自動車は,車輪を押さえつける事によって速度がゆるみます。しかし,車輪を急激に固定したり,雪道,濡れた道,平滑な道等では,ブレーキをかける事でスキッドの現象(車体が横すべりをする)となって危険なため,ABS(横ぶれしない機構)をとりつけた自動車が多くなっています。
自動車のABS(アンチスキッド・ブレーキ・システム)
自動車のブレーキにはABSというシステムがあるようです。これについて説明をして下さい。
解説します。
1. ブレーキの種類
自動車のブレーキには,ハンドブレーキとフットブレーキがあります。
ハンドブレーキは,駐車ブレーキとも呼ばれて,一般には手動でレバーを引くとワイヤーが左右後輪(FF車では前輪の場合もあります)を固定(ロック)し,車体停止時の暴走を防止します。
フットブレーキは自動車の走行時に足踏みによって速度をゆるめたり,停止をさせるもので,いずれも車軸に備え付けてある円盤(ディスク)または,胴体(ドラム)を抑えつけるようになっています。
2. ブレーキの機構
車輪を抑えつけるためにディスクまたはドラムを摩擦により固定(ロック)するためには,図1や図2のように,力を加えてこすりつけるようにする事になります。
図1 ディスク |
図2 ドラム |
ところが自動車の重量は大きく,また走行時の回転力は非常に大きいために,走行用のフットブレーキでは,加えた力が小さくても大出力の得られる油圧機構が使われています。
油圧機構ですが,ここに用いられる油は,ブレーキ・フルードで,JIS K 2233に規定されているもので,グリコールエーテルを主材として,粘度調整剤,金属防食剤,pH調整剤が配合されたものです。
図3にフットブレーキの機構を示します。
ブレーキペダルを足で踏み込む事によって,ブレーキフルードには圧力が加わり,油圧シリンダから伝達された大きな力がブレーキのディスク,あるいはドラムを抑えつけるのです。
図3 フットブレーキ |
3. 自動車の横すべり
走行中の自動車は,車輪を押さえつける事によって速度がゆるみます。しかし,車輪を急激に固定(ロック)すると横すべり(スキッド)の現象が生じます。
急ブレーキではなくても,ブレーキをかける事で,雪道,濡れた道,平滑な道等ではスキッドの現象(図4のように車体が横すべりをする)となって極めて危険ですから,最近の自動車にはABS(アンチスキッド・ブレーキ・システム,横ぶれしない機構)をとりつけた自動車が多くなっています。
図4 スキッドとアンチスキッド |
4. ABSの方式
(1)油圧コントロール方式
あらかじめ規定したセットスプリングの力によって,後輪にかかる油圧力を規定した値以上にならないようにしたものや,油圧バルブを2個設置して,油圧力を2段階にコントロールできるようにしたものがあります。
また車体に作用する減速度によって油圧力をコントロールする方式もあり,規定された減速度以下のブレーキではバルブに組み込まれたボールが下部に位置しているが,一定規定量以上の減速度となるとボールは上昇してバルブを閉じ,後輪のシリンダーへの油圧を切るものもあります。
(2)電子制御方式(ESC)
ESCはエレクトリック・スキッド・コントロールの事で,急ブレーキをかけた時に,コンピューターが後輪の回転速度とブレーキ状態を演算してプログラミングされた理想的なブレーキ状態と比較し,その差をコントロールするように作動器(アクチュエーター)に信号を送り,アクチュエーターは,後輪のシリンダーに入る油圧を調整し,ボールバルブにより,減速度を感知し,加圧速度を調整します。
従って油圧力はその時のブレーキ状態によって高速にON⇔OFFをこまかく繰り返す事になるから雪道,濡れた道,平滑な道等でも横すべり(スキッド)を避ける事ができるのです。
ABS(アンチスキッド・ブレーキ・システム)は高級乗用車だけでなく,1,300~1,500ccの比較的に小型の乗用車にも設置されるようになりました。
微妙な油圧力をコントロールし,横すべりを防止するシステムで,精密に工作された油圧バルブが組み込まれていますから,ブレーキフルードをシステムの製作時に充填する前に系統内の浄化,フルードのフィルトレーションが入念に行われています。