4サイクルエンジンに2サイクルエンジン油を使用 | ジュンツウネット21

4サイクル油は,動弁系の耐摩耗性やスラッジ分散性,酸中和性,酸化安定性などが要求されます。2サイクルエンジンは,ピストンリングみぞ付近に燃焼生成物が堆積しピストンリングこう着を起こしやすい機構であるため,2サイクル油は堆積物を防止する性能が要求されます。

4サイクルエンジンに2サイクルエンジン油を使用したら

エンジン油で4サイクルエンジンに2サイクルエンジンの専用油を使用した場合,逆に2サイクルエンジンに4サイクルエンジン油を使用したときに,どのような現象が生じますか。またその場合,どのように対処すればよいか教えてください。
解説します。

(1)4サイクルガソリンエンジンと2サイクルガソリンエンジンの潤滑方法

4サイクルエンジン(以下4サイクルと略す)と2サイクルエンジン(以下2サイクルと略す)の潤滑系統は大きく異なります。

4サイクルの場合,オイルパン中の潤滑油はオイルポンプによってストレーナを通して吸い上げられ,さらにオイルフィルタを通過した後,パイプや油みぞを通ってエンジン各部に送られ潤滑した後,再びオイルパンに戻ります。

一方,2サイクルの潤滑方式には混合潤滑式と分離潤滑式があります。混合潤滑式では,ガソリンと潤滑油を混合した燃料がキャブレタからクランク室に入り,潤滑油は回転部やしゅう動部に付着して潤滑します。残りの潤滑油とガソリンは,掃気孔から燃焼室に入り燃焼します。分離潤滑式は,潤滑油タンクをもち運転状態に応じて必要最少量の潤滑油を回転部・しゅう動部あるいはマニホールドに直接送油して潤滑します。

現在の自動車用エンジンやファミリーバイク用エンジンはすべて分離潤滑式で,混合潤滑式はその簡便さから汎用エンジンなどに用いられています。分離潤滑式,混合潤滑式いずれの方式にしても供給された潤滑油は各部を潤滑した後(あるいは一部分は直接)比較的短時間に全量が燃焼室に入り,燃焼したりあるいは未燃焼のまま排出されます。

このように,4サイクルは潤滑油を循環使用しているのに対して,2サイクルは潤滑油を一方通行的に外部に排出してしまうところが大きなちがいといえます。

(2)4サイクルエンジン油と2サイクルエンジン油の比較(要求性能)

4サイクル油と2サイクル油は,潤滑方式のちがいにより異なった特性が要求されます。表1に4サイクル油および2サイクル油に要求される性能を示します。

表1 4サイクル油および2サイクル油に主に要求される性能
要求性能
4サイクル油
2サイクル油
しゅう動部の耐摩耗性
動弁系の耐摩耗性
しゅう動部の耐焼き付き性
点火プラグの耐ブリッジ性
燃焼室清浄性
排気孔(ポート)の耐閉そく性
ピストン清浄性
スラッジ分散性
排気煙の低減
酸中和性
酸化安定性
粘度温度特性
防せい性

   強く要求される性能
   ある程度要求される性能
   通常要求されない性能

4サイクル油に要求される性能の特徴は,動弁系の耐摩耗性やスラッジ分散性,酸中和性,酸化安定性などがあげられます。

2サイクルは,燃焼室周辺に堆積物が発生しやすい傾向にあります。また,シリンダにポートをもつためピストンリングがまわらない構造になっており,ピストンリングみぞ付近に燃焼生成物が堆積しピストンリングこう着を起こしやすい機構といえます。したがって2サイクル油には,このような堆積物を防止する性能が要求されます。

このような要求を満たすため,4サイクル油および2サイクル油に通常使用される基油と添加剤の概略を表2に示します。

表2 4サイクル油と2サイクル油に使用される 添加剤例
 
4サイクル油
2サイクル油
基油
鉱油,合成油
鉱油,合成油
粘度指数向上剤
金属系清浄剤
無灰分散剤
酸化防止剤
流動点降下剤
希釈剤
消煙剤

   通常添加するもの
   場合によって添加するもの
   通常添加しないもの

(3)4サイクルエンジンに2サイクル専用油を使用した場合の問題点

表2に示したように2サイクル油には,通常,酸化防止剤が添加されていません。そのため,油循環方式である4サイクルに使用すると酸化安定性が不足して,極度の粘度上昇や酸化劣化物による腐食が発生します。また,4サイクル油の酸化防止剤として一般に使用されるジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)は,動弁系をはじめとするエンジン各部の耐摩耗剤としての働きも兼ねているため,ZnDTPを含まない2サイクル油を使用するとエンジン各部の摩耗が急激に進みます。

2サイクル油には4サイクル油と異なり,ガソリンとの瞬間混合性をよくするための希釈剤が通常添加されています。希釈剤として一般使用される灯油留分は揮発性が高いためオイル消費が過大となるとともに,低粘度であるため油膜強度不足からピストンリング・シリンダ間をはじめとする各しゅう動部の摩耗が大きくなります。

清浄分散剤(金属系清浄剤と無灰分散剤)の添加量は2サイクル油の場合,4サイクル油に比べて少なくなっています。このため4サイクルで要求される酸中和性やエンジン内部の清浄性に劣り,長時間使用するとピストンリングこう着やピストン焼き付きに加えて油路閉そくによるエンジン焼き付きに至る場合もあります。

このように,4サイクルエンジンに2サイクル油を使用すると耐摩耗性や清浄性に問題が生じ,エンジン性能の低下をひきおこします。

(4)2サイクルエンジンに4サイクル油を使用した場合の問題点

4サイクル油は2サイクル油に比べて多くの金属系清浄剤や酸化防止剤としてZnDTP(酸化劣化によりスラッジを発生しやすく,燃焼室では酸化亜鉛などになる)を含むため,2サイクルに使用すると多量の燃焼生成物の堆積が生じ,点火プラグの汚損,ブリッジ,排気ポートの閉そく,ピストンリングこう着などをひき起こします。それに加えてマルチグレード油の場合は,粘度指数向上剤として高分子化合物が添加されているためさらにその堆積が増加します。

4サイクル油には希釈剤が添加されていないため瞬間混合性に劣り,瞬間混合性のある潤滑油を使用するように設計されたエンジンに用いると,潤滑上不具合を生ずることも考えられます。また,ポリブデン等が添加されていませんので,消煙効果がありません。

このように2サイクルエンジンに4サイクル油を使用すると,燃焼室周辺の堆積物増加やピストンリングこう着などをひき起こしてエンジン性能に悪影響を与えます。

(5)誤って使用した場合の対処

以上述べたように,4サイクル油と2サイクル油は使用されるエンジンの機構および潤滑方式のちがいのため,非常に異なった特性をもっており,誤って使用した場合は種々の不具合を生じ,ときにはエンジンの焼き付きにまで至ります。

このため,誤って2サイクル油を4サイクルエンジンに,4サイクル油を2サイクルエンジンに使用した場合は,早急にその潤滑油を抜き取り適切なフラッシングを行った後,それぞれの専用油に入れ換える必要があります。

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日