スピードを競うレーシングカーにはレース用エンジンオイルを,また一般の車には,いろいろな運転条件・気候条件および省燃費,触媒被毒等を考慮し開発が進められた使用範囲の広いエンジンオイルを使うことをお薦めします。
レーシングオイルと普通のエンジンオイルの違いは
レーシング用のエンジン油とスタンドで販売されている普通のエンジン油とではどの点が違っていて,どの点が優れているのか素人にも分かる説明をお願いします。
解説します。
1. レーシングカーの潤滑方式
レーシングカーは加速減速性能に優れて,最高速度も高くかつコーナリング性能が優れていることが要求されています。これらの要求を満足させるためエンジン出力・トルクをできる限り高く設計しています。
レーシングカーの性能を十分発揮させるために,エンジンオイルの潤滑方式についても,ドライサンプ方式とウェットサンプ方式の二通りがありますが,レーシングカーではドライサンプ方式が主流となっています。この方式はオイルタンクをエンジンと別に設ける方式で,コーナリング時にエンジンオイルの片寄りによるオイル切れを起こさないよう安定した給油ができるようにしたものです。
これに対し,ウェットサンプ方式とは,エンジンのオイルパンにオイルだめを持っており,プレッシャポンプによってエンジンの中だけで給油・回収の循環を行っており,一般の車にはこの方式が主に用いられています(図1)。
図1 潤滑方式 |
ドライサンプ方式は,オイルタンクが別に設けられているため,オイルの冷却効率についても有利ですが,反面,部品の構成点数が多くなり重量が増加したり,トラブルの発生する可能性が多くなるという欠点もあります。
2. レース用エンジンオイルと一般のエンジンオイル
(1)レース用エンジンオイルの特徴
レース用エンジンの高性能・高出力化に伴い,エンジンオイルに対する要求はより厳しくなっていますが,基本的にレース用エンジンオイルに必要な性状について列記しますと―
1.高温における潤滑性に優れている。
2.耐摩耗/耐焼き付き性に優れている。
3.熱・酸化安定性に優れている。
などがあげられます。
上記性状を満足させるため,レース用エンジンオイル中には,酸化防止剤,清浄分散剤,耐摩耗剤等を添加しています。そのため,オイルが酸化して不溶解分,腐食性物質等が生成し,エンジン内の汚れ,リングの膠着・折損,軸受の腐食およびエンジン摺動部分の焼付き・摩耗等の抵抗性に対応したものです。
その他,レース用エンジンオイルに忘れてはならないのが粘度温度特性です。つまり,エンジンの高速・高負荷の条件(エンジンオイルが高温になった状態)でいかに適正な潤滑を維持するかということです。
図2に示す流体潤滑において,油膜にかかる面圧が増大するか,あるいはすべり速度および潤滑油の粘度が低下すると油膜が薄くなり,図3に示す境界潤滑領域に入ります。そこでは,潤滑摺動部の金属と金属とが直接接触して,発熱し摩耗を起こし最悪の場合焼付いてしまうことがあります。このため,レースのような過酷な条件下に使用されるエンジンオイルの粘度としては,高温においても,適当な濃さの粘度を保って潤滑作用を行うことに主眼を置き,シングルグレードSAE
40が主に使用されています。
図2 流体潤滑 |
図3 境界潤滑 |
(2)レース用エンジンオイルと一般のエンジンオイルとの比較
一般のエンジンオイルとの簡単な比較を表1に示しました。表に示したように,レース用エンジンオイルと一般のエンジンオイルとでは要求される性能も異なっています。したがって,エンジンオイルの選定にあたっては,車の使用目的に応じたエンジンオイルを採用することが望ましいと思います。つまり,スピードを競うレーシングカーにはレース用エンジンオイルを,また一般の車には,いろいろな運転条件(高速走行,ノロノロ運転等)・気候条件(寒冷地と温暖地,夏場と冬場,早朝と日中等)および省燃費,触媒被毒等を考慮し開発が進められた使用範囲の広いエンジンオイルを使うことをお薦めします。
表1 レース用エンジンオイルと一般のエンジンオイルとの比較※
※Q&A第一集発刊時点
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<参考文献>
*1 桜井俊男:新版 潤滑の物理化学 トライボロジー叢書1&2 幸書房
*2 自動車工学全書 No.15 モータースポーツ・二輪自動車 山海堂