WTCトップインタビュー ―第4回世界トライボロジー会議 実行委員長・組織委員長に聞く― | ジュンツウネット21

実行委員長 木村 好次 氏(東京大学・香川大学 名誉教授)
組織委員長 瀧本 正民 氏(株式会社豊田中央研究所 代表取締役,前トヨタ自動車株式会社 副社長)
<聞き手>WTC IV 広報委員長 杉村 丈一 氏(九州大学 教授)
2009/7

本企画は第4回世界トライボロジー会議実行委員会のご協力を元にインタビューや解説記事,その他資料のご提供をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。


左から木村氏,瀧本氏,杉村氏

2009年9月6日(日)から11日(金)までの6日間,国立京都国際会館(京都市)で第4回世界トライボロジー会議(WTC IV)が開催される。
本会議の開催を直前に控え,今回は,主催者側のトップであるお二人に会議の意義やトライボロジーの意義などについて語っていただいた。

京都で開催する意義

杉村:世界トライボロジー会議(以下WTC)は4年に1回,世界のトライボロジストが集う,いわばオリンピックのような大会ですが,これを京都で開催する意義,まずその辺りから伺っていきます。

木村:ロンドン,ウイーン,ワシントン,それから第4回の会議を初めてアジアに持ってきたということが大きいなと思うんですね。アメリカやヨーロッパの人たちは割合フリクエントに行ったり来たりして,お互いの会議に出ているでしょう。ところが日本を含めて東アジアの人たちは,そう頻繁には欧米に行けない。だからあちらの人たちが,あんな顔してこういう話し方をするんだ,なんてことを,こちらのトライボロジスト,潤滑技術者,設計技術者などの人たちに,肌で感じてもらいたいんです。欧米からの参加は逆に大変ですけれど,こちらのトライボロジーの状況を感じ取っていただきたい,というのが一つのポイントでしょう。

それから,京都であるということは,やっぱり外国に対しては,日本といえば京都,文化の中枢としても知名度が高いですしね。

瀧本:僕,実は京都で学生時代に6年過ごしているんですが,ご存じのとおり京都は千年の都で,古い伝統が今でも生き続けている街ですね。だけど京都の人たちってのは,ものすごく新しいもの好きなんですよ。和菓子の職人さんでも染め物の人でも,代々引き継いでいる伝統は大事にするんだけど,自分の世代でまた新しいものを絶対生み出してやるっていう心意気を持った人が非常に多くて,進取の気象に富んでるというか,そういうのを感じるんです。

産業でも,京セラさんとか村田製作所さんとか,世界の最先端の部分で頑張っておられる企業がありますよね。そういうところを見ていると,京都って,伝統と最先端とがうまく古い町並みの中で融合してるなと,感心しますね。

杉村:そうしますと,場所を京都にしたというのは非常に成功,いや半分成功したような……(笑)。しかし,伝統の中の進取の気象までは,あまり意識しておりませんでした。

瀧本:トライボロジーっていうのも,何かそれに似ているなぁという気がしているんです。潤滑とか摩擦とか,大昔から現実に使われていましたけど,それが時代とともに学術的にも解析されるようになって,進化が今も続いているわけですよね。「そんな学問,古いや」っていう人がいないことはないんですが,「今の時代に合うような学問に変わっているんだよ」とアピールするチャンスだと思うんですよね。

そういうことを,さっきのようなバックグラウンドがある京都でやるということに,すごく重要な意味があって,面白い企画だなと感じています。

トライボロジーという分野

杉村:今回は,日本学術会議との共同主催ということになりましたが……。

木村:ええ。日本学術会議は,年にいくつかの国際会議を選定して,共同主催をしてくれるんですね。財政上の支援もありますが,政府の機関であり,日本の科学者コミュニティーの代表である学術会議が共同主催をして下さるというのは,やはりトライボロジーが一種の認知を得たという点で,とてもうれしいことだと思うんですよ。

杉村:限られたエリアじゃなくて,広い分野をカバーするものでないと,なかなか共同主催をして下さらないとか。

木村:そう聞いてます。お医者さんの会議でも,全身に関するものはいいけれど,限られた臓器のものはだめだとか……(笑)。トライボロジーは,隠れて見えないところはあるけれど,非常に広範な分野に関わるということが,判断材料の一つになったんじゃないかと思ってますけど。

瀧本:企業から見ても,今の話は当てはまるところがありましてね。トライボロジーの分野自体は古くからあるんだけれど,「あぁ,潤滑油ね」とか「摩擦の話ね」とか,小分けして見られることが多いんですよ。

最近この会議の計画が始まったこともあって,うちの会社を振り返ってみると,「あれ,トライボロジーやってるエンジニア,これだけしかいないの?」とか,「次の世代は配属してないな」とか,いろいろ気になるところが出てきたんですよ。さっき言ったように新しく変わりつつある学問だと思うので,裾野を広げるというか,新しく種をまいていくというか,そういうところにつなげて行かなくてはならない。今回の会議を開催する意義は,まさにそこにあると思うんですよね。

産業でも重要なんですけど,学術の面でも「非常に重要なところなんですよ」,「こんなに面白いんですよ」,「こんなところがまだ分かってないから,一緒にやりませんか」とかね。そんな種がまけるといいな,というような気がしますね。

産・学それぞれが期待するもの

瀧本氏

瀧本氏

杉村:最近の経済危機で,会議の準備も大変だったわけですが,この時期における会議の意味について,どうお考えでしょうか。

瀧本:今,経済的にクラッシュしててね。日本だけでなくてどこの産業界も,政府を含めてですけれど,これからどう立て直すかっていうことを検討してるんですよね。

日本のものづくりでいえば,良いものをより安く,より早く作るということを主に追求して,ある程度成長してきたんだけれど,今の状態で,例えば中国のメーカーとか韓国のメーカーとか,それではなかなか太刀打ちしにくいところが増えてきているわけです。じゃあどうするかっていうと,より良いものをより安く,より早くっていうのは,基本的に変わらないなぁと。それを実現するためには,やっぱりもうちょっと人数を採らなくてはいけない,メカの部分をかなり強化する必要があると感じているんですけれどね。

例えば,燃費を良くしたいっていうニーズはどこでもあるんだけれど,今までやって来た方法そのものでは,もう飽和するのは目に見えているんですね。だから,設計の仕方,潤滑の仕方,軽量化の仕方なんかをもう一度ゼロに戻って……っていうことになると,早い話,機械の基礎的な部分がしっかりしていないとできない。企業は,そんなことできるのが当たり前だって思っていたもんですから,シミュレーションとか電子制御ソフトとか,それ以外の人材はたくさん抱えて,そっちの能力は高くなってきたんですね。ところが,メカのところの進化が,あるところで飽和してしまった。その結果,さっき言ったように「トライボロジーやってるエンジニア,これだけしかいないの?」って状態になったんですね。

これはメーカーが今,気がついたところなので,むしろわれわれが大学の方に「こういう研究者をぜひ育てて下さいよ」ってことを言う,いいタイミングなんだと思います。

杉村:大学でも,新しい分野がどんどん出てきていますから,例えば学科の中でも講座の取捨選択,淘汰みたいなものがありますし,トライボロジーを中心に据えてやっている研究者は減りつつあるんじゃないか,というのが心配なんです。産業界から,とても重要な分野で皆さん活躍しているということを言っていただけると,トライボロジーも発展するでしょうし,新しい人が育つんじゃないかと思いますね。

木村:僕は,大学や高専でトライボロジーを研究している人にもね,こういう会議を逆の意味で利用してほしいと思うんですよ。日本でもトライボロジー学会のメンバーは2,500人くらい。ということは,その社会の中だけで生きていけるようになったんですね。ですから,外の世界へのインパクトが念頭から薄れて,トライボロジーの周りに壁を作り,その中だけで生きている人が,年寄りの目から見ると少々増えてきたように思います。今度の会議では,大きな技術展示もありますし,企業からもできるだけ発表して下さいとお願いしていますから,プラクティスの面で,こんな問題が大事なのか,こんなところで行き詰まっているのかという風なことに,大学などの研究者が気が付いてくれる,いい機会になるんじゃないかと思っているんですけどね。こういうことを言うと,若い研究者から反発を食うかも知れませんけど。

経済危機からの回復とトライボロジー

木村:先ほど瀧本さんがおっしゃったように,企業では少し手薄になったところがあるかもしれない,手止まりになっているかもしれない。一方では,今ちょうど──ちょうどと言っちゃいけませんが,経済が落ちてますね。しかし,いつまでも落ちている訳はない。自動車の例で言えば,アメリカでも何度も不況があったり好況になったりして,自動車の生産台数はボンボン変わっても,保有台数はそう変わらないんですね。ですからやはりそういうニーズというのは,ずっと続いていくだろうと。これは自動車の例で言えばですけどね。

そこで次にターンアラウンド,経済がもう一度立ち上がる時には,恐らく今までの技術と少し違うものが必要になってくるんじゃないかと思うんです。だからそのために,今われわれは何をやればいいのか,表立ってそういう言い方ができる人はいないかもしれないけど,それをこの会議から見つけるということが,とても大きなポイントになるんじゃないかと思いますね。

瀧本:次に何が重要なんだっていうようなことを,発表者の側から何か提案してもらえるとありがたいなぁと思いますね。「今までこういうことをやってきました,次はここをやらなきゃいけない。だけどどうやっていいか分からない」とか,まぁそういうものでもいいと思うんですよね。

今,木村先生がおっしゃったように,変わらなきゃいけない時期になってると僕は思うんですよ。よく言われている低炭素社会に切り替えるとか,サステナブルな社会に変えなきゃいけないとか,大きな転換期に差しかかっていることは間違いないと思います。その中で,トライボロジーに関わっている人が何を目指すのか,そういう提案なり問題提起が出てくるといいなぁと思いますね。

杉村:もともとトライボロジーをやっている人間は,摩擦を下げるとか,摩耗を減らすとか,もともとサステナブルなものに貢献しているんだと思うんですね。ところが個々の研究をやっている時には,摩擦のメカニズムはどうだとか,学問的な興味につい集中しがちなんですね。全体の中での位置付けを発信するというのは,学者,研究者はどうも苦手なんですけれど,おっしゃるようなアピールをどんどんできればいいなと思っています。

学術プログラム

木村氏

木村氏

杉村:会議のプログラムはまだ発表されていない状況ですが,テクニカル・セッションに関係して,学術的な面での今回のWTCの計画について,一言ずつお願いします。

木村:もともとトライボロジストは数が少ないもんですから,どの国でどういう名目で国際会議を開いても,同じような顔が並んで「やぁ,また会ったなぁ」って(笑),何となく同窓会みたいな感じになってしまうんですね。それはそれで,僕は大事だと思うんですが,やはり今回はそれとは違った面を出したい。それで,「環境保全に寄与するトライボロジー」,「トライボロジーの大規模シミュレーション」,「人と調和するトライボロジー」,それに「アジア太平洋地域の工業におけるトライボロジー的課題」,この4つの大きなテーマを掲げました。今,トライボロジーの寄与が求められている重要な問題と,アジアで初めてのWTCを意識した選択です。7日のプレナリー・セッションは,ノーベル賞をもらわれた小柴先生の講演,「やればできる」を別にすると,いずれもこれらのテーマに関するもので,同じテーマで4大シンポジウムも計画されています。そういうところに,今回の企画は色を付けたと思っています。

やはり一番大きいのは最初のテーマで,ワールドウォッチのフレイビンさんの「低炭素社会の実現」,それに日本の技術がどう応えるかという形での,瀧本さんの「トヨタが先導するサステナブル・モビリティー」,この2つのお話が底流になるといいなと,そんなことを考えています。

杉村:組織委員長をお引き受けいただいた上に,非常に重いお役目をお願いして大変申し訳ないんですが,やはり環境の意識は皆さん普段から持ってますし,今回の会議でもそれを謳っているわけですから,最初その勢い付けを是非やっていただきたいな,と……。

瀧本:どこまでできるか分からないですけれど……。地球全体の閉塞感が言われますが,車を考えてもまた,同じような閉塞感がありましてね。このままの車では21世紀,22世紀って,次の100年は残れないなっていう危機感はあるんですよ。じゃあどういう車なの,って聞かれても答えられないんだけれど,それを準備するのが今のテーマだろうと思ってまして,少しそういうお話ができればなと……。その中にトライボロジーも当然関わってくるわけで,「問題はこれだ」とすぐには言えないんですけど,「こういうものを実現したいな」っていうところまでをお話しして,後は皆さんに考えていただきたいと思っています。

杉村:2日目からのプログラムについて,説明していただけますか。

木村:8日から11日までは,口頭発表のセッション,ポスター・セッション,4大シンポジウムと12個のミニシンポジウム。ここまでが,いわゆる学術プログラムですね。そしてテクニカル・ツアー,ランチョン・セミナー,バンケット,同伴者プログラムなどの行事が計画されています。

先ほどお話しした4つのテーマによる4大シンポジウムは,それぞれ担当のオーガナイザーに企画をお願いしています。ミニシンポジウムはテーマを公募したもので,おなじみのダイヤモンドライク・カーボンをはじめ,12件の応募をもとに計画してもらっています。

口頭とポスターによる研究発表,会議の重心はここだといってもいいんですが,計画するほうは頭が痛いんですね。何しろこの経済危機の最中ですから,いったいどれだけの応募があるか,全く予測できなかったんです。ところが蓋を開けてみると1,000件を超える応募をいただき,ほっとはしたんですけど,今度は限られた会場でどうさばくか,担当者はうれしい悲鳴を上げてます。

もう一つ,7日から11日にかけて,100ブースを超える大きな技術展示会を開くことを付け加えておきますが,まぁそういう内容豊富な会議ですから,ぜひ楽しみにしていただきたいですね。

新技術の開発とトライボロジスト

杉村:先ほどの瀧本さんのお話と関連するんですが,トライボロジーというのは,先を見て課題を見つけるに越したことはないんですけれど,得てしてトラブルが発生してから,あるいは開発の途上で問題に直面して発展してきたというところがありますね。そこを何とか打破したいなと,常々思ってるんですけれど……。

瀧本:例えば,将来こんな自動車,モビリティーを作りたい,そういうアイデアを自動車メーカーは持っています。じゃあその動く部分で,トライボロジーにどういう機能が期待されるか,っていうのは,その時点では分からないんですよね。で,ものを作り出して,ある時期からトライボロジーの人と一緒に,「そんな材料使っちゃだめだよ」とか,ディスカッションしながら作り上げて行こうというようになってますね。

産業界全体も,似たようなことになってると思いますね。今までに起きてきた問題をつぶして行く部分は,かなり確立されている。だけどそれだけだと多分じり貧になっちゃうから,どういうことが将来必要になるんだろうか,それが問題なわけですね。

ちょっと話が飛びますけど,例えば電気自動車ね。われわれも長くやってきてるんですけど,電気機器メーカーも作れるし,中国のメーカーも出てくるし,どこでも誰でも作れる。「電気自動車の時代になったら,自動車メーカーはどうするつもりですか」って,そういう言い方をするジャーナリストの方が多いんですけど,全然心配してないんですよ。僕は「寄せ集め技術」と「すり合わせ技術」に分けてるんですけどね。単に寄せ集めて良い製品ができるほど単純な世界じゃなくて,複数の人が必死で考えて最適な状態を作り上げている,あらゆる製品がそうだと思っているんです。

例えば,既存のモーターを買ってきてトヨタの作りたい自動車を実現しようとすると,モーターはでかすぎるし熱は発生し過ぎるし,われわれが期待するモーターがなかったんですよ,世界中に。しょうがないから,うちの中で作ろうということになって……,そうすると潤滑も,今まであったモーターとは別世界で,これまでのやり方では全然もたないとか,そういう問題が発生してくるんですよ。

だから,何か新しいものを作り出そうとすると,必ずそういう基礎的な部分ができる人と,新しく発想してどんどん走る人と,車の両輪で,両方がいないと良いものができないと思うんですよね。これは自動車だけではなくて,脱炭素社会なんかも,本格的に動き始めたら多分同じことが起こるんじゃないかな。

杉村:先ほど木村先生も言われたように,トライボロジストが自分たちの世界に閉じこもらずに,いろんな分野の流れをつかんで協力していくという姿勢が必要ですね。

瀧本:学術のところでやりやすいものを,単に一つ一つ寄せ集めただけではだめなんで,ジェネラリストっていうか,全体のシステムのイメージをもったトライボロジストが,これから重要になってくるんじゃないかと思ってますけどね。

木村:そのへんが,産官学協力の一番大事なところの一つだと思っているんですね。大学なんかにいる研究者のおそらく半分以上は,自分の好奇心にドライブされて突っ込んで行く。それがなければいい成果は出てこないと思うんですが,その反面その研究がどういう風にして,今おっしゃったようなニーズにつながって行くか,そういう見方を意識的にする必要があるんでしょうね。これは,学会の役割なんかと関係すると思いますけど……。

トライボロジーをアピールする展示会に

杉村氏

杉村氏

杉村:話がトライボロジーの本質論に行ってしまいましたが,トライボロジストはそういった部分を意識して行かなきゃいけないとは思うんです。しかしシステム全体,例えばロボットの技術ですと,センサーが良くなったとかコントロールのソフトが進歩したとか,主役はどうしても他分野に譲らなくてはならず,トライボロジーは見えない場所で……ということになりますね。そういう役割としてのプレゼンスを高める,今回の会議ではそういう,地味ではあるけれど永続的に重要なんだということをアピールして行きたい。地味な分野をかっこ良く,っていうのも変なんですけど,これはやってみたいですね。

瀧本:それこそねぇ,トライボロジー学会の広報が,必死で考えなきゃいけないところですよ。おっしゃるとおり非常に地味な分野ですけど,トライボロジーがなくなったら世の中が成り立たないわけですよね。ありとあらゆる動くものに関わっている。そういう重要な問題をどうやって分かりやすくアピールするか,それはすごく大事です。

日本の大学の工学部が変質してきた原因も,まさにそこにあるようですね。機械工学科なんていうまじめな名前じゃなくて,何とかシステム科とかに変わってるでしょう。先生に聞くと,「そうしないと学生来ないのよ」って(笑)。最近の学生のメンタリティーに,昔の表現がうまく伝わらないのかも知れない。若い学生と一緒に新しい伝え方を編み出して,「面白そうだ」って感じさせるというのが,今回の展示とセットで何か出せるといいと思いますね。

木村:おっしゃるように,トライボロジーの重要性をどうやってPRするか,皆さんなかなか知恵が出し切れていない。それで,大学生ぐらいまでは今までも考えていましたけれども,今回は小中高の生徒さんを相手にして催し物をやるという,われわれとしては珍しい取り組みがあります。文部科学省,経済産業省のほか,京都の教育委員会などの後援も得られましたから,このへんがうまく行くと一つの前例になると思います。

杉村:コマ回しコンテストとか摩擦で火をつけるコンテストとか,今まではトライボロジー内部の人間だけでやったことがありますが,これをきっかけに,国内の会議でも地元に働きかけて,子供たちも一緒にやると,だいぶ認識が変わってくるかなという気がしますね。

瀧本:トライボロジーの先生は,トライボロジーの世界の中でアピールしたいと思われるでしょうが,僕らものづくりのほうから言うと,ある部分を担ってもらっているんですね。材料もそうだし,機構学もそうで,それぞれが重要でどれが欠けても成り立たない。だから,そういう中でのトライボロジーをうまくアピールできれば,ありとあらゆるものに関わっている重要さを,皆さんに理解してもらえると思いますね。

今度の展示会でも,展示する企業からいえば,自社の製品とか技術をアピールする絶好のチャンスですからそれを訴求されると思いますけれど,一歩進んでトライボロジーって部分が,どういう風にその製品に生かされているか,ちょっと言っていただくと,全体として見る人が,「あっちに行ってもトライボロジーが使われているし,こっちに行ってもこんな風に関係がある」と,ある意味で勉強してもらえると思うんですね。

トライボロジストよ,胸を張れ

(左)木村氏,(右)瀧本氏

杉村:だいぶ時間もたちましたが,トライボロジストと一般の方へのメッセージをいただければと思います。

木村:まじめなことからいいますと,こういう経済情勢で,どこでもパワーが落ちてるときの国際会議ですから,「お前のところはどうなんだ」,「うちはここに余力があるんだ」とか,「うちは,ここはまだ頑張っているぞ」とかね,そういう交流ができると,これからずいぶん役に立つと思うんですよ。それぞれの国で陣容が小さくなれば,結局国際協力で乗り切らなければならない,というところがありますから。

もう一つ,トライボロジーに関わりのある人が世界中から来てくれるわけですから,そういうチャンスを楽しんでほしいと思うんですよ。自分の発表を一所懸命練習して,発表が終わったら帰ってしまうなんてのじゃなくて,むしろ終わった後のディスカッション,インフォーマルなディスカッションとか,今まで論文でしか知らなかった人と直接話をするとか,書いたもの以外のコミュニケーションがいかに楽しいか,役に立つかっていうことを,ぜひ実感してほしいですね。

瀧本:先ほど話しましたが,人間の作り出したありとあらゆるものにトライボロジーが関わっているわけですよね。なかなか表面からは見えにくいけど,この世界を支えているんだっていう気概,俺たちがいなきゃ世の中成り立たないんだよ,っていうくらい,威張っててもらっていいんです(笑)。

その上で何が重要かっていうと,ものとものをつなぐ部分に学問があったり潤滑油があるわけで,違うものをどうやってうまくつなぐかっていうのは,学問の分野でも難しいけれど,人間と人間をつないだり産業界と学会をつなぐのも同じだと思うんですよ。トライボロジストというのは,そういう部分で長けた人たちだと思うんで,異文化の人たちをうまく両立させる,トータルでいい方向に向かって行けると,自信をもって活躍していただけるといいと思いますね。

杉村:学問の分野でも「つなぐ」お話をされましたけれど,人と人との摩擦,なんていう意味でも使われていますので,そういった部分にたずさわる,板挟みになって潤滑剤の役割をさせられたり,というケースもたしかにありますので……(笑)。

瀧本:これもお話ししましたが,「すり合わせ技術」の最たるものがトライボロジーだと思っていますので,もっともっと自信をもっていただいていいんじゃないでしょうかね(笑)。

一般の方々へのメッセージ

杉村:一般の方々向けにはいかがでしょうか。

木村:一般の方には二通りあって,一つはトライボロジーに隣接する分野の専門家の方々ですね。自分たちはトライボロジストではないと思ってたんだけど,本当はずいぶん関わりがあるんだな,というような方々に,自分はちょっと場違いかなんて思わないで,トライボロジストが周りに作った壁を乗り越えて,どんどん来ていただきたいということです。もう一つは,いわば専門家以外の一般市民の方々にもぜひお越し願って,あぁ,こういう分野があるんだということを感じ取っていただき,トライボロジーを子々孫々申し伝えていただきたい(笑)。

杉村:一回聞いただけだと,だいたい“トライポロジー”になってしまいますからね(笑)。産業界から一般の方へのメッセージはいかがでしょうか。

瀧本:一般の人から見て,やっぱり「どういう部分で役に立ってるの?」というのが分かりにくい世界なんですね。すごく身近なのに分かってないって気がするんで,それをどう分かりやすく伝えるかっていうのは,専門家が考えなくちゃいけない。そのキャッチボールがあって初めてうまく行くもんであって,一般の人に「あぁ,こんなに凄いことやってもらってたんだ」って感じてもらえるように,こちらからも努力して情報を出すのが必要な気がしますね。

今のままだと,縁の下の力持ちってのは何となく分かっているけど,「どういう力持ってるの?」というのが見えてないんで,少し専門家側がアピールする時期じゃないかなと思います。

エピローグ

杉村:ありがとうございました。最後に産業界と学会から,締めくくりの言葉を一言いただければと思います。

瀧本:ここまでにお話ししたことに尽きるんですけど,これから世の中どう変わっていくんだろうっていうところで,産業界は産業界,学界は学界,政治家は政治家のいろんな思いがあるんでしょうけど,低炭素社会というのは抽象的な言葉ですが,もっと目立たなきゃいけないと思っているんですよね。

それを聞いて,じゃあ産業界はどうするか,学界は何を目指すのか,という部分が,まだこれから始まるような気がするんですよ。今回は日本だけの学会じゃないですけど,特に高齢化が進む日本,資源がない日本で,低炭素社会に向けてどう進むか,これは難しいけれど,日本として非常に大事な問題だと思うんですよ。その中で,何かを生み出さなきゃいけないんですけどね。

木村:今,大変大事なことを言って下さったんですね。

前にも紹介したことがありますが,今度共同主催してくれる日本学術会議がこういう指摘をしているんです。環境問題にしても資源問題にしても,現在地球は「行き詰まり問題」に直面していて,それを乗り越えて持続的発展をするためには「知の再構築」が必要である,と。17世紀以来の近代科学は,例えば天文学とか生物学とか,「あるものの探求」が主であったんだけれど,それと並んで「あるべきものの探求」が重要だというんですね。その二つを包含する学術の体系を作らなくてはならない,という主張です。

卑近な言葉でいうと,トライボロジストも,例えば摩擦面で何が起こっているのか,という自分の興味で掘り下げていく研究も大事ですが,人類が低炭素社会という課題に直面しているときに,トライボロジーの分野が何をなすべきか,社会のニーズに応える研究も必要で,意識的にそういうバランスをとって進めていくのが大事じゃないか,という気がしますね。

瀧本:低炭素社会についても,僕自身はもうちょっと深く考えなきゃいけないなと思ってるんです。学問の世界は違うかも知れないけれど,産業界は,世の中の人に喜ばれるものを作って安く良いものを普及させれば,必ず人類の幸福につながると信じてやって来たんですね。それが今見てみると,世の中に品物はあふれているのに,どうもそれを幸せと思ってない。「あぁ,何か間違えてしまったなぁ」という気がしてるんですよね。二酸化炭素も一つの例だし,必要以上に資源を無駄遣いしたな,と。低炭素社会という言葉が使われていますけど,むしろ「サステナブル社会」に入れ替えて,今までと違った形で人類に幸せを感じてもらいたいなぁ,と思うんです。

そのときに自動車はどうあるべきかとかね,そういうことを考える時期に来たな,と。そこからスタートして,トライボロジーにはこんなテーマがありますよとか,今度は産業界側からレビューしなきゃいかんと思っています。まだそこまでは至っていないな,というのが感想ですけど。

杉村:今回はかなり環境問題を意識した会議を開催するわけですが,それをきっかけとして,トライボロジーの新しい方向を見つけていこうというのが,やはり一番大きなテーマであり,トライボロジーのプレゼンスを高めることでもありますし,また「つなぎの技術」としての重要性を知っていただくという意味でも大事なんですね。この会議全体の意味付けが,今日,お二人からお話をいただいてはっきりしてきたかな,という印象を受けました。長時間にわたり,貴重なお話をいただきまして,ありがとうございました。

(今回のインタビューは2009年6月1日,名古屋市のトヨタ自動車名古屋オフィスで実施しました)

 

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