近年,資源の有効活用,環境への負荷低減の観点から,国の内外を問わず多くの人々,企業が循環型社会の構築を目指して,さまざまな活動を展開している。
(社)潤滑油協会では,「潤滑油リサイクル対策委員会」による使用済み潤滑油に関する実態調査や分別回収の推進などを行っている。
そこで,本稿では使用済み潤滑油の発生状況やリサイクルの動向について,(社)潤滑油協会がトライボロジスト(第51巻第4号)に発表した「使用済み潤滑油リサイクルの動向」*1,同協会作製のパンフレット「どうしていますか?廃油の分別」*2から一部引用する形で紹介する。
また,後半では,潤滑油協会や学会など産学官で行われているゼロエミッションに向けた団体や学会などの活動状況を紹介する。
使用済み潤滑油の発生状況*1
国内の使用済み潤滑油は,潤滑油販売量(使用量)の半分を超える量が発生していると推定されている。
使用済み潤滑油の主な排出元は,製造事業所などの一般工場,サービスステーション(以下,SS),自動車整備工場などであり,一般工場では主に工業用潤滑油を中心に使用済み潤滑油が発生し,SSおよび自動車整備工場では,エンジン油などの自動車用潤滑油から使用済み潤滑油が主に発生している。
自動車用潤滑油からの使用済み潤滑油の発生に比べ,工業用潤滑油からの使用済み潤滑油の発生率は低い水準にある。
使用済み潤滑油の回収*1
製造事業所などの一般工場では,事業所内で発生した使用済み潤滑油の一部を自家燃料への利用,工業用潤滑油への再生利用および自社焼却処分を行っているが,発生した使用済み潤滑油の多くは業者により回収されている。
一方,SSや自動車整備工場においては,発生した使用済み潤滑油のほとんどが回収業者により回収され,再生業者あるいは焼却業者により処理されている。
使用済み潤滑油の収集運搬は,主に廃棄物回収業者が行っており,再生業者および焼却業者が回収業を兼ねている場合が多い。
使用済み潤滑油の収集運搬における主な問題点としては,収集ロットの小さいケースが多く,また運搬距離も相当広域に及んでおり,これらが回収コストの増加をもたらす要因となっている。
使用済み潤滑油の収集運搬や処理処分を行う場合は,廃棄物処理法の適用を受け,許可が必要となるが,排出者が使用済み潤滑油を売却できれば「有価物」とみなされ,法の適用外となる。
使用済み潤滑油の再生状況*1
わが国で使用済み潤滑油は,主に再生重油にリサイクルされている。再生重油とは,使用済み潤滑油を原料として重油代替燃料に再生したものをいう。再生重油は加温静置,遠心分離,ろ過などの簡単な再生工程により製造される。
再生重油の品質については,再生重油製造者の業界団体である全国オイルリサイクル協同組合が原案作成団体となり,再生重油のJIS規格化に向けた標準仕様書(TS)が2005年10月に公示されている。
廃油再生業者は,国内に約90社程度あり,事業規模は小さく,使用済み潤滑油を原料として再生重油やコンクリート離型剤に再生している。廃油再生業者の中には,ごくわずかではあるが,工業用潤滑油への再生を行っている業者もある。
使用済み潤滑油の分別状況*1
一般工場においては,使用済み潤滑油の中に水溶性のものや塩素を含有するものなどもあり,実際にはその他の液状物質と混在した状態で排出されているケースが多い。
使用済み潤滑油には,リサイクルが比較的容易にできるものと,塩素系や水系のようにリサイクルが難しいものがあるため,使用済み潤滑油は「非塩素系潤滑油」,「塩素系潤滑油」,「水系潤滑油」といったような分別が望まれる。
潤滑油リサイクルフロー*1
潤滑油の各種統計値および実態調査結果などの推定値をもとに,2006年度ベースで推定した潤滑油リサイクルフローを図1*2に示す。
前述のように,国内で使用される潤滑油(販売量)の半分を超える量(104万kL)が使用済み潤滑油として発生していると推定される。発生した使用済み潤滑油のうち一部は,潤滑油ユーザーの事業所内において自家燃料に使用されたり,工業用潤滑油に再生し利用されている。残りの88万kLは回収業者により回収され,再生業者によりその大部分の54万kLが再生重油に,2万kLが再生潤滑油にリサイクルされている。
このように,わが国における使用済み潤滑油の利用は,焼却処理の際の熱利用も含めてその大部分が燃料油として利用されている現状にあり,再生潤滑油への利用はわずかとなっていることからも,よりいっそうのリサイクル促進が求められている。
ゼロエミッションへ向けた活動
次に,リサイクルやゼロエミッションへ向けて,精力的に活動されている各種団体を紹介する。
潤滑油リサイクル対策委員会(潤滑油協会)
設立の背景
廃棄物処理・リサイクルガイドラインに「潤滑油」が追加指定されることを受けて,1999年7月に(社)潤滑油協会では「潤滑油リサイクル対策委員会」を設置し,潤滑油リサイクルのあり方,具体策などを検討している。
活動の趣旨や目的と内容
潤滑油リサイクル対策委員会では,廃棄物処理・リサイクルガイドライン「潤滑油」への対応を図るため,潤滑油リサイクルの課題について検討を行い,潤滑油関係者が連携して各種の自主的な取り組みを実施している。
現在では,各種実態調査により使用済み潤滑油処理実態の明確化を図るとともに,国内の潤滑油リサイクルが再生重油への利用が中心であることから,潤滑油需要家など関係者の理解と協力を得てリサイクルの障害となる塩素系潤滑油の非塩素系への転換推進ならびに使用済み潤滑油の分別排出・回収の促進などの活動を進めている。
メンバー構成
精製元売5社(出光興産(株),コスモ石油ルブリカンツ(株),(株)ジャパンエナジー,昭和シェル石油(株),新日本石油(株)),潤滑油専業者5社(協同油脂(株),三共油化工業(株),新日本油脂工業(株),パレス化学(株),ユシロ化学工業(株)),潤滑油関係5団体(石油連盟,全国オイルリサイクル協同組合,全国工作油剤工業組合,全国石油工業協同組合,日本グリース協会),オブザーバー(経済産業省 石油精製備蓄課),事務局((社)潤滑油協会)
2008年の主な活動内容
昨年度は,産業構造審議会の2005年度に改定された品目別廃棄物処理・リサイクルガイドライン「潤滑油」に関連して,これまでの潤滑油リサイクル対策委員会の活動をもとに,現在まで講じてきた措置ならびに今後講じる予定の措置に関する事項などを取りまとめた。本年度は,潤滑油リサイクル対策を推し進めるうえで必要となっている潤滑油リサイクル状況の把握,リサイクルフロー見直しのための各種実態調査の実施および普及媒体の改訂版の検討を行っている。
今後の展望
○分別回収推進,非塩素系潤滑油へのさらなる転換推進(リサイクルの効率化)
○調査の継続による使用済み潤滑油の処理実態の把握(潤滑油リサイクルフローの明確化)
○難削材加工用など技術的代替困難な塩素系潤滑油の実態把握(非塩素系潤滑油への技術代替推進)
○使用済み潤滑油の分別手法など,潤滑油リサイクルに関する新たな取り組みの検討
エコマシニングとトライボロジー研究会(日本トライボロジー学会)
設立の背景
エコマシニング研究会は,1999年に精密工学会の産学協同研究会「高精度・高能率エコマシニング技術に関する研究」として発足した。研究期間の終了後,同研究会は2003年より日本トライボロジー学会の第三種研究会「エコマシニングとトライボロジー研究会」として引き継がれた。
活動の趣旨や目的と内容
同研究会は,(1)難削材も含めた各種材料のエコマシニング技術に関する調査・研究,(2)エコマシニングに適した工具材料に関する調査・研究,(3)環境に優しいエコマシニング用加工油剤に関する調査・研究,(4)エコマシニングの高度化・汎用化に向けた加工法や工作機械に関する調査・研究,(5)製造現場におけるエコマシニングの実例に関する調査,などを実施し,それらのトライボロジー的立場による評価・検討を通じて,エコマシニング技術の長所,短所,適用条件などを明確化するとともに,現状の問題の解決ならびに当該技術の発展と普及に寄与することを目的としている。
研究会は年4回,名古屋を中心に行われている。そのうち1回は会員相互の親睦を深める意味で,地方に出向いて1泊2日の日程で開催している。
メンバー構成
研究会は,主査・中村 隆氏(名古屋工業大学)をはじめ,現在50名の委員が研究会に参加している。
2008年の主な活動内容
○3月17日~19日 精密工学会春季大会 明治大学
日本ドライ加工振興会
設立の背景
ドライプレス加工は,1999,2000年度に都立産業技術研究所の経常研究テーマ「セラミックス工具による無潤滑プレス加工」により誕生した。2001,2002年度には,経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業「ダイヤモンドコーテッド工具による無潤滑塑性加工技術の開発」が実施された。これにより,基材表面粗さを大きくすると密着性が向上。山陽プレス工業が実用化に成功した。
2008年度4月23日に,地域新生コンソーシアム研究開発事業でドライプレス加工の研究開発を行ったメンバーが「日本ドライ加工振興会」の設立総会を開き,正式に発足した。
活動の趣旨や目的と内容
日本ドライ加工振興会は,潤滑油を使用しないドライ加工の実用化を目指して振興団体を立ち上げたもので,事務局は東京都金属プレス工業会内に置かれている。ドライプレス加工は潤滑油を使用しないことによって洗浄工程の省略ができるため,地球環境に優しいだけではなく,製品製造コストも下げることができる。
メンバー構成
振興会は会長・檜垣 昌子氏(山陽プレス工業),副会長・片岡 征二氏(湘南工科大),相談役・加藤 忠郎氏(日進精機)ら19名で構成される。
2008年の主な活動内容
○4月23日 設立総会
○11月8日 日本塑性加工学会第59回塑性加工連合講演会 テーマセッション「ドライ加工の実用化」において日本ドライ加工振興会のメンバーで16件の研究発表(広島大学)
○11月26日 日本塑性加工学会第174回塑性加工技術セミナー「究極の素材ダイヤモンドの塑性加工への応用」においてメンバーで4件の講演(都立産業技術研究センター)
○12月2~3日 日本ドライ加工振興会としてクラスタージャパンに出展(パシフィコ横浜)
○12月中 日刊工業新聞社・プレス技術「特集・ドライプレス加工」に日本ドライ加工振興会メンバーで13件の記事を執筆
今後の展望
プレス工業会らPJ参画メンバーからの出資,国・地方自治体からの補助金をもとに,ドライ加工金型供給センターを設立。都立産業技術研究センターらが維持管理するドライプレス加工金型データベースを活用し,国内外のプレス加工メーカーらにコンサルティング,受注委託を行う。
HEAT専門委員会((社)砥粒加工学会)
設立の背景
(社)砥粒加工学会・HEAT(IT産業を支援するための砥粒加工の高機能システム化)専門委員会は,前身のHEAT分科会の趣旨である,「“IT産業を支援する砥粒加工”をリードするため,加工機械・計測・加工技術に関する幅広い知識を収集・創造し,IT産業と砥粒加工技術の発展」に寄与するために設立された。
前身のHEAT分科会は,2001年6月に発足。同7月13日には,第1回研究会を防衛大学校/横須賀米海軍将校クラブにて行い,2004年5月までの間に計13回の研究会などを開催した。
活動の趣旨や目的と内容
分科会から専門委員会に衣替えした2004年6月からは,(1)砥粒による微細除去機構の解明,(2)作用砥粒制御砥石の開発,(3)複合砥粒加工技術の開発,(4)加工状態のオンマシン計測,(5)微小オプトエレクトロニクスデバイス加工の高精度・高能率・自動化,(6)グローバル平面加工の高精度・高能率化,(7)CMP制御加工技術,(8)ダイヤモンドツールによる微細加工,などを主要検討テーマに掲げている。
委員はテーマごとの研究を推進するとともに,研究結果を持ち寄り,賛助員企業はこれら技術実用化を目指して,年4回程度の研究会を行っている。また,委員外にも広く開放したオープンシンポジウムを年1回開催している。
メンバー構成
委員会は委員長:奥山 繁樹氏(防衛大学校),副委員長:鈴木 浩文氏(中部大学),宇根 篤暢氏(防衛大学校)ら委員18名,加工機械・計測・加工技術関連の賛助員企業14社で構成される。
2008年の主な活動内容
○3月4日 第15回研究・見学会「IT部品用精密金型加工技術の新展開」,ソディック(横浜市都築区),参加者25名
○7月4日 第16回研究・見学会「最近の磁気援用加工/超精密砥粒加工とその新展開」,宇都宮大学陽東キャンパス(宇都宮市),参加者25名
○8月22日 第5回オープンシンポジウム「セミドライ・MQL加工の最新技術と研削加工への展開」,大田区産業プラザPiO(東京都大田区),参加者約50名
<参考文献>
*1 鈴木 和彦「使用済み潤滑油リサイクルの動向」,トライボロジスト,4(2006)24
*2 (社)潤滑油協会パンフレット「どうしていますか?廃油の分別」