はじめに
最近世界的な傾向として技術者の資格認証が取り沙汰されている。
日本には多くの資格制度が存在し,技術に関する資格としてはその頂点に文部科学省による技術士制度がある。科学技術に対する広範囲な知見と公正な考え方を問う試験で,20部門のうち化学部門に燃料および潤滑油のカテゴリーがあり,一部のトライボロジー研究者が取得している。2004年度から幅広い知識を要求する技術士補の資格を経ることが必須となり,この背景には国際相互認証への対応があると言われているようである。しかし技術士制度は,事故の解明などの高度な思考と判断が問われる局面においては重要な任務を果たすことが可能な資格を認証する制度ではあるが,生産の場における具体的な技能を要求する資格を認証する制度ではない。
しからば技能の開発に関する資格を考えると,厚生労働省の管轄で職業能力開発協会の技能士制度があり,中央職業能力開発協会の下で各地方職業能力開発協会が技能士の養成,技能向上を図っている。その種類は175種に上り,最近では製造業以外の分野もカバーしているが,規制緩和の流れから新規分野の技能士資格には慎重な姿勢が覗われる。
その中で「潤滑」をキーワードとして見ると,機械保全技能士の機械系,電気系,設備診断法と油圧調整技能士の2分類に絞られるが,いずれも機械を主体とした技能であり,潤滑管理についてはあくまで補足的な知識を求めたものとなっている。ちなみに最近の傾向は技能の向上に伴って設備診断法の受験者の増加が顕著であるようだ。
表1に「製造設備のメンテナンスに関連する既存の資格」を,また以下に製造業のメンテナンスに関連する主な資格について紹介する。
表1 製造設備のメンテナンスに関連する既存の資格
注:「※」欄は団体限定資格を示す |
1. 主な資格認定制度について
1.1 技術士(国家試験)
「技術士」は「技術士法」に基づいて行われる国家試験(「技術士第二次試験」)に合格し,登録した人だけに与えられる称号。国はこの称号を与えることにより,その人が科学技術に関する高度な応用能力を備えていることを認定することになる。
一方,「技術士補」は同じく「技術士法」に基づく国家試験(「技術士第一次試験」)に合格し,登録した人だけに与えられる称号。技術士補は,技術士となるのに必要な技能を修習するため,技術士を補助することになっている。
1.2 機械保全技能士(国家試験技能検定)
機械保全技能士には,機械系保全作業・電気系保全作業・設備診断作業の3つの作業がある。
機械系保全作業は,通常の機械メンテナンスに必要な知識が求められ,潤滑油の選定やベアリングの損傷,寸法測定,油圧,空気圧などの問題が要素試験として出題される。
設備診断作業は,様々な診断機器(超音波測定,浸透試験,振動試験など)の波形による診断や潤滑油中の異物診断,ベアリングの損傷など,機械系保全作業を奥深く,さらにデータから診断する内容になっている。
また機械保全技能士には特級・1級・2級・3級のレベルがある。
1.3 設備管理士((社)日本プラントメンテナンス協会認定)
日本プラントメンテナンス協会が開講する「設備管理士養成コース」にて23日間にわたる体系だった研修により優れたプラント・エンジニアリング部門の幹部を養成するもので,全単位修了者に「設備管理士」の資格を授与するもの。これまでに約460社で2,400名越え(2004年1月末)の設備管理士が誕生している。
1.4 自主保全士((社)日本プラントメンテナンス協会認定)
日本プラントメンテナンス協会が認定する個人資格で,オペレータに必要な能力として
(1)正常や異常の判定基準の設定
(2)条件管理のルールを守る
(3)異常に対し正しい処理を迅速にとれる
など,これらの能力を有するものを「自主保全士」として認定している。
1.5 防錆管理士((社)日本防錆技術協会認定)
日本防錆技術協会が実施する防錆技術学校の修業者に授与される資格。建築・土木,電力・通信・ガス,機械,化学,自動車,プラント,電気・電子,運輸・物流などのあらゆる産業分野の設計,製造,施工,検査,管理の各部門で防錆防食技術のスペシャリストとして,認定者は国内,国外をあわせて1万名に達する。
1.6 P2M資格制度(プロジェクトマネジメント資格認定センター)
エンジニアリング業や建設業など国の内外でプロジェクトを遂行するためのプロジェクトマネージャー(PM)などの人材を養成するために,専門的,体系的知識,実務経験,実践能力(倫理,姿勢を含む)を
(1)プロジェクトマネジメントスペシャリスト
(2)プロジェクトマネジャー
(3)プログラムマネジメント・アーキテクト
の3段階の資格に区分している。
1.7 ISO機械状態監視診断技術者(振動)((社)日本機械学会)
ISO9000および14000シリーズで,工場の品質管理および環境管理に関する認証制度が制定されているが,さらにグローバル化を進めるために,次のステップとして設備診断技術者の技術レベルの品質管理を目的とした技術者認証制度がISO18436シリーズとして 2004年に制定されたもの。この認証制度は機械共通の技術である状態監視と診断の技術レベルを国際的に標準化し,認証された技術者の測定および診断結果を世界的に同じ品質とするものである。
2. メンテナンスに関する資格制度への期待
本誌月刊「潤滑経済」でもしばしご紹介してきたが,(社)日本機械学会ではISO TC 108 のSC5として「機械の状態監視と診断」が設置され,SC5の日本における資格制度の設立を目指し,同会の中の技術開発支援センターの下に「機械状態監視資格認証事業部会」が設置された。SC5が対象としている状態監視法および診断法には振動診断,潤滑診断,サーモグラフィによる診断などがあり,機械学会では昨年から振動診断の資格認定をスタートした。
機械学会の事業部会の下に,「潤滑管理技術者資格認証委員会」が置かれており,今後は日本トライボロジー学会との連係の中で,潤滑診断に関する「(仮称) ISO機械状態監視診断技術者(メンテナンストライボロジー)」の資格認証を推進していく予定となっており,製造業のメンテナンスにおける技術や技能の伝承やメンテナンス技術の養成として期待されている。
<参考文献>
*1 メンテナンスに関するアクションプランの提言,日本トライボロジー学会2005年3月
*2 似内昭夫,「メンテナンスにおける最近の動向」:『潤滑経済』459 2004年5月号
*3 日本プラントメンテナンス協会,2005年度受験案内