最近シンセティックソリューションという言葉を聞きますが,どのようなものですか。
解説します。
1. シンセティックとは(synthetic;合成)
Machining Data Handbook (Metcut Reseach Associates Inc., Cincinati, Ohio)では,水溶性切削油剤を
Emulsifiable oils
Chemical fluid (Synthetic)
Semichemical fluid (Semisynthetic)
に分類しています。この分類では,mineral oil (鉱物油)を含まない油剤をシンセティックと呼び,少量(約5~30%)の鉱物油を含む油剤をセミシンセティック,30%以上の鉱物油を含む油剤をエマルションとしています。
日本における水溶性切削油剤の分類ではシンセティックと表示することはありませんが,敢えて日本の分類とシンセティックを結びつけるとすれば,
シンセティックエマルション
シンセティックソリューブル
シンセティックソリューション
となり,シンセティックエマルションとは鉱物油の代わりに合成のベースオイルを適用した油剤ということになります。
ところで,最近ソリューションタイプの性状を有するシンセティックソリューションと称される油剤が注目を浴びるようになってきています。この種のタイプの共通点は,水溶性合成潤滑剤を適用していることです。
代表的な合成潤滑剤を構成元素別に分類し,さらに構造別に整理したものを表1に示します。参考のために天然油の分類も併記しました。
表1 構成元素からみた合成潤滑油の分類
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表1の分類中で,ポリアルキレングリコール(PAG)以外は油溶性の化合物で,水溶性の潤滑油剤に使用するためには,乳化剤を必要とします。しかしPAGは水溶性の化合物であるため,PAGを用いれば,乳化剤を必要とせず希釈液は透明でソリューションタイプの性状を有する油剤が得られます。
PAGは分子量,水溶性の程度,浸透性の度合等の調整が容易で,また,種々の誘導体の合成も容易なことから非常に利用しやすい物質であります。シンセティックソリューションに適用されている合成潤滑剤は,ほとんどがこのPAGもしくはその誘導体です。
2. シンセティックソリューションの特長と欠点
シンセティックソリューションの特長は,
(1)従来のソリューションタイプの油剤にはない高い潤滑性を有する
(2)冷却性が優れている
(3)希釈液が透明で作業性が良好である
(4)機械周りが汚れにくい
(5)浸透性,洗浄性が良い
(6)抗乳化性が良い・・・・・・透明感が持続する,エマルションが混入しても白濁しない油剤もある
(7)消泡性が良い
(8)劣化しにくい
など,切削油剤として優れた特性を多く有しているので,切削加工から研削加工まで広範囲に適用することができます。したがって,油種の統一が図れることが強みのひとつです。また,近年要望が強くなっている工場環境の改善に関しても優れた性質を有する水溶性切削油剤と言えます。
一方,シンセティックソリューションの課題としては,
(1)廃水処理性が劣る
(2)エマルションタイプの潤滑性には及ばない場合がある・・・・・・アルミ合金のリーマ加工などがあるが,先に挙げた多くの特長と比較すれば欠点の少ない油剤である。
シンセティックソリューションとエマルションの組成の比較を表2に,各種性能の比較を表3に示しました。
表2 シンセティックソリューションとエマルションの組成比較
(表示)◯;含有 -;含有せず |
表3 シンセティックソリューションとエマルションの性能比較
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3. シンセティックタイプに適した加工
シンセティックソリューションは潤滑性と冷却性を兼ね備えていることに特長があるので,冷却性が重要な高速加工に適しています。具体的には,旋削加工,ドリル加工,フライス加工,研削加工などです。
また,洗浄性や浸透性にも優れているので,研削加工やホーニング加工でも高い評価が得られています。
4. まとめ
シンセティックソリューションの考え方は決して新しいものではありませんが,最近のものは組成面の吟味が十分になされ完成度が高くなってきています。シンセティックソリューションは特に加工の高速化や工場環境の改善に対して,優れた特性を有するので急速に普及しつつあり,水溶性切削油剤の中に確かな地歩を築きつつあると言えます。