合成潤滑油の最近の動向 | ジュンツウネット21

合成潤滑油の基油と合成油の用途となる各種潤滑油について,簡単に説明する。

武蔵工業大学 渡辺 誠一  2004/6

はじめに

一般に合成品か天然品かといった場合,合成品は大量生産され,価格も廉価であり,一方,天然品は少量生産で,貴重で高価なイメージが普通であろう。しかし,合成潤滑油では,これが逆となる数少ない例外ではないだろうか。

工業用品の合成品は,天然品をお手本として合成されることが普通だった。このとき,使われる原料は,その多くが「石油」から作られるものが使われる。しかし,潤滑油の場合では天然品である鉱油系潤滑油は,このとき「石油」から「直接」精製によって作られている。そして,合成潤滑油は,「石油」から導かれた化学品を原料として合成される油というわけである。このため鉱油系潤滑油は大量生産され,種類も多く,価格も安く18世紀中ごろ以降広く使用されてきた。一方,合成潤滑油は約60年前に市場に現れ高価で貴重な液体として取り扱われてきた。しかし,最近はマーケットのニーズが変化して,合成油の販売量が急速に拡大している。

合成潤滑油が市場において評価されている利点は,(1)ますます高度化する性能要求に対応できる,(2)鉱油基油製品との対比で機械の性能を向上できる,(3)環境規制(廃棄・生分解性)の強化に対応できる,(4)保守・管理の面でメリットがある,(5)合成油の価格が低下している,などを挙げることができる。

米国潤滑油市場に関するFreedoniaグループの需要予測によると*1,合成潤滑油各種の販売総額は,1996年の8億2,900万ドルから2001年の12億ドルに増加している。さらにこの調査は,2006年までの4年間は年率7.2%の伸びで,合成潤滑油の市場は16.7億ドルに達すると予測している。表1にはその調査の油種別の成長率を示した。

表1 今後4年間の合成潤滑油の伸び予測(米国)
油種の分野
合成油の種類
今後4年間の伸び(年率)
エンジン油
エステル/PAO
8.1%
作動油,駆動油
エステル/PAO,特殊油
9.3%
金属加工油
各種の合成油
5.0%
熱媒体油
ポリアルキルグリコール
2.2%

また,欧州の潤滑油市場においても合成油の需要は急進しており,ポリアルファオレフィン(PAO)製造設備の新設がなされた。*2,*3

このような需要の伸びに応じて,石油会社や潤滑油販売会社は自社のブランドに部分合成油製品あるいは全合成油製品による各種潤滑油のラインアップを終了している。

以下で合成潤滑油の基油と合成油の用途となる各種潤滑油について,簡単に説明する。

1. ジエステルとポリオールエステル

合成潤滑油として最初に実用化されたものは,エステル化合物であった。有機の酸とアルコールを反応させ,H2Oを除いて結合を作る反応,エステル化反応を利用して液体のエステル化合物を合成した。第二次世界大戦中に良質の潤滑油が不足したこと,航空機の発達で低温特性の優れた潤滑油を必要としたこと,などがエステル化合物を潤滑油として使用し始めた理由であった。

化合物の分子量が小さいと,その液体の粘度は小さいため,必要とする粘度を持つ液体を得るためには分子量の大きいエステル化合物を選ぶことになる。このため両端に酸基(COOH)を持つ二塩基酸を原料とし,両端でエステル化反応を起こさせて大きな分子量とし,必要な粘度のエステル化合物を合成した。このとき相手となるアルコールは,C8~C13のアルコールが選ばれる。アルコールによっても,生成物の特性,例えば低温流動性などに変化があるのでアルコールの選定も重要となる。アルコールの混合物も使用可能なので色々な組み合わせがあるわけである。このとき主役は二塩基酸なので,合成されたエステル化合物は酸の誘導体として呼ばれる。また,これらの二塩基酸エステルはジエステルと呼ばれることもある。

表2 ジエステルの種類
二塩基酸
酸の炭素数
エステル名
エステル化の相手となるアルコール
アジピン酸
6
アジペートn-オクチル
イソオクチル
2-エチルヘキシル
イソノニル
イソデシル
トリデシル
アゼライン酸
9
アゼレート
セバシン酸
10
セバケート
ドデカノ2酸
12
ドデカノジオエート
フタール酸
8
フタレート
ダイマー酸
36
ダイマー酸エステル

アジペートは代表的なジエステルで,価格が安く,物性も優れている。粘度は100℃で2.3~5.4mm2/s,流動点は-60℃以下である。粘度指数VIは130~150で熱および酸化安定性はPAOと同等といわれる。PAOとの違いは,化学構造としてエステルが有する2つのエステル結合に起因した部分である。アジペートは潤滑油としてPAOとの組み合わせで,スクリュー圧縮機油,ギヤやトランスミッション油,エンジン油,作動油の基油となる。また,アジペートは単一で生分解性潤滑油剤や高温用途での使用がある。例えば,エコ潤滑油,繊維用潤滑油,往復動圧縮機油などである。

アゼレート,セバケート,ドデカノジエートは,両端のエステル基の中間のメチレン鎖CH2がこの順に長くなったものである。この中間の鎖が長くなると,粘度と粘度指数が増加し,潤滑性が向上する。しかし,製造価格はアジペートと比較して50~100%高価になる。セバケートは初期のジェットエンジン油(MIL-L 7808F規格)で使用された。また,潤滑性が特に重要となる機械で有用といわれる。

フタレートはベンゼン環を持つジエステルで,環がある構造のため粘度指数が低くなる(通常VI100以下)。また,生分解性も悪くなる。フタレートはプラスチックスの添加剤としての需要が多く,このため価格はアジペートと比べ20~30%安いものである。低価格で清浄性に優れている点で低粘度でもよい空気圧縮機油(特に往復動圧縮機用)として使用されている。

ダイマー酸はオレイン酸二つを結合させた分枝を持つ長鎖の二塩基酸で,これとアルコールとのエステル化で分子量の大きいジエステルが製造される。ダイマー酸エステルは粘度と粘度指数が高く,低温特性は他のジエステルとほぼ同等である。アジペートと比較して,ダイマー酸エステルは30~40%高価格となり,生分解性も要求値にクリティカルである。高温での清浄性はやや低下するが潤滑性は優れており,用途として合成ギヤ油や2サイクル油に使用されている。

次にポリオールエステルについて述べる。ポリオールエステルとは,ネオペンチルポリオールエステルの略称である。これらは,ネオペンチル構造を持つ多価アルコールと脂肪酸とのエステル化反応により製造される。ネオペンチル構造を持つ多価アルコールの特徴は,水酸基から二番目(ベータ位置)にある炭素が水素を持たないことである。このベータ位置にある炭素の水素がエステル類の熱劣化における一番の弱点であることから,ここにある水素をなくすことでエステルの熱・酸化安定性を向上させることができる。このためポリオールエステルではより高温での使用が可能となった。また,ジエステルよりポリオールエステルは,エステル基が多いため極性が強くなり,蒸発損失が低下し,潤滑性も向上する。

ジエステルと同様にポリオールエステルの場合でも,原料として様々な酸とアルコールの組み合わせにより数多くのエステル化合物を製造することができる。多数個のエステル結合があるために,組み合わせの数はさらに多くできる。ジエステルの場合には酸が主役と紹介したが,ポリオールエステルではアルコールが主役となり,それとエステル結合する酸には色々な脂肪酸が選定される。表3にポリオールエステルの種類を示す。

表3 ポリオールエステルの種類
ネオペンチル構造を持つアルコール左のアルコールが持つ水酸基の数左のアルコールの略号エステル化の相手となる酸
ネオペンチルグリコール
2
NPG
吉草酸(nC5)
イソ吉草酸(iC5)
ヘキサン酸(nC6)
ヘプタン酸(nC7)
オクタン酸(nC8)
イソオクタン酸(iC8)
2-エチルヘキシル酸(2EH)
ペラルゴン酸(nC9)
イソノナン酸(iC9)
デカン酸Decanoic (nC10)
トリメチロールプロパン
3
TMP
ペンタエリスリトール
4
PE
ジペンタエリスリトール
6
DiPE

表のアルコールは,ベータ位置にある炭素が水素を持たず,水酸基の数が異なるものである。それぞれがエステル化合物となると,エステル基の数はエステルの物性としての粘度,流動点,引火点,蒸発損失などに影響を与える。

相手となる脂肪酸についても,直鎖タイプではその長さが,分枝した脂肪酸では,分枝の長さ,位置,分枝の数などがそれぞれエステルの物性に影響を与える。例えば,酸基の近くで分枝した枝を持つ酸は,加水分解に対する耐性に優れるし,また分枝の数の多いものは,低温流動性が低く,粘度を高くし,清浄性と高温安定性に優れたものとなるなどである。

ポリオールエステルは,優れた安定性と低い蒸発特性によりジエステルより50~100℃高い作動温度で使用できる。さらにポリオールエステルは油膜強さと潤滑性でも優れているといわれている。

ポリオールエステルの主たる用途は,ジェットエンジン油である。ポリオールエステルを基油として規格MIL-PRF-23699F(粘度100℃で5.3mm2/s)の商品が販売されている。

冷凍機では新規の低公害対応冷媒が採用されているが,これに対してポリオールエステルは相溶性と低温特性が優れている点で冷凍機油として使用されている。ポリオールエステルの潤滑油は,他の多くの合成油と比較して高価格になるが,最も過酷な使用条件でもコスト-性能の点で優れている合成油といえるであろう。

2. ポリアルファオレフィン(PAO)

ポリアルファオレフィン(PAO)は,炭素数6~18の直鎖状α-オレフィン(α-オレフィンとは両末端の片方に二重結合を持つオレフィン)を数分子だけ限定的に重合させ,次に水素添加処理して得られる無色透明で無臭の液体である。一例を挙げるとα-デセン(炭素数10)あるいはα-ドデセン(炭素数12)の3量体あるいは4量体を中心に前後に幅のある化合物がPAOである。鉱油基油と比較して純度は高く,分子量分布は狭く,構造はイソパラフィンとなる。

前述したエステルに対比して,PAOはエステル結合を持たず,すなわちその分子内に酸素がなく極性がなく,純粋に炭素と水素からなる化合物である。同様の化合物として,ポリブテン(イソブテン,炭素数4の重合物)がある。ポリブテンは2サイクルエンジン油の基油の一部にブライト・ストックに代替して使用されている。しかし,ポリブテンは合成油として潤滑油基油の粘度範囲のものを製造することが困難,物性において利点が少ないなどのため,PAOのように合成油として進展することはなかった。

表4にPAOの性状の代表値を示す。表より高粘度指数,低流動点であり,引火点が高いことから蒸発損失も低いことがわかる。熱的,化学的にも安定で,腐食性,毒性もない。これらの優れた特徴からPAOは,潤滑油基油として高度に精製された鉱油基油より望ましいものとされている。

表4 PAOの代表性状*2,*4
グレード
A
B
C
D
E
色相
<0.5
<0.5
<0.5
<0.5
-
動粘度(mm2/s)@100℃
3.9
5.9
7.8
9.6
40
@40℃
16.8
31.0
45.8
62.9
410
@-40℃
2,460
7,890
18,160
32,650
-
引火点(℃)
215
235
252
264
290
流動点(℃)
-70
-68
-63
-53
-25
全酸価(mgKOH/g)
<0.01
<0.01
<0.01
-
-

最近の厳しいガソリンエンジン油規格に合格できる基油として,PAOは全合成あるいは部分合成エンジン油のために使用され,その使用量が急上昇している。APIライセンスの基油互換性規定*5で,鉱油の水素分解精製基油はグループIII(VI120以上,硫黄分0.03mass%以下)だが,PAOはグループIVを占め,前述したエステル類はグループVに所属する。全合成エンジン油では基油として,PAOが70~80%,ジエステルが20~30%使用されているようである。

ISO VG320 ギヤ油の温度-粘度特性

図1 ISO VG320 ギヤ油の温度-粘度特性

潤滑油基油としてPAOは,このように優れた長所が多いためにあらゆる種類の潤滑油に使用されている。安定性の良い油圧作動油,ギヤ油,圧縮機油などに用途がある。食品機械用潤滑油としてもホワイトオイル同等のUSDA/NSF H1認定品がある。*6 ここでは,実施例として図1の100%PAOギヤ油VG ISO 320が,基準とした鉱油系ギヤ油より省エネルギー効果として1.0%@25℃~2.8%@0℃優れていた例を紹介しておく。図1から明らかなように,低温側では撹拌ロスが少なくなることが明白であるし,また高温側では粘度が高いことによる耐荷重能の向上が期待できる。

3. その他の合成潤滑油

前述した合成油は,鉱油との相性も良く,鉱油の諸特性においてそれらを凌駕する液体として用途開発がなされた。しかし,ポリアルキレングリコール*8,シリコーン油*9,リン酸エステル*10はいずれもその特性が鉱油のそれと大きく異なり,その異なる特性のために用途を得た潤滑油といえる。鉱油に代替して使用するときは,注意が必要である。ポリアルキレングリコールでは,溶解力が強力なため,シーリング剤,塗料を溶かしたり,重合の反対の反応,解重合が予想外に進み低粘度化したりすることがある。表5にはそれぞれの合成油の特徴と用途を簡単にまとめて示した。本誌の特集では,用途の面から合成油の特性が述べられているので参照していただきたい。

表5 その他の合成油の特徴と用途
合成油
代表化合物
鉱油との相溶性
特徴
用途
ポリアルキレングリコールポリエチレングリコール非水溶性から水溶性まで種類多い
鉱油に不溶が主
粘度指数が高く,劣化してもスラッジを発生しないが吸湿性がある自動車用ブレーキ液,冷凍機油,不燃性作動液
シリコーン油ジメチルポリシロキサン鉱油にほとんど溶解しない低温流動性,粘度温度特性,熱・酸化安定性,電気特性に優れているが,鋼の潤滑性に劣る計測器用油,絶縁油,熱媒体油,離型剤,グリース基材
リン酸エステルトリtert-ブチルフェニル ホスフェート鉱油に不溶難燃性,耐摩耗性に優れているが,加水分解安定性,粘度温度特性に劣る難燃性作動油,航空機用作動油,圧縮機油

おわりに

潤滑で問題があり,潤滑油での問題解決を図ろうとする場合,鉱油での種類の変更を検討するよりも,様々な合成潤滑油でのトライをお勧めしたいと考える。他所でも紹介しているが,「材料の摩擦と摩耗」の著者MITのラビノビッチ教授が「著者の経験でいうと,新しい材料の潤滑問題や,摩擦条件が厳しい潤滑問題について解決しようと取り組んでいる技術者は,潤滑油剤の選定の幅を自分で狭めている傾向がある。例えば,大きな石油会社が供給している鉱油系の様々な種類のなかから選定をするなどして。このアプローチがうまくいくとは思えない。むしろ色々な合成油を試みたほうがよい。」と述べている。このように合成潤滑油を積極的に試用する勧めを紹介しておく。

はじめの話題に戻って,天然品である鉱油系基油も,高度に化学変化を加えて製造した基油(ワックスの異性化反応)は合成油として認められることとなったとか。全合成油,部分合成油などの定義とともに整理が必要になっていると考える。

 

<参考文献>
*1 http://www.amsoil.com
*2 木下立雄:トライボロジスト,Vol.37,8,P648,(1992)
*3 http://www.mindbranch.com/
*4 http://www.ipc.idemitsu.co.jp/
*5 API Publication 1509 Engine Oil Licensing and Certification System Append. E(2003)
*6 http://www.cpchem.com/pao/products/products.asp
*7 http://www.jipm.or.jp/giken/hozen/kankyo/1_2a.htm
*8 今井尭一:トライボロジスト,Vol.37,12,P1003,(1992)
*9 青木 寿:トライボロジスト,Vol.38,3,P225,(1993)
*10 斉藤 隆:トライボロジスト,Vol.38,7,P605,(1993)
*11 E.Rabinowicz:Friction and Wear of Materials,John Wiley & Sons,P219,(1965)

 

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