トラクション機構とは,転がり接触による摩擦駆動のことをいい,この原理を利用した動力伝達装置をトラクションドライブと呼んでいます。トラクションドライブには,表面損傷の防止のために潤滑油が使用されており,動力の伝達は転がり面に構成される油膜を介して行われます。
トラクション油の特性と用途
トラクション機構に使う潤滑油はどのような特性の油でしょうか。
解説します。
トラクション機構とは,転がり接触による摩擦駆動のことをいい,この原理を利用した動力伝達装置をトラクションドライブと呼んでいます。トラクションドライブには,転がり面の熱の放散や摩耗,焼き付きといった表面損傷の防止のために潤滑油が使用されており,動力の伝達は転がり面に構成される油膜を介して行われます。また,潤滑油の種類によって伝達されるトルクが変わってくるため,潤滑油の選定が伝達容量を決める上で,たいへん重要となってくるといえます。
一般に,トルク伝達能を表す尺度としては,転がり面に作用するトラクション(=伝達力)を荷重で割ったトラクション係数が用いられます。ちなみに,円筒式試験機による数種の潤滑油のトラクション係数を表1に示します。
表1 各種潤滑油のトラクション係数
SUJ2円筒(直径40mm)どうしの接触,回転速度約1500rpm,油温約300K。 |
潤滑油の種類によってトラクション係数の幅は約2倍に達すること,類似の組成・化学構造をもった油種間では,粘度によるトラクション係数の差は小さく,組成・化学構造の違いがトラクション係数に大きく影響を及ぼしていることがわかります。
トラクション機構潤滑油には,鉱油系と合成油系のものがありますが,鉱油系では,ナフテン系の方がパラフィン系のものよりトラクション係数が高いため,一般に使用されています。
トラクション機構潤滑油に要求される性能は,
(1)トラクション係数が高いこと
(2)酸化安定性に優れていること
(3)防錆性を有すること
(4)摩耗防止性に優れていること
(5)消泡性が良好であること
(6)シール材等に影響のないこと
であり,上記性能を満たすために各種添加剤が配合されます。添加剤の選定にあたっては,基油のトラクション係数を低下させいないものを選定することが必要ですが,一般に添加剤を少量添加した場合,トラクション係数への影響は小さいようです。
また,合成油系の中にはナフテン系鉱油よりトラクション係数の高いものがあり,それらはトラクション機構に対する専用潤滑油といった意味から合成トラクションオイルと呼ばれ,表2に示すようなものがあります。
表2 合成トラクションオイル
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特に,分子中にシクロヘキシル環を2個以上もっている化合物が高いトラクション係数を示すといわれています。このような化合物は,一般の潤滑油と比べて高圧下で粘度が非常に高くなり,転がり軸受などの転動体に対し,疲労寿命の延命効果があるといわれています。
トラクションドライブは転がり伝動であるため,歯車伝動と比べて運転中静粛で振動も少なく,高速回転が容易となり,無段変速機能をもつものは,同種の可変速モーターや流体式無段変速機と比べて,構造が簡単で保守管理が容易であるといった特長をもっています。ところが,これらの長所があるにもかかわらず,トラクションドライブは現在まで十分に活用されていたとはいえないようです。最近になり,伝動部材の耐久性が向上したことや,トラクション機構に対する専用潤滑油が開発されたこともあり,再びトラクションドライブが取り上げられるようになってきています。
また,変速機としてのトラクションドライブは,入力軸の回転数が一定の「定速比型」,設計範囲内で出力軸の回転数を無段階に調節できる「可変速比型」のものに大別されます。