ビールのアルミ缶製造と潤滑油 | ジュンツウネット21

ビールの缶は,缶胴とふたとからなっているため,2ピース缶と呼ばれています。また,しぼり加工(Drawing)としごき加工(Ironing)にて製造されるため,DI缶とも呼ばれています。DI缶の製缶工程,DI缶加工用潤滑油について解説します。

ビールのアルミ缶製造と潤滑油

ビールのアルミ缶製造はかなりむずかしい成形方法で,潤滑油が重要な役割をはたしていると聞きますが,その理由などを教えてください。
解説します。

飲料缶の生産はここ数年かなり増加しており,各種サイズのさまざまなデザインの缶があります。このなかでビールの缶は,缶胴とふたとからなっているため,2ピース缶と呼ばれています。またこの缶は,しぼり加工(Drawing)としごき加工(Ironing)にて製造されるため,DI缶とも呼ばれています。材質はアルミニウムにほかブリキ(Snメッキ)もありますが,ビールに使用されている缶はほとんどがアルミニウムです。この缶の製造法は,かなりむずかしい成形方法であるため,ここに係わる潤滑油は重要な意味をもっています。

1. DI缶製缶工程

DI缶は,缶の胴体と底の部分が継ぎ目なしの一体構造になっている缶で,コイルから最終製品まで高速連続流れ作業で加工されています。この製缶工程を図1に示します。

DI缶製造工程図
図1 DI缶製造工程図

まず,コイルはアンコイラを経て,ルーブリケータで潤滑油が塗布され,マルチダイ方式のダブルアクションタイプのカッピングプレスに送られ比較的浅い絞り加工が行われます。カップはボディメーカーへ送られます。ここでは,最終の缶径に再絞りするタンデム型のリドローダイスおよび3段のアイアニングダイスと,その中を通過するポンチにより,薄く延ばされ所定の缶高,壁厚まで1ストロークで成形されます。この時,クーラントで潤滑および冷却を行いながら成形されます。さらに,ポンチの最終工程で缶はドーミングダイスにより所定の形状に缶底が成形されます。ポンチの戻り工程でストリッパーによりポンチから抜かれた缶の開口端は,素材の耳,ストリップ不良のまくれ,座屈などのために不規則になっているので,トリマーで所定の缶高になるように切断されます。その後,成形時の潤滑油およびスマットを洗浄・脱脂し,化成,印刷,ネッキングおよびフランジングを経て製品となります。

2. DI缶加工用潤滑油

2.1 潤滑油の使用方法

アルミニウム缶の場合には,図2に示すようにリオイル(再塗布油),カッピング油およびボディメーキング油の3種類の潤滑油が使用されます。

リオイルは,圧延メーカーでコイルの保護および成形性向上を目的として,通常,静電塗油法で塗布されます。

また,カッピング油およびボディメーキング油は,通常O/Wエマルションで製缶メーカーで使用されます。カッピング油は成形性を左右するもっとも重要な潤滑油と考えられるため,通常20~40%程度の比較的高濃度で使用される場合がほとんどです。ボディメーキング油は,冷却性が中心となるため,クーラントとも称され,エマルションの濃度はカッピング油よりも低く,10%付近で用いられることが多くなっています。

DI缶加工における潤滑機構
図2 DI缶加工における潤滑機構

2.2 DI缶加工潤滑油の要求性能

使用される場所により,多少の差はありますが,要求性能をまとめると表1のようになります。

表1 DI缶加工潤滑油の要求性能
(1)潤滑性(成缶性)
 1.缶外面のきず
 2.缶の真円度不良
 3.黒すじ(ブリードスルー)
(2)被洗浄性,脱脂性
 1.ブラックスポット(黒色グリース状よごれ)  
 2.フレーバー性(よう素価,不飽和化合物)
(3)工具腐食(超硬工具)
(4)排水処理性
(5)乳化安定性
(6)電気絶縁性(リオイルの静電塗布)
(7)ストリッピング性

2.3 DI缶加工用潤滑油の特徴

アルミニウムDI缶加工用潤滑油市販品の性状を表2に示します。

表2 アルミニウムDI缶加工潤滑油
 
市販品
A
B
C
D
性状  
(原液)
密度 15/4℃
0.9428
0.9348
0.9180
0.9240
引火点 (COC)℃
198
196
168
188
粘度 (40℃)cSt
66.98
177.6
43.49
40.43
    (100℃)cSt
8.023
12.95
6.682
6.989
粘度指数
82
48
106
134
全酸価 mgKOH/g
11.2
13.0
28.6
10.7
ケン化価 mgKOH/g
20
14
137
132
ヨウ素価 gI2/100g(10%エマルション)
16
23
11
12
pH
9.3
8.8
8.4
8.5
予備アルカリ度
24.4
9.6
38.3
13.8
基油のタイプ
鉱油
鉱油
合成
合成
乳化剤のタイプ
アニオン
ノニオン
ノニオン
ノニオン

一般的にこれらの潤滑油は,基油に油性剤,極圧剤,乳化剤,腐食防止剤および殺菌剤など必要な添加剤が配合されています。基油については,石油系と合成系があり,合成系には従来ポリエーテル系が使用されていたことがあります。しかし現在の市販品にはほとんどないようです。

市販品A,Bが石油系であり,市販品C,Dが合成系であります。石油系では,市販品Bは粘度指数が低いことからナフテン系を用いていると思われます。合成系では,潤滑性を考慮したためにすべてエステルを使用しています。

乳化剤については,市販品Aがアニオン系界面活性剤を使用していますが,これ以外はすべてノニオン系界面活性剤を使用しています。このことは,製缶メーカーの排水処理設備の充実を意味しており,ノニオン系界面活性剤を使用してもある程度対応できる状況にあるようです。

粘度については,40℃において40~70cStにほとんど入っているが,市販品Bだけが非常に高粘度です。合成系市販品は,潤滑性が良いためか,あるいは基材の関係のためか,比較的低粘度のものが多くなっています。

酸価については,10~30程度まで分布しており潤滑性を考慮して脂肪酸を油性剤として使用していることがうかがえます。

3. まとめ

DI缶は表面品質が重要視されるため,加工における潤滑油の役割はきわめて大きくなっています。特にアルミ缶での黒すじと呼ばれる表面欠陥に関しては,潤滑油の寄与が重要なポイントとなっています。

さらに高速製缶への動き,缶の薄肉化およびエマルション濃度低下によるコストダウンの動きなどが考えられ,潤滑油に対する要求もますますきびしいものになると予想されています。

<参考文献>
大西輝明:トライボロジスト,35,12(1990)852.

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月4日