船舶のエンジンで使っているシステム油,シリンダ油について解説します。舶用ディーゼルエンジンには,クロスヘッド型とトランクピストン型とがあります。クロスヘッド型というのはシリンダ部分とクランクケースが仕切り板で分けられたエンジンで,シリンダライナとクランクケース内の各部には別々の給油路が必要となります。
船舶のエンジンで使っているシステム油,シリンダ油とは
解説します。
舶用ディーゼルエンジンには,クロスヘッド型とトランクピストン型とがあります。クロスヘッド型というのはシリンダ部分とクランクケースが仕切り板で分けられたエンジンで,ピストンを押す圧力はピストン棒から連接棒を介してクランク軸に伝えられます。
トランクピストン型はシリンダとクランクケースが分離されていないエンジンで,ピストンを押す圧力はすぐに連接棒に伝わり,連接棒からクランク軸に伝わります。
クロスヘッド型は大型低速2サイクルディーゼルエンジンに多く,燃費向上の目的でロングストローク化しており,低質燃料が使用されます。低質燃料として高粘度,高硫黄,安定性の悪いC重油があげられます。
このようなクロスヘッド型2サイクルディーゼルエンジンの各部の潤滑は,シリンダ部分とクランクケースが分離されているため,シリンダライナとクランクケース内の各部には別々の給油路が必要となります。シリンダライナに給油される油をシリンダ油,クランクケース各部に給油される油をシステム油といいます。
1. シリンダ油
ピストンリングとシリンダクライナの潤滑には,シリンダライナに4~8個の小さな穴をあけ,そこに注油器を介して油を供給します。注油孔の位置はエンジンメーカーにより異なりますが,ストローク比で上から20~40%のあたりであったり,ライナの上部と下部にある物もあります。また,給油されたオイルがライナ面に広がりやすくするために,通常ライナ面に注油孔から斜め下のほうに油溝の刻みが入れられます。
大型低速2サイクルエンジンに使用される燃料中の硫黄分は3~5%と多く,燃焼により多量の硫酸が生成するため,ライナが腐食摩耗しやすい。このため,硫酸を中和するためにシリンダ油には全塩基価50~70mgKOH/gのシリンダ油が使用されます。
また,ライナ壁温が高い場合は,油膜切れを起こしやすいので,SAE50位の高い粘度で耐圧性に優れた油が使用されます。
低質燃料には前述の高硫黄分の他に,燃焼不良を起こしやすいスラッジやアブレシブ摩耗を起こす灰分が多量に含まれている場合があります。燃焼残さがピストンやリング溝に堆積するとシリンダなどの異常摩耗を起こします。このためシリンダ油には高温清浄性も要求されます。
ライナの腐食や摩耗を少なくするには,シリンダ油の注油量が大きく関係します。エンジンメーカーではいろいろと実験した結果,注油量を決めています。だいたい0.7~2(g/PS・h)となっています。
以上をまとめますと,シリンダ油には次の性能が必要となります。
- 高アルカリ性
- 高粘度
- 高い耐圧性
- 高温清浄性
2. システム油
クロスヘッド型ディーゼルエンジンでは,軸受や弁機構の潤滑に,シリンダ油よりも低い全塩基価のエンジン油を使用します。これをシステム油といいます。
クロスヘッド型エンジン略図 |
システム油に要求される性能は,ピストン冷却法が水冷の場合には適正な潤滑性能の他に抗乳化性と錆止め性が要求されますが,ピストン冷却をシステム油でする場合は,さらに耐熱性が要求されます。このため両者を満足させるために,全塩基価6以上の酸化安定性,抗乳化性,錆止め性の良いエンジン油がシステム油として使用されます。
システム油は全損であるシリンダ油と違って,繰り返し使用されるので,オイル交換あるいは適当な油の処理が必要です。システム油の粘度はSAE30が使用されますが,その粘度変化が未使用油に比べ-20~+30%に変化するとオイル交換が必要といわれています。またエンジンメーカーによって全塩基価が30mgKOH/g以上で交換というところもあります。
これらの交換時期はメーカーによりまちまちで,ピストンリングによって掻き落とされた余剰シリンダ油がピストン棒を支えているスタフィングボックスより漏油し,システム油に混入するためですから,粘度上昇限度を決めておけば,全塩基価の上限は必要ないというメーカーもあります。
<参考文献>
*1. 「大型ディーゼル機関のチェックポイント」 日本船舶機関士協会 昭和55年
*2. 「日石レビュー」 日本石油 1984年10月
*3. 「マリンエンジニアリング」 日本舶用機関学会 1995年 No.2