W/Oエマルション型作動油の特徴と管理について解説します。W/Oエマルション型作動油は,他の難燃性作動油に比較し安価で,油圧機器との適合性や廃水処理性に優れています。廃水処理の容易さから,水-グリコール系作動油からW/Oエマルション型作動油へ切り換えを行う例も増えています。
W/Oエマルション型作動油の特徴
最近,水-グリコール系作動油にかわり,廃水処理性の良いW/Oエマルション型作動油が使われる傾向にあると聞きますが,その特徴を説明して下さい。
解説します。
W/Oエマルション型作動油は,他の難燃性作動油に比較し安価で,油圧機器との適合性や廃水処理性に優れることから,わが国では鉄鋼業界を中心に30年以上の使用実績があります。近年はかびの問題も解決し,潤滑性・安定性も一段と向上し,より信頼性の高い製品となっています。
最近,工場廃水の総量規制強化が実施されるなかにあって,水-グリコール系作動油に比べ,格段に廃水処理性の良いW/Oエマルション型が再び注目を集めており,鉄鋼業以外の一般産業の設備(ダイカストマシン等)にも水-グリコール系にかわり積極的に採用される傾向にあります。
以下にその特徴と管理方法をまとめます。
1. W/Oエマルション型作動油の特徴
(1)粘度
粘度は水分濃度が増加すると高くなります。水分濃度と毛管粘度計で測定した粘度の関係を図1に示します。40℃では70~80cStですが,W/Oエマルション型作動油は非ニュートン流体であるため,実際のポンプでの実効粘度は40~50cStになっていると推定されます。
図1 W/Oエマルション型作動油の水分濃度と動粘度の関係 |
(2)潤滑性
連続相が鉱油であるため,鉱油に近いすぐれた作動油性を持ちます。特に含水系作動油で問題となるころがり疲労寿命(ピストンポンプのローラーベアリングで問題となる)は,水-グリコール系作動油に比べ倍以上長くなります。
(3)水分蒸発性
図2に示すとおり,水-グリコール系作動油の2/3以下です。これは,作動油表面に油膜が生じ,これが保護膜となるためです。
図2 W/Oエマルション型作動油と水-グリコール系作動油の水分蒸発性の比較(撹拌条件 温度:40℃,回転数:1000rpm) |
(4)廃水処理性
W/Oエマルション型作動油は,水-グリコール系作動油に比べ廃水処理性に非常に優れます。水-グリコール系作動油はCODが60万mg/Lと非常に高く,また,廃水中に漏れると溶解してしまい回収が困難となります。この点,W/Oエマルション型作動油はCODが4万mg/Lと低く,水分離性にも優れるため,廃水中に混入しても長時間浮遊し,オイルセパレーターなどによる回収が容易となります。
図3に,水に作動油を10%加え撹拌し静置後の分離水のCODを測定した結果を示します。
W/Oエマルション型作動油の場合のCODは,鉱油より若干高いが,水-グリコール系作動油に比べ大幅に低くなっており,廃水処理性に優れることがわかります。なお,可溶化タイプ(マイクロエマルション)の廃水処理性は,W/Oエマルションより劣ります。
図3 各難燃焼性作動油の廃水処理性比較 |
2. W/Oエマルション型作動油の管理
(1)使用条件
含水系のため使用可能温度は,0~60℃です。使用圧力は,ポンプの種類などの条件にもよりますが,140kgf/cm2以上でも使用可能となってきています。銅系の金属や,一部ゴム,塗料の使用は好ましくありません。
(2)他油種の混入
最近は,水-グリコール系からW/Oエマルション型作動油に油種変更する場合が増えています。W/Oエマルション型作動油への他油種の混入は極力避けるべきです。混合使用の許容値は次のとおりです。
石油系作動油:10%以下
水-グリコール系作動油:5%以下
りん酸エステル系作動油:1%以下
従って,水-グリコール系作動油等からW/Oエマルション型に切換える場合は,最低2回以上の十分なフラッシングが必要です。
(3)潤滑管理
W/Oエマルション型作動油は含水系であるため鉱油系作動油とは異なった潤滑管理が必要です。管理項目例は表1に示しますが,管理の中心は1)水分,2)かびの発生,3)乳化安定性です。1)は難燃性および粘度と関連するもっとも重要な項目で,水分が減少した場合は水分濃度を高めに調整したW/Oエマルション型作動油を補給します。
表1 W/Oエマルション型作動油の管理基準
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2)のかびの問題は,最近は防ばい剤の進歩とW/Oエマルション型作動油の品質改良によりトラブルはまったく発生しなくなりました。使用油の全塩基価が基準値より低下した場合は,防ばい剤添加の検討が必要です。
以上のように,廃水処理の容易さから最近は,水-グリコール系作動油からW/Oエマルション型作動油へ切り換えを行う例も増えています。W/Oエマルション型作動油は,特別な管理も必要ですが,最近は品種改良がすすみ,より高圧で使用でき,また管理も容易にできるようになっています。
今後も廃水規制が強化されるなか,W/Oエマルション型作動油が使用される機会はますます増えそうです。