CVTにはどのような性能の潤滑油が必要か解説します。自動車に実用化されている自動変速機の一つである無段変速機(Continuously Variable Transmission :CVT)には,ベルト式CVT(V-CVT:湿式および乾式)とトロイダル式(T-CVT)があります。
CVTに使用される潤滑油
解説します。
現在,自動車に実用化されている自動変速機の一つである無段変速機(Continuously Variable Transmission :CVT)には,ベルト式CVT(V-CVT:湿式および乾式)とトロイダル式(T-CVT)があります。湿式V-CVTに使用する潤滑油をここではV-CVTフルード,T-CVT用潤滑油をT-CVTフルードといい,それぞれV-CVTF,T-CVTFと略称します。
1. V-CVTF
ATFの規格として,GM社のDEXRON(R)III,Ford社のMERCON(R)V,日本自動車規格組織のJASO M315が発表されています。また,市販ATFの性能向上のために米国,日本の自動車工業会の協力によりATF国際規格(ILSAC)制定への努力が続けられています。一方,CVTフルードの規格は自動車メーカーから公式に発表されておりません。CVTが世界的に普及すれば,CVTフルードの国際規格の制定も求められることになるでしょう。
現在実用化されているCVTの多くは金属ベルト式です。この方式に使われるV-CVTFの要求性能を表1に列挙します。
表1 V-CVTFに必要な性能
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金属ベルト式CVTで動力を伝達するには,金属ベルトとプーリの間で充分な摩擦力を維持することが必要です。また,V-CVTFは金属ベルトとプーリの間で厳しいせん断を受けるので,ATFよりもせん断安定性の優れた粘度指数向上剤を使用することが必要です。
粘度指数向上剤のせん断のためにV-CVTFの粘度が著しく低下すると,油圧不足に起因する金属ベルトが滑り,焼付きを生じることになります。
1997年ごろまでは,ATFがV-CVT搭載の車にも使用されましたが,最近ではV-CVT専用油の使用を求める高トルク伝達容量のV-CVTが多くなっております。
2. T-CVTF
約20年にも及ぶ永年の研究開発の末に,世界で初めてのT-CVT搭載・大排気量乗用車が日本市場に登場したのは1999年11月のことでした。
T-CVTでは入力ディスク,出力ディスクとパワーローラー間におけるT-CVTF油膜が,超高圧下で瞬間的に固体状(ガラス状)になり,そのせん断抵抗によって動力が伝達されます。せん断抵抗の大きさの指標はトラクション係数と定義され,T-CVTFには高いトラクション係数が要求されます。通常の鉱油や合成油ではトラクション係数が不足で,分子設計に基づいた化学合成で得られた特殊な合成オイルが基油として使用されます。表2に各種基油のトラクション係数を示します。
表2 各種基油のトラクション係数
出典:村木正芳,月刊トライボロジ,3,12(1990) |
T-CVTFに使用される添加剤はATF用と同じ種類のもので,摩耗防止剤,極圧剤,摩擦調整剤,粘度指数向上剤,酸化防止剤,清浄分散剤,防錆剤,腐食防止剤,消泡剤などですが,これらの中にはT-CVTF用に開発されたものが含まれています。図1は上記のトラクション係数と,その他のT-CVTFに要求される性能を示しております。
図1 トラクションフルードに要求される性能 (T-CVTF)
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