潤滑油と関連法規類 | ジュンツウネット21

潤滑油が関係する化学物質について,主な関連法規類の概要,各法規類に該当する物質と使用例をまとめた。なお,ここでは人工的に作られたものに限らず天然産出物についても「化学物質」としている。

山田 聡子  2004/2

はじめに

近年,環境や人に対する化学物質の影響について意識が高まっている。ここ数年,「労働安全衛生法」の改正や「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」の制定等,環境保全や安全衛生に関する様々な関連法規類の改正や制定が行われている。

元来「無駄な力を使わない」ために使用している潤滑油も,その製造・使用・廃棄というあらゆる過程において化学物質として管理が要求されている。

さて,潤滑油の使用目的「無駄な力を使わない」とはどのようなことであろうか。

  • 機械類の可動部分での摩擦の減少
  • 摩耗や焼き付けの防止
  • 動力損失の軽減
  • 冷却・密閉・防錆等の効果

以上のようなことが挙げられる。機器類の長寿命化,省エネルギーに貢献している。

物質同士の接触に対し最適な潤滑油を選定し,必要に応じ必要な量だけを用い,周囲を汚染しないような使用・廃棄を行えば,潤滑油を用いたほうが環境に優しい製造技術となりうる。ただし,潤滑油の使用に際し,関係法規の理解,遵守が重要である。

潤滑油が関係する化学物質について以下の通りまとめた。

  • 主な関連法規類の概要
  • 各法規類に該当する物質と使用例

なお,ここでは人工的に作られたものに限らず天然産出物についても「化学物質」としている。

1. 主な関連法規類の概要

表1に潤滑油に関わる主だった法規類について記述する。

潤滑油はこの他にも「毒劇物取締法」,「特定物質の規制などによるオゾン層の保護に関する法律」,「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」,「悪臭防止法」,「油濁損害賠償保障法」,「下水道法」など多くの法規類により管理されている。

化審法については,元々環境中に出された化学物質が与える人への影響を考慮して制定された。しかし平成16年4月に施行される改正化審法では,現行の内容と大きく変わり,環境に対する影響が考慮されたものとなっている。

ところで,潤滑油が廃棄される際には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」における産業廃棄物(廃油)に該当するが,一方,産業構造審議会においてリサイクルガイドライン品目にも指定されている。廃潤滑油は非塩素系潤滑油,塩素系潤滑油,水溶性潤滑油と3つに分けられる。このうち非塩素系潤滑油のみがリサイクル可能で再生重油,再生潤滑油にすることができる。塩素系,水溶性のものはリサイクルが困難であるため,廃掃法に則り処理しなければならない。

表1 潤滑油に関連する主な法規・制度の概要
法規類の名称
概要
潤滑油との関連
特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法) 第一種指定化学物質354種に該当する化学物質が,一年間にどれだけ環境中に排出され,廃棄物等として移動したかを国が集計し,公表する仕組み。
事業者にとっては,該当化学物質を年間どの位取り扱い,環境中に放出しているのかを把握,管理(削減など)することができるといった自主管理ができる利点がある。
潤滑油中の成分や添加剤がPRTR対象物質に該当する場合もあるため,一定量の取扱いがあり,対象事業者要件を満たしている場合には排出・移動について届出が必要となる。
水質汚濁防止法(水濁法) 工場,事業所から公共用水域に排出される水の排出や,地下水への浸透を規制すると共に,生活排水対策を推進することなどによって公共用水域及び地下水の水質汚濁を防止する。また,工場,事業所からの汚水,廃液による人への健康被害に対し,損害賠償責任を定め,被害者の保護を目的とする。 排出基準は鉱油で5mg/L,動植物油脂類で30mg/Lとなっている。排水中の油分は,n-ヘキサン抽出物として測定される。
化学物質の審査及び製造などの規制に関する法律(化審法) 難分解性の性状を有し,人の健康を損なう恐れのある化学物質による環境の汚染を防止するため,それまで国内にはなかった化学物質を新たに製造・輸入する際に,事前にその化学物質の性状を審査する制度であり,その有する性状などに応じて,化学物質の製造・輸入・使用などについて必要な規制を行う。 第一種指定化学物質:ポリ塩化ビフェニル(潤滑油,切削油,作動油)
ポリ塩化ナフタレン(塩素数3以上のもの)(潤滑油,切削油)
第二種指定化学物質:トリクロロエチレン(金属加工油)
等が該当する。
労働安全衛生法(労安法) 労働者に健康障害を生じる恐れのあるもの(通知対象物質)については,譲渡または提供する者は文書の交付あるいは労働省令で定める方法により,安全衛生管理上必要な情報を譲渡,提供する相手方に通知する義務がある。(MSDS提出の義務) 鉱油,灯油,DBPC(酸化防止剤)等が通知対象物質に該当する。
有機溶剤中毒予防則 労働者の健康確保のため,労働基準法の労働衛生関係特別規則として「ベンゼン」を含む51種の有機溶剤を対象とした「有機則」が施行されている。どのような場所でどのような業務を行い,一日にどのくらいの量を使用するかということが適用の判断として定められている。 有機溶剤は添加剤の希釈などに用いられることもある。
第一種有機溶剤:トリクロロエチレンなど
第二種有機溶剤:トルエンなど
第三種有機溶剤:石油エーテル,ガソリン などが該当する。
消防法 危険物規制の目的は社会生活に欠かすことのできない危険物の安全を確保することであり,危険物に起因する火災などの災害から公共の安全を確保することにある。 第二石油類:灯油,軽油,その他一気圧において引火点が21度以上70度未満のもの。
第三石油類:一気圧において引火点が70度以上200度未満のもの。
第四石油類:ギヤー油,シリンダー油,その他一気圧において引火点が200度以上250度以下のもの。
可燃性液体:引火点が250度以上の物品は,危険物の指定からはずれている。(但し,2m3以上取扱う場合は指定可燃物として所轄消防署への届出義務が生じる。)
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法) 廃棄物の排出を抑制し,廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としている。 「廃油」は法,政令で産業廃棄物として指定されている。廃油の処理にあたっては,必ずマニフェスト(産業廃棄物管理票)の使用が必要となる。

2. 各法規類に該当する物質と使用例

潤滑油を構成する主な化学物質(基油・添加剤)について表2にまとめた。
 PRTR対象物質や労働安全衛生法に該当する化学物質を1%以上(発がん性が指摘される物質については0.1%以上)含む場合には,該当物質を含有すること及び含有量を報告しなければならないことになっている。

また,鉛や塩素を含有する場合にも表示義務がある。

表2 潤滑油を構成する主な化学物質
化学物質名
主用途
関係法規類
労安法
有機則
消防法
水濁法
PRTR
廃掃法
その他
鉱油 基油
 
 
 
合成潤滑油 基油    
   
 
DBPC 添加剤,酸化防止剤
 
     

ホウ素及びホウ素化合物 腐食防止剤,防錆剤      
   
2-エタノールアミン 腐食防止剤    
 
 

ポリオキシエチレンノニルフェノール 乳化安定性向上剤        
   
モリブデン及びモリブデン化合物 摩擦低減剤,摩耗防止剤,酸価安定剤        
   

 :該当  食:食品衛生法  毒:毒劇物取締法

最後に

潤滑油が地球にやさしい技術であるためには,技術開発といったメーカーの努力だけではなく,使用する側も適正に潤滑油を使用することが重要である。

また,取扱者の健康や安全を確保するためにも法規制類の理解と遵守が望まれる。

 

<参考文献>
*1 若林利明:解説 特集・21世紀における潤滑油の技術課題潤滑油の技術的課題と今後の動向 トライボロジスト 第48巻第4号(2003)259~264
*2 山田太郎:廃潤滑油リサイクルの現状と課題 ペトロテック第26巻第10号(2003)
*3 楠山文彦:PRTR法と切削油剤 潤滑経済3月号(2002) 11~16
*4 (社)潤滑油協会編:2003年改訂版パンフレット「どうしてますか?廃油の分別(分別による循環型社会の構築)」
*5 (社)潤滑油協会 潤滑管理普及対策委員会:潤滑油剤法令ガイド

 

最終更新日:2017年11月10日