- 適切な機械振動測定法を選択する。
- 振幅,振動数と時間の基本的な分析のための機器を準備する。
- スペクトル分析を用いて軸,軸受,歯車,ファン,ポンプおよびモータなどの機械や機械要素の基本的な振動解析を行う。
- 結果と傾向管理のデータベースを保守する。
- 固有振動数を決定するために,基本的な(1チャンネル)インパルス試験を行う。
- 適用可能な仕様と規格に従って,(受け入れ検査を含む)試験結果を分類,解釈および評価する。
- 簡単な対策処理(corrective actions)を提言する。
- 基本的な1面フィールドバランシング(single-plane field balancing)の概念を理解している。
- 不良測定データのいくつかの原因と影響を理解できる。
(3)カテゴリー III の技術者に要求される技能
カテゴリー III に認証された技術者は,ISO17359とISO13373-1に従った機械の状態監視と診断のためのプログラムを,遂行および・または指示,および・または構築する資格を有する。カテゴリー III に分類された技術者は,カテゴリー I および II に分類された技術者に期待される全ての知識と技能を必要とし,さらに以下の資格を有するものとする。
- 適切な機械振動解析法を選択する。
- 携帯および常設のシステムの両方に対して,適切な振動計測のハードウェアとソフトウェアを指定する。
- 位相トリガーの有無に関わらず,定常および非定常の運転状態の両方に対して,波形およびオービットのような時間領域プロットはもちろん,1チャンネルの周波数スペクトルの測定と診断を行う。
- 定期的・連続的な監視を行う機械の決定,試験の頻度,測定順路計画を含む振動監視プログラムを構築する。
- 新しい機械の振動レベルと,受け入れ基準の仕様のためのプログラムを構築する。
- 基本的な運転時のたわみ形状を測定し解析する。
- AE(Acoustic Emission),サーモグラフィー,モータ電流および潤滑油分析のような代替の状態監視技術を理解し,その使用を指示することができる。
- 釣合せ,軸芯調整,および機械部品の交換などの現場での対策処理を提言する。
- 加速度エンベロープ(検波)手法を使用することができる。
- 基本的な1面フィールドバランシングを行う。
- プログラムの目的,予算,コスト判断および人材開発に関して,経営陣に報告する。
- 関係する技術者のために機械状態に関する報告書を作成し,対策処理を提言し,そして,修理の有効性を報告する。
- 振動訓練生を指導し,技術的な指示を与える。
(4)カテゴリー IVの技術者に要求される技能
カテゴリー IVに認証された技術者は,ISO17359およびISO13373-1に従った機械の状態監視と診断,およびあらゆるタイプの機械振動測定と解析を行う,および・または指示する資格を有する。カテゴリー IVに認証された技術者は,カテゴリー I,II および III で認証された技術者に期待される全ての知識と技能を必要とし,さらに以下の資格を有するものとする。
- 周波数応答関数,位相,コヒーレンスなどの多チャンネルスペクトルの測定および結果の解釈を含んだ振動理論と技術を適用する。
- オービットとその制限を含む周波数および時間領域処理の理解を含んだ信号解析を理解し,実行する。
- システム,機械要素および組み立て品の固有振動数,モード形状および減衰を決定する。
- 機械および結合された構造物の運転中のたわみ形状を決定し,修正のための方法を提言する。
- 振動解析,パラメータ同定および故障診断に対して,一般に認識された高等技術を使用する。
- 振動診断にローター軸受動力学の基本原理を適用する。
- 基本的な2面フィールドバランシングを行う。
- 高度な2面影響係数あるいは静的・偶力釣合せを提言する。
- 部品交換あるいは補修,絶縁,減衰,剛性変更および質量変更を含む対策処理および・または設計変更を提言する。
- 振動訓練生を技術指導する。
- 実際に発表されたISO規格,国際規格および仕様を解釈し,評価する。
- 往復機械やスクリュー圧縮機のような容積形流体機械において気体の脈動によって起こされる振動を認識し,必要なパラメータを測定し,さらに修正のための方法を提言する。
- 弾性設置,他の据付けおよび基礎の問題に対する対策処理を提言できる。
1.2 受験資格と教育訓練カリキュラム
資格認証試験の受験者は,前述の能力要件を具備していることに加えて,受験に際して,教育・訓練の修了と,実務経験に対する証明書の提出が義務付けられる。教育・訓練は,(社)日本機械学会が認定した訓練機関で受講する必要があり,訓練機関が発行する受講・修了証明書が,教育・訓練修了の証明書となる。
訓練機関としては,(株)インダストリーズ,旭エンジニアリング(株),ニッテツ大阪エンジニアリング(株),新川センサテクノロジ(株),IMV(株),(株)東芝,(株)ソルテクノスが担当する。本報の発行時には,(社)日本機械学会のホームページに,これらの訓練機関の詳細情報が明確にされているので,参照されたい。
(社)日本機械学会が訓練機関とならず,外部の機関が訓練機関となるのは,ISO18436の要求事項である。各訓練機関とも,教育・訓練の品質について,同様のレベルが保たれることを認定審査の過程で確認している。なお,具体的な,教育・訓練のカリキュラムと各カテゴリーで要求される受講時間を表1,2に示す。
表1 教育・訓練科目・時間概要
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表2 教育・訓練科目・時間詳細
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- 注記1
記号*は,割り当てられた時間内で講義すべき科目を表す。 - 注記2
カテゴリー II にはカテゴリー I の知識も含まれる。
カテゴリー III にはカテゴリー I とカテゴリー II の知識も含まれる。
カテゴリー IVには下位のカテゴリーの知識も含まれる。 - 注記3
記号*が科目として二つ以上のカテゴリーに表示されている場合,上位のカテゴリーでは下位のカテゴリーより,当該科目に関するより深い知識を要求されていると理解すべきである。
一方,表3は,もう一つの受験資格である必要実務経験時間(月数)を示している。実務経験については,原則として受験者の所属する機関で証明書を発行して頂くことになる。
SO18436では,基本的にそのカテゴリーを受験する場合,下位のカテゴリーが認証されていることが,受験資格の必要条件となるが,例外として,カテゴリー II だけは,直接受験することが認められている。カテゴリー II を直接受験する技術者の受験資格は,実務経験が表3に示すように累積の18ヵ月が必要となるが,教育・訓練の受講はカテゴリー II を対象とした38時間(表1)のみで良い。
表3 累積必要実務経験月数
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1.3 資格認証試験の概要
(社)日本機械学会は,上記カテゴリーのうち,カテゴリー I と II について,本年6月19日に全国一斉で資格認証試験を実施する。これは前述のように,カテゴリー III,IVの受験のためには,カテゴリー II の認証が必要条件となることによる。資格認証試験は,(社)日本機械学会・機械状態監視資格認証事業部会が厳正な管理に基づき実施する。本年1月19日に,(社)日本機械学会のホームページに資格認証試験実施の公示が掲載された。 4月1日~5月14日の期間で,受験申請を受け付ける。なお,受験申請のための申込書類は,機械学会で4月1日より配布している。
資格認証試験は,日本で一般的に実施されている試験方法と少し異なる方法で実施される。各受験者に試験問題入りの封印された名前付きの封筒が配られ,それを各人が自分で開封し,試験を行う。試験終了後またその封筒内に回答を封印し,署名して試験監視官に提出する。これは,欧米の資格試験で通常実施されている方法であり,ISO18436の要求事項でもある。
表4 認証試験詳細
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各カテゴリーの資格認証試験の概要を表4に示す。今回実施されるカテゴリー I,II については,五肢択一形式の問題が,それぞれ50問,100問出題され,試験時間は,それぞれ2時間,3時間となっている。カテゴリー I,II とも,正解率が75%以上で試験合格となる。資格認証試験に不合格となった場合は,その試験日から30日経過すれば再度受験することができる。ただし,不正などの事由で不合格となった場合は,最低12ヵ月は再試験が認められない。
なお,当該資格の有効期間は5年であり,業務と訓練が継続的に実施されていることを証明する文書が提出されれば,有効期間の更新が認められる。
2. 当該資格の国際相互認証
当該資格の国際相互認証に関しては,まず米国との2国間の相互認証を第1歩にする方針としている。米国では,Vibration Institute(VI)がすでに同様の資格認証を実施しており,ISO18436の発行とともに,これまで実施してきた認証制度を移行している。VI は,カナダ,オーストラリア,東南アジアで同様の認証制度を展開しており,米国・VI との相互認証を達成することにより,国際相互認証も円滑に達成できると判断している。すでに,(社)機械学会では,VI と米国との相互認証に向けた話し合いを行い,日本での第1回目の資格認証試験実施を待って,2国間の相互承認を締結する方針が確認されている。
3. 資格認証制度の今後の予定
訓練機関の第2次公募は2004年11月を予定している。また,第2回目の認証試験についても2004年12月実施を予定し,調整作業を行っている。当該資格認証制度に関する最新情報は,(社)日本機械学会のホームページに適宜掲載する予定としているので,参照されたい。
おわりに
設備管理の局面で,状態監視の要求,必要性が高まっている。CBM(Condition Based Maintenance)を適用することにより,その運用費用は全保全コストの1%程度であるのに対して,年間保全コストの5%,設備トラブルによる生産損失の10%程度を削減できる*1と言われている。このような観点からも当該資格の必要性,重要性が認識される。
一方,人材の流動化,グローバル化に伴い,その技術者の適性評価のためにも資格は大きな要素の一つであり,当該資格はこのような社会的要求にも応えるものである。
(社)日本機械学会は,来年度以降,カテゴリー III,IVの認証も実施していく。当該資格の主旨を十分に理解頂き,技術者各位の積極的なチャレンジを期待している。
<参考文献>
*1 豊田利夫,「回転機械診断の進め方」,日本プラントメンテナンス協会,p.38
2004年度ISO機械状態監視診断技術者(振動)認定訓練機関一覧
(注)訓練実施カテゴリー:東芝 今回はカテゴリー II のみ。(日本機械学会ホームページhttps://www.jsme.or.jp/より) |