ポンプケーシングの内面を,エポキシ樹脂にセラミックを配合した肉盛剤で再生する方法を解説します。耐摩耗性と防食性の効果があります。
ポンプケーシング修理のポイントと効果
ポンプケーシングの内面へ,エポキシ樹脂とセラミックの配合樹脂をライニングすると,耐摩耗性と防食性が発現するそうですが,具体的にご教示下さい。
解説します。
スラリーポンプ等のケーシングやインペラは,耐用年数が短かく,保守に困ります。自分で簡単にそして早く修理できたらと思いますが,ここでは,米国ITW社の実績を引用し,保全部門の方でも自分で修理可能な方法をご紹介します。
1. トラブルの状況
粉体,薬液,海水等を搬送するポンプのケーシングやインペラは,腐食や摩耗により減肉してしまいます。使用条件によれば,ケーシングの一部に数ヵ月で穴があいてしまうこともあります。ここで紹介するのは,この減肉部をエポキシ樹脂にセラミックを配合した肉盛剤で再生する方法です。
2. 使用材料について
使用材料は,プライマー,厚塗り用と表面コート用の3種類あり,単独または併用して使用します。いずれも2液混合タイプです。
(1)セラミックリペア(パテ状)
1.使用個所
- 局部摩耗部への肉盛充填用。
2.特長
- エポキシ樹脂にセラミック粉とセラミックビーズを配合しています。
- 耐摩耗性,耐薬品性,耐熱性に優れます。
- 硬化時間は常温で一晩です(翌日運転可)。
(2)ブラッシャブルセラミック(液状)
1.使用個所
- 表面コート用として,肉盛充填部の上塗りおよび全面ライニング用として使用します。
2.特長
- エポキシ樹脂にセラミック粉を配合しています。
- 耐摩耗性,耐薬品性,耐熱性に優れます。
- 硬化表面は滑らかな光沢のある仕上となります。
- 硬化時間は常温で一晩です(翌日運転可)。
表1 物理的特性
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写真1 ブラッシャブルセラミックの表面コート |
3. 修理する前の確認事項
使用条件をチェックし修理が可能かどうかを判断します。
(1)表面処理
ケーシング内面は金属面を露出しなければなりません。ブラスト処理が最適です。できない場合は,グラインダ処理をします。
(2)使用温度
搬送物の温度が70℃以下であれば安全です。
(3)トラブルの原因
薬液による腐食の場合ほとんどの薬品に耐性がありますが,ケトン類,有機酸類には適合しません。疑問時は当社耐薬品性一覧表を参考にして下さい。
スラリーでは固形物が60%以下のとき適合します。60%以上,または粉体の搬送には別の商品,ファインロード300またはハイロード300が適します。
(4)硬化養生時間
硬化は常温で16時間かかります。急ぐ場合は70℃以下で4時間程度加温します。
4. 施工法
施工はケーシング内面を表面処理した後,樹脂を塗工すれば完了です。通常翌朝には運転が可能です。
(1)表面の準備
ポンプケーシング内面をブラスト処理します。次に白ウエスにアセトン等の溶剤を浸し,ブラストした面を洗浄します。
(2)プライマーA1800(液状)を凹部へプライマーとして薄く塗布
- プライマーA1800の主剤と硬化剤を,取扱説明書に明記された重量混合比どおりに計量し,混合します。
- 硬めの刷毛で局部摩耗部へ薄く塗布します。
(3)セラミックリペアー(パテ状)を凹部へ肉盛充填
主剤と硬化剤を計量し混合撹拌した後,ゴムベラ等ですり込むようにして局部摩耗部へ面一まで充填します。立ち上がり面の肉盛も可能です。
(4)ブラッシャブルセラミックの全面ライニング
混合物を全面ライニングします。重ね塗りする場合は1回目が半硬化(指で触って指紋がつく程度)の状態で2回目を塗布します。
(5)硬化養生
常温で一晩放置します。
5. 施工のポイント
(1)表面の準備が重要
表面処理と接着力引張せん断(鉄板)。
- さびが少し残っている状態 20kg/cm2
- 無処理(さびなし) 70kg/cm2
- ブラスト処理 200kg/cm2
また表面は水分,油分,ごみ等がなく乾燥させた状態でなければなりません。海水や塩溶液を処理しているポンプは,サンドブラストがけをし,一晩放置して染み込んだ塩分を表面に滲み出させて下さい。その後再度ブラスト処理をします。
(2)主剤と硬化剤の混合比を守る
10%以下の誤差であれば,適正な硬化強度が得られます。それ以上の誤差ですと,柔らかいか,またはもろい硬化となります。秤の使用をおすすめします。
(3)セラミックリペアー(パテ状)の表面を滑らかにするには
セラミックリペアーが半硬化の状態でヘラに溶剤または水をつけ,表面押さえをすると滑らかに仕上がります。この時水や溶剤をつけ過ぎてはいけません。
(4)硬化時間は雰囲気温度が高いと短くなります。
硬化を急ぐ時は,投光器,暖房器具,トーチランプ等で加温します。ただし70℃以下が適切です。
6. 効果
肉盛ライニングによるポンプケーシング等の補修は,次の効果があります。
(1)耐摩耗性と防食の効果
セラミックリペアおよびブラッシャブルセラミックは,耐摩耗性および耐化学薬品性を有し,かつ強力な接着力を有します。
図1 テーバー摩耗試験 |
(2)補修時間の短縮
通常翌日にはポンプの運転が可能です。急ぐときは塗工部の加熱により,さらに早くすることもできます。
(3)作業性が良く誰でも補修できる
セラミックリペアは,垂直面に塗っても垂れません。また肉盛厚を自由に調整できます。
ブラッシャブルセラミックは,刷毛で塗るだけで滑らかな光沢のある仕上がりとなります。