鉄鋼用圧延油クーラントの管理方法について解説します。圧延油クーラントは,濃度,乳化状態,鉄分,酸価,けん化価などの管理を行います。
鉄鋼用圧延油クーラントの管理方法
循環給油方式の圧延油クーラントについて,板材表面の疵防止と圧延油使用量を削減するためのクーラントの管理方法を教えて下さい。
解説します。
近年,鉄鋼の冷間圧延ラインでは,表面処理鋼板(自動車外板用を中心とした各種亜鉛メッキ鋼板など)の原板の圧延などが重要となっています。この表面処理鋼板の原板は,冷間圧延後メッキラインに流されます。この時,板材表面に疵があると,メッキ材の品質不良となり問題となります。この板材表面の疵は,クーラント内の微細な異物が原因であることが多く,板材表面の疵発生を防止するために,圧延油クーラントを清浄化する設備的な改善が必要です。
1. 圧延油クーラントに求められる性能
冷間圧延時には,塑性加工と摩擦により膨大な熱が発生します。そこで圧延油クーラントは,水による冷却効果とともに,潤滑面(ロールと板材料の表面)に潤滑剤を供給して圧延動力(荷重)を低減し,摩擦発熱を緩和する(潤滑効果)という二つの大きな役割を担っています。
さらに最近では,表面処理鋼板の原板に高い表面品質が求められており,クーラントへの混入物が鋼板表面品質に影響を与えるため圧延油クーラントが常に清浄な状態に保たれることが必要条件の一つになってきました。
また,濃度や乳化状態の急激な変化は,圧延作業を不安定にするばかりでなく,圧延油の使用量を増加させます。
圧延油クーラントの性状と性能の関係については表1に示します。
表1 クーラントの性状と性能の関係
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2. 圧延油クーラントの管理
(1)クーラントの濃度管理
圧延油クーラントは,水が95%~98%で残りの2~5%が潤滑成分となる圧延油です,設定濃度は,各圧延機の能力,圧延材料の構成,圧延油の内容成分(潤滑性能)などにより各圧延機ごとに管理範囲が決められています。濃度低下は潤滑性の低下になり,圧延油を補給していないのに濃度が上昇する場合は,トランプオイルの大量混入(作動油,潤滑油などの漏れ)により圧延作業が不安定になります。従来,濃度は現場の作業者が手分析により求め,圧延油の補給等の管理をしてきました。しかし,最近では,音波によりオンライン自動濃度計が普及し,さらに各種配管のバルブが自動化して集中管理システムとなっている所が多く,低濃度使用でも迅速な管理が可能となっています。
(2)乳化状態の管理
乳化状態は,一般に粒径分布,ESI,プレートアウト等が現場で測定され管理されています。この中で粒径分布は,多くのラインで測定され,乳化状態を管理する指標になりつつあります。粒径分布は,電解液にクーラントを希釈して細孔を通過させ,その時の抵抗の変化をコンピュータ解析して求める方法が一般的に用いられています。
乳化状態の変化は,潤滑性に影響するばかりでなく,圧延油の原単位にも関わりが深いものです。乳化状態が過度に良好になると潤滑面への油剤の供給(プレートアウト量)が減少し,潤滑性が低下します。また,不安定になると圧延油の補給量が増加し,圧延油の使用量が増加する傾向を示します。圧延油メーカーは,どんな圧延条件下でも安定な乳化状態を有する圧延油の開発に重点を置いています。
(3)鉄分の管理
冷間圧延油のクーラントには,様々なものが混入します。ごみなどの混入防止を目的に,圧延機周辺や工場全体のクリーン化をはかり効果を上げている所もあります。
大型の混入物は,メッシュなどで取り除くことが可能ですが,100μm以下の混入物や液状のものは除去が難しくなります。ここでは,100μm以下の混入物である摩耗粉の管理について説明します。
圧延により発生する摩耗粉は,10μm以下の微細な粒子が大半を占めていますが100μm以上のものもあり,大型の摩耗粉がそのままロールに噛み込むと鋼板表面の品質を低下させる恐れがあります。特に表面処理鋼板の原板圧延時には,板材表面の疵を防止する必要があります。
一般に,摩耗粉の混入量は,鉄分として原子吸光法などで求めています。表面処理鋼板の原板の疵を防止するためには,この鉄分を少なく維持することが重要です。そのためには,クーラントの鉄分を迅速に分析し,管理範囲を超えた場合には,速やかに摩耗粉を除去する対応(スキーミングなど)が必要となります。最近では,一定のクーラントを精密な天秤と磁石を応用して鉄分を求める方法が提案されています。
また,圧延油クーラントシステムには,従来から摩耗粉を系外に排出する設備が設けられています。これらは,単独で用いた場合十分な効果が得られないため,何種類かを併用する所が多いようです。
(4)酸価,けん化価の管理
酸価とけん化価は,圧延油クーラントの潤滑効果にとって重要な管理項目です。
酸価の上昇は圧延油の劣化を,低下はトランプオイルの混入を意味します。このような状態になると,安定した潤滑性が得られなくなります。
酸価とけん化価の分析は,圧延油クーラントから圧延油を抽出してJIS法などによって行われています。しかし,手分析では抽出,けん化などの処理に時間が掛かるため,クーラントの自動分析装置を開発してクーラントの管理を行っている所もあります。
酸価とけん化価が変化した場合には,圧延油クーラントを一部置き換えるなど,劣化した圧延油やトランプオイルを除去する対策が必要です。
3. おわりに
今後,油剤メーカーでは,より安定な圧延油クーラントを実現できる油剤の開発をめざしています。また,鉄鋼メーカーでは,使用中の圧延油クーラントから混入する摩耗粉等を効率良く排出する設備的対応を行うことも重要と思われます。この様な,油剤メーカーと鉄鋼メーカーの協力で板材表面品質の向上と圧延油使用品削減が可能になるものと考えます。