オイルシールの低摩擦化 省エネに役立つ | ジュンツウネット21

オイルシールの低摩擦化,油低粘度化と油量低減のシールへの影響などについて解説します。

オイルシールの低摩擦化(省エネに役立つ)

自動車の燃費を良くするためには,摩擦を少なくする必要があると思いますが,実際にノンフリクション・シールというのは使用されているのでしょうか。
解説します。

‘ノンフリクション’というと,機械要素部品であるシール(密封装置)において‘摩擦による仕事損失が全くない’という意味で理想的です。しかし,実際には相対運動部に介在する流体の抵抗や接触すべり抵抗などによって,必ず何らかの摩擦が発生してしまいます。機器装置外への流体の漏洩防止を主目的とするシールは,密封しゅう動部に巨視的クリアランスを有する構造かどうかで非接触式と接触式に分類されます。一般的に,前者の非接触式は後者と比較して微少な摩擦を示しますが,密封性が劣る欠点を持っています*1。高い作動信頼性が要求される自動車では,密封性が重要視されるため接触式のオイルシールが実用されており,ここではその低摩擦化について説明します。

1. オイルシールの動向

自動車や一般産業機械分野では,バブルの絶頂期までは高出力化やニーズ多様化の要求から技術競争が激化し,オイルシールに対する要求も機能優先でその一つとして低摩擦化が進められました。ところが,バブル崩壊後,機能優先からコスト優先に大きく方向転換されています。最近では市場でのメンテナンスコストを低減することで企業体質を強化する方策が強く打ち出され,これと並行して省資源化や燃費規制への対応も進められています。このような動向を背景としてオイルシールでは,低コスト化や省スペース化(小型軽量化),組込み性を含めたタフネス性向上などとともに低摩擦化の要求があり,課題が複合化されてきています。その代表例として低摩擦化したエンジンシールの形状を図1に示します。これはリップ断面を小さくして省スペース・軽量化を考慮して低摩擦化した例です。オイルシールの低摩擦化を考える場合,大前提となる密封性確保を考慮した設計が重要になります。

低摩擦化したエンジンシールの例(省スペース・軽量化を考慮)
図1 低摩擦化したエンジンシールの例(省スペース・軽量化を考慮)

2. オイルシールの低摩擦化

(1)オイルシールの潤滑・摩擦特性

オイルシールの接触しゅう動面は相手(軸)表面と相対すべりをしながらも,流体(密封対象液)を外部に漏洩させない機能が要求されます。流体を漏らさない方法として,ガスケットのように接触面圧をあげて流体がしゅう動二面間に介在しない状態,すなわち,非流体潤滑状態とすることが考えられます。しかし,運動用シールではシールしゅう動表面と相手表面が直接接触してすべるため,摩耗によってシール寿命は著しく短くなってしまいます。したがって,しゅう動二面間に流体(油やグリースなど)が介在して二面が保護される状態(図2),つまり,流体潤滑状態で密封する必要があり,この状態での使用は長寿命のために不可欠と言えます。このようにしゅう動面の潤滑状態はシール寿命に大きく影響します。

オイルシールのしゅう動状態
図2 オイルシールのしゅう動状態

潤滑状態把握のためには摩擦特性を評価することが重要になります。一般的なJISのS型オイルシール(図2)で得られた摩擦係数fと無次元特性数Gの関係を図3に示します。

オイルシールの摩擦特性
図3 オイルシールの摩擦特性

Gは,μ,v,b,Prをそれぞれ油粘度,しゅう動速度,接触幅,緊迫力(軸を締め付ける力)とするとG=μvb/Prで定義される値で,シール形状や使用条件によって決定されます。図3はμとvの条件を変えて得られた結果で,fとGの関係は

f=ΦG1/3 ・・・・・・(1)

で表わされます。摩擦特性の正の勾配領域は,流体粘度とすべり速度に支配される流体潤滑状態を示しています。すなわち,シールは油膜の介在により長寿命が確保されます。

なお,Φは,軸表面粗さやゴム材料の弾性率などで決まる比例定数です。図4は軸表面粗さと比例定数Φとの関係を示した一例です。また,このΦ値が低下するとシール性が低下することが知られています*2。

Φ値と軸表面粗さRyの関係
図4 Φ値と軸表面粗さRyの関係

(2)オイルシールの低摩擦化

オイルシールの摩擦トルクTrは,F,Dをそれぞれ摩擦力,軸径とすると

  Tr=FD/2=fPrD/2 ・・・・・・(2)

で表わされ,式(1)を用いて整理すると

  Tr=(D/2) PrΦ (μvb/Pr)1/3 ・・・・・・(3)

となります。これから,オイルシール自体でトルクを低下させるためには,緊迫力Pr,接触幅b,Φ値を小さくする方策が考えられます。しかし,Φ値の低下は前述のように密封性低下につながるため,ゴム材料を変更しないでΦ値を同じにする必要があります。また,平均面圧をpaとすると,Pr=πDb・paから b/Pr∝1/pa となり,paはb/Prで左右されます。しかし,リップくさび形状を同一とすると,平均面圧paはPrを低下させても弾性接触論から同じになるため,b/Prの項を同一として取り扱うことができます。そのため,摩擦トルクの低減は,リップ先端形状を同じにして緊迫力Prを低下させて行う手法が必要となります。

Prの構成は,Ps,E,Sをそれぞれスプリング荷重,リップ材弾性率,リップしめしろ(軸径-リップ内径)とすると

  Pr=Ps+E・S・K ・・・・・・(4)

で表わされます。ここでKはリップの厚さや長さなどで決定される形状係数です。この式より,トルク低減目的でPrを低下させるためには,PsやKを低減させる方法が採用されます。Kの低減はリップ形状を小断面化して行います。

以上の考え方から,密封性を低下させずに摩擦トルクを低減させるためには,基本シールに対してゴム材とリップ先端形状を同じにしてPrを低下させる設計が必要となります。これに基づいて低トルク化した事例を図56に示します。比例定数Φを変えずに摩擦トルクは30%低減されています*3。

Φ値一定を考慮した低摩擦化
図5 Φ値一定を考慮した低摩擦化
低摩擦化されたオイルシールとのトルク比較
図6 低摩擦化されたオイルシールとのトルク比較

3. 油低粘度化と油量低減のシールへの影響

機器の摩擦力を低下させるため,潤滑油の粘度を下げて摩擦抵抗を低下させる手法が一般的に取られ,また,低温度条件での油の低粘度化も進められています。低粘度油の使用は,上述のf-G特性からGが低下して油膜厚さが減少し,境界潤滑領域よりのしゅう動状態となるため,相手軸粗さによっては固体接触領域が増加し摩耗しやすい傾向となります。

また,オイルシール用ゴム材料は油に浸せきされると,膨潤して強度低下やゴム材中の可塑剤などの配合剤の抽出を起こすことがあります。ゴム膨潤の影響は,鉱油に対しアニリン点による予測が可能で,一般にアニリン点の低い油では膨潤が大きくなる傾向があります*4。油の低粘度化によりアニリン点は低下する傾向であり,オイルシール用ゴム材料も低アニリン点に耐える材料へシフトしてきています。図7にアニリン点とゴム材料の適用範囲を示しますが,近年オイルシール材料はフッ素ゴムの使用比率が拡大されてきています。油改良時にはゴム材料との適合性確認が必要となります。

油アニリン点のゴム材料への影響
図7 油アニリン点のゴム材料への影響

一方,油充満で使用される機器では油の撹拌抵抗が大きくなるため,油量の低減化やオイルシールへの油供給を滴下に変える動向があります。オイルシールにとって,これらの使用環境は,枯渇潤滑条件側への移行を意味し,しゅう動部の固体接触増加によって摩耗が進行しやすく,オイル劣化によるスラッジ増加によってもリップ摩耗が促進されやすくなります。また,リップの発熱が増加しリップが硬化するなどオイルシールの寿命を低下する方向になります。このため,シールに必要な最低給油量の確認が必要となります。

4. まとめ

低摩擦化は,高速化におけるしゅう動発熱低減や低燃費などの観点から,今後も継続的な重要課題に位置づけられると考えられます。現在では,オイルシールの低摩擦化は,大前提となる密封性を確保したうえで,緊迫力を低減させる手法が採用されていますが,さらなるシール摩擦の低減化のためには表面特性の制御などの新技術の開発が期待されます。なお,低摩擦シールにおいてはリップ形状が小断面となるため,組み付け工程でのリップ反転に注意が必要で確認をお奨めします。また,油による低摩擦化の場合,オイルシールの耐久性低下につながるため,油との相性や油量などシールメーカーへの確認をお奨めします。

<参考文献>
*1 R.Austin and B.S.Nau, The Seal Users Handbook, BHRA (1974) 3.
*2 F.Hirano and H.Isiwata, IME Proc., 180-3B(1965-1966) 138.
*3 T.Yukimasa,Y.Kawahara,M.Ohtaki and H.Hirabayashi:SAE Tec. paper Series No.820142(1982).
*4 松浦伸治,西科浩徳:トライボロジスト,37-2 (1992) 121.

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック


―生産管理・製造現場の先進化・効率化を実現する―
スマートファクトリーJapan 2019
2019年6月5日~7日
東京ビッグサイト 青海展示棟で開催!



「技術者のためのトライボロジー」新発売!
「技術者のためのトライボロジーお申し込みはこちら

「潤滑剤銘柄便覧」2019年版発売中!
「潤滑剤銘柄便覧」2019年版お申し込みはこちら

「ILDA 2017 -ASIA-」発売中!
「ILDA 2017 -ASIA-」お申込みはこちら

「やさしいグリースの話」発売中!
「やさしいグリースの話」お申込みはこちら

マークテック
○マークテック
非破壊検査・マーキングの総合メーカー
http://www.marktec.co.jp/

リークラボ・ジャパン
○リークラボ・ジャパン
蛍光式とスモーク式の2つの方法で,あらゆる産業分野での漏れ(リーク)を検知
http://leaklab-japan.jp/

こちらもどうぞ